投稿日 2013/09/08

書評: 「それ、根拠あるの?」 と言わせない データ・統計分析ができる本


ビッグデータやデータサイエンティストという言葉もわりと普通に使われるようになり、統計学が最強の学問である という本がベストセラーになったりなど、データへの関心が大きくなっています。

統計の基本的な知識は知っているけど、実践でどう使っていいかよくわからないと思っている状況にあれば、におすすめなのが 「それ、根拠あるの?」 と言わせない データ・統計分析ができる本 です。


本書の概要


本書は、「海外マーケット進出という事業計画書を作成する」といったストーリーに沿って、データや統計分析をどう扱えばいいかがわかりやすく平易に書かれています。データ分析の目的、発想の仕方、データの集め方、標準偏差などのビジネスでの活用を解説してくれます。

扱っている統計学の範囲は、相関分析と単回帰分析までですが、統計は身近なツールとして具体的にイメージするにはむしろこれくらいでいいんですよね。本書を読んでもっと知りたくなった方には、次のステップとしてさらに高度な統計に入っていける橋渡し役のような本です。

ではここからは、統計に範囲を絞ってこの本を紹介していきます。


標準偏差


標準偏差は、そのデータがどれくらいのバラツキを持っているかを数字で把握できる指標です。平均が 50 で標準偏差が 15 というデータがあれば、その意味はデータ全体の 2/3 は平均 50±15 の範囲 (35 ~ 65) にあるということです。もし同じ平均で標準偏差が 5 であれば、全体の 2/3 が45~55の範囲に入ります。

標準偏差 5 に比べて 15 のほうが広い範囲に広がったデータ、つまりバラツキがあるということがわかります。こうした統計学の知識について、この本はビジネスの実務でどう活用するかが具体的なストーリーで体感できます。

例えば、新規参入しようとしている市場規模は50億円まではわかっているとします。この見通しのリスク (どの程度の下振れと上振れがあるのか) がを定量的に評価するのが標準偏差です。

50億に対して標準偏差が5億であれば、リスクを45億 ~ 55億円の ±10% とみなせます (45 ~ 55 の範囲はデータ全体の 2/3 なので確率は約67%) 。50億市場と推定したものの、実は45億だったというのがリスクとして想定する下限です。

例えばその市場での自社売上金額シェアが 10% の場合、50億市場では売上は5億ですが、45億市場では売上4.5億と、5000万円低いケースがリスクとしてあり得るということです。標準偏差はバラツキを表すという統計の知識が、事業計画のリスク分析に使えるという例です。


相関分析と単回帰分析


本書では、相関分析と単回帰分析もビジネスにどう使えるかもわかりやすく説明されています。

相関分析については、新規参入市場で計画の売上・利益を達成するための 「施策」 と 「売上」 の相関を分析しています。チラシ配布、テレビ広告、店頭販促の各施策と売上の相関係数を比較することで、どの施策が良いかが数字で比較できます。本でのストーリーはシンプルになっていますが、相関をどうビジネスに使うかのイメージがわかりやすいです。

施策と売上の相関が高いということは、その施策をすれば高い確率で売上増に貢献できます。もし相関が高くなければ、ビジネスとしては実施する判断は出しにくくなります。

単回帰分析の活用イメージは、先に相関分析で得られた効果が期待できる施策について、どの程度の売上が期待できるかのシュミレーション例として紹介されています。単回帰分析のモデルはシンプルで、施策にかけたコストに対して、どの程度の売上が見込めるかです (コストが説明変数 / 売上が目的変数) 。

単回帰分析からわかるのは、コストに対する費用対効果と、目標売上を達成するために必要なコストです。

先ほどの相関分析と合わせて考えると、売上につながる施策が、実際にどの程度ビジネスに貢献できるのかが見えてきます。施策と売上の相関が高く、かつ売上への寄与が高い施策は迷わずやる決断ができます。

相関が高くないが売上寄与は大きい施策と、相関は高いが売上寄与は小さい施策がある場合、どちらを優先するかは意思決定が必要です。前者は当たれば大きい博打系、後者は確実だがインパクトは小さい着実系で、どちらが良いかはケースバイケースです。

単回帰分析なので単純化されていますが、それでも過去のデータから単回帰によって将来へのシュミレーションをつくり、そのシュミレーション結果から経営の意思決定に使える事業計画見通しの数字を出しています。


最後に


本書ではあえて紹介する範囲を絞り、それだけでも実務にはどういう活用ができるかをイメージできる内容になっています。標準偏差、相関分析、単回帰分析などについて、Excel でどう計算できるかも図表を交えて説明がありわかりやすいです。

本書の著者は、日産自動車で事業戦略や人材育成計画などをデータを活用されている方です。図表も多く、表現も平易で、ビジネスパーソンにとって実践的で分かりやすい内容です。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。