2010/06/26

政府の役割と成長戦略とは



「断絶の時代」という著書において、ドラッカーは政府の役割を次のように言及しています。
The purpose of government is to make fundamental decisions, and to make them effectively. The purpose of government is to focus the political energies of society. It is to dramatize issues. It is to present fundamental choices. 
政府の仕事は、意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うことである。社会における政治的なエネルギーを結集させることである。問題を浮かび上がらせることである。選択を提示することである。  
「断絶の時代」p.252から引用

日経新聞の10年6月24日付の朝刊の「経済教室」は、「新成長戦略 ~方向性を問う~」という企画で、早稲田大学・谷内満教授の投稿でした。タイトルは「『供給サイド』こそ重視を」。サブタイトルは「カギ握る規制緩和 法人減税は財源が必要」でした。

記事内容はとてもわかりやすく、かつ簡潔にまとまっていたように思いました。記事内容を参考にしつつ、状況整理をしてみます。

■日本の課題 (低成長・低生産性国)

1990年代の日本経済について、「失われた10年」と評してきましたが、最近では00年代も合わせて「失われた20年」という表現を目にします。

このように過去20年の間、日本は長期的な低成長国に陥っています。一方で、「経済教室」記事では、日本は欧米諸国と比べ、低生産性国である指摘しています(図1)。


従って、谷内教授は「高齢化が急速に進む日本では、生産性を高めて経済成長を引き上げることが、極めて重要な課題」であると述べています。

■政府の役割

○民主党の「成長戦略」

では、日本が経済成長を図るうえで、政府の役割はどのようなものなのでしょうか。6月18日に閣議決定された「新成長戦略」が公表されました。その中で、「強みを活かす成長分野」として以下の7分野を挙げています。
  1. グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
  2. ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
  3. アジア経済戦略
  4. 観光立国・地域活性化戦略
  5. 科学・技術・情報通信立国戦略
  6. 雇用・人材戦略
  7. 金融戦略

○政府には成長産業は選べない

上記の各分野の専門家ではないので、中身の詳細の是非は省略しますが、そもそもの論点として「政府が今後の成長産業を選定できるのか」という議論があります。

正直なところ、個人的にはこれは難しいと思っています。というのも、成長産業はわざわざ政府が選ばなくても、市場原理に任せておけば自然と投資資金が回ってくるはずで、それを政府がやるということは税金が使われることにもなり、リスクをとって失敗した場合も結局は国民が負担することになります。

ちなみに、「経済教室」で谷内教授も以下のように主張をしています。
  • 政府が将来の成長産業を選び出す政策(ピック・ザ・ウィナー政策)には限界がある
  • すべての産業、すべての企業・個人事業者が、経済全体の成長を支える可能性を持っているという視点が重要

○政府の役割

そこで、政府の役割です。記事では、「政府がとるべき政策は、そうした民間の創意工夫と競争を促進することである」と書かれていましたが、その通りだと思います。

その理由は記事に書かれている以下の通りだと思うからです。
  • 経済活動の中核を担っているのは民間企業
  • 民間企業の創意工夫と競争が、生産性向上と、活発な投資による資本の量・質の向上を通じて、成長を高める
  • 成長政策は経済の供給サイドに働きかけるべき

■成長促進政策

記事では、現在の日本に求められる成長促進政策として、規制緩和、法人税引き下げ、労働政策が取り上げられています。以下、簡単ですが、書いておきます。

規制緩和
  • 成長促進政策として、規制緩和は重要
  • あらゆる分野で不要な規制を撤廃・縮小することが重要だが、中でも農業、医療、介護といった分野は規制が特に厳しい
  • 規制緩和によって民間の活力を引き出す余地が大きい

法人税
  • 法人税率を引き下げるべきだと主張
  • ただし、法人税減税で財政がさらに悪化することになれば、成長促進とはならない。なぜなら、すでに先進国で最悪の日本の財政をさらに悪化させれば、いずれ長期金利の上昇につながり、民間の投資が抑制されて、低成長に追い込まれるから
  • 従って、法人税率引き下げは、消費税率引き上げと、歳出削減とのセットでの抜本的な見直しが必要になる

労働政策
  • 派遣労働者などに対するセーフティーネットの拡充は必要
  • だが、正社員が正しい働き方で、非正規は望ましくないから規制するという考え方は問題
  • 多様な働き方と、企業や産業の浮き沈みに対応できる弾力的な労働移動が、今の日本に求められている
  • 解雇時の金銭補償のルール化などにより正社員の解雇規制を緩和して、正規と非正規の不当な格差を縮めることが求められる

★  ★  ★

冒頭で記載したドラッカーが言うように、政府の仕事は、「意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うこと」だとすると、実行は競争環境に身を置いている民間企業だと思います。

政府の役割は民間企業が正しく競争できる環境を用意することまでで、成長分野までを政府が選ぶことは不要ではないでしょうか。

今回の日経「経済教室」は、そんなことをあらためて考えさせてくれるものでした。


※参考資料

「新成長戦略」についてPDF (6/18閣議決定内容)
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/04/06/20100618_shinseityousenryaku_honbun.pdf



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。