今回は、マーケティングの本の書評です。
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顧客体験マーケティング - 顧客の変化を読み解いて 「売れる」 を再現する (村山幹朗, 芹澤連) という本をご紹介します。
顧客体験マーケティングによって、お客さんの心をつかむ方法を探ります。お客さんの行動や心理を深く理解し、提供する価値を相手の 「顧客文脈」 に対して、売り手やブランドが合わせにいくことがポイントです。
では詳しく見ていきましょう。
本書の概要
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この本は、タイトルにもある 「顧客体験マーケティング」 について、理論と具体例からわかりやすく解説しています。
1つの商品でも、どこを切り取って価値として伝えるかによって、お客さんにスルーされることもあれば、「こんな商品が欲しかった」 と思ってもらえることもあります。
本書を読むと、この違いはどこにあるのかへの疑問が解消されます。本書のキーワードの1つは 「文脈」 で、お客さんの取っている行動のバックグラウンドを深く理解することで、相手の文脈に沿った自分ごと化される価値提案につなげられます。
お客さんにとって価値になる文脈をどうやって見つけるのか、見出した顧客文脈をもとにブランドからの価値提案をどのように展開するかを学べ、マーケティングへの理解を深めることができる1冊です。
顧客体験マーケティングとは
顧客体験マーケティングでは、お客さんが今どう変わっているのか、なぜその変化が起こったのかという顧客変化を理解し、それに応じてビジネスの戦略や施策も変化させます。
全体プロセス
顧客体験マーケティングの全体プロセスは、「アクセプターモデル」 という4つの項目からなるフローを描きます。
✓ アクセプターモデル
- 顧客の現状体験 (ベースライン)
- 顧客の中での課題感の醸成
- 受容価値 (期待できる価値)
- 顧客の生活変化 (価値によって実現するより良い未来)
プロセスの全体の流れを補足すると、
- お客さんの現状体験における行動や心理を把握する (文脈理解)
- 現状体験をベースラインとし、理想と現実のギャップをつくる課題感を生み出す (お客さんに課題を認識してもらう)
- 自社商品やサービスのどの魅力がお客さんの文脈に合う価値になるか、お客さんに受け入れられる価値は何かを見極める
- 解決策となる体験価値をお客さんの文脈に合わせて提案し、顧客の生活変化 (価値によって実現するより良い未来) を起こす
ここでのポイントは、自社商品が提供できる体験と価値を、お客さんにとって最適なものだと認識してもらうことにあります。
お客さんの中で生じた課題感に最もフィットして、一番理想に近づけると期待できるものとして自分たちが選ばれることを目指すわけです。
お客さんにとって価値になる文脈を見つける
ブランドがお客さんにとって価値になる文脈を見つけるためには、お客さんの中で生じる 「課題感や価値基準の変化」 に注目します。
具体的には 「問題意識がなかったことが重要な課題へと変化した」 、あるいは 「今まで当たり前だと思っていたことに、あらためて価値を再発見した」 といった認識の差分です。ここに新たな需要が生まれる種が眠っています。
お客さんの文脈の見つけ方
ではお客さんの文脈をどのように発掘すればいいのでしょうか?
文脈から変化後の全体構造
まず押さえておきたいポイントは顧客文脈から変化後の全体構造です。
5つあります。
- 状況 (ベースライン)
- 刺激
- 心理
- 体験
- 結尾 (結果や報酬)
順番に補足すると、ベースラインとみなすその人の置かれた状況において、ある出来事が起こります。
そこから刺激を受けることで心理状態が変化し、体験をした結果としてベネフィットを得たり、ポジティブまたはネガティブな結末を迎えます。
文脈を聞き出すポイント
この全体構造を前提に、お客さんの文脈やナラティブ (語り手自身が紡いでいく物語) を聞き出すポイントは、次のとおりです。
- お客さん自身の視点で話してもらう
- 物事への 「捉え方や意味づけ」 も語ってもらう
- ブランドが価値として受け入れられる過程の 「認識や行動の変化」 を引き出す
- その行動や心理へと至った背景を掘り下げる
インタビューでのちょっとしたコツ2つ
インタビューでお客さんのことを訊いていくときに、相手に話してもらいやすい場や雰囲気をつくることを心がけます。
インタビューでのちょっとしたコツは次の2つです。
- ビリーフプローブから引き出す
- 否定との対比からあぶり出す
ビリーフプローブから引き出す
インタビュー相手の発言に対して、聞き手が一言のまとめをして返答する方法です。
話してくれた内容を受けて、「つまり、X は Y であるということですね」 などのように要約します。これを聞いた相手は、ビリーフプローブからさらに着想が進んだり、次の言語化が促されます。
否定との対比からあぶり出す
2つ目のアプローチは、あえて反対意見や否定する考え方・アイデアを引き合いに出すというやり方です。インタビュー対象者の背景や文脈を具体的に掘り下げるための呼び水に使います。
否定の事例、逆の考え方や行動をしている人たちの存在を出して、たとえば 「世の中にはこういう考え方の人もいますが、〇〇 さんはどう感じますか」 のように質問します。ぶつける否定や逆の内容は、相手にとって違うと思っていることを最初からわかった上で、対比から対象者の本当のところをあぶり出す方法です。
顧客文脈に沿った価値提案
それでは、捉えた顧客文脈をどのように価値提案につなげるかを最後のパートで見ていきましょう。
ベースラインとゴール設定
まず最初にやるのは、ベースラインとゴールの設定を明確にすることです。
- ベースライン: 「お客さんの現在のどの状況を変化していくのか」 という変化前の状態
- ゴール: 「どんな状態に変化させるのか」 という変化後の結末
ターゲット (ベースライン) とゴールのギャップを埋めるために、お客さんの文脈に沿った受け入れられる価値を提案していきます。
お客さんの文脈にフィットする価値提案
お客さんに価値を受け入れてもらうため提案内容をつくるためには、お客さんの立場になることが大事です。
具体的には、次のような視点を意識するといいでしょう。
- お客さんは、普段どんなものの見方をするのか
- どういうライフスタイルや生活ルールで日々の生活を送っているのか
- 何がどうなることを理想的と感じるのか
- 生活上の出来事に対してどんな意味づけをして、物事の因果関係をどういう視点で捉えているか
- 問題が起こったときに何を原因とみなす傾向があり、どうしたらうまくいくと信じているのか
こうした視点から、その人の経験にもとづいた物事の捉え方、考え方の癖となっている 「ドミナントストーリー」 を把握していきます。
ドミナントストーリーとは、ターゲット顧客の中で優勢になっていたり支配しているものの見方や思考のことです。たとえば、価値観や発想、ものごとを見る視点、日々の生活パターンやルール、理想だと感じること、意味付けや因果関係の捉え方などです。
ターゲット顧客の経験や考え方の癖を理解し、顧客文脈にもとづいて価値を提案していくことが、顧客体験マーケティングを成功させるカギとなります。
まとめ
今回は、書籍 顧客体験マーケティング - 顧客の変化を読み解いて 「売れる」 を再現する (村山幹朗, 芹澤連) を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
✓ 顧客体験マーケティング
- お客さんの現状体験における行動や心理を把握する (文脈理解)
- 現状体験をベースラインとし、理想と現実のギャップをつくる課題感を生み出す (お客さんに課題への認識してもらう)
- お客さんの文脈にあった価値になるのは、自社商品やサービスのどの魅力か、お客さんに受け入れられる価値は何かを見極める
- 解決策となる体験価値をお客さんの文脈に合わせて提案し、顧客の生活変化 (価値によって実現するより良い未来) を起こす
✓ お客さんにとって価値になる文脈をブランドが見つける
- お客さん自身の視点で話してもらう
- 物事への 「捉え方や意味づけ」 も語ってもらう
- ブランドが価値として受け入れられる過程の 「認識や行動の変化」 を引き出す
- その行動や心理へと至った背景を掘り下げる
✓ お客さんの文脈にフィットする価値提案
- お客さんに価値を受け入れてもらうため提案内容をつくるためには、お客さんの立場になることが大事
- その人の経験にもとづいた物事の捉え方、考え方の癖となっている 「ドミナントストーリー (ターゲット顧客の中で優勢になっていたり支配しているものの見方や思考) 」 を把握する
- ターゲット顧客の経験や考え方の癖を理解し、顧客文脈にもとづいて価値を提案していく
この本は学びが多くあり、何度も読み返しています。
よかったらぜひ読んでみてください!
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