2016/07/11

書評: 主将論 (宮本恒靖)




主将論という本がおもしろかったのでご紹介します。

著者は、元サッカー日本代表の宮本恒靖氏です。日本代表では、2002年の日韓 W 杯、2006年のドイツ W 杯で主将を務めました。



2002年から2006年の日本代表には、中田英寿をはじめ、多数のタレントが揃っていました。中村俊輔、小野伸二、稲本潤一、高原直泰、小笠原満男などです。日本代表監督は、2002年の日韓 W 杯ではトルシエ、2006年のドイツ W 杯ではジーコでした。


主将としての苦悩


本書で印象的だった1つが、サッカー日本代表という組織での、主将としての宮本の当時の苦悩が書かれていたことです。

日本代表のチームメイトのうち、特に中田英寿をどうチームに溶け込ませ、チームでの価値をいかに最大化するか。トルシエやジーコの2人の全く異なるタイプの監督とのやりとり。日韓 W 杯やドイツ W 杯の記憶はよく残っているので、興味深く読めました。


「中間管理職の苦労」 という視点で読む


主将論という本が示唆に富むのは、日本代表のキャプテンの難しさが、ビジネスでの会社組織の 「中間管理職の苦労」 という視点でも読める点です。

サッカーの主将という立場は、プレイング中間管理職と同じです。例えば、主将 = 課長に相当します。チームメイトは部下、チームの監督は直属の上司 (例: 部長) です。

宮本が日本代表主将だった時の主力メンバーは中田英寿などがいて、会社組織に当てはめると、課長である自分よりも仕事ができる部下が多数いるような状況です。彼らの多くは個性が強く、チームを1つにまとめるのは簡単ではありません。

上司とのコミュニケーションも一筋縄にはいきません。課長昇進時の上司は、トルシエというフラット3などの独特のサッカー戦術論を持ち喜怒哀楽の激しい人、次の上司は、トルシエとは正反対で確固たる戦術は持たず、選手たちの自主性を尊重するジーコです。

トルシエは徹底した管理主義、ジーコは放任主義という異なるタイプの上司です。

こうした状況で、当時主将であった宮本はどうしたのか。本書から印象的だったものをいくつかご紹介します。


相手をリスペクトし、頭ごなしの命令ではなく提案する


仕事で、部下との距離感やどう指導していくかに悩んだときには、参考になるやり方です。本書から該当箇所を引用します。

僕が気を付けていたのはコミュニケーションの取り方だった。

「こうだから、こうやれよ」 とは、絶対に言わない。

どんな年齢であっても、まず相手をリスペクトすることから始める。しかも 「こうやってくれ」 と言うと、やるかやらないかだけになってしまい、考えないから成長できず、また頭ごなしに言われるとやはりカチンとくる。

だから、「こうした方がいいと思うんだけど、どう?」 とか、常に相手に考える余地を与える話し方をしていた。

(中略)

相手をリスペクトすると言ったが、それは、僕がコミュニケーションをする上での立脚点となっている。

サッカーというスポーツは、答えはひとつではない。だから、自分の考えが100%正しいとは思っていない。色々な人の声を真摯に聞くべきだと思っている。


緊急のチームミーティングを行なうか迷った時こそ、やったほうがよい


チームに悪い影響を与えそうな何か不都合なことが突発的に起こった状況で、上司である自分は部下にどういう対応をすればよいでしょうか?

宮本の選手間ミーティングをやるかどうかの考え方が参考になります。本書から引用です。

大事なのは、何かを行なうタイミングだ。特に、選手同士のミーティングは、その最たるものといえる。

負けが続いたり、選手が不満をもらして雰囲気が悪くなったりすると、色々な問題が起きる。しかし、チームの流れが悪い時に、何回も同じミーティングをしても意味がない。

集まって話をしようと思っても面倒くさがられそうだとか、あまり意見も出そうにない暗い空気の時などは、そのタイミングでやるべきかどうか迷う。

だが、迷った時こそやった方がいいというのが、僕の考えだ。苦しい時は、キツイ選択をした方がいいと思っているからだ。

悪い状態を、そのまま流すのは絶対に良くない。気分の暗い時に、ミーティングを開くのは辛いが、もしその後に1日オフを挟めるのであれば、嫌なことは全部話すべきだ。吐き出した後、オフ明けの再スタートから気持ちを切り替えてやった方が絶対に良い。

ミーティングの話で興味深かったのは、開くタイミングとともに、ミーティングの場所についてでした。ミーティングをどこでやったかで、対照的な例が書かれていました。

1つ目はうまくいったケースです。2005年のドイツワールドカップアジア最終予選、アウェーでのバーレーン戦前のことです。直前のキリンカップで日本は2連敗し、次の最終予選に向けてチームの雰囲気に一体感がなくなっていました。

練習後にミーティングを実施したのはリラックスルームでした。練習後に各自が思っていることを言い、議論をし、あらためてワールドカップに行きたいという気持ちを確認し、意思統一ができたとのことでした。

2つ目のうまくいかなかったケースです。2006年のドイツワールドカップ初戦のオーストラリア戦前のことです。失敗した要因の1つにミーティングルームがあったと言います。

リラックスルームには選手が入りきらないため、トレーナールームを使いました。部屋の広さはよかったものの、室内にはトレーニング器具などが置いてあり、部屋の中央に螺旋階段があったために、お互いの顔がよく見えなかったそうです。

ミーティングではお互いが顔を見て話をしたいのに、それが難しく、結果的にチームの一体感をむしろ損なう雰囲気になってしまったと書かれていました。

サッカーでのミーティングの話は、仕事や会社でのミーティングに示唆を与えてくれます。突発的に何か良くない影響が出そうな状況になった時、緊急のミーティングをするべきかどうか。場所をどこでやるか。

本書からの学びは、実施するかどうかの判断に迷い、集まった時の雰囲気を想像するとできればやりたくないと思える時ほど、実施すべきという考え方です。

ミーティングの部屋の雰囲気も大事です。狭すぎず、お互いがなるべくリラックスしながら話せる場所がよいでしょう。社内に適当な部屋がなければ、社外でのミーティングも効果的です。


献身的なリーダーシップ


本書には、他にも興味深い当時のエピソードが多くあります。

時には監督の指示に背いてでもチーム戦術を変えた話。海外組と国内組の選手同士の壁を取り除くためにどうしたか。日本代表やクラブチームの窮地を主将として救ったのは、粘り強い対話と冷静なの状況判断でした。

宮本選手のリーダー論は、オレがオレがというものではなく、献身的なリーダーシップです。



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。