あなたのビジネスが直面している隠れた課題、それは 「売り物」 だけではないかもしれません。
お客さんが実際に求めているのは、どのような 「買い方」 ができるか、そして 「本当に買いたいと思う価値」 にあります。
今回は、販売数のギネス記録に挑戦し達成したり、店内外でユニークな取り組みをしている地方のパン屋さんを取り上げます。ぜひ一緒に、学びを深めていきましょう。
パンのトラ
出典: パンのトラ
パンのトラは、愛知県安城市に本社があり、安城市や名古屋市、新東名高速道路サービスエリア 「NEOPASA (ネオパーサ) 岡崎」 などに計6店舗を展開するパンの製造・販売チェーンです。
売っているパンは、スペイン窯による遠赤外線での直火焼きで、焼きたてパンはもちもちとした食感が特徴です。中でも店名を冠する食パン 「パンのトラ」 は予約をしなければ買えないほどの人気商品になっています。
ギネス記録を達成
パンのトラは、地元ファンとともにギネス記録を達成しました (24時間に売れたカレーパンの最多個数) 。
2023年5月に、24時間で1万5455個のカレーパンを販売し、ギネス記録を更新。チャレンジ当日は約500メートルの長蛇の列ができ3時間待ちとなりました。
パンのトラにとってギネス記録への挑戦はこれで2度目で、1回目は食パンの販売量で記録を達成しています。このチャレンジは、従業員のモチベーション向上にも寄与しました。
来店客の体験価値向上への追求
パンのトラは顧客体験価値 (CX) を高めるために、様々な対応や工夫をしています。
パンカート
たとえば店内で使用されるパンカートです。
パンのトラには一般的なパン店ではあまり見かけないパンカートがあります。パンカートの上段と下段に2つのトレーを載せることができるので、たくさんのパンを買うお客さんには便利な存在です。
一方通行の店内導線
また、パンのトラの店内はあえて一方通行となる顧客導線を設計にすることで、店内がお客さんでごった返して混雑が起こることなく、お客さんがスムーズに移動しながら買えるように工夫されています。
お客さんは店内の進み方で引き返せないので、少しでも欲しいと思ったパンは 「とりあえず買っておこう」 という心理が働くことでしょう。もう1品追加してもらえる可能性が高まり、客単価のアップが期待できます。
ベーカリースキャン
支払いレジでは、画像認識 AI を用いた決済システムの 「ベーカリースキャン」 を採用しています。
一般的なパン屋さんでは、レジでトレーを渡された店員がパンの値段を1つ1つレジ打ちし、会計処理をしつつ、パンの袋詰めも行います。複数のタスクを1人のレジ担当者が行うために時間がかかり、お客さんはその分だけ待たされることになります。
これに対して、パンのトラのベーカリースキャンは、お客さんがパンが載ったトレーをスキャン台の上に置くと、その画像を上部から自動で撮影します。
出典: 日経クロストレンド
撮影した画像から AI がパンの種類と値段を一括で識別し、決済できるサービスです。会計時間の短縮によって、お客さんはレジでの長い列で待たされることなく支払いができます。
ギフト用のパン BOX
パンのトラでは 「パン BOX」 と呼ばれるパンのお土産用の専用箱を提供しています (1個100円で購入できる) 。
専用の箱袋は鮮やかな色味にこだわった美しいデザインで、贈られた側もうれしくなるような特別なギフトとして演出します。
駐車場の段差解消と歩道設置
他には、パンのトラの店舗の外にある駐車場もお客さんに配慮したものになっています。
2011年の安城店のオープン当時は、駐車場には段差があり、段差を超えるのに苦労する来店客の姿が多数あったそうです。そこで段差をなくすように駐車場を設計し直しました。
また、歩行者の安全に配慮して、駐車場に歩道を設置するなどの整備も行いました。
* * *
以上のように、パンのトラは、パンカートやパン BOX の提供、AI を活用したレジシステム導入、店内導線の工夫から、駐車場の段差解消や歩道設置など、来店客の不便さやストレスにつながることを常に改善し続けています。
顧客体験をより良くし、お客さんの満足度を高める絶え間ない企業努力です。
学べること
ではパンのトラから、学べることを掘り下げていきましょう。
ビジネスにおける 「売り物」 と 「売り方」 の重要性
ビジネスにおいて重要なのは、商品そのものである 「売り物」 だけではありません。いかに売るかという 「売り方」 も同じくらい大切な要素です。
売り方とは、お客さんの立場になれば、お店での 「買い方」 になります。買い物体験が、最終的には商品やお店への印象を左右するのです。
パンのトラの顧客体験価値向上への取り組み
パンのトラは、来店客のパン屋さんでの 「不」 を解決することで、来店客の体験価値を高めてきました。
駐車場の段差の解消や歩道の設置、店内の買いものの導線、パンカートやパン BOX の用意、画像認識 AI を活用した最新のレジシステムの導入などです。これらはすべてお客さんがストレスなく、快適にお店でのパンの買い物を楽しめるようにとの配慮から生まれた対応や工夫です。
お客さんが実際に 「買うもの」 の本質
ところで、マーケティングには 「顧客が買いたいのはドリルではなく、顧客が求めているのは穴である」 という有名な格言があります。
お客さんが本当に求めているのは商品そのものというよりも、その商品が提供する解決策や価値であるということを意味します。
パンのトラの事例は、このドリルと穴の格言に通じるものがあります。
来店してくれたお客さんがパンのトラで買っているのはパンですが、それだけではありません。店内での心地よい買い物体験や、購入後の家でのパンの食事体験、パンをギフトとして贈るといった、パンのトラにしかない独自の顧客体験全体を買っているわけです。
お客さんにとってはここに価値があり、これがお客さんがお金を払って本当に 「買う物」 なのです。
ビジネスの持続可能性へのカギ
売り物だけでなく、売り方にも着目する。さらにはお客さんの立場になっての 「買い方」 をより良くし、お客さんが 「本質的に買う物」 から得られる価値を高め続ける。こうした意識と実行がビジネスを持続可能にするカギを握っています。
パンのトラの事例は、具体的に実践している好例です。
まとめ
今回はパンのトラを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「売り物」 だけではなく、「売り方 (顧客目線では 「買い方」 ) 」 も創意工夫し、お客さんの買い物体験を高めることが重要
- マーケティングの格言に 「顧客が買いたいのはドリルではなく、顧客が求めているのは穴である」 がある。お客さんは買う商品が問題を解決してくれること、もたらす顧客価値に対してお金を払う
- 持続可能なビジネスにするためには、売り物と売り方を改善し、お客さんが真に価値を見出す 「本質的な買い方と買う物」 に焦点を当てるといい
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