投稿日 2011/11/06

失敗を評価する4つの視点


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失敗学を提唱する畑村洋太郎氏の著書が、回復力 - 失敗からの復活 です。



この本には、人は誰でも失敗をしてしまうこと、だからこそ大切なのはそこからどう失敗を捉え、考え、行動するかが書かれています。


失敗を評価する4つの視点


本書で印象的だったのは、著者が紹介する失敗を評価するための4つの視点でした。

  • 物理的視点
  • 経済的視点
  • 社会的視点
  • 倫理的視点

以下、それぞれご説明します。


1. 物理的視点

失敗をまず物理的現象としてとらえる視点。目の前でどのようなことが起こっているのかをありのままに見ること。

ものの見方は、その人の立場や関わり方などによって大きく左右されるが、そうした影響を上手に排除していかないと、目の前で起こっていることを正しく認識することはできない。


2. 経済的視点

損得勘定で失敗を見る視点。社会のことはほぼすべて、経済的なメカニズムの中で動いているので、失敗も必ず経済的な影響がついてまわる。そのことを考慮し、経済的な指標によって評価するのが、経済的視点による失敗の評価。


3. 社会的視点

経済的視点よりさらに広範な見方。一番目の物理的視点とは逆の視点と言える。

失敗の影響は経済的なもの以外にも広く及ぶので、これらを全て見る視点が必要になる。その失敗と社会の関係を評価するためのもの。

具体的には 「社会の中でその失敗がどう見られているか」 、「社会がその失敗にそう反応して動いているか」 などを見る。


4. 倫理的視点

生身の人間の立場から失敗をみる視点。

人としてやらなければならないことが、きちんとできているかどうかを判断する。この視点がないと、「こうあるべき」 とか 「こうなるはず」 という形式的な評価に振り回されて、失敗の取り扱いを間違えてしまう。


4つの失敗評価視点を自分事化してみる


以前に、私が業務であるプロジェクトに参加していた時に、1つの失敗がプロジェクト全体に大きく影響を与えたことがありました。

プロジェクト工程のクリティカルパスだったため、スケジュール全体の遅れ、リカバリーのための対応工数増加、販売への機会損失、顧客からの信頼・ブランドイメージ低下など、合計の損失額はプロジェクトへの投資と比較しても発生したダメージは小さくありませんでした。

その時に学んだことや考えさせられたことも踏まえて、以下、4つの評価について私自身の解釈を書いておきます。


1. 物理的視点

起こった失敗に対して、「事実」 を正しくつかむことが失敗評価の第一歩。

畑村氏が 「目の前でどのようなことが起こっているのかをありのままに見ること」 と言っているように、いかに客観的に何が起こったかを理解できるかが重要。

この時に原因究明も行なうことになるが、重要なのは原因究明と責任追及を分けること。発生事象とその原因究明に注力し、責任の所在や追求は失敗評価が終わってからが望ましい。原因究明と責任追及を同時にやってしまうと、責任を逃れたいというインセンティブから、正しく原因がわからないという事態になりかねないため。


2. 経済的視点

「損得勘定で失敗を見る視点」 とあったように、失敗による金銭面での影響や時間のロスなど、失敗を数字で見る視点。

失敗をしてしまうと、やり直しのために余分な時間が必要になり、仕事であればそのための追加コストと時間が発生する。起きてしまった失敗を評価するために、影響や被害を数字で見る視点があれば、他者とも共有しやすい。「物理的視点」 と同様に数字で評価できれば、失敗を客観的に捉えることができる。


3. 社会的視点

社会的視点とは、失敗を1つか2つ上の立場から評価すること。

失敗をした・起こした時には、視野が狭くなりがち。失敗に目を向け失敗のことを考える必要はあるが、視野が狭くなってしまうと二次災害の可能性も出る。

今の自分よりも1つ上の視点、例えば仕事であれば上司の立場では失敗はどう位置づけられるのか、あるいは ○○ 課に所属していれば、その上の △△ 部には失敗がどう影響するのかを考える。そこから少しずつ視野を広げていき、自分の会社やクライアント、その先に社会に対してどう影響するかを考えるとよい。

失敗の当事者としてだけで捉えていると、必要以上に一大事だと感じることがある。1つ1つ視野を広げ、失敗がそれぞれどう位置づけられるかが評価できる。


4. 倫理的視点

1 ~ 3 はいかに客観的に失敗を評価するかという視点。倫理的視点では、その失敗に対して 「自分はどう考えるか」 。

失敗をした時に真っ先に頭に浮かんでくるのは、失敗に対しての後悔や惨めさ・恥ずかしさなどの感情。失敗を評価する時に大切なのは、事象の確認、原因究明、そして何よりも、失敗を次への糧にすること。

であれば、倫理的視点では、自分の行動や意思決定に何か落ち度はなかったか、準備不足だった可能性、などを自分はどう考えるかを評価しておく。失敗について自分で考え、自らの言葉で評価できるかどうかが、失敗を次に活かすかそうではないかに影響する。


最後に


失敗というのはやっかいなものです。

誰も失敗しようとは望んでいないのに、それでも私たちは失敗します。私自身もこれまで数多くの失敗があり学びもしましたが、だからと言って失敗はこれからもゼロにできるかというと、これからも失敗するのでしょう。

人は誰でも失敗をします。その失敗を生かすも殺すも、失敗をどう評価し、次へのチャレンジにつなげられるかどうかです。

畑村氏が提案する失敗を評価する4つの視点は失敗が起こってからではなく、日頃から意識をしておきたいものです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。