投稿日 2010/05/04

書籍 「電子書籍の衝撃」

「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚 ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本を読みました。


■本書のまとめ

著者の主張をまとめると、以下の4点に集約されます。次の4つが確立することで電子ブックの全容が姿を表すと主張されています(p.300から引用)。

  1. キンドルやiPadのような電子ブックを購読するのにふさわしいタブレット
  2. これらのタブレット上で本を購入し、読むためのプラットフォーム
  3. 電子ブックプラットフォームの確立が促すセルフパブリッシングと、本のフラット化
  4. そしてコンテキストを介して、本と読者が織りなす新しいマッチングの世界


これらを自分の言葉で言い換えると以下のようになります。

  1. 電子ブックを読むには、ふさわしい端末がいる (キンドルやiPad)
  2. 電子ブックを買うには、使いやすい(探しやすい・買いやすい)売場がいる
  3. 自分で書いた本を売ることが可能。また、あらゆる本が同じ売場に並ぶ (新書/古書、プロ/アマ etc.)
  4. 口コミやレビュー、ブログ、SNS、ツイッターなどから、自分の読みたい本が見つかるようになる 




■プラットフォームとアンビエント

さて、この本にはいくつかのキーワードがあるのですが、このうち上記の(2)に関するものに、「プラットフォーム」と「アンビエント」というキーワードが出てきます。それぞれ、本文では以下のように説明されています。
--------------------------
プラットフォーム:土台、システムのこと。つまりは本を購入して読む魅力的な基盤
アンビエント:環境、偏在と訳される。私たちを取り巻き、あたり一面にただよっているような状態
--------------------------

私は一読した際、これら2つの言葉の使われ方(本文での意味)がわかったようでわからないという状態でした。特に、理解しづらかったのはプラットフォームとアンビエントとの関係性。一方で、これらの言葉は本文では繰り返し出てくる重要なキーワードなので、正しく理解する必要がありました。

このプラットフォームとアンビエントについて、自分の身の回りで一番しっくりきたのはツイッターとiPhoneの関係性でした。プラットフォームに当てはまるのはツイッターです。ツイッターという土台が存在することで、他人のつぶやきを見たり自分のつぶやきを投稿できたりします。

一方で、ツイッターのサイトは決して使いやすいものではないと感じています。これは多くのユーザーが、ツイッター用のアプリを使っている状況からもそう思います。では、アンビエントは何かというと、iPhoneがもたらす利便性だと思います。iPhoneは携帯電話なのでいつも自分の近くにあり、かつツイッター用のアプリを起動させればすぐに見ることができます。まさにこれは、iPhoneによってツイッターが「あたり一面にただよっているような状態」です。

以上から、プラットフォームとアンビエントの関係性とは、前者は提供される「モノ」であり、後者はとても便利になるという「状態」だと思います。国語的に言えば、プラットフォームがアンビエントであるという主語と述語の関係。数学的に言えば、プラットフォームは必要条件で、アンビエントは十分条件だと考えます。



■自分にとってのプラットフォームのアンビエント化

電子書籍において、プラットフォームがアンビエントになる、つまり、「本と出合う場所」が「とても便利になる」とは具体的にはどのような状況なのでしょうか。今回取り上げた「電子書籍の衝撃」という本を読んで考えさせられた、この命題について以下に書いておきます。

私の本の位置づけは、「読むことで自分の考えを刺激してくれるもの」です。従って、このような本を見つける条件としては、「その本は良質かどうか」「その本を読むのにふさわしいタイミングかどうか」という2点があると思っています。「ふさわしいタイミング」というのは、同じ本でも10才の時に読むのと40才で読むのとでは得られる内容も違うはずで、本により自分にふさわしい読むべきタイミングがあるという考え方です。この2軸をマトリクスにすると、次のようになります(図1)。


インターネットという革命により、検索で本を探すことができ、ブログで興味のある本を知ったり、Amazonで楽に買えるようになりました。今後は電子書籍によりもっと多様な読み方ができるようになります。そして、次世代の技術により、図の「読むべき本」にもっと出会えるようになること、これが先の命題に対する自分の答えです。


電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)


投稿日 2010/04/29

iPhoneを買って実感したiPadの差別化

■まとめ

今回の記事のまとめです。

・ iPhoneの操作性や多様なアプリの存在は、優れた特徴だと思う
・ iPadも同様で、これまでのパソコンとは全く異なる利便性を持つ
・ 下記マトリクスから考えると、iPadは他の端末と差別化されている



■iPhoneで変わったこと

iPhoneを使い始めて何が変わったのか。まず実感しているのは次の2つだと思います。
・ 電車などちょっとした待ち時間を、有効に使える
・ ネット閲覧など、家でのPCを使う機会が減った

○待ち時間を有効に使える
iPhone以前は、2~3分程度の待ち時間をどう使うかは自分の中での課題でした。これを解決してくれそうなのがiPhoneです。例えば、3分以上であればブログ記事を、2分くらいならニュース記事、1分以下ならツイッターを、という感じで電車などの待ち時間があまり苦にならなくなりました。

○家でのPCを使う機会が減った
iPhone以前は、朝起きてまずPCを立ち上げていました。起動しても使えるまでには数分はかかっていましたが、それがiPhoneでは朝起きて10秒くらいなので布団の中でも使えます。これがPCだと机の前に座らなければいけませんが、寝ながらでも操作できる点は非常に便利です。



■パソコンと携帯電話

この寝ながらなどの自由な姿勢で利用できる点は、iPhoneの大きな特徴だと思います。同時にこの点は、iPadの強力な差別化ポイントになるのではないかと感じています。この理由を書く前に、まずはパソコンと携帯電話の位置づけを確認してみます。(図1)



パソコンを使うためにはキーボードやマウスを用います。よって、机などにパソコンを置きその前に座って(姿勢を正して)の操作をするのがふつうです。一方で携帯電話は、「携帯」できるような設計になっており、パソコンに比べて操作する姿勢の制約は小さいと思います。



パソコンと携帯電話それぞれをもう少し分解して見てみると、次のようになります。(図2)



パソコンでは、ノート型やネットブックと呼ばれるような「携帯」する要素が取り入れられています。逆に携帯電話はスマートフォンに象徴されるように、「パソコン」の要素が入ってきています。ボタンの配置がパソコンのキーボードのようになったり、本体自体がより大きくなっています。つまり、パソコンと携帯電話がお互いに近づきつつある、これがちょっと前までの個人的な印象でした。



■iPhoneのポジション

次に、iPhoneをこのマトリクスに当てはめてみます。(図3)




これまでに使ったことがあるスマートフォンは、キーボードがパソコンと同様であったために両手で使うことが前提となっているように感じました。しかしiPhoneは両手でも使えるし片手でも使えます。前述のように横になりながらでもそれほど苦もなく操作でき、かつ多くの便利なアプリが揃うなど、これらの点は非常に優れたiPhoneの特徴だと思います。



■iPadのポジション

さて、マトリクスを見て思ったことは、右上の象限に空いているということです。つまり、画面がパソコン並でかつiPhoneのようにより自由な姿勢で使える端末がないのです。ここに当てはまるのがiPadだと思います。(図4)



iPadの位置づけは、「ネットブックに代わる、新しいコンピューター」であり、コンセプトは「リビング向けのコンピューター」と言われています。今回、iPhoneを実際に使ってみたことで、この意味を少し実感できたように感じています。



以上の話をまとめてみます。

・ iPhoneの操作性や多様なアプリの存在は、優れた特徴だと思う
・ iPadも同様で、これまでのパソコンとは全く異なる利便性を持つ
・ 上記マトリクスから考えると、iPadは他の端末と差別化されている

日本でのiPadの発売は5月末のようです。個人的なマーケティングの勘からすると、iPadはかなりヒットするような気がしてます。



■最後に

とは言いつつも、iPadを発売後直後に買うかというと、ひとまず様子見になりそうです。理由は無線LANのインフラ性。iPhoneを買ってあらためて思いましたが、無線LANが使える環境はまだまだ十分とは言えないと思います。むしろ全然足りない。そうなると結局は携帯電話用の第3世代(3G)通信を使わざるをえず、通信速度に不満が残ります。また、携帯通信を使うということは、携帯電話キャリアがドコモなのかソフトバンクなのかというのも気になるところです。

いろんな意味で、1か月後の日本での発売が楽しみです。

投稿日 2010/04/25

3Dではないテレビのイノベーション


仕事をしてて最近ふと考えたことですが、イノベーションには2種類あるように思います。イノベーションというと少し大げさかもしれませんが、「よりよくするもの」として以下の2つの方向性があります。

(1)「不満」を解消するもの
(2)今までになかった「便利」をもたらすもの

(1)は認識していた「不満」を解消し、(2)は新しい「便利」を創造するもの。数学的な感覚で言うと、前者:マイナス⇒0、後者:0⇒プラス という感じです。例えば(2)の事例は携帯電話。携帯電話が存在する前というのは、電話は決まった固定の場所(家、公衆電話など)からかける・受けるもので、そのこと自体に特に不満はありませんでした。ですが、電話を「携帯する」という新しい概念が登場しさらには電話以外の様々な価値が付加され、今では携帯電話なしの生活が考えられないようになりました。



■身近なイノベーションをマトリクスで整理

(1)不満解消、(2)便利創造 をもう少し具体的に考えるために、ぱっと思いついた自分の身の回りのモノ・サービスをマトリクスで整理してみます。(図1)



○不満解消×ネット
Amazonは自分の消費行動を大きく変えました。例えば本を買いたい時に書店へ行っても、欲しい本が店内ですぐに見つからなかったり、そもそも置いてなかったりします。ですが、Amazonなら検索で一発で探し出せ、かつ在庫状況もその場でわかります。こういった自分の不満をネットにより解消してくれたのがAmazonです。

○不満解消×ネット以外
Amazonとも関連しますが、朝注文した商品が当日届くのもありがたいサービスです。これはAmazonや宅配会社による物流網による恩恵です。また、個人的な事例ですが、住んでいるマンションには「宅配Box」というものがあります。これは留守中に荷物が配達された場合、セキュリティのしっかりした宅配Boxに入れておいてもらえる仕組みです。これにより留守による再配達という不満は解消されます。

○便利創造×ネット以外
電子マネーが登場する以前は、小銭で支払うこと自体に不満を感じていたわけではありませんでした。ですが、コンビニなどでのちょっとした買い物では、電子マネーで支払うと小銭を出すという余計な手間も省け便利です。

○便利創造×ネット
ツイッターを使う前は、「つぶやく」こと自体にあまり意味がないように思っていました。しかし一度使ってみると、もはやなくてはならないくらい便利なものです。詳細は触れませんが、ツイッターにより情報収集の利便性が飛躍的に増しました。



■マトリクス上の3Dテレビの位置づけ

さて、最近よく話題になる3Dテレビ。先週21日、ついに日本でも発売されました。日本のメーカーだけではなく、サムスン電子など世界中のメーカーが3Dテレビ開発・販売にしのぎを削っており競争が激しくなっています。

しかしです。自分だけかもしれませんが、3Dテレビがそこまで価値のあるものなのか、と思ってしまいます。その理由を述べる前に、まずはテレビにおける3D映像を、先ほどのマトリクスで確認すると、以下のようになります。(図2)





つまり、今ある2D映像に抱く「不満」の解消ではなく、三次元のより迫力のある映像を楽しむことができるイノベーションだと思います。



■3Dではない今後のテレビへの期待

では、なぜ各社が一斉に3Dテレビを投入することに対して違和感を感じているのか。それは、自分のテレビへのニーズをマトリクスに当てはめることで整理できました。(図3)



○不満解消×ネット
地デジにより、テレビ画面からも番組表を確認できるようになりましたが、まだまだ自分の見たい番組を見つけやすいとは言えないレベルです。結局、各チャンネルを順番に変えたほうが早いという、今までと全く変わらない状況です。(もっと早く見たい番組を探す方法を自分が知らないだけ?)

○不満解消×ネット以外
リモコンにも不満があります。あらためて手元のリモコンに目をやると、たくさんのボタンがついています。地デジ対応テレビになりさらにボタン数が増えていますが、結局よく使うボタンは電源・チャンネル・音量の御三家で、今も昔も変わりません。現代のリモコンを使いきれていない自分が悪いのかもしれませんが、もっとシンプルかつ使いやすいリモコンは作れないものなのでしょうか。

○便利創造×ネット以外
(3Dテレビなので省略)

○便利創造×ネット
ここの象限は期待したいところです。例えばパナソニックの「ビエラ」がスカイプ内蔵のテレビを出すようですが、このサービスは結構便利だと思います(さらに無料)。またテレビから直接買い物がもっとしやすくなれば、「テレビで買いたいものが見つかる⇒ネットで検索⇒購入」という無駄なステップを踏まずにすみます。そして最も期待したいのは、オンデマンド配信の充実。現在でもNHKオンデマンドなど一部サービスがありますが、まだまだ物足りない印象です。完全な一視聴者としての意見を言うと、YouTubeやユーストリームなどと連携することで、テレビ局都合の番組配信(番組表)によらない、「自分が見たい時に見たい番組を見る」という視聴を期待したいのです。(現実的には、一方的な視聴者意見なので実現は難しいと思いますが)



■最後に

3D映像もカテゴリーによってはおもしろいと思うので、決して否定するつもりはありません。映画やスポーツなどは二次元では表現できないコンテンツになるからです。しかし、各社横並びの3Dテレビ競争にはなんとなく腑に落ちないところもあり、結局上記の自分のニーズを解消してくれるのは、以下の記事に出てくるような企業からの全く新しい端末なのかもしれません。

※Google TVの発表で、Apple TVが「趣味」以上になる
http://jp.techcrunch.com/archives/20100318google-tv-apple-tv/

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。