2010/11/23

欧州最大のLCCライアンエアーに見る戦略ストーリー

今週の日経ビジネス2010.11.22の特集記事はアップルを取り上げています(「アップルの真実 ジョブズの天下はいつまで続くのか?」)。ですが個人的に興味深かったのは、このアップルの次に掲載されていた欧州最大の航空会社であるライアンエアーについての記事でした。タイトルは「『究極の目標は運賃ゼロ』 異端経営で圧倒的安さを実現」。今回のエントリーではライアンエアーの戦略ストーリーについて考えてみます。

■戦略ストーリーの5C

本題に入る前にストーリを見ていく上でのフレームについてです。下記は「ストーリーとしての競争戦略」(楠木建 東洋経済)という本からの引用で、著者が戦略ストーリーの5Cと呼んでいるものです(表1)。以下、5Cのうちの4つ(競争優位、コンセプト、構成要素、クリティカル・コア)で整理しています。



■ライアンエアー

まずはライアンエアーについて簡単に。アイルランドに本社を構える同社は、日経ビジネスの記事によると、航空会社の搭乗者数ランキングでは5位でヨーロッパではトップです(1位サウスウェスト航空、2位アメリカン航空、3位デルタ航空、4位中国南方航空 ※出所:IATA World Air Transport Statistics 54th Edition 2010)。日経ビジネスが各社の通期決算を基準に算出した平均運賃を見ると、ライアンエアーは30ユーロ程度(約3500円)で全日空の170ユーロ前後(約19000円)と比べると低運賃なのがわかります。

記事には、1997年に株式公開を果たし急成長を遂げていると書かれています。実際に売上高は対前年プラスを維持し続けており、最終損益はリーマンショック後の2009年には赤字を計上しているものの、2010年にはV字回復しているようです。

■競争優位とコンセプト

ここで言う競争優位とは、どういった戦略で利益を創出するかで、ライアンエアーの競争優位は徹底的な低コストの実現です。次に顧客にどういった価値を提供するかというコンセプトは低賃金です。これに関してCEOのマイケル・オリーリー氏は次のように言っています。「競合他社を排除するために、運賃とコストを下げ続ける。長期的な目標は運賃ゼロ」。というのも、記事内に出てくるある証券アナリストのコメントからオリーリー氏はこう考えているようだからです。航空ビジネスはもはや価格でしか訴求できないコモディティビジネスであり、故に最安で勝負する。

■差別化を実現する構成要素

まとめると、低コストという優位性を実現することで、最安値を追及し提供するのがライアンエアーのコンセプトです。ではそのためにはどういった取組みをしているのでしょうか。日経ビジネスの記事では複数の事例が紹介されています。

例えば搭乗手続きのチェックインは事前にウェブサイトで行なうことを顧客に義務付け、搭乗券も顧客が自宅などで印刷が必要です。手荷物の預かりを有料としたり、座席指定がなく、機内誌や機内食メニューも必要な客にだけしか配布しません。そして、席にリクライニング機能はなく席の前にあるポケットもない。また、記事では現在検討中のものとして、席自体がない立ち乗りや機内トイレの有料化、副操縦士までもが機内食販売を担当することまで挙げられています。

■顧客を巻き込み低コスト実現

記事にはCEOのオリーリー氏は、上記のオンラインチェックインや手荷物チェックインの有料化などの課金は「乗客の行動を変えるため」と主張しています。事実、手荷物を預ける乗客は過去3年で80%から25%にまで減少したとのこと。

このように、様々な施策をうちだしているライアンエアーですが、個人的に思うのは顧客を巻き込んでの低コストの実現だということです。顧客が事前にオンラインで搭乗手続きを行い搭乗券の発行を済ませてくれば、当日のコストを省けます。そもそも手続きカウンターすら不要になります。座席指定をなくすことで、乗客は座りたい席を確保するため自ら早く搭乗するようになります。また、手荷物預かりが減ったことで、荷物の機内の乗り入れも乗客が自分でします。こういった乗客の行動を促す、つまり顧客を巻き込みながら、平均30ユーロ、時には欧州各都市を片道5ユーロ(約565円)という圧倒的な低価格を実現しているように思います。

ただ、補足事項として、運賃を下げる一方で課金しているところでは課金をしている点があります。具体的にはウェブチェックインは有料で5ポンド(約655円)、搭乗券の印刷を忘れたら再発行に40ポンド(約5240円)、提示する運賃は税抜で別途支払いなど。

■部分非合理&全体最適なクリティカル・コア

書籍「ストーリーとしての競争戦略」ではクリティカル・コアという考え方を提唱しています(図1)。



これはある側面だけを見ると合理的には見えないが、戦略ストーリー全体で見れば合理的だというものです。例としてアマゾンの巨大な在庫・物流センターがあります。オンラインでの販売に特化しているアマゾンが在庫を抱えることはコストもかかりウェブの身軽さを享受できないように一見すると非合理ですが、それだけ豊富な在庫を保有することで商品の充実が図れます。よって全体で見ると合理的なのです。部分的には非合理であるため、競合他社はむしろ模倣を図ることなく、故にアマゾンの競争優位をもたらします。

話をライアンエアーに戻します。個人的に考える同社のクリティカル・コアは「コスト削減にタブーなし」だと考えます。まだ検討中のようですが、立ち乗りや副操縦士による機内食販売は安全性という航空会社の根幹に関わるものです(オリーリー氏は立ち乗りに関して手すりにベルトを用意するなど安全面では妥協はしないと言っていますが)。おそらく一般的な航空会社であれば、具体的な検討すら行われないのではないでしょうか。あるいは、前述のような顧客に手間をかけさせたり機内サービスの省略も、今でこそLCC(格安航空)では普及しているかもしれませんが、従来では考えにくい発想のように思います。

コスト削減においてタブー視しない姿勢について、CEOのオリーリー氏の言葉が印象的でした。以下、日経ビジネスの記事からそのまま引用しています。「誰もが『不可能だ』『安全じゃない』と言うが、大切なのは、すべての可能性を議論できるように問題提起することだ。」

■まとめ

最後に今回の内容をまとめておきます(表2)。こうして見ると、ライアンエアーのストーリーには一貫性があることがわかります。






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多田 翼 (書いた人)