#マーケティング #SNS #KGIとKPIとKAI
SNS でフォロワー数は増えたものの、売上への貢献が見えない。バズった投稿があっても一過性で終わってしまう。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。
しかし、ご紹介する食品メーカーのヒガシマル醤油は違いました。ひとつのバズった投稿をきっかけに運用方針を根本から見直し、SNS を流通企業との商談材料として活用する戦略的なマーケティングを確立しました。
今回は、KGI, KPI, KAI (Key Action Indicator (重要行動指標) ) を連動させるマネジメントについて考えます。
ヒガシマル醤油の SNS マーケティング
食品メーカーのヒガシマル醤油が、X を活用した SNS マーケティングに力を入れています。
ヒガシマル醤油の X アカウントからは、主力商品である 「うどんスープ」 などを使ったアレンジレシピの投稿が中心です。
当初はフォロワー数を増やすことを意識していましたが、ある投稿がきっかけに変わりました。
ひとつの投稿が大きな反響に
アカウントを始めて約1ヶ月後の投稿は、うどんスープを豆乳に溶かし、そうめんにかけるというアレンジレシピを提案した内容でした。
これが大きな反響を呼びました。2025年4月時点で、いいねの数は1万3000件、リポストは5500件、インプレッションは74万8000件に達しました。
この投稿をきっかけに、ネットメディアから、該当の投稿を転載した記事を書けないかという依頼が殺到したとのことです (参考情報) 。実際に記事が出ると、取引先がその記事について話していたという報告を営業部門から受けました。
SNS 運用の担当チームはこのとき、情報が X で拡散され、さらに他の媒体に広がる影響の大きさを実感しました。
そこで、当初は X の役割をお客さんとのコミュニケーションだと定義していたものを、お客さんを通じた広範囲への情報の拡散を目指すことに重きを置くようになりました。
SNS 運用方針の転換
ヒガシマル醤油は SNS の運用方針を転換し、フォロワー数という 「量」 よりも、投稿がどれだけ広く、深く届いたかを示す 「質」 と 「拡散力」 の重視に切り替えました。具体的には 「メディアへの転載数」 や 「インプレッション数」 などの指標です。
背景には、SNS プラットフォームのアルゴリズムの変化や、生活者の情報接触態度の成熟があります。もはやフォロワー数だけでは、投稿が広く届きにくくなっているわけです。
ヒガシマル醤油は、こうした環境変化を捉え、UGC (ユーザー生成コンテンツ) の分析や社内連携を通じて、生活者の心をつかむコンテンツの提供を目指しています。
では、ヒガシマル醤油の SNS 運用事例から学べることを掘り下げていきましょう。
戦略から KPI 、実行への全体の連動をいかに適切に行うかに示唆があります。
そこでここからは、「目的と KGI」 、「戦略から KPI」 、「勝ち筋と KAI」 の3つの視点で掘り下げます。
目的と KGI
SNS 運用は、ただバズを狙うだけが目的ではありません。ヒガシマル醤油も、しっかりとビジネスに直結するゴール設定を行っています。
SNS 運用の目的
ヒガシマル醤油が SNS (特に X) を運用する目的は情報発信にとどまりません。次の3つが重要な柱です。
- 流通企業との商談を有利に進め、「棚取り」 と 「取扱 SKU の拡大」 を実現する
- 生活者の自発的な発信 (UGC) を増幅し、ヒガシマル醤油ブランド全体への好意と想起を高める
- 公式サイトやテレビ CM と補完し合い、年間を通じた安定的な売上成長の下支えをつくる
既に SNS 上に存在していたヒガシマル醤油に関連する UGC をうまく活かし、さらに流通企業への交渉材料を増やしていく姿勢を見て取れます。
ファンとのつながりをつくることを超えて、ヒガシマル醤油は SNS 運用の目的をより高い視座でビジネスそのものを拡大しようとしています。
KGI (最終ゴールを測る指標)
これらの目的の達成度を測る KGI (Key Goal Indicator (重要目標達成指標) ) として、ヒガシマル醤油は、以下のような具体的な流通現場での成果を置いていると考えられます。
- 流通企業での棚取り率 (例: 前年比 +20%)
- 主要チェーンでのフェース数と SKU 数 (例: 前年同月比 +20%)
主要な販売チャネルにおいて、自社商品がより多くの棚スペースを獲得すること、店舗で目につきやすい場所 (フェース) を確保し、取り扱われる商品アイテム数 (SKU) を増やすこと。この2つで、生活者との接触機会を最大化します。
ヒガシマル醤油は SNS で注目度を高めるだけでなく、「棚を確保する・SKU を増やす」 という商談面での目的を達成したいわけです。
戦略から KPI
目的と KGI が定まれば、次はその達成に向けた具体的な 「戦略」 と、戦略の進捗を測る 「KPI (Key Performance Indicator (重要業績評価指標) ) 」 を設定します。
戦略 (SNS 運用コンセプト)
ヒガシマル醤油の SNS 運用は、「再現型レシピ拡散・ストーリー発信」 と言えるでしょう。
SNS 発信のコンテンツへの要素として、「意外性」 「再現性」 「共感性」 「高品質写真」 という4つを重視し、週2回のペースで商品アレンジレシピや裏話を投稿します。
UGC のモニタリングを欠かさず行い、季節イベントや在庫・販促計画に合わせてコンテンツを企画します。UGC で見つけた意外性のある情報を広めつつ、テレビ CM など他の施策との連携も狙うことで、ビジネスサイクルに組み込まれていくわけです。
KPI (KGI 要素分解の結果指標)
戦略を実行し、上位指標である KGI を達成するために、ヒガシマル醤油では次のような KPI を設定しているはずです。これらは、SNS 活動の結果として現れる指標です。
- 月次メディア転載数
- 投稿へのインプレッション数
- 高反応の投稿比率 (例: 60% 以上が10万インプ超)
- 月次 UGC 生成数
- 流通商談資料への SNS 事例引用数
これらの KPI は、KGI である 「流通企業での棚取り率向上」 や 「フェース数・ SKU 数拡大」 につながる先行指標として機能します。
勝ち筋と KAI
KPI を達成するためには、その裏付けとなる 「勝ち筋 (KSF (主要成功要因) 」 を特定し、日々の具体的な行動である 「KAI (Key Action Indicator (重要行動指標) ) 」 に落とし込むことが重要です。
勝ち筋
ヒガシマル醤油の SNS 運用における勝ち筋 (KSF) は、コンテンツの質を高め、効果的に注力顧客に届けるための多岐にわたる工夫にあります。
■ 意外性のあるコンテンツ創出
社内では当たり前と思われていることでも、消費者にとっては新鮮な驚きとなることがあります。例えば、「うどんスープが冷たい豆乳にも溶ける」 という事実は、社員にとっては既に知っていても、多くの消費者には意外性のある発見でした。
また、「粉末のうどんスープには、かつお節と昆布が原料のまま入っている」 といった、商品の裏側を伝えることも消費者からの興味を引きました。ヒガシマル醤油は UGC を観察することで、こうした 「社内常識と世間のギャップ」 を発見し、コンテンツ化しています。
■ 再現性の高いコンテンツ提供
消費者が 「自分でも作れそう」 「試してみたい」 と感じる手軽さがポイントです。うどんスープを振りかけるだけで完成する味玉のレシピなどは、この再現性の高さを体現しています。
■ 共感性を呼ぶコンテンツ設計
消費者の気持ちに寄り添うことが共感を生みます。
例えば、味玉のレシピで 「漬け込み液を無駄にしない」 という点は、もったいないと感じる消費者心理に配慮したものです。また、季節の行事や旬の食材を取り入れることにより、消費者の日常に寄り添った情報発信ができます。
■ 魅力的なビジュアル表現
SNS では、視覚的な魅力がコンテンツの成否を左右します。完成した料理が美味しそうに見えることはもちろん、調理工程が分かりやすい写真を複数枚組み合わせることによって、消費者の理解と興味を深められます。
■ UGC の積極的な傾聴と活用
X に 「ヒガシマル」 「うどんスープ」 といったキーワードで X ユーザーの投稿を日々検索し、消費者が実際に商品をどのように使い、何を感じているのかを把握します。
新しいレシピのヒントを得たり、意外な商品の魅力に気づかされたりすることも少なくないでしょう。UGC は、コンテンツのアイデアのヒントが得られると同時に、消費者理解の源泉でもあります。
■ 戦略的な社内連携
SNS 運用は、ひとつの部署で完結するものではありません。
ヒガシマル醤油では、顧客接点が多い営業連絡部が X 運用を担当しています。消費者やお客さんに寄り添った情報発信につながります。
新しいレシピを開発する際には、2ヶ月前からレシピ担当部署や商品担当者とコンセプトを共有するなど、部門横断での連携が図られています。営業部門とは、X での反響を流通企業への交渉材料や売場提案に活かすために密に連携しています。
これらがヒガシマル醤油の戦略を実行し成果が出すための KSF と考えられ、KSF という勝ち筋を追求することが、KPI 達成への道を拓きます。
KAI (Key Action Indicator)
KSF を実現し、KPI を達成するためには、日々の具体的な行動を数値で管理することが大切です。
行動を評価する指標が 「KAI (Key Action Indicator) 」 という重要行動指標です。ヒガシマル醤油では、以下のような KAI です。
- 新レシピ・投稿アイデアの企画提案数
- コンテンツ投稿数
- コメント返答や引用リポストへの返信スピード
- UGC 検索実施回数
- 社内連携会議 / 情報共有の回数・頻度
これらの KAI を日々追いかけることで、勝ち筋が確実に実行され、結果として KPI 、そして KGI の達成へとつながっていくのです。
指標の流れとして、「KAI (行動) → KPI (結果) → KGI (目的達成) 」 となります。このように追いかけるべき指標を明確にし、戦略に従って勝ち筋を徹底・追求して実行をすることで、目的の達成に行き着きます。
まとめ
今回は、ヒガシマル醤油の SNS 運用事例を取り上げ、KPI 設定への示唆を見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 目的と KGI 設定: KGI は売上や取扱店舗数など最終的な事業目標を数値化して設定する。例えば SNS 運用の目的は認知向上にとどまらず、流通での棚取り拡大や売上成長など具体的なビジネス成果に直結させる
- 戦略の明確化: 自社の強みと顧客ニーズを踏まえた戦略を策定する
- KPI による成果測定: KGI 達成につながる追うべき指標 を KPI とする。戦略の実行度合いを測る中間指標として定期的にモニタリングする
- 勝ち筋 (KSF) の特定: 自社ビジネスの成功に不可欠な要因を具体的に特定し、勝ち筋を強化する
- KAI による行動管理: 日々の具体的な行動 (例: 企画提案数, SNS 投稿数, 返信スピード、情報収集回数など) を Key Action Indicator として管理する。「行動 → 結果 → 目的達成」 の流れを確実に実行する
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