投稿日 2013/07/14

書評「未来予測 ―ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰」

「未来予測 ―ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰」が色々と考えさせられる本だったのでご紹介。

提示されている未来のポイントは2つ。サブタイトルにあるように、①価値観が変わる、②直感の重要性が増す。

■価値観の激変と直感への回帰

1つ目の価値観の変化について。簡単に言うと、「お金に縛られず、自分らしく、仲間と一緒に、生きがいを持って人生を楽しく生きる」という価値観。自分らしく生きたいと考えるクリエイティブな人たちがこれからの社会にとってますます重要になる。

2つ目の直感の重要性について。多くの人が直感で物事を判断し、それぞれが得意とする分野でクリエイティブに生きるようになる。左脳的な発想する人の中から左脳と右脳をバランスよく使う人が増えていく、とのこと。

さらには、クリエイティブな人たちの多くは、精神世界的な真理観を持つようになるだろうと言います。ちなみに、「精神世界的な真理観」とは「目に見えない世界が存在するという信念と、自分と宇宙が1つにつながっているという考え方」という意味。目に見えない世界の存在を信じ、直感を大事にする人が増えるだろうと。

本書の特徴と言っていいのが、著者の湯川さん自身が、自分らしく生きる価値観と人間は宇宙とつながっている真理観を100%信じているわけではない、と言っている点。文章から迷いが読み取れます。

もう1つ特徴的なのは、こうなるだろうという変化に対して「〜になる。なぜならそう思うから」という論理展開が目立つことです。もしくは自分のまわりにそういう人が増えているから、というロジック。このへんはご自身も承知で、自ら内容について支離滅裂と書いています。おそらく本書の評価は割れるはずで、考え方や価値観が湯川さんの意見に近い人は賛同するだろうし、そうでない人にとっては、相容れない主張。

■磨きたい2つの直感

個人的には、お金に縛られず自分らしく生きる価値観と直感の重要性は同意です。

特に2つ目の直感については磨いていきたいと考えています。磨いていきたい直感は2つあって、自分の心や気持ちがわくわくする方を選びたいのと、本質を直感的につかめるようにしたいことです。

何かを判断する時に、色々と考えて様々な可能性を論理的に検討しますが、ジャッジが難しい時は結局は最後は直感で決める。今年になって転職をしましたが、その時の決断はまさにこれでした。最後の判断基準は「転職したほうがおもしろそう」というわくわくした気持ちが前職に残るよりもあったから。

現時点ではこの決断は正しかったし、結果的に直感に従ってよかったと思っています。湯川さんは本書で「直感は時として論理に勝る」と書いています。ただしその前提は、ベースに論理的な思考が十分にあること。左脳で考え尽くしたことがあってこそ、直感が生きるのではと思います。

もう1つ、磨いていきたいと言った本質を直感的につかめるようになること。例えば何かの話を聞いた時、資料を読んだ時やデータを見た際にここが本質というのをパッとつかめるようになりたいと思っています。話のポイントを反射的に理解できるというか。

例えば、何かのデータを見る場合。データがある数表を見た時に、注目すべき値の変化だったり、もしくは数字について違和感がある点をすぐに指摘できることです。イメージとしては、ここがポイントor数字がおかしいと直感的に気付き、そのひっかかりが後で論理的に考えてもそう言えることです。

直感で思ったこと/感じたことが、後からよくよく考えても同じ結論になる。これが本書で湯川さんが言っている「多くの人が直感で物事を判断し、それぞれが得意とする分野でクリエイティブに生きるようになる。左脳的な発想する人の中から左脳と右脳をバランスよく使う人が増えていく」ことなのかなと理解しました。右脳でポイントをつかみ、左脳でそれを証明/補足するイメージです。

湯川さんは、コンピューターが発達すればするほど、人間の価値は直感力やクリエイティビティにならざるを得ない、と言っていますが、直感でポイントを見抜いたり仮説を出せる能力が持てるとすれば、それは人間のコンピュータに対する優位性だと思います。

★  ★  ★

最後に、印象的だった内容を引用しておきます。
怖い気持ち、不安な気持ちを取り去る最大の処方箋は、ワクワクする気持ちである。ワクワクしていれば、勇気などいらない。その方向に進みたくて居ても立ってもいられなくなるからだ。あとはその方向の仕事をやり切るという覚悟を持つこと。途中で諦めたり、めげたりしなければ、確かに未来は変えられると思う。




投稿日 2013/07/13

Yahoo!のビッグデータ参院選予測から考える「未来予測と選択の余地のジレンマ」

「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」という本に、ビッグデータがもたらす3つのパラダイムシフトが提示されています。
  • 限りなく全てのデータを扱う。n=全数
  • 量さえあれば精度は重要ではない
  • 因果関係ではなく相関関係が重要になる

3つ目の因果関係ではなく相関関係が重要は、本書で最もインパクトがある論点でした。ちなみに「相関関係がある」というのは、AとBという2つが同時に起こることで、「因果関係がある」というのは、Aが原因でBが起こることです。

ビッグデータにおいては因果関係よりも、何と何に相関関係があるかさえわかればよく、その組み合わせを見つけることが重要であるという考え方。これまではAとBというわかりやすい相関しかわからなかったのが、大量データをまわすことで、AとTという一見何の関係もない2つに相関があることを発見できるかどうか。なぜAとTにどういう因果関係があるかは気にしないというもの。

■ビッグデータによる未来予測と選択の余地

ビッグデータの活用例として予測があります。大量のデータがあり、数式モデル等も導入することで、データから未来がわかる。一方で、本書で興味深かったのは以下の指摘。
ビッグデータ予測が完璧で、アルゴリズムが我々の未来を寸分違わずはっきりと見通せるなら、我々の行動にもはや選択の余地など存在しないことにならないか。完璧な予測が可能なら、人間の意志は否定され、自由に人生を生きることもできない。皮肉なことだが、我々に選択の余地がないとなれば、何ら責任を問われることもない。

これを実感したのが、Yahoo! JAPANが発表していた、Y!の検索データからの参院選予測でした。ビッグデータが導き出した参議院選挙の議席予測

検索データと、昨年末の衆院選の知見からモデルをつくり、データから選挙結果予測をすること自体は価値のあるものだと思います。

従来の選挙結果予測は、電話調査(RDD)による聞き取りであったり、投票後の出口調査からが主な方法でした。それを、ネットでの検索数から高い相関で出せるようになった。Y!が予測に使ったモデルは異なる2種類があり獲得議席数の予測に若干ぶれはあるものの、データから言える結論は変わらず、おそらくこの予測通りの結果になるのでしょう。

一方で、分析結果がこのタイミングで出ることは選挙にとってよいことなのか、もっと言うと日本の将来(少なくともあと3年はこの規模の選挙はないので)にとって有益なのかは考えてしまいます。

すでに勝負が決まったかのような情報が流れると、「投票してもしなくても変わらない」という意識が出てしまうのではと思います。自民支持者、自民ではない党を支持/投票しようと思っている人にとっても。特に浮動票と呼ばれる特定支持がない層。浮動票をどれだけ確保できるかは自公以外は結果に響く気がしますが、その層の投票率が下がってしまいかねない。

先月の東京都議選の結果は、自民が大勝したのと共産党の議席が増えて野党第一党になりました。投票率が下がったのは主に浮動票で、その分、組織票が強い党が票を集めた。同じ構図が今回の参院選でも起こるのではないかなと。

先に引用した「ビッグデータ予測が完璧で、アルゴリズムが我々の未来を寸分違わずはっきりと見通せるなら、我々の行動にもはや選択の余地など存在しないことにならないか」という指摘が当てはまります。

ヤフーの検索データからの選挙予測は、ビッグデータがもたらすとされるパラダイム・シフトの1つである「因果関係よりも相関関係」の例でもあります。検索と投票に高い相関があり、それを使うことで選挙結果が予測できる。

これまで活用していなかったデータから未来が予測できることは有意義だと思う一方で、「ビッグデータ予測が完璧で、アルゴリズムが我々の未来を寸分違わずはっきりと見通せるなら、我々の行動にもはや選択の余地など存在しないことにならないか」という問題意識は持っておきたいです。


※関連記事

因果関係よりも相関関係:ビッグデータがもたらすパラダイムシフト|思考の整理日記




投稿日 2013/07/07

2013年上期に読んでおもしろかった本(後編)

前回の続きです。

2013年上期に読んだ本の中で、おもしろかったものをご紹介。このエントリーは後編で、3冊を取り上げています。

前編はこちら

■勝負哲学

岡田武史×羽生善治の対談。この組み合わせを見ただけで思わず手にとった本が「勝負哲学」でした。

サッカーと将棋。それぞれの戦いで培った、勝負勘の研ぎ澄ませ方、勝負どころでの集中力の高め方、そしてメンタルの鍛え方、などなど。厳しい勝負の世界に生きる2人が自分の哲学をおもいっきりぶつけ合った対談。久々に読んでいて考えさせられることが多い対談本でした。

いくつかのテーマの中で最も印象に残っているのは、羽生さんのリスクテイクの考え方でした。簡単に言うと、
  • リスクとの上手なつきあい方は勝負にとって非常に大切な要素。だから「いかに適切なリスクを取るか」を考えるようにしている
  • 将棋で少しずつ力が後退していくことがあり、後退要因として最も大きいのが「リスクをとらない」こと。リスクテイクをためらったり怖がると、ちょっとずつだが確実に弱くなっていってしまう
  • 勝つためにリスクを取らず安全地帯にとどまっていると、周囲の変化に取り残される、進歩についていけなくなる。結果、自分の力が弱くなっていく。それを避けるために積極的なリスクテイクが必要。だから必要なリスクは果敢に取りにいくことを心がけている
羽生さんが、「いかに適切なリスクをとるか」「リスクとの上手なつきあい方は勝負にとってきわめて大切なファクター」「リスクテイクを避けると周囲の変化に取り残され自分が弱くなっていく」と言っているはあらためて考えさせられます。得られた示唆は2つだと思っていて、
  • 「リスクとはやみくもに避けるべき対象ではない。正しく付き合うことが大事」という認識に変える
  • いかに「適切なリスク」を取っていくか

この本では、良い対談の特徴である、お互いの発言を受けて会話がどんどん発展・深まっていきます。岡田さんのサッカーの説明を将棋の世界に当てはめる羽生さん、それを受けて話を進化させる岡田さん、といった感じ。

将棋とサッカーの世界は異なりますが、棋士である羽生さんは将棋盤上の駒を、サッカー監督である岡田さんはフィールド上で選手のパフォーマンスを、いかに最大化するかの勝負という共通点もあるので、対談にはちょうど良い2人のバランス感でした。

書評エントリーはこちら:羽生善治の勝負哲学から考える「自分を強くするリスクの取り方」|思考の整理日記




■2100年の科学ライフ

「2100年の科学ライフ」。今のところ自分の中で、2013年ベスト1です。

コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行、それぞれについての未来予測。未来という時間軸を、近未来(現在〜2030年)、世紀の半ば(2030年〜2070年)、遠い未来 (2070年〜2100年)の3つ段階に分け、現在からどのように発展し、人々の日常生活をどう変えるのかが描かれています。

2100年の世界では、コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行がどのようになっているのか。簡単にご紹介しておくと、
  • コンピュータ:自分の思考だけで物を動かせるようになり、思うだけで直接コンピューターを制御できるようになっている
  • 人工知能:意識や感情までもを持つようになる
  • 医療:臓器や細胞の修復、遺伝子治療により老化を遅らせることで、寿命が延ばせる。若さを保てるようになるだけではなく、老化を逆戻りさせることができるようになる
  • ナノテクノロジー:どんなものでもつくれるレプリケーター(複製装置)ができる。自己を複製し、自らのコピーをつくることができる。究極的にはいらなくなったモノをほしいモノに変えられる
  • エネルギー:電気ではなく磁気の時代になっている(例:リニアモーターカーのような磁気自動車。人間までも磁力で地面から少し浮き移動できるようになる)。エネルギー源で有力なのは宇宙のエネルギーを使うこと(宇宙太陽光発電)
  • 宇宙旅行:宇宙エレベーターが実現する。ナノテクノロジーの進化に伴い、宇宙ステーションや月にはロケットではなく地球から直接つながるエレベーターで行く

未来予測だったりSF系の本は数多くありますが、本書の特徴は予測の裏付け/根拠が科学的である点です。①新発見の最前線にいるトップクラスの科学者300人以上へのインタビューにもとづいている、②科学的発展の内容はどれもこれまで知られている物理法則と矛盾しない、③本書で触れたすべてのテクノロジーのプロトタイプはすでに存在する。

2100年までの予測が単に未来の空想ではなく、根拠があることで「仮説」として考えられているんですよね。読んでいて未来について想像できるだけでなく、現在の科学の最先端のことにも触れられる。このあたりが本書の特徴でもあり、一気に読めました。

書評エントリーはこちら:書評「2100年の科学ライフ」|思考の整理日記




■シニアシフトの衝撃

「シニアシフトの衝撃」。この本がおもしろかったのは、シニアビジネスの現状や今後を紹介するだけではなく、具体的にどういう市場に目を向ければよいかの着眼点と、どんなビジネスモデルに可能性があるかまで、結構踏み込んで書かれている点でした。

本書で印象深かった言葉が「飽和しているのは市場ではなく、私たちの頭の中である」。提供者側に固定観念があって市場が飽和していると決めつけてしまい、新たなニーズに対応できていない状況です。

シニアビジネスの観点で言うと、30・40代から見ると何でもないことも、高齢者にとっては不安・不満・不便を感じているケースがいくつか書かれています。例えば、
  • 老眼の進行:店頭での値札・商品説明・POP等の文字が小さく、老眼になった高齢者には読みづらい
  • 脚力の衰え:年齢とともに筋力が落ちるので、フロアのちょっとした段差に足をつまずきやすい。エスカレーターのスピードが年配者には早すぎる
  • 聴力低下:年齢を重ねると聴力が低下する。売り場での商品説明が聞き取りにくい
  • 頻尿:高齢者には頻尿症状が多い。買いものの途中でトイレに行きたくなっても、近くにない。またはトイレへの案内がわかりにくい
  • 認知機能の低下:年を取ると一般には記憶力や認知力が低下する。商品の説明において色々と効果を羅列すると印象が残らない

日本はすでに少子高齢化が現実となり、総人口が減っていく時代になっています。少子高齢化は今後、世界でも起こっていくことがわかっています。見方を変えれば、日本は今後の世界共通課題にいち早く取り組んでいるという状況です。日本は課題先進国であり、望ましいのは課題を持っているだけではなく、積極的に取り組み解決もしているという課題解決先行国。

シニアビジネスについてよくまとまっている本です。単にシニア向け市場が有望という表面的な話ではなく、シニアシフトの現状がどういう構造になっているか、具体的なシニア層の不(不安・不満・不便)、有望な市場、ビジネスモデルや商品/サービスの事例、今後のシニアビジネスの可能性まで。

書評エントリーはこちら:シニアシフトの衝撃:有望な市場とビジネスモデルを考える着眼点|思考の整理日記




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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。