自社の商品やサービスは、市場で独自の魅力を発揮しているでしょうか?
今回のテーマは 「差異化」 です。
差異化を図るために大事な要素である POP と POD の視点から、具体的な事例を通して解説します。他との差異化をつくる秘訣、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。
自転車用のヘルメット
オシャメット (出典: クロスプラス)
2023年4月から、自転車に乗るときのヘルメットの着用が努力義務化されました。
婦人衣料のクロスプラスは、機能性とデザインを両立した自転車用のヘルメットを開発しています。
2023年9月に 「オシャメット」 という名前のヘルメットを、キャップ型やハット型などの4種類で発売しました。見た目はヘルメットというよりも帽子のようです。
オシャメットのほかに、2024年9月ごろに国内の安全規格に対応する、つばの付いた帽子のようなデザインの新製品を 「MEET (ミート) 」 ブランド名で出す予定です。
SG マークで求められている前方視界の広さの基準を満たすために、つばの角度や長さを調整中だ。新商品の開発に携わるライフスタイル事業部の川口真由氏は 「少しでも頭が小さく見えるようにしている」 と話す。つばを高い位置に取り付けてつばと頭頂部の間を短くし、ヘルメットが小さく見えるようデザインを工夫する。
市場変化とニーズ創出
ではクロスプラスの自転車ヘルメットの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
外部要因による市場変化
自転車用ヘルメットの話をマーケティングの観点で捉えると、法律という強制的な要素によって市場が変わり、そこにビジネスチャンスが新たに生まれているということです。
改正道路交通法によって、自転車に乗車中の全ての人がヘルメットを着用することが努力義務になり (努力義務なので未着用でも罰金はない) 、それまでよりもヘルメットを使う人が増えたという市場の変化が、ビジネスに影響を与えています。
環境が変わることでの新たなニーズ創出
2023年3月まではヘルメット着用は努力義務ではなかったので、それでもヘルメットをつけたい人は安全性へのニーズが高い人だったと考えられます。
それに対して、努力義務化によってヘルメットを被ろうと思った人は、これまでの利用者と比べてヘルメットへのニーズが異なる可能性があります。
具体的には、ヘルメットのデザイン性やオシャレさ、ヘルメットを被った時に自分の頭が大きくなり不恰好に見えないようにしたいなどの、見た目も重視したい人です。
こうした人たちにとっては、従来の機能一辺倒の自転車用ヘルメットではなく、高い安全性に加えて、デザインも洗練されたヘルメットが好まれることでしょう。
ニーズを満たす差異化
マーケティングには、差異化において POP と POD という考え方があります。
基本要素と差異化要素
出典: MarkeZine
POP は基本要素、POD は差異化要素です。
- POP (Points of Parity) : カテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- POD (Points of Difference) : 自社商品・サービスの差異化になり他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
POP (Points of Parity) は、あるカテゴリーにおいて商品やサービスが最低限として満たすべき基本的な要素を指します。POP は自社だけではなく競合も同じように満たすものです。
POP はお客さんがそのカテゴリーの商品を買うかどうかを考えるときに必須の条件となります。例えば、自動車であれば安全性、食品であれば味が POP に該当します。
一方の POD (Points of Difference) は自社商品を競合から差異化する要素です。その商品が市場においてユニークな特徴を持ち、お客さんにとって独自の価値になるので、お客さんから自社商品が選ばれる理由となります。
たとえば、他には決してないほどの高コスパ、高い技術に裏打ちされた使いやすさ、自分好みに合わせたカスタマイズ性が POD です。
自転車用ヘルメットの POP
自転車ヘルメットに POP と POD を当てはめてみると、基本要素となる Points of Parity (POP) は、安全商品マーク (SG マーク) を取得しているなど高い安全性です。
SG マーク取得は、製品が国内の安全基準を満たしていることを証明するものです。自転車ヘルメットとして最低限満たすべき基本要素です。消費者が自転車ヘルメットを選ぶ際に必須の条件となるでしょう。
自転車ヘルメットの POD
差異化要素となる Points of Difference (POD) は、デザインです。
クロスプラスの自転車ヘルメットでは、次のものが POD になります。
- 花柄などのデザインの導入: ヘルメットの外見に花柄などの様々なデザイン要素を取り入れることで、見た目の魅力を高めている
- 多様なカラーバリエーション: ピンクや黒など複数色を展開し、消費者が自分の好みやファッションスタイルに合わせて選べる
- 少しでも頭が小さく見えるデザイン: ヘルメット着用者が自分の見た目に対してポジティブな気持ちになれるように、頭部が小さく見えるようなデザインの工夫を施している
POP と POD から全体像を捉えると、クロスプラスは、POP というそのカテゴリーで共通の最低限の満たすべき水準として安全性を従来のヘルメットと同等以上に確立し、POD として新しいユーザーのニーズに応えるデザイン性で他の自転車ヘルメットとの差異化を図っていくわけです。
POP があって初めて POD が活きる
POP とはカテゴリーに参入するための 「入場券」 のようなものです。
たとえば、ネット通販サービスの手数料の 「安さ」 、食品では 「おいしさ」 という基本的な要求を満たさなければ、そもそも人はそのサービスや商品を買うかどうかの選択肢に入れることはないでしょう。
こうした基本的な要求である POP が満たされて初めて、POD という価値の差異化要素に目を向けてもらえます。クロスブラスのヘルメットは安全性という POP が土台としてあるから、その上にあるデザイン性が POD として効果を発揮します。
もし安全性が高くなければ、どんなに見た目がおしゃれでも魅力的な自転車用ヘルメットにはなりません。
マーケティングで見落としがちなこと
POP が備わっていなければ、商品やサービスは市場に受け入れられることはないでしょう。
POP があっての POD ですが、しかし、少なくないケースにおいて、POP を満たしているかの前に、差異化を追求しようとする傾向があります。
マーケティングでは商品やサービスがそのカテゴリーで絶対的に求められるレベル、つまり POP を満たすかどうかの見極めが重要です。
POP が確立された上で、POD をつくっていくことが大事であり、POP が10点満点中2点や3点の状態で独自性だけを際立たせようとしても、商品全体ではバランスを欠きます。結局はお客さんから選ばれないものとなってしまいます。
マーケティングでは 「差異化」 に重点を置きがちですが、その前に土台にあるべき POP を見落さないように注意が必要です。POP があっての POD なのです。
まとめ
今回はクロスプラスの自転車用のヘルメットの事例を取り上げ、マーケティングの観点で学べることを見てきました。
最後にポイントとして POP と POD についてまとめておきます。
- POP (Points of Parity) : そのカテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素
- POD (Points of Difference) : 自社商品・サービスの差異化になり、他とは違うユニークな価値になり得る要素
- POP があっての POD 。POP はカテゴリー参入への入場券のようなもの。POP というお客さんからの最低限の要求を満たし、その上で POD からの独自の価値をつくり商品が選ばれる理由をつくる
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