投稿日 2025/07/14

マーケティングの課題の3つの山。Who, What, How を制するプロフェッショナルへの道

#マーケティング #WhoWhatHow #ビジネスキャリア

マーケティングには大きく 「Who (顧客は誰か) 」 、「What (どんな価値を提供するか) 」 、「How (その価値をどう実現するか) 」 という3つの課題の山があります。

これらを順に取り組んでいけばマーケティングの全体像がクリアになり、自社の商品やサービスをしっかりと世の中に届けることができます。

今回は、マーケターが最初に直面する 「Who の山」 から始め、その次にやってくる 「What の山」 、そして最後の 「How の山」 へと順番に見ていきます。

[Who の山] 顧客理解


最初の山である Who では、自分たちの商品やサービスのお客さんは誰かという顧客設定と顧客理解の課題です。

顧客情報を集める

アンケート調査、顧客インタビューや観察調査などで一次情報を集めます。実際に足を運んで消費者やお客さんのもとへ出向き、実在するお客さんのリアルな声や行動を知ることにより、オフィスにいるだけでは見えてこないお客さんの感情や心理を捉えます。

さらに一歩踏み込むならば、憑依できるレベルで相手の行動や心理を深く理解するという手法もあります。

具体的には、自社商品のライトユーザー (初級ユーザー) と、熱狂的にカテゴリー商品や自社商品を使い込んでいるエクストリームユーザーの両方の人たちと同じ状況にそれぞれ身を置き、彼ら・彼女らと同じ行動をトレースするようになぞらえます。

ライトユーザーならではの気づきや、ヘビーユーザーをも超えるエクストリームユーザーだからこそ抱く強いこだわりなど、幅広い視野で多くの視点から顧客情報を得ることが重要です。

インサイトの発掘

顧客情報をいくら集めても、ただ表面的に受け取るだけでは十分ではありません。

Who の課題での次は顧客インサイトの発掘です。顧客インサイトとは 「お客さんを動かす隠れた気持ち」 のことです。普段は消費者やお客さん自身も気づいていない潜在的な心理や欲求ですが、そうだと気づかされれば態度変容や行動変容を起こす心のスイッチボタンが顧客インサイトです。

消費者が何気なく語った一言の背後には、言葉にしづらい感情や他人は決して言いたくない本音が隠れていることがあります。

隠れているというのがポイントで、顧客自身が意識していなかったり、言葉にできていない、人には言いたくない本音であり、お客さんが自ら進んで実はこう思っているとは語ってくれることはありません。

マーケター自身が消費者や顧客から聞いた内容を鵜呑みにするのではなく、相手の表情や仕草、状況を総合的に見ながら解釈していき、掘って掘って掘りまくってようやく発掘できるようなものがインサイトです。もしかしたら、それでもインサイトという鉱脈を掘り当てることはできないかもしれません。

それほど山としては高い頂きなのが顧客インサイトの発掘という課題です。

[What の山] 顧客価値の定義


Who の山である消費者・顧客を深く理解したあとは、What の山に進みます。お客さんに何を提供するかという顧客価値の定義をするという課題です。

顧客価値の定義

顧客理解にもとづいて、自社の商品やサービスはどんな価値を提供できるのかを定義する工程です。

人はなぜそのカテゴリーの商品を求めるのか、何が欲求や動機になっているのか、欲求を突き動かす根源的な本能は何かまでを考え、自社がそうした人間心理にどのように応えられるかを明確にします。

どうすればお客さんの心の奥にある本音にしっかりと届き、何が本質的に価値だと思ってもらえるかを徹底的に考え抜けるかが、What の山でのテーマです。

コンセプトの明確化

インサイトをもとに価値を定義するとき、あわせて行いたいのがコンセプトの明確化です。

ここで言うコンセプトとは、注力顧客に自社商品や会社そのものに対して、どう見てもらいたいかという 「商品の価値や存在意義の一言の言語化」 です。

たとえば、この商品を使うと、疲れた心や体が癒やされるというイメージをお客さんや消費者の頭の中に根付かせたいと考えるなら、そのイメージを具体的にコンセプトとしてわかりやすく言語化し、マーケティング活動に落とし込みます。

ブランドや商品のコンセプトが曖昧だと、訴求すべき価値やメッセージがブレてしまいます。一方でコンセプトが明確で、お客さんのインサイトにズバリ刺さる訴求を行えば、商品やサービスに対するイメージが統一され、強いブランドとなるのです。

[How の山] 価値の提案と実現


Who と What を受けて、いよいよ価値を世の中にもたらすフェーズに入ります。顧客価値の提案と実現をするという課題です。

ここでの How の山は大きく2つあります。

マーケティング活動のコンセプト策定

How では、What で定義した顧客価値や価値イメージ (コンセプト) を、実際にお客さんの頭の中で形作っていくためのアクションの課題です。

消費者やお客さんに持ってもらいたい存在意義や価値へのイメージ (コンセプト) を、マーケティングによってどのように実行していくかという 「マーケティングコンセプト」 です。前者のコンセプトはお客さんの頭の中につくりたいイメージの一言、後者のマーケティングコンセプトはそれを実現する方針の一言になります。

価値訴求と価値実現

マーケティング活動のコンセプトが固まったら、次は実際に価値を訴求し、その価値が本当に実現できることを伝えていきます。

どのようなメッセージで価値を訴求するか、どのチャネル (広告, SNS, PR, お店, イベントなど) を使うか、価値に見合った価格設計やプロモーションなどのマーケティング 4P の要素から、お客さんの頭の中に狙い通りの価値イメージを形成することを目指します。

ブランドコンセプトによって、商品の本質的な顧客価値をどれだけうまく語れるかがカギを握ります。

お客さんへの具体的な便益 (ベネフィット) を提示し、なぜその便益が得られるのか (RTB: Reason to Believe (信じられる理由) ) も示すことも大切です。説得力のある理由づけがないと、その訴求は絵空事に見え、消費者やお客さんは共感や納得はしないでしょう。

価値訴求が成功してブランドコンセプトがお客さんの頭の中に定着し、ほしいという気持ちを生むと同時に、消費者から買いやすい環境を整えるということが大事です。店頭に在庫が十分にある状態や、オンライン上でスムーズにアクセスし購入できる導線づくりです。

せっかく興味を持ってくれたのに、お客さんにとって手に入らない買いづらいという状態であれば、他社の商品に流れてしまうかもしれません。

ここまでを含めて How の山を乗り越えるための取り組みです。

足を動かし続ければ目的地に着く


最後に少し精神論的な話を。

現場で足を動かす

マーケティング活動における足を動かすとは、顧客インタビューや観察調査などで現場に出向き、実際の生の声を拾うことを意味します。

机上のデータ分析やデスクリサーチ、二次情報だけでは、本質的なインサイトを得るのは難しいでしょう。お客さんの暮らしぶりや環境、取っている行動を自分の目で見て、直接対話をし、ときには自分も同じように身銭を切ってやってみることでしか得られないリアリティこそが、後々の洞察やマーケティングアイデアの源泉になります。

脳の中で足を動かす

もうひとつ大切なのが、脳の中で足を動かすことです。頭の中で汗をかくような思考プロセスを続けるという意味です。

例えば、インタビューで得た顧客情報をさまざまな角度から考え直し、お客さんの本音はどこにあるのか、どんな景色や世界観から見ているのか。一方でもし自分ならどう感じるか。結局のところ消費者は何を本能的に求めているのか。頭の中で歩き回り、脳に汗をかき、思考を続けます。

うまくいかないこともありますが、こうした泥臭い工程を積み重ねるほど顧客理解や人間理解は深まり、奥にあるインサイトにたどり着けるはずです。

泥臭く地道なプロセスを惜しまず、問い続けることがインサイトをつかむためには大事です。

安易に結論を急いでしまったり、かっこよくきれいにやろうとする、ありもしないショートカットを探そうとするほど、消費者や顧客が本当に求めている価値を見誤ったり、表面的なインサイトとは似て非なる "インサイト" を得るだけに終わってしまうでしょう。

そして 「次の山」 を目指す

マーケターとしてのキャリアは、登山のようなものです。

最初の山である Who を登頂すると、その先には次の山である What がそびえ立ちます。What の山を制覇したとしても、さらに How があることがわかり、頂上を目指して登っていくうちに、また新たな課題が見えてきます。

その一つひとつの山を越えたときに得られる達成感や成長実感、消費者やお客さんの本当の姿を知ったときの感動は、マーケティングを続ける大きなモチベーションになります。

山を登るのは決して楽ではありませんが、高みに立つほどより広い視界が開け、新しい景色を楽しめるようになります。ワクワクしながら次の山を目指し、足を動かし続けることでマーケターとしての視点や実力が広がっていくのです。

誰よりもお客さんのことを理解し、価値をもたらす商品やサービスを世の中に届け、お客さんを幸せにする――。このやりがいこそが、一流のマーケターへの道を切り拓いてくれます。

まとめ


今回は、マーケティングの課題についてを取り上げ、考察をしました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングには 「Who (顧客理解) 」 「What (顧客価値) 」 「How (価値実現) 」 の3つの山があり、それぞれ順番に乗り越えることが重要

  • Who の山では、顧客情報を集め、インサイト (お客さんの隠れた気持ち・本音) を発掘することが課題

  • What の山では、顧客理解にもとづき、自社商品の価値を定義し、ブランドコンセプトを明確にする

  • How の山では、マーケティング活動の方針を策定し、適切な手法で価値を訴求し、消費者に届く仕組みをつくる。お客さんから選ばれる状況を整える

  • 成功のカギは現場で足を動かし、脳の中でも足を動かし続けること。各山を一つずつ登り、次の山を目指し続けることにより、マーケターとしてのキャリアがつくられていく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。