投稿日 2024/06/04

ブランディングを科学する。独自ブランド資産の構築、ブランド連想、評価方法

#マーケティング #ブランド #本

自社のブランドが人々の心に残るための要因には、何があるでしょうか?

ブランド名、ロゴ、パッケージデザインなどの 「独自ブランド資産」 をいかに構築し、お客さんの記憶に残るブランドにいかに成長させるかは、多くのマーケターにとって頭を悩ます課題でしょう。

今回は、書籍 「ブランディングの科学 - 独自のブランド資産構築篇 (ジェニー・ロマニウク, 前平謙二, 加藤巧) 」 から、ブランドをどうやってつくるかの秘訣を紐解きます。


ぜひ一緒に、ブランディングの科学について学んでいきましょう。

本書の概要



ブランディングが最終的に目指す 「独自のブランド資産 (Distinctive Brand Asset) の構築」 を解き明かす本です。

独自ブランド資産とは何か、つくり上げる方法について、調査に裏付けされた根拠と著者の考察をもとに解説する1冊です。

新しく就任したブランドマネージャーやマーケティングマネージャーは、特にそのブランドの売上状況が停滞している場合は、前任者の方針を何から何まで変えたがる傾向にあります。

それにより、これまで一貫して継続的につくってきた 「独自ブランド資産」 に影響を与えてしまっているというのが、著者の問題意識です。


独自ブランド資産 (Distinctive Brand Asset) 


この本の最重要キーワードは 「独自ブランド資産」 です。

独自ブランド資産 (DBA) とは


独自のブランド資産とは、ブランドが他のブランドと区別され容易に識別されるための独自の特性のことです。

具体的には、ブランド資産には、ブランド名、ロゴ、スローガン、パッケージデザイン、色、音、キャラクターなどです。ブランドを連想したり特定するために生活者が関連付けるさまざまな要素を含みます。

ブランドが強力な独自資産を持っているということは、他社がそのブランド資産をマネしても、人は他社ブランドではなく自社ブランドのことを想起します。自分たちの独自ブランド資産がますます優位になるという構図です。

独自のブランド資産が機能するケースでは、次のような特徴が見られます。

  • オーナーシップ: 独自ブランド資産がこのブランドのものであると認識される
  • アンカー: 独自資産によりブランドと関連した連想を思い出す
  • ブリッジ: 別々のマーケティング活動が同じブランドのものであると結びつけられる

スターバックスの独自ブランド資産


独自ブランド資産の理解を深めるために、スターバックスの独自ブランド資産を考えてみましょう。

以下の要素が挙げられます。

  • ロゴ: スターバックスのロゴは、緑色の背景に白い海の女神のイラストが特徴的。ロゴは人々に広く認識されており、スターバックスの店舗や商品を瞬時に識別させる

  • カラー: スターバックスの特徴的な緑色は、他のコーヒーショップや飲食店との視覚的な違いを生み出している

  • ブランド名: 「Starbucks」 という名前自体が強力なブランド資産。コーヒーショップとしての高品質なイメージや、快適な空間を提供するカフェ店としての印象を持たせる

  • 店内の雰囲気: スターバックスの店舗は、一貫した内装デザインや快適な座席配置がされている。独特の雰囲気が、リラックスできるコーヒー体験と結びついている

  • 店舗スタッフ: スターバックスの店舗スタッフの接客時の振る舞い、親切でホスピタリティがあり親近感のある対応により、スターバックスにしかない顧客体験をもたらす

  • 商品パッケージ: 独特のカップデザインや商品のパッケージは、スターバックスを識別する要素


独自ブランド資産ができるメカニズム


では独自ブランド資産はどうつくられるのか、別の表現をすれば、どのように人々の頭の中で形づくられるのでしょうか?

ここでのキーワードは 「ブランド連想」 です。

ブランド連想


人の記憶ネットワークの中にブランドにひもづく認識、印象、解釈、体験したことの連想イメージが強化されていくことで、独自ブランド資産は人の頭の中でできあがっていきます。

独自ブランド資産に一貫性があればブランド連想は強化され、お客さんはブランドを容易に思い出すことができます。

ブランド連想には二方向があります。

  • 文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド) 
  • ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈) 

前者はそのシチュエーションという特定の顧客文脈でブランドが想起されることです。シチュエーションがあり、ブランドが連想され、欲しいと思うという流れです。

もう1つの連想のされ方は、ブランドのロゴや広告を見たときに利用シーンやシチュエーションなどの文脈が思い出されることです。ブランドを見たり聞くことによって、シチュエーションが思い浮かび、そのシーンになりたいという気持ちになります。

スタバのブランド連想


ブランド連想のイメージを深めるために、ここでもスターバックスを例に当てはめてみましょう。

文脈からブランドへの連想 (文脈 → ブランド) では、たとえば、コーヒーを飲みたいと思ったり、快適な場所でリラックスしたい、あるいは会社からの外出中に集中して仕事をしたいと思った時に、自然とスターバックスが思い浮かぶというものです。

文脈からスターバックスを思いつき、スタバのロゴや緑色のイメージ、店舗の雰囲気、過去に経験したスタバでの体験が次々に記憶から呼び起こされていきます。

もう1つのブランド連想の方向性は、ブランドから文脈の連想 (ブランド → 文脈) でした。

スターバックスの緑色のロゴを見るだけで、高品質なコーヒー、落ち着いた店内の雰囲気、親しみのあるスタッフ、ゆっくりと時間をすごせる体験を連想していくというものです。

カテゴリーエントリーポイント


ブランド連想は 「カテゴリーエントリーポイント (CEP) 」 がきっかけになって起こります。

カテゴリーエントリーポイントとは、そのカテゴリーを想起したり商品・サービスが使われるきっかけとなる状況のことです。たとえば、炭酸飲料カテゴリーでは、食事中、暑い日の日中、気分転換をしてリフレッシュしたい時、ファミレスのドリンクバーで炭酸水を飲むなどです。

カテゴリーエントリーポイントを多く持つブランドほど、ブランド連想が起こる可能性が高まります。

よって、広告などのマーケティングからのコミュニケーションでは、カテゴリーエントリーポイントとブランドをつなぎ、ブランド連想をつくることを狙います。カテゴリーエントリーポイントで自社ブランドの存在感をしっかりと示すことが大事です。

メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ


カテゴリーエントリーポイント、すなわちカテゴリーを想起したり商品・サービスが使われるきっかけとなる状況において、通常は自社ブランドだけではなく他社ブランドとの競争が起こっています。お客さんの頭や心の中で起こる、異なるブランドにおけるブランド連想の競争 (メンタルコンペティション) です。

メンタルコンペティションに勝つためにはマインドシェアを高めることが必要になります。お客さんの頭の中の選択肢において、自分たちが選ばれやすい状況をつくり、頭の中の引き出しのなるべく手前のポールポジションを狙うわけです。

ここでポイントになる概念が 「メンタルアベイラビリティ」 と 「フィジカルアベイラビリティ」 の2つです。

メンタルアベイラビリティとは、購買文脈においてお客さんに思い出してもらえる、想起されるブランドの能力です。生活者のブランドに関する色々な記憶、思い出すきっかけがあるほど、メンタルアベイラビリティは強化されます。

もう1つのフィジカルアベイラビリティーは、人が特定の商品を購入候補として想起したときの 「その商品の買い求めやすさ」 を指します。

生活者が商品が欲しいと思ったとき、すぐに見つかり、購買できる状態を構築できているほど、フィジカルアベイラビリティは高い状態です。

たとえば、店頭にその商品が売られている、商品棚で目立つ場所に置かれている、店頭での存在が際立っているなどです。デジタル環境においては、検索ですぐに出てくる、スマホの小さいスクリーンでのロゴや商品の見つけやすさもフィジカルアベイラビリティに含まれます。


独自ブランド資産の評価


では、独自ブランド資産をどのように評価すればいいかについても見ていきましょう。

独自のブランド資産の評価は 「知名度 (Fame) 」 と 「独自性 (Uniqueness) 」 の二軸で行います。

ブランド資産の 「知名度」 


独自ブランド資産の知名度は、カテゴリー購入者の中で、プランドとブランド資産がリンクしたかを数値化したものです。ブランド資産の提示がされた状況で、ブランド名を純粋想起できるかで測ります。

知名度は、次に見る独自性があってこそです。というのは、一般的に選ばれやすい要素、たとえば赤などの視覚的な要素としての色は、知名度は高いが、独自性が低くなるなどの弱点があるからです。

色などの知名度は高くても独自性を打ち出しにくい資産は、単体ではなく他の要素と組み合わせるといいでしょう。

ブランド資産の 「独自性」 


独自性とはブランド資産がそのブランドを連想させる力です。

独自性が強いほど、カテゴリー購入者が他のブランドを連想する競争 (メンタルコンペティション) が起きず、自社ブランドが連想されやすくなります。

独自性の測り方は、他のブランドの独自資産にもなり得る要素について、他ブランドではなく自社ブランドがどれだけ選ばれるかを見ます。

ブランド資産評価からの打ち手


ブランド資産の知名度と独自性の二軸をとり、2つをかけ合わせた状況によって対処方法は変わります。

  • 両方が高いブランド資産は、引き続き使って維持する
  • 独自性のみ高いブランド資産は、投資し知名度を上げていく
  • 知名度が高く独自性の低いブランド資産は単独での使用は控える。競合ブランドを連想していく手助けになりかねないため


まとめ


今回は、書籍 「ブランディングの科学 - 独自のブランド資産構築篇」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 独自ブランド資産 (DBA) : ブランドが他のブランドと区別され容易に識別されるための独自の特性のこと。ブランド名やロゴ、パッケージデザイン、色、音、キャラクター、メッセージやコピーなどが含まれる

  • ブランド連想: ブランドにひもづく認識・印象・解釈・体験したことから連想イメージが強化され、独自ブランド資産ができていく。独自ブランド資産に一貫性があればブランド連想は強化され、人はブランドを容易に思い出すことができるようになる

  • カテゴリーエントリーポイント: カテゴリーを想起したり商品・サービスが使われるきっかけとなる状況のこと。カテゴリーエントリーポイントを多く持つブランドほど、ブランド連想が起こる可能性が高まる

  • メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ: メンタルアベイラビリティは、購買文脈においてお客さんに思い出してもらえること。フィジカルアベイラビリティーは、お客さんが商品が欲しいと思ったとき、すぐに見つかり購買できる状態を構築していること

  • 独自ブランド資産の評価: 知名度と独自性で評価する。両方が高い資産を維持し、独自性のみ高いブランド資産には投資し知名度を上げていく。知名度が高く独自性の低いブランド資産は単独での使用は控える (競合ブランドへの連想を助長しないため) 

ご紹介した 「ブランディングの科学 - 独自のブランド資産構築篇」 という本は、タイトル通りにブランドについて詳しく学ぶことできます。

おもしろい本だったので、よかったらぜひ読んでみてください! Amazon はこちらです。



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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。