2016/07/21

書評: ハーバード流交渉術 (フィッシャー & ユーリー)




ハーバード流交渉術 という本をご紹介します。



本書の内容


この本には、交渉のテクニックや心理学を有効に使った交渉術は書かれていません。

本書が提案しているのは、原則に則った交渉です。原則立脚型交渉 (Principled negotiation)、または、利益満足型交渉 (Negotiation on merits) と表現する交渉についてです。

対比として、一貫性のない譲歩をして合意を急いだり、戦略なく強行に迫るような駆け引き型の交渉が挙げられています。

利益満足型交渉とは、相手から最大限の譲歩を引き出し、こちらになるべく有利な結果を得るためのものではありません。自分にとっては満足がいくかもしれませんが、相手はそうならず、交渉の片方だけが満足するだけです。

利益満足型交渉では、双方の信頼に基づき、お互いの利益を最大化することを目指します。交渉相手は、戦う相手ではなく、交渉を通じて共に問題を解決するパートナーであると言います。


その主張の背後にある 「理由」 は何か


本書では、交渉におけるポイントが4つ提示されます。

  •   「人」 と 「解決すべき問題」 を分けて考える
  • お互いの立場ではなく、利害に焦点を合わせる
  • 交渉で結論を出す前に、多くの可能性 (選択肢) を考える
  • 客観的な基準によって交渉し、合意を目指す

興味深いと思ったのは、2つ目の 「利害に焦点を合わせよ」 でした。相手が主張する表面的なことではなく、その背後にある主張の 「理由」 です。以下は本書からの引用です。

図書館で二人の男が言い争っているとしよう。一人は窓を開けたいし、もう一人は閉めたい。彼らはどれだけ窓を開けておくか、さっきから言い争っているが、なかなか埒があかない。

そこへ図書館員が入ってきた。彼女は、一方の男性になぜ窓を開けたいか尋ねた。「新鮮な空気が欲しいからですよ」 と彼は答えた。次にもう一方に、なぜ閉めたいか尋ねると、「風に当たりたくないんですよ」 という答えだった。

少し考えてから、彼女は隣の部屋の窓を開けた。こうして風に当たることなく新鮮な空気が入れられ、二人の男は満足した。

当初、二人の主張は窓を開けるか開けないで真っ向から対立しています。図書館員は、表面的な主張だけにとらわれず、なぜ二人が窓を開けたいか開けたくないかの理由に目を向けたのです。

二者択一ではなく、第三の選択肢を選びました。新鮮な空気が得られ、別の男性に直接風を当てない方法を見つけました。これで、二人の男性それぞれの利害を損なうことなく、問題が解決したのです。


主張の 「理由」 を見極めるために


主張に比べ、その背後にある理由を見極めるのは簡単ではありません。本書では、次のようなやり方が紹介されています。

  • なぜ相手はそう主張するのかを考える。時には相手に直接聞く
  • 相手の主張も一理あると考えてみる

交渉とは、立場の異なる人同士のやりとりです。立場が違うからこそ、相手への主張が異なり、背後にある理由も違ったものになります。


交渉相手と良い人間関係を築けるか


本書が提唱するのは 「利益満足型交渉」 です。

目指すのは、相互理解と信頼、そして原則に則って双方に共通の利益をもたらすことです。そのために交渉とは、交渉相手と協力し、共通の利益を達成するための方法を見つけ出す共同作業です。

交渉相手を尊重し、相手の立場で考える。交渉では人と問題を分離し、問題に焦点を当てる。相手からの表面的な要求の背後にある利害 (主張や結論を導き出した背景や根拠) に目を向ける。

本書の立場に立てば、交渉で大切なのは、交渉相手と良い人間関係を築けるか、どれだけ相手と Win-Win を目指せるかです。利益満足型交渉で大切なのは 「お互いの」 利益を最大化するスタンスなのです。



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。