#マーケティング #カテゴリーエントリーポイント #ブランドエントリーポイント
自社の商品やサービスは、消費者やお客さんにとって 「思い出してもらえる存在」 になっているでしょうか?
どんなに優れた商品でも、お客さんの必要な瞬間に頭に浮かんでもらえなければ、選ばれることはありません。そこで大事になるのが、お客さんが 「必要になるシチュエーション」 において、選ばれる瞬間までの導線設計です。
今回は、みずほとセガが共同開発した子ども向け金融教育アプリの 「PochettePlus (ポシェットプラス) 」 の事例をご紹介します。お客さんに選ばれる 「エントリーポイント設計」 の秘訣を紐解きます。
PochettePlus
子どもが夢中になりながら 「お金の使い方」 や 「経済の仕組み」 を学ぶ──。そんなアプリが登場しました。
みずほフィナンシャルグループの新会社 「みずほポシェット」 と 「セガ エックスディー」 が共同開発した 「PochettePlus (ポシェットプラス) 」です。
子どもは家庭でのお手伝いをやって報酬を受け取り、報酬がアプリ内のゲーム資金になります。報酬となるアプリ内通貨 「ジュエル」 がゲームを進める上で必要で、「働くこと」 と 「報酬を得ること」 、「ビジネスを拡大すること」 の関係性を自然に学べるように設計されています。
ゲームの中では商品の仕入れや販売、為替の変動を経験できます。アプリを使いながら自然とビジネス、資産運用や市場経済の概念を身につけられます。
ここ最近は物価の高騰、新 NISA の導入、投資や金融関連の詐欺・トラブルなどから、子どものうちに正しい金融リテラシーを育むことのニーズが高まっています。とはいえ、家庭の中でどう教えたらいいのか悩む保護者も多いのが実情です。そんなニーズに応えるのが、PochettePlus というアプリなのです。
では、PochettePlus の事例から学べることを掘り下げていきましょう。注目したいのは 「エントリーポイント設計」 です。
エントリーポイント
お客さんに自社の商品やサービスを選んでもらうためには、まず 「知ってもらい思い出してもらうきっかけ」 と 「選んでもらう理由」 をつくることが重要です。
そこでカギを握るのが 「エントリーポイント」 という概念です。エントリーポイントには大きく2つがあります。
カテゴリーエントリーポイント (CEP)
1つ目の 「カテゴリーエントリーポイント」 とは、消費者 (や企業) が特定の商品カテゴリーや商品ジャンルについて、何かのきっかけで 「必要かも」 「ほしい」 と思う特定の瞬間や状況を指します。エントリーという文字通り、そのカテゴリーへの "入口" が開く瞬間です。
例えば、「喉が渇いたとき」 「スポーツで汗をかいたとき」 「風邪をひいたとき」 となった状況が、飲料カテゴリーにおける CEP の例です。
売り手である企業は、自社の商品が属するカテゴリーにおいて、どのような CEP が存在するのかを理解し、時には新たにつくり出すことを狙います。注力顧客の CEP を的確に捉え、入口が現れた瞬間に合わせた効果的なコミュニケーションを行うことにより、消費者や顧客の意識にカテゴリーへの "フック" をかけることができます。
ブランドエントリーポイント (BEP)
カテゴリーエントリーポイントは自社商品やサービスが選ばれるための最初の入口ですが、見込み顧客がカテゴリーを想起するだけで、自動的に自社商品が選ばれるわけではありません。
CEP の次にもうひとつの入口として登場するのが、「ブランドエントリーポイント (BEP) 」 です。
ブランドエントリーポイントとは、カテゴリーを思い浮かべたあとに 「どの商品やブランドを買うか?」 と具体的に検討が始まり、ブランドを選ぶ瞬間のことです。消費者や企業はカテゴリーエントリーポイントに入った後に、自分が知っているブランドの中から数社 (数商品) を候補に入れ、最終的にどれかひとつを購入するわけです。
マーケティングには 「想起集合 (Evoked Set) 」 という概念があります。想起集合とは、特定のカテゴリーについて何かを思い立った時に、比較検討の候補として自然に頭に浮かぶ、好意的なブランドのリスト (選ぶ選択肢の候補) を指します。
多くのカテゴリーにおいて、この想起集合に含まれるブランド数は、多くてもせいぜい2つから3つ程度と言われます。つまり、CEP というカテゴリーへの入口をくぐった後に、次にブランドレベルで思い浮かべてもらう段階で自社ブランドが 2, 3 個程度の想起集合に入れなければ、その後のブランド間の比較検討の土俵にすら上がれないのです。
CEP と BEP の関係
CEP と BEP (ブランド想起) は、密接に関連しています。
- CEP: 見込み顧客があるカテゴリーを思い出す 「状況」 や 「瞬間」 。ブランド想起の 「機会」 を生み出す
- BEP: その CEP において、特定のブランド名を真っ先に、あるいは上位に思い出してもらう
CEP と BEP の2つは、CEP は 「ブランドを思い出してもらうための舞台設定」 であり、BEP はその舞台で 「いかに自社ブランドを目立たせるか (ブランドを思い出してもらうか) 」 という関係になります。
PochettePlus に学ぶエントリー設計
では、PochettePlus がいかに CEP と BEP を組み立てているのか、ポイントを見ていきましょう。
PochettePlus がつくった CEP
PochettePlus は、金融教育への関心が高い層だけでなく、より幅広い層にアプローチするために CEP を捉えています。
- 金融教育、何から始めればいい? (保護者の課題起点)
- お手伝いやお小遣いをどうしよう? (家庭の日常起点)
- ゲームで遊びたい (子どもの欲求起点)
- 親子で一緒に楽しみたい・学びたい (親子のコミュニケーション起点)
これまでもあった 「金融教育セミナー」 「学校の授業」 といった学びの場は、子どもと親が積極的に参加できる機会が限られていたのが現状です。
一方で PochettePlus は 「家庭でのお小遣いのルールを決める」 、「子どもがゲームをする」 などの日常のあるあるの瞬間を新たな 「金融学習への入口 (カテゴリーエントリーポイント) 」 と認識し、自社サービスへの機会としたのです。
BEP (ブランド想起) への接続
では、こうした CEP のタイミングにおいて、PochettePlus はどのようにして想起集合に入り、BEP をつくることで選ばれる存在になろうとしているのでしょうか?
[独自性 1] 圧倒的なおもしろさ (セガの強み)
金融教育系のアプリやゲームは他にも存在しますが、セガが開発に関わることによる本格的なゲームデザインや没入感は差異化要素です。
金融教育というカテゴリーの中で、一番おもしろそうなのは PochettePlus というイメージを狙うことで、ブランド想起の優位性を築こうとしています。
[独自性 2] リアルとの連動による実践的な学び
お手伝いと PochettePlus の報酬のシステムは、知識のインプットにとどまらず、「働く → 報酬を得る → 投資する (ゲーム内) → 成果を出す」 という経済活動のサイクルをリアルに体感させる仕組みです。
実践的な学びは、他の机上の学習やシンプルなゲームアプリにはない独自性です。
[独自性 3] 「みずほ × セガ」 という信頼性と新規性
大手金融機関である 「みずほ」 が監修することによる教育内容への信頼感と、大手ゲーム会社 「セガ」 が提供するエンタメ性が組み合わさり、真面目に学べてゲームが楽しいという他にはないユニークなポジションを確立できます。異色の組み合わせ自体が、ブランドの想起を高めるフックとなりえます。
CEP と BEP の連携による 「選ばれる理由」 の構築
PochettePlus から学べるは、狙う多様な CEP から、自社の強みを活かした BEP (ブランド想起) へとスムーズに顧客を導いている点です。
例えば、
- 子どもがゲームばかりしている… (CEP)
- どうせなら学びにつながるゲームをさせたい (ニーズ)
- PochettePlus なら金融のことも学べるから、これならいいかも (BEP)
という流れです。他には、
- お小遣いの渡し方、今のやり方でいいのだろうか? (CEP)
- お手伝いでお小遣いをただ上げるだけではなく、お金の大切さを教えたい (ニーズ)
- PochettePlus はお手伝いとアプリ内通貨が連動して、金融教育もできる (BEP)
という選ばれ方も考えられます。
このように、PochettePlus は様々な入口 (CEP) を用意し、それぞれの入口から入ってきた見込み顧客に対して、自社ならではの魅力 (顧客価値の独自性) を効果的に伝えることによって、金融教育なら PochettePlus となり選ばれる理由を明確に示しているのです (BEP) 。
マーケティングの役割は、「お客さんからの選ばれる理由をつくること」 です。
まとめ
今回は、親子で金融経済を学べるアプリ 「PochettePlus」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- カテゴリーエントリーポイント (CEP) はカテゴリーを思い出す瞬間。消費者やお客さんが特定ジャンルを必要だと感じる状況やきっかけを指す
- ブランドエントリーポイント (BEP) はブランドを選ぶ瞬間。カテゴリー想起後、候補に入るブランドは2 ~ 3社程度。その想起集合にいかに自社が入り込めるかが勝負を決める
- CEP と BEP の関係は CEP が舞台設定、BEP が主役として指名されること。CEP で顧客の関心がカテゴリーに向き、BEP で 「◯◯ ならこのブランド」 と真っ先に思い出してもらう
- お客さんから選ばれるためには多様な CEP を捉え、自社ならではの強みや価値による BEP で想起集合に入ることを目指す
- マーケティングでは、お客さんの2つのエントリーポイントを理解し、お客さんが自社商品を選びたくなるような 「きっかけ」 と 「理由」 を設計する
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