#マーケティング #エントリーポイント #ブランド
人が商品やサービスを選ぶまでには、2つの重要な 「入口」 があります。
それが 「カテゴリーエントリーポイント」 と 「ブランドエントリーポイント」 です。この2つの入口を制するブランドが、お客さんから選ばれる存在になれます。
今回はニューバランスの事例から、2つのエントリーポイントをつくる秘訣を紐解きます。
ニューバランス
ニューバランスといえば、衝撃吸収性に優れた履き心地と高いファッション性のスニーカーで、「990」 や 「1300」 といったモデルが一世を風靡しました。
街履きスニーカーとしての確固たる地位を築く一方で、ニューバランスはランニングシューズブランドとしての認知度向上にも注力しています。
その象徴的な取り組みが、2025年3月にオープンしたランニング特化型コンセプトストアの 「ニューバランス Run Hub 代々木公園」 です。
Run Hub 代々木公園はカフェを併設し、ランナーが集うコミュニティの場にもなっています。ニューバランスが新たなお客さんを、ランニングシューズの世界へと誘うための戦略的な拠点と位置付けられています。
では、なぜニューバランスはこのような店舗を展開するのでしょうか?
そこには、成熟市場で成長を続けるための緻密な戦略と、2つのエントリーポイントをつなぐマーケティングがありました。
カテゴリーエントリーポイント
まずは、カテゴリーエントリーポイント (CEP: Category Entry Point) 」 についてです。
カテゴリーエントリーポイントとは
カテゴリーエントリーポイントとは、消費者 (や企業) が特定の商品カテゴリー (例: ランニングシューズ) について、何かのきっかけで 「必要かも」 「やりたい」 「ほしい」 と思う特定の瞬間や状況を指します。エントリーという文字通り、そのカテゴリーへの "入口" が開く瞬間です。
売り手である企業は、自社の商品が属するカテゴリーにおいて、どのような CEP が存在するのかを理解し、時には新たに創り出すことを狙います。
注力顧客の CEP を的確に捉え、カテゴリーへの入口が現れた瞬間に合わせた効果的なコミュニケーションを行うことにより、消費者や顧客の意識にカテゴリーへの "フック" をかけることができます。
ニューバランスが見出したカテゴリーエントリーポイント
ニューバランスは 「ランニングを始めたい」 や 「走る環境を新しくつくりたい」 といった気持ちをカテゴリーエントリーポイントと捉えました。
ニューバランスはランニングやランニングシューズへの入口を強化するため 「ニューバランス Run Hub 代々木公園」 という店舗を新たにオープンしました。ランニングカルチャーの聖地とも言える代々木公園エリアに位置し、ランナーはもちろん、そうでない人も気軽に立ち寄れる場所を目指しています。
ニューバランスの Run Hub 代々木公園へは、ニューバランスの製品だけではなく飲食やカフェでの休憩としても来店しやすいことがポイントです。
それによって Run Hub 代々木公園では、偶然の接点による興味喚起を生み出します。カフェがありコーヒーを飲みに来たら、ランニングシューズやランナーの姿が目に入り、ランニングをやりたいと思ったというような、偶然の出会いをつくり出します。
そこに五感で体験するランニングの世界観を演出します。店内では、ランニングシューズやアパレルが効果的に展示され、ランニングに最適な栄養を考慮したフードやドリンクも提供します。訪れた人が自然とランニングに触れられる仕掛けが施されているのです。
また、ニューバランスはコミュニティ形成にも力を入れています。ランナー同士やスタッフとの交流を通じて、ランニングの楽しさや知識を共有できる場にし、ニューバランスの Run Hub がランニングを始める後押しになることを狙っています。
ブランドエントリーポイント
ここまでカテゴリーエントリーポイントを見てきました。カテゴリーエントリーポイントは自社商品やサービスが選ばれるための最初の入口ですが、見込み顧客がカテゴリーを想起するだけで、自動的に自社商品が選ばれるわけではありません。
もうひとつの入口として次に登場するのが 「ブランドエントリーポイント(BEP)」 です。
ブランドエントリーポイントとは
ブランドエントリーポイントとは、カテゴリーを思い浮かべたあとに 「どの商品を買うか?」 と具体的に検討が始まり、ブランドを選ぶ瞬間を指します。
消費者や企業はカテゴリーエントリーポイントに入った後に、自分が知っているブランドの中から数社 (数商品) を候補に入れ、最終的にどれかひとつを購入します。
マーケティングには 「想起集合 (Evoked Set) 」 という概念があります。想起集合とは、特定のカテゴリーについて何かを思い立った時に、比較検討の候補として自然に頭に浮かぶ、好意的なブランドのリスト (選ぶ選択肢の候補) のことです。
多くのカテゴリーにおいて、この想起集合に含まれるブランド数は、多くてもせいぜい2つから3つ程度と言われます。
カテゴリーエントリーポイントというカテゴリーへの入口をくぐった後に、次にブランドレベルで思い浮かべてもらう段階で自社ブランドがわずか 2, 3 の想起集合に入れなければ、その後のブランド間の比較検討の土俵にすら上がれないということなのです。
カテゴリーエントリーポイントとブランドエントリーポイントの関係
カテゴリーエントリーポイント (CEP) とブランドエントリーポイント (BEP) は、密接に関連しています。
- CEP: 見込み顧客があるカテゴリーを思い出す 「状況」 や 「瞬間」 。ブランド想起の 「機会」 を生み出す
- BEP (ブランド想起) : そのカテゴリーエントリーポイントにおいて、特定のブランド名を真っ先に、あるいは上位に思い出してもらうこと
ふたつを簡単に言えば、CEP は 「ブランドを思い出してもらうための舞台設定」 であり、BEP はその舞台で 「いかに自社ブランドを目立たせるか (ブランドを思い出してもらうか) 」 という関係です。
ニューバランスが行ったブランド想起施策
ニューバランスは、Run Hub 代々木公園を通じて、ランニングやランニングシューズというカテゴリーエントリーポイントを強化すると同時に、その後のブランドエントリーポイントとしてニューバランスを選んでもらうための仕掛けを図りました。
Run Hub ではニューバランスの豊富な品揃えと体験を来店客にもたらします。ランニングに特化したニューバランスの幅広いシューズやアパレルを取り揃え、海外や国内のマラソン大会限定アイテムなども展開。専門知識を持つスタッフが相談に応じるなど、ニューバランスへの信頼感を醸成します。
Run Hub の店内で提供されるドリンクやフードは、ランニングカルチャーを意識したものが多く、管理栄養士が監修したメニューも楽しめます。来店客は自然とニューバランスが提案するランニングの世界観に触れることになるでしょう。
ランニング未経験の人にとって 「自分もランニングをやってみたい」 とか 「あの人と同じシューズを履いてみたい」 といった感情を抱いてもらえるきっかけになります。ここに効果的にニューバランスというブランドを接続させることでブランド想起、そして購買意欲へとつながります。
たとえ Run Hub への来店時にはニューバランスのシューズなどの購入に至らなかったとしても、後からランニングシューズを買いたいと思ったときに、ニューバランスを一番に思い出してもらえることが期待できます。
さらに Run Hub ではランニングによってつくられるコミュニティでの関係構築ができます。
Run Hubを拠点としたニューバランスによるランニングイベントやワークショップなどが開催され、お客さんとの継続的な関係性をつくり出し、ブランドへの愛着や親近感 (ロイヤルティ) が高まることでしょう。
消費者の多段階の意思決定プロセス
では最後のパートでは、ここまで見てきた CEP と BEP の全体像として、消費者の選択プロセスを整理しておきましょう。
結論から言うと、次のような流れをたどります。
- 何かしらのきっかけ
- カテゴリー想起 (CEP)
- 候補ブランド想起 (BEP)
- ブランドの購入
- 使用
重要なのは、きっかけやその状況において、まずは自社商品が含まれるカテゴリーが想起されるか、そしてカテゴリーの後に想起される具体的な選択肢として、自社ブランドが見込み顧客の頭の中に真っ先に思い浮かぶかどうかです。
ニューバランスの事例で言えば、「ランニングを始めたい」 、「ランニングシューズがほしい (カテゴリーエントリーポイント) 」 が起点となり、そこから 「ニューバランスのシューズがいいかも (ブランドエントリーポイント) 」 に移ります。この流れをうまくデザインするのがマーケティングの役割です。
マーケティングは、ブランドを思い出してもらうきっかけを意図的につくることが大事です。
必要になったその顧客文脈において、真っ先にブランドが想起されるかどうかで勝負が決まる世界です。認知しているという知名度だけではなく、評判や口コミ、他者の行動を目撃する機会、利用経験など、あらゆる要素によってブランドの存在感とブランドイメージが形成されます。
まとめ
今回は、ニューバランスの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- カテゴリーエントリーポイントは、消費者が特定の商品カテゴリーを 「必要かも」 と思い出す瞬間や状況。普段意識されないカテゴリーでは重要な 「入口」 となる
- ブランドエントリーポイントは、カテゴリーを想起した後に、見込み顧客が具体的な 「ブランド」 を思い浮かべる段階、またはそのきっかけとなる接点
- 消費者の意思決定は 「カテゴリー想起 → ブランド候補想起 → 比較検討 → 最終決定」 という段階を無意識的にも踏む。カテゴリー想起の後、どのブランドを選ぶかという段階で、消費者の想起集合 (頭に浮かぶブランドリスト) に自社が含まれることが重要
- そこで、まずカテゴリーエントリーポイントを特定し、次にその瞬間に自社ブランドが想起されるようコミュニケーションを設計する二段階のアプローチが有効
- マーケティングの役割はカテゴリーエントリーポイントで消費者の意識の扉を開き、ブランドエントリーポイントで自社ブランドを選択肢に入るようにする。最終的な購買行動へと自然につなげる 「思い出される状況」 をつくる
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