2013/04/03

羽生善治の勝負哲学から考える「自分を強くするリスクの取り方」




岡田武史 × 羽生善治の対談。この組み合わせを見ただけで思わず手にとった本が「勝負哲学」でした。

内容は期待以上におもしろかったです。対談の1つ1つのテーマについての会話のやりとりが深かったです。

サッカーと将棋、それぞれの戦いで培った、勝負勘の研ぎ澄ませ方、勝負どころでの集中力の高め方、そしてメンタルの鍛え方、などです。

厳しい勝負の世界に生きる2人が自分の哲学をおもいっきりぶつけ合った対談でした。久々に読んでいて考えさせられることが多い対談本でした。

■ 羽生善治のリスクテイク哲学

そんな濃い対談の中で、印象的だったのがリスクについて語られていた部分でした。以下は羽生さんのリスクテイクについての考え方です。本書から引用です。

将棋は究極の個人競技ですから、チームワークや一体感とは無縁で、勝つも負けるもすべて自己責任です。当然のことながら、あらゆる手を自分の判断で自主的に選ばなくてはなりません。

そのとき、考えの真ん中にあるのは「いかに適切なリスクをとるか」ということです。リスクとの上手なつきあい方は勝負にとってきわめて大切なファクターです。

将棋が急に弱くなることはありませんが、少しずつ力が後退していくことはあって、その後退要因としていちばん大きいのが「リスクをとらない」ことなんです。リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、ちょっとずつですが、確実に弱くなっていってしまうんですよね。

私は強い将棋よりも、いい将棋を指したい気持ちが強いタイプの棋士ですけど、だからといって弱い将棋でいいとは全然思っていませんから、必要なリスクは果敢にとりに行っているつもりです。

(引用:書籍「勝負哲学」

羽生さんの発言「リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、ちょっとずつですが、確実に弱くなっていってしまう」に対して、岡田さんは「もうちょっと掘り下げてほしい」と促します。

長くやっていると、過去の成功体験、失敗体験が経験則として積み重ねられてきますよね。それは危機と安全の境界を見きわめる頼りがいのある測定器である反面、安全策の中に自分を閉じ込めてしまう檻(おり)にもなります。

経験を積むと、この戦法ではこのくらいのリスクがあるということがかなり正確に読めるようになってきて、リスクの程度や影響度が計算できるようになるんです。すると、どうしても危ない橋は渡りたくなくなります。

つまり勝ちたいがために、リスクをとるより、リスクから身をかわすことを優先するようになる。でも、周囲はいつも変化し、進歩もしていますから、安全地帯にとどまっていると、その周囲の変化にだんだん取り残されてしまいます。

結果、安全策は相対的に自分の力を漸減させてしまうんです。それがイヤなら、積極的なリスクテイクをしなくてはならない。だから私は、経験値の範囲内からはみ出すよう、あえて意図的に強めにアクセルを踏むことを心がけているつもりです。

(引用:書籍「勝負哲学」

ポイントを整理します。

  • リスクとの上手なつきあい方は勝負にとって非常に大切な要素。だから「いかに適切なリスクを取るか」を考えるようにしている
  • 将棋で少しずつ力が後退していくことがあり、後退要因として最も大きいのが「リスクをとらない」こと。リスクテイクをためらったり怖がると、ちょっとずつだが確実に弱くなっていってしまう
  • 勝つためにリスクを取らず安全地帯にとどまっていると、周囲の変化に取り残される、進歩についていけなくなる。結果、自分の力が弱くなっていく。それを避けるために積極的なリスクテイクが必要。だから必要なリスクは果敢に取りにいくことを心がけている

つい、リスク = 危険 = 避けるべきこと、と解釈してしまいがちです。でも、それは違います。リスクとは不確実性の尺度であり、リスクが高いとは結果予想が立てにくい・予想の振れ幅が大きいということです。

羽生さんが、「いかに適切なリスクをとるか」、「リスクとの上手なつきあい方は勝負にとってきわめて大切なファクター」、「リスクテイクを避けると周囲の変化に取り残され自分が弱くなっていく」と言っているはあらためて考えさせられます。

得られた示唆は2つです。

  • 「リスクとはやみくもに避けるべき対象ではない。正しく付き合うことが大事」という認識に変える
  • いかに「適切なリスク」を取っていくか

■ どうすれば「適切なリスク」が取れるようになるのか?

自分には適切なリスクとは何でしょうか?どうすれば適切なリスクテイクができるようになるのでしょうか?

羽生さんが対談で話していたリスクテイクの工夫にヒントがありました。それは「リスクを少しずつ取るようにする」ことです。

羽生さん曰く、「例えば、トータルでこれくらいのリスクをとろうと目安を決めたら、一度に引き受けるのではなくその時の自分が消化できるサイズにまで小分けして、毎回少しずつとっていく」。

ちょっと話が脱線しますが、資産運用・投資における「分散投資」がこれに当たります。

投資する商品を分散させること、先日参加したコモンズ投信のセミナー で伊井社長が強調していた投資タイミングを分ける「時間分散」。一度に全てを投資するのではなく、ドルコスト法で小分けすることで、結果的に投資リスクを小さくできます。

コモンズ投信の「はじめてのコモンズ」セミナーに参加してきました|思考の整理日記

話を戻すと、適切なリスクを取るために、普段からリスクテイクの練習をしておくのも有効です。日頃から意識してあえてリスクを取って体験してみるのです。例えば以下です。

  • お昼にいつものランチメニューではなく、あえて料理やお店を変えてみる
  • 通勤で毎朝乗る車両・使う階段・改札・出口を変えてみる、乗る電車の時刻を変える、通勤経路そのものを今日だけ変更してみる
  • 土日のどちらかはケータイ/スマホを持たずに出かけてみる

どれも普段とは異なる生活パターンで、違うリズムが生まれます。普段通りではないので、その分だけ不確実性が高まる、つまりリスクが高くなります。変えたことが良い方向に進むかもしれないし、いつものほうがよかった、と損した気持ちになるかもしれません。

ただ、これがリスクを取ることの意味です。不確実性をあえて選択することで、起こりえる結果の幅が大きくなります。良い方向に振れることもあれば、悪い方向に振れることも同じだけあるということです。

一般化すると、適切なリスクを取るために重要なのは以下の3ステップです。

  • まずは自分にとって何がリスクかを知る。「わからない」を「知る」こと
  • リスクの度合い(不確実性)の見極め
  • リスクを取るかどうかの決断。やみくもに避けるのではなく、正しく付き合う

リスクを取るとは変化することです。大事なのは、主体的に変化をつくる、変わり続けるというスタンスです。

もう1つあります。リスクを取ることについては、結果ではなく、リスクを取ったという自分の判断を尊重したほうがいいように思っています。リスクテイクの結果がうまくいったかどうかではなく、リスクをとったことに自分自身が納得しているかどうかです。

よく言われるのは、リスク取らなかった後悔より、取ったことでの後悔のほうがが小さいということです。別の言い方をすればチャレンジしなかった後悔より、チャレンジした後悔のほうが小さいのです。

羽生さんが本書で「今リスクテイクすることは、未来のリスクを最小限にすること。自分にそう言い聞かせている」と言っていました。これもリスクを取る時の恐怖心を減らしてくれる考え方です。

★  ★  ★

今回取り上げた「勝負哲学」という本は、リスクの話以外にも色々と学びのある内容が多かったです。

良い対談の特徴である、お互いの発言を受けて会話がどんどん発展・深まっていきました。岡田さんのサッカーの説明を将棋の世界に当てはめる羽生さん、それを受けて話を進化させる岡田さん、といった感じでした。

将棋とサッカーの世界は異なりますが、棋士である羽生さんは将棋盤上の駒を、サッカー監督である岡田さんはフィールド上で選手のパフォーマンスを、いかに最大化するかの勝負という共通点もあるので、対談にはちょうど良い2人のバランス感です。

将棋とサッカー以外でも、2人の興味範囲や知識の豊富さが話を盛り上げていきます。読み応えのある本でした。2011年の対談なので、続編を期待したいです。




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