投稿日 2011/01/15

なぜ大垣共立銀行は日経金融機関ランキング3位なのか?

10年1月8日付の日経新聞朝刊に日経金融機関ランキングの結果が公表されていました(表1)。

出所:日本経済新聞(10/1/8朝刊)

この調査は毎年実施されているもので、今回の調査概要を整理すると以下のようになります(表2)。

出所:日本経済新聞(10/1/8朝刊)

上記の満足度ランキングで印象に残ったのは、3位の大垣共立銀行でした。岐阜県大垣市に本店を置く地方銀行がなぜ3位なのか。ちなみに、07年:4位、08年:7位、09年:7位と、ここ数年ではベスト10の常連のようです。(なお、上記調査概要の通り、対象エリアが全国ではないため、地方銀行は首都圏・近畿・中部からしか評価対象とはならないですが、それを考慮しても大垣共立銀行の3位は注目に値します)


■大垣共立銀行の独自サービス

手始めにWikipediaで大垣共立銀行を見てみると、「独自のあるいは全国初となるサービスが多い」という記述がありました。具体的には、エブリデープラザ、コンビニプラザ、移動ATM、ドライブスルーATMなどです(表3)。

出所:Wikipedia


■コンビニモデルの導入

同行のサービスの取り組みについて、詳細記事が日経ビジネス(2011.1.10)に掲載されています。「”非効率経営”の時代」という特集記事で、記事の趣旨は、さらなる経営効率化の追及では成長の達成が困難になるとし、あえて「内向き」「ムダ」「遠回り」の”非効率”に商機のヒントがある、というものです。その非効率の事例として、大垣共立銀行が取り上げられていました。

例えばコンビニモデルを導入している半田支店(愛知県半田市)。店内に設置されている本棚には女性誌、漫画、クルマ雑誌など、100を超える雑誌が置かれているようです。ATMは24時間稼働、そしてトイレの併設。深夜では有人窓口は閉まっていますが、トイレ休憩や立ち読みに利用ができるとのこと。

こうしたコンビニさながらの独自サービスを打ち出している半田支店ですが、その狙いはどこにあるのでしょうか。それは、コンビニで採用されている「消費の連鎖」という考え方を銀行でも応用することになると記事では指摘します。

コンビニの主力商品の1つにお弁当があります。お弁当は店内の奥に売られており、周辺には飲料やデザートが置かれています。

弁当を手に取りレジへ向かうためにはお客は店内をめぐることになります。こうして、弁当以外の商品にも手を伸ばしてもらおうといのが「消費の連鎖」。

これを半田支店に当てはめるとこうです。店内奥にはATMがあり、雑誌コーナーの横を通ります。クルマ雑誌の横にはカーローンのパンフレットが、生活雑誌には住宅ローンのパンフレットが、という具体です。

また、店内には金融商品ランキングが記載されており、その1~3位までの商品パンフレットが並んでいるそうですが、これもコンビニが売れ筋商品を目立つ場所に並べることがヒントになっているようです。

他には、詳細は割愛しますが、コンビニモデル以外にも美容院から学んだ行員指名ができるネット予約受付、ファストフードからはドライブスルーATMなどのサービスがあります。


■異業種からの学び

以上のような独自サービスに共通する特徴は、異業種のサービスを銀行に応用している点だと思いました。記事によれば、コンビニ、ホテル、メーカー、テレビ局、通信会社などへ行員を送り込み、多様な業界から業務ノウハウや考え方を吸収していると紹介されています。

異業種ノウハウを取り込むのって、言うが易しだと思います。前述の大垣共立銀行のケースでは、言われてみると効果がありそうなのですが、導入までには試行錯誤も多かったのではないでしょうか。

そもそも、異業種ノウハウと銀行サービスを結びつけること自体も簡単ではないと感じます。やはり、普段からどこまでアンテナを張っているか、問題意識を持っているか、先入観や常識にとらわれない視点を持っている、などが大切になってくると思います。

これを書いていて思い出しましたが、そういえば、「異業種競争戦略」の著者でもある早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授が、異業種競争戦略では3つのスピードが必要だと言っていたことです(日経ビジネス2010.3.29特別編集版)。

1. 問題に気づくスピード
2. 意思決定のスピード
3. 実行するスピード

話を大垣共立銀行の取り組みに戻すと、これらは一見すると非効率なものかもしれません。

おそらく、異業種のノウハウがそのまま当てはまるケースは少ないように思います。あるいは、ノウハウを共有したとしてもその効果が短期的(例えば翌月~数カ月程度)には見られないことも考えられます。

しかし、大垣共立銀行では上記のような取り組みの成果として、地域住民からも評価されているのでしょう。その結果、日経金融機関ランキングでは上位行の常連です。同行には行ったことがないのですが、機会があればぜひ一度、特に半田支店のような銀行には足を運んでみたいと思っています。


※参考情報

大垣共立銀行
http://www.okb.co.jp/index.html

Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9E%A3%E5%85%B1%E7%AB%8B%E9%8A%80%E8%A1%8C

日経ビジネス2011.1.10

日経ビジネス2010.3.29特別編集版
投稿日 2011/01/06

では僕はどう生きるか


Free Image on Pixabay


考えさせられる本でした。君たちはどう生きるか です。



人としてどう生きるかという重いテーマについて真正面から、それでいて難解でもなく、誠実に書かれている本でした。今回のエントリーでは、本書を読み考えさせられたことを書いています。
投稿日 2010/12/27

Googleと「個人データ」を考える

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである」。これはGoogleが掲げるミッションです。

■Googleが無料サービスを提供できるワケ

グーグルは多くのサービスを提供しています。ウェブ検索、Gmail、グーグルドキュメント、カレンダー、グーグルマップ、YouTube、等々、ここで挙げきれないほど。そして特徴的なのは無料でユーザーに提供していることです。

なぜ無料で提供しているのでしょうか。別の表現をすればどこでお金を取っているのでしょうか。その答えは広告にあります。アドワーズという検索結果連動型の広告やアドセンスというコンテンツ連動広告がそれです。グーグルの考え方は、自社のサービスを使うユーザーが増えれば増えるほど、そこで表示される広告価値が上がる。よって、ユーザーには無料で提供してくれるのです。

■個人データの取得と活用

実は広告以外に、無料で提供する別の目的があると思います。それがユーザーの利用情報である「個人データ」の取得。

例えば、グーグルで検索に使われた検索語(クエリー)は履歴として蓄積され、別のユーザーの検索に活かされています。グーグルの検索ボックスに入力していくと、検索語の予測が複数表示されますが、あれが活用例です。このように多くのユーザーが使えば使うほど、グーグルの検索精度も向上していきます。グーグルにとっては個人データの取得、ユーザーにとっては利便性の享受という、ウィン-ウィンの関係が見えてきます(図1)。


個人データ活用のわかりやすい例がグーグルのブログ上で公表されていました。「Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう」という記事がそれです(以下は記事から一部引用)。

出所:Google Japan Blog

■データから情報へ

個々人がグーグル検索を使って知りたいことは千差万別です。しかし、ユーザーの利用履歴という個人データを積上げることで、上記の例では今年の流行が見えてきます。個人データという状態では必ずしも整理されておらず量も膨大ですが、蓄積し体系立てることでデータは「情報」となります。

このことに関して、ドラッカーは著書「明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命」で次のように述べています。「整理して体系化しないかぎり、データは情報とならず、データにとどまる。意味をなすには、体系として把握しなければならない」。

個人データについて思うのは、ネットがありモバイルも含め個人の情報発信が普及しなければ、可視化できないものであったということです。

例えば、SNSやツイッターで発信される情報の多くは、昔は個人の中でしか存在しないようなものでしたが、今ではネット上に乗せることで情報が共有されます。個人データが価値を持つような有効活用される背景には、こういった技術の進歩に加え、データ収集システムやデータハンドリングなど、データから情報体系への仕組みができてきつつある点も大きいように感じます。

■Android OS普及と個人データ取得

グーグルに話を戻しますが、前述のようにグーグルが提供するサービスのユーザー数が増えれば増えるほど、また使用すればするほど、グーグルには個人データが集まってきます。PCでの使用に加え、アンドロイドOSのスマートフォンが普及していくことで、ますますその傾向が強まる可能性があります。

ちなみに、asymcoというハイテク市場分析系ブログで企業アナリストであるDediu氏が2011年末までのスマートフォンの普及動向を予測しています(図2)。

出所:asymco

左のブロックは米国調査会社ニールセンの調査データが出所です(2010年12月現在の最新の調査結果はこちら)。そして右側はDediu氏による推計で、緑色のアンドロイドOSシェア(人数ベース)が伸びているのがわかります。

■個人データ独占という課題

このように、グーグルはこれからも個人データの取得を拡大させる可能性がありますが、それは同時に、グーグル1社が独占的に個人データを収集するという課題も抱えることになります。その例がグーグルとヤフーの検索技術提携により、両社の日本での検索シェアは9割になることで、これに対しては反対する声や適切な競争環境を損なうことへの懸念もあります。

個人データが有効に活用されること自体は、世の中がより便利になる方向にあると思っています。ただ、よりよい世界になるには一方で課題も存在するのが現状です。


※参考情報

Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう|Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/2010/12/google-2010.html

Half of US population to use smartphones by end of 2011|asymco
http://www.asymco.com/2010/12/04/half-of-us-population-to-use-smartphones-by-end-of-2011/

U.S. Smartphone Battle Heats Up: Which is the “Most Desired” Operating System?|Nielsen
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/us-smartphone-battle-heats-up/

経済教室|日本経済新聞2010年12月24日(金)朝刊


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。