投稿日 2011/05/22

Bing+Facebook検索から考える情報入手のこれからの棲み分け

マイクロソフトが5月16日(現地時間)、同社提供の検索サービス「Bing」に対してFacebookと連携させた新機能を追加したと発表しました。Facebookの"Like"(いいね!)情報を活用し、友人やFacebookユーザーのオススメ情報などが検索結果に表示されるようになっているようです。
Facebook Friends Now Fueling Faster Decisions on Bing|bing

■bing+facebookで検索するとこうなる

新機能は、大きくTrusted Friends、Collective IQ、Conversational Searchの3種類。Trusted Friendsでは、キーワード検索の結果にFacebook上の友人が"Like"登録したページがあれば、その情報が表示されます(友人の顔写真が最大3名まで)。以下のイメージ画像では検索結果の3番目に友人の顔写真が表示される。

Facebook Friends Now Fueling Faster Decisions on Bing|bingより引用

Collective IQでは、友人に限らず、Likeをたくさん集めたサイトが検索結果の上位に表示されるようです。

Facebook Friends Now Fueling Faster Decisions on Bing|bingより引用

Conversational Searchでは、人名による検索結果にFacebookのユーザー情報が表示されたり、下のイメージのように地名を検索すると、そこに住んでいる(あるいは住んでいた経験のある)友人が表示されます。

 Facebook Friends Now Fueling Faster Decisions on Bing|bingより引用

このサービスを利用するためには、フェイスブックにログインした状態で、bingから検索する必要があります。また、現在はアメリカだけでのリリースのようです。

少し古いデータですが、ニールセンが2009年4月に、50か国で25,000人のネットユーザーを対象に調査を行ったところ、各国のネットユーザーの9割が「友人からのおすすめ」を信用していると回答しています。

<広告形態別の信頼度 2009年4月>

Nielsen Global Online Consumer Survey (PDF)|Nielsenから引用

今回のマイクロソフトとフェイスブックの取り組みは検索結果に友人のおすすめが出るということで、まさにこの信頼度を検索結果というアウトプットの(その人への)精度に活用するものです。Googleなどの従来の検索とは異なる「人と人とのつながり」という条件で結果が表示されるのです。

■インプットとしての検索の向上余地は?

それでは、検索のインプットのほうはどうでしょうか?あらためてネット検索でのインプットのプロセスを考えると、こちらのほうはまだまだ進化の余地があるように思います。検索をするには、まず自分が知りたいことを検索用語として打ち込みます。すなわち、具体的な単語にまで知りたいことを落とし込まないと検索自体ができないということ。「こないだのあれ、何だっけ」みたいなあいまいな状態では検索は有効に活用できません。もちろん、インプットとしての検索機能の向上例として、Googleでは、画像・動画・ニュース・リアルタイム、などとカテゴリーに絞って検索ができますが、これも入力する検索ワード、あるいはその組み合わせがうまくいっていないと、効果が薄れてしまいます。

上記で取り上げたbingのソーシャル検索ではアウトプットでの進化でしたが、インプットにおける検索についても検索のインプットでも新しい考え方・仕組みを期待したいところです。ユーザーに検索ワードを考えさせる、検索を色々と工夫しても、欲しい・必要な情報がなかなか上位に表示されない、など、よくよく考えるとネットでの検索は非常に便利とはいえ、まだまだ使い勝手がいいとは言えないように思います。ネットでの検索は検索連動型広告のおかげで無料サービスとして提供されていますが、もし今よりももっと早く・正確に必要な情報が手に入るのであれば、効率的な検索から時間を有効に使える有料サービスもあってもいいような気もします(実際に利用するかは価格と精度によりそうですが)。

■AISASで情報入手プロセスを考える

ここまで、マイクロソフトとフェイスブックの新しい検索機能の話から、検索のアウトプットとインプットについて考えました。情報を入手する手段としてはネット検索は便利ですが、一方で検索だけに頼る必要もないと思っています。検索というのはワードを指定して自分から情報を探しにいきますが、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを使っていると、「必要な情報が向こうからやってくる」という感覚を持ちます。前提として、そのような情報を発信してくれる人(ニュースメディアやBotも含む)をフォローしておく必要がありますが、国内外問わず、大きなニュースなどは最近ではツイッターなどを経由して第一報を知ることが多くなっています。最近の例で言えば、ビンラディン殺害がそうでした。その後、気になったのでネットで調べてみると(検索)、CNNでのニュースとして大きく報じられていたり、オバマ大統領の発表演説が見つかり、これはデマではなく本当に起こったことのようだと実感するようになりました。ツイッターで知り、詳細を検索から、というプロセスでした。

ところで、AISASという消費者の購買行動モデルがあります。AISASとは、Attention(注意)=>Interest(興味・関心)=>Search(検索)=>Action(行動)=>Share(共有)の頭文字をとったもので、電通が考案したマーケティングにおける消費行動プロセスを表す考え方です。具体的には、消費者がある商品を知ってから購入に至るまでは、注意が喚起され、興味;関心が生まれ、関連する情報を検索し、その商品やサービス購入し、そのことを共有する、というプロセスのこと。


AISASはもともとは購買行動モデルですが、4番目のActionを、情報接触という行動と見なせば、情報接触・探索のモデルとしても当てはめられるように思います。AISASというプロセスでは、検索は真ん中のSにあたり、上流には注意、興味・関心がありますが、ソーシャルメディアで興味・関心が湧き、Googleで検索をするということです。

■情報入手をマトリクスで整理

先ほど、「情報入手は検索だけに頼る必要もない」と書きましたが、今後、マイクロソフト+フェイスブックのように検索にソーシャル性が加われば、自分にとっての情報入手は次のようなマッピングができそうです。


Googleリーダー、Google検索は今のところソーシャル性よりも、機械的なアルゴリズムにより検索精度の向上させています(Googleのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」)。ただ、ソーシャルの取り組みがないわけではなく、Googleリーダーでは共有アイテムがあり、検索でも「+1」という新しいソーシャル機能に挑戦しています。IT系の世の中の流れとしてはソーシャル全盛な感じがありますが、個人的には、機械的な結果を提示してくれる(今の)Googleのような存在もあってほしいと思いますし、上記のマトリクスのような棲み分けごとに、それぞれがもっと使いやすくなってくれることを期待したいです。


※参考情報

Facebook Friends Now Fueling Faster Decisions on Bing|bing
Bing、Facebook連携を大幅強化 - 友人のいいね!などを検索結果に表示|マイコミジャーナル
Nielsen Global Online Consumer Survey (PDF)|Nielsen
世界で最も信頼される広告形態は「知り合いからのおすすめ」「ネットのクチコミ」【ニールセン調査】|MarkeZine
Googleは「+1」でソーシャル検索を実現できるのか?|思考の整理日記


投稿日 2011/05/15

テレビとこれからの視聴率を考えてみる


Free Image on Pixabay


日本でテレビ放送が開始されたのは1953年 (昭和28年) でした。1953年2月1日に NHK が、その後の1953年8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始しています。放送開始当初の NHK の受信契約は866件だったようです。

テレビ放送開始|NHK
日本放送協会|Wikipedia
日本テレビ放送網|Wikipedia


テレビのビジネスモデル


テレビのビジネスモデルは50年前も今も基本的には変わっていません。

1953年当初から、NHK は視聴者から受信料を受け取る有料モデル、日本テレビ放送網はスポンサー企業の CM を入れる広告モデル (受信料は無料) でした。ちなみに、日本での初めてのテレビ CM は、日本テレビ放送網の放送初日に流された精工舎の時報だったとのことです。

セイコーホールディングス|Wikipedia


スポンサー企業は50年前も今も、多くの予算を投入しテレビ CM を流しています。スポンサーにとってテレビはそれだけ広告媒体としての価値を見出しています。一つの情報を一度に大量の視聴者に届けることができるという価値です。テレビはこの点で、新聞・雑誌、ラジオ、ネットと比べても優れています。
投稿日 2011/05/07

決断とリスクはワンセットである

「決断力」 (羽生善治)という本を読みました。

初版が2005年で、羽生善治氏は当時34歳でした。将棋のことが中心に書かれているものの、専門知識がなくても読み進めてしまいました。それだけ書かれている内容が将棋以外にも広く当てはまります。

今回のエントリーでは、書籍「決断力」を読んで考えたことを中心に書いています。

本書の目次です。

第1章 勝機は誰にでもある
第2章 直感の七割は正しい
第3章 勝負に生かす「集中力」
第4章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
第5章 才能とは、継続できる情熱である

■ 決断とはリスクを取ること

「将棋を指すうえで、一番の決め手になるのは何か?」

これに対する羽生さんの答えが「決断力」だそうです(p.56)。決断力はまさに本書のタイトルでもありますが、決断について最も印象に残っているのは、「決断とリスクはワンセットである」という考え方でした(p.71)。

羽生さん曰く、リスクを前にすると正直怖気づくこともあるそうです。それでも勝負をするからには、そのような場面に向き合い、決断を下すと言います。なぜか。これについては以下のように記述しています。

リスクを避けていては、その対戦に勝ったとしてもいい将棋は残すことはできない。次のステップにもならない。それこそ、私にとっては大いなるリスクである。いい結果は生まれない。私は、積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせている。(p.72)

これは本書の第2章で言及されていますが、個人的にはこの本での一番のハイライトでした。

特に、(現在の)リスクを積極的に取ることは未来のリスクを最小化する、という指摘です。これは、リスクを取らないことがリスクであるという考え方に近いです。

もちろん、自分にとって許容できないような大きなリスクを負うことは無謀なことですが、リスクを正しく評価し、その上でリスクを取る、そのために羽生さんは自らに上記引用部分を言い聞かせることで、リスクと正対しているのだと感じました。

決断とリスクについては将棋に限ったことではなく、だからこそ考えさせられる指摘でした。

■「選ぶ」情報と「捨てる」情報

決断することについて、もう一つ印象的だったのはこれです。

私はロジカルに考えて判断を積み上げる力も必要であると思うが、見切りをつけ、捨てることを決断する力も大事だと思っている。(p.169)

捨てるということに対しては、羽生さんは、情報は「選ぶ」より「いかに捨てるか」が重要とも言っています。

個人的な解釈として、「選ぶ」というのは、A と B のうち A を選んだとしても B はそのまま残しておくイメージです。一方で「捨てる」とは A だけ残し、文字通り B は捨ててしまうイメージです。

なぜ捨てるかと言うと、全部を収集し分析していては時間がかかり過ぎるからです。

例えば羽生さんの場合、将棋の局面を想定する場合も、八十通りある指し手の可能性の中から大部分を捨ててしまうそうです。八十手のうち二~三手以外はこれまでの経験から考える必要がないと判断し、候補を絞ると言います。

情報をいくら分類、整理しても、どこが問題かをしっかりとらいないと正しく分析できない。(p.129)

これが羽生さんの情報についての考え方なのです。

■ 物事を簡単に考えること、ベストを尽くせる環境、勉強法、モチベーション

上記では、決断する上でのリスクについての考え方や、時には捨てることの大切さに触れました。これ以外にも、興味深い言及があったので、最後にいくつか引用しておきます。

一般社会で、ごちゃごちゃ考えないということは、固定観念に縛られたり、昔からのやり方やいきさつにとらわれずに、物事を簡単に考えるということだ。(中略) 簡単に、単純に考えるということは、複雑な局面に立ち向かったり、物事を推し進めるときの合い言葉になると思う。そう考えることから可能性が広がるのは、どの世界も同じであろう。(p.24-25)

私は、年齢にかかわらず、常に、その時、その時でベストを尽くせる、そういう環境に身を置いている――それが自分の人生を豊かにする最大のポイントだと思っている。(p.123)

報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。(p.171-172)

これをすれば絶対に強くなるという方法はわからない。将棋は進化している。技術や社会もそうだろう。取り残されないためには油断は禁物だ。今はこれがいいという勉強法でも、時間とともに通じなくなる。変えていかなければならない。私は、年齢とともに勉強法を変えることは、自分を前に進めるための必須条件だと考えている。(p.190)

どの世界においても、大切なのは実力を持続することである。そのためにモチベーションを持ち続けられる。地位や肩書は、その結果としてあとについてくるものだ。逆に考えてしまうと、どこかで行き詰ったり、いつか迷路にはまり込んでしまうのではないだろうか。(p.195)



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。