ビジネスやブランドを成長させるためには、新しいお客さんを増やすことが必要不可欠です。
新規のお客さんを獲得するためには、従来の方法に頼るだけではなく、新規顧客の文脈を捉え、顧客文脈に応じた価値提案をすることが大事です。
そこで今回は、新しいアプローチの必要性、お客さんとの継続的な関係構築、そしてブランドの核となる価値観を保ちつつ進化する方法について、ユニクロの事例から学んでいきます。
UNIQLO SHINSAIBASHI
出典: 日経クロストレンド
ユニクロは2023年11月、大阪の心斎橋に 「UNIQLO SHINSAIBASHI」 をオープンしました。
これまでのユニクロとは違った店舗スタイルです。店内には大阪弁の POP や派手な内装で、コテコテの大阪らしさを全面に出しています。
新店舗の内部は派手な装飾ばかりだ。ファサードにはユニクロの赤いロゴデザインと黄と黒に縁取りした 「阪神タイガースカラー」 の文字を乱雑に貼り付け、店内に入ってすぐの吹き抜け空間には目を引く VP (ビジュアルプレゼンテーション) も置いた。
さらには、大阪・道頓堀のネオンをイメージさせる赤と黄色の電飾や提灯 (ちょうちん) があったり、「まいど」 「おおきに」 といった大阪弁の POP が天井から吊り下げられたりしている。エスカレーター周りの通路や階段の吹き抜け空間などにも、「よろしおまっせ」 「なめたらあかんで」 などの大阪弁が書かれた派手なフラッグが所狭しと並ぶ。
「コテコテの大阪らしさに大きく振り切った理由は、大阪の新たな観光スポットになることを目指しているから。買い物だけではなくて、どこにもないようなユニクロを体験してほしい」 と、店長の川上哲也氏は話す。
コテコテの大阪色を打ち出した UNIQLO SHINSAIBASHI は、インバウンド客への対応強化とともに、新たな観光スポットになることも狙っています。
学べること
では UNIQLO SHINSAIBASHI から、学べることを掘り下げていきましょう。
新しいお客さんを獲得するために何をすればいいかに示唆があります。
UNIQLO SHINSAIBASHI のアプローチ
異なるニーズや価値観を持つ顧客層へのアプローチは、それぞれへの価値提案が求められます。よって、新しいお客さんを獲得するためには、従来とは異なるアプローチが必要です。
新しくオープンした UNIQLO SHINSAIBASHI は、国内外の新しいお客さん、特にインバウンドの外国人観光客をターゲットにしています。
UNIQLO SHINSAIBASHI は 「コテコテの大阪らしさ」 を打ち出しています。日本人には過剰な大阪色に映るかもしれませんが、訪日客にとっては 「ザ・大阪」 として際立つ存在に映るでしょう。UNIQLO SHINSAIBASHI のお店に行って買い物をすれば、外国人客にとっての日本旅行中での印象的な思い出となる体験でしょう。
UNIQLO SHINSAIBASHI では高品質で機能性に富んだユニクロの商品だけではなく、他のユニクロ店舗では見られない、大阪を代表する企業とのコラボレーション商品があるのも魅力の1つです。
これは地元大阪の人にとっても UNIQLO SHINSAIBASHI に行ってみたいと思うようになることでしょう。大阪には地元らしいお店は他にもありますが、大阪限定の服と品質の良い機能性の高い服の両方を扱っている店舗はユニクロ以外では限られるはずです。
UNIQLO SHINSAIBASHI は、国内外からの来店客、特にインバウンドでの外国人観光客にユニクロ旗艦店に来てもらい、その場で商品を買ってもらうこと、さらには一度きりの購入という顧客関係に終わらず、帰国後にもユニクロで買ってもらうことを狙っているのです。
新規顧客獲得への学び
では、ユニクロの事例からの学びを一般化してみましょう。
学べるのは新しいお客さんを獲得するために、特に今までとは異なる属性の人や企業を新規ターゲット顧客にする場合は、従来とは違う取り組みをする重要性です。
新しいお客さんの文脈、ユニクロの例で言えば日本の大阪に旅行や観光に来ている外国人の文脈、また、地元の大阪の人の文脈を理解し、それぞれの顧客文脈に合った価値を提案していくことが大事です。
そして、一度お客さんになってもらってそこで顧客関係を終わらすのではなく、継続的に関係性を続ける働きかけをやっていくこともポイントです。こうした地道な活動がマーケティングでは大事なのです。
新規性と維持のバランス (注意点)
ただし1つ注意点があります。
新しいことが大事であるとは言っても、既存の商品やサービス、ブランドの世界観や目指す方向性と違いすぎると、ブランドから連想されるイメージとの認識ギャップが起こります。
ブランドから連想されるイメージも含めて、お客さんの頭の中で不一致が生じ、混乱を招いてしまうと、最終的にはせっかく今まで積み重ねてきたブランド資産を損なう恐れがあります。
今回のユニクロの場合は、店舗のデザインや雰囲気を 「コテコテの大阪らしさ」 に振り切ることは、新しい顧客層を惹きつける効果的な手法でしょう。
しかし、こうした強い大阪色という雰囲気が、ユニクロが長年にわたって築いてきた 「シンプルで上質な店舗や服のデザイン」 といったブランドイメージから逸脱してしまうとどうなるでしょうか。
最初のユニクロでの顧客体験が UNIQLO SHINSAIBASHI で、ユニクロのイメージ形成が 「ザ・大阪」 から入った人にとっては、ユニクロのその第一印象と元々のユニクロのイメージが違ってしまい、リピーターにはならないかもしれません。
新規顧客の獲得には、新しい取り組みを行いながらも、ブランドの基本的な価値観やアイデンティティを維持することが重要になります。既存のブランドイメージやお客さんの期待とのバランスを考え、その上で、新しくてもブランドの目指す世界観とズレすぎないようにすることが、長期的な顧客関係の構築とブランドイメージの維持につながります。
新規のお客さんの獲得のために何を新しくして、どこを今までと変えないのか。この判断が大事になります。
まとめ
今回は UNIQLO SHINSAIBASHI を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新規顧客の獲得には、従来と異なるアプローチから 「顧客文脈」 に合った価値提案が大事。異なるニーズを持つターゲット顧客に対し、それぞれに独自の顧客体験を提供する
- お客さんとの関係は一度の購入で終わらせず、継続的な関係性を築くための地道な活動がマーケティングにおいては大切。長期的な顧客ロイヤルティをつくっていく
- ブランドの基本的な価値観やアイデンティティを維持しつつ、新しい取り組みを行うバランス感が求められる。新規性と既存ブランドイメージの調和を図り、ブランド資産を守りつつ成長させる
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