投稿日 2024/03/21

日清の常勝 CM 制作の舞台裏。社長と挑む創発活動 SECI モデル

#マーケティング #創発 #SECIモデル

組織での創造力はどのように形成されるのでしょうか?

今回は、日清食品の CM 制作の裏側に隠された組織で知識がどのように生み出され、活用されるかの方法を紐解きます。

創発モデルを活用したこのプロセスには、どんなマーケティングへの学びがあるのでしょうか?ぜひ一緒に見ていきましょう。

日清のユニークな CM 制作の舞台裏


日清食品のカップヌードル CM がパンチが効いています。

斬新な CM


たとえばこちらです。


 「夏暑すぎて終わったわ カプヌうまいのに売れてない…」 。ボーカロイドの声が淡々と歌うのは、2023年7月に放映が始まったカップヌードルの CM 「夏は食っとけシーフード篇」 です。中毒性のあるリズムとシュールな展開が特徴の CM です。

セーラー服の女子学生とイカが大汗をかいてリズミカルに砂浜を歩くのがなんともコミカルです。脈絡なく女の子がイカをチョップで両断し、暑さでイカが燃え尽きるという、よく考えるとすごい展開になります。

日清は CM 好感度ランキングにおいて食品分野で、なんと3年近く連続1位を達成しているんです。

CM 制作を一手に担っているのが25人のチームからなる宣伝部です。

日清の CM 常勝部隊の中には独自の仕組みがありました。

出典: 日経

部員の全員がネタ探しに貪欲


日清の宣伝部では、25人のチーム全員が四六時中、SNS や動画サイトなどで何がバズっているかをチェックしているとのことです。

この貪欲なネタ探しは、部員1人ひとりが 「おもしろいもの」 を常に探求し続ける組織文化から生まれています。

流行りのネタや話題をいち早くキャッチし、CM のアイデアに取り入れることで、時代の先端を行くような広告を生み出します。消費者の関心を引く斬新な CM をつくり、特に若年層に影響を与えることに貢献しています。

社長が毎週参加する 「御前会議」 


日清が CM を企画をする中でユニークな仕組みが 「御前会議」 です。

宣伝部が社長と共に毎週開催する定例ミーティングです。御前会議では、宣伝部員が新しい CM のアイデアや企画案を社長に直接提案し、激論を交わします。

御前会議の特徴は、会議の様子を他部署の人でも誰でもリアルタイムでオンライン視聴できる点にあります。

この開放性が、社内でのクリエイティビティの促進につながっています。また、社長が率先して時にはぶっ飛んだことを発言することで、御前会議であるにもかかわらず心理的安全性という立場をよらず自由闊達な意見を言える雰囲気になっています。

社長が広告宣伝の会議に毎週参加し、率直なフィードバックや視点を投げかけることで、より革新的なアイデアが生まれます。御前会議は、日清の CM が長く高い評価を受ける重要な要因となっており、社内の挑戦文化を象徴する存在なのです。


創発の仕組み化


日清の CM 制作のアプローチは、SECI モデルを当てはめると、その本質が見えてきます。

SECI モデルとは



SECI モデルは、組織内での知識創造プロセスを説明するフレームワークです。4つの段階があります。

  • 共同化 (Socialization) 
  • 表出化 (Externalization) 
  • 結合化 (Combination) 
  • 内面化 (Internalization) 

共同化 Socialization


最初の 「共同化」 は、個人の暗黙知を共有する過程です。

日清の場合、宣伝部員が常に SNSや動画サイトをチェックすることで、社会のトレンドや流行を察知し共有するプロセスがこれに該当します。各メンバーは社外の情報を吸収し、部内で共有することで社内の知識になるよう還元します。

表出化 Externalization


次に 「表出化」 は、暗黙知を形式知に変換するステップです。

日清の 「御前会議」 での活動がこれにあたります。部員は自分のアイデアや意見を言葉やコンセプトとして表現し、他のメンバーと共有します。このプロセスでは、若手社員からの自由な意見や新鮮な発想が重視され、多様なアイデアが生まれます。

結合化 Combination


そして 「結合化」 は、形式知を組み合わせ、新しい知識を創造します。

日清では、宣伝部だけでなく社長も会議に参加し、異なる視点や発想を組み合わせています。様々なアイデアが相互に作用することで化学反応を起こし、新しい CM のアイデアが生まれます。社長の直接的な関与は、現場のメンバーにはない視点や着想を統合するための重要な役割を果たします。

内面化 Internalization


最後に 「内面化」 では、新たに創造された知識を個々人の暗黙知として吸収します。

日清のメンバーは、成功した CM プロジェクトや会議の経験を通じて学んだことを個人のスキルや知見として取り込み、次のプロジェクトに活かせます。これにより、部全体の能力が向上し、次々とヒット作を生み出す土壌が育まれるのです。

広告代理店に頼らない 「自前主義」 の効用


日清の広告制作では、広告代理店に依存せず、宣伝部が自らアイデアを生み出し、CM 制作の全過程を担っています。

自前主義により、その分だけ時間と労力はかかりますが、宣伝部は独自の創造性と柔軟性を持って広告を展開できます。部員自身がアイデアを生み出し、それを実現させることでユニークでオリジナルな広告が生まれ、ブランドの個性と魅力を際立たせることに成功しているわけです。

宣伝部の全員が外の世界の SNS のトレンドや流行りに目を向けているので、市場の変化を把握することができます。対応するときは素早くアクションを取ることで、時代のトレンドを反映した広告になります。

結果として、継続的に注目を集める CM をつくれ、売上の増加やブランド力の向上への原動力となっているのです。


まとめ


今回は、日清食品の CM 制作の舞台裏から学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 日清の CM 制作には SECI モデルにもとづく組織的な創発活動がある

  • 宣伝部員が常に SNS や動画サイトをチェックし、社会のトレンドを共有する 「共同化 (Socialization) 」 。社長も出席する御前会議で部員が自由にアイデアを提案 ( 「表出化 (Externalization) 」 ) 、多様な視点を組み合わせる 「結合化 (Combination) 」 からアイデアを生む

  • CM 制作過程を通して得られた新しい経験や知識は個々のメンバーに 「内面化 (Internalization) 」 され、部全体の能力向上に貢献し、継続的なヒット CM をつくりだしている


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。