2011/12/10

ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる

ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略「ビッグデータ」という言葉は、少し前であれば、ネット記事やブログなのでよく見かけましたが、ここ最近ではクライアントとのミーティングの場でもよく出てくるようになってきました。特に部長職や役員クラスの方の口から出るようになるとかなり浸透してきているなと感じます。そんなビッグデータについてまとめられており、体系的に理解するのに役立ったのが、「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)という本でした。

■ビッグデータ事例:Amazonのレコメンド機能

本書ではビッグデータの定義を「事業に役立つ知見を導出するための、『高解像』『高頻度生成』『多様』なデータ」としています。これだけだと、何やら難解な印象を持ってしまいそうですが、身近な例でイメージを理解したほうがいいかもしれません。

例えばアマゾンのレコメンド機能。これは、アマゾンではユーザーそれぞれの過去の購買情報や商品閲覧情報、あるいは、自分と同じ商品を買った他のユーザーの情報など、うまく活用することで、私たちに「おすすめ」を提示してくれる機能です。必ずしも、おすすめと自分の好きそうな(買いたくなるような)商品とは一致するわけではありませんが、これはアマゾンが集めている膨大なデータの活用事例です。

■ビッグデータ活用の3つの壁

本書でうまく整理されていたことの1つが、ビッグデータ活用の時代の流れの説明でした。著者である鈴木氏は、ビッグデータ活用に至るにはいくつかのステップを経る必要があると言います。そのために越えなければいけないのが3つの壁。第一の壁は「データの電子化・自動化ができているか」。これは多くの事業者ですでに越えていると思いますが、IT活用がされる前の時代は、例えば顧客情報は紙ベースで保管されていたりなど、蓄積はするものの活用がしにくかったはずです。しかし、ネットやモバイルなどのインフラ・デバイスが進化・普及することで、データの生成・取得が格段にしやすくなりました。これが第一の壁を越えた状態です。

一方で、データを取得したものの、じゃそれをどう活用すればいいのか、データを電子化したけども、結局はサーバーに保存されているだけ、というのが「第二の壁」を越えられていない状態です。つまりビッグデータが事業に活用・寄与していない。第二の壁とは、一言で言えばビッグデータを活用できているかどうか。活用レベルも分解すれば、データ整備、データハンドリング(スキル・システム)、データに価値を見い出す(活用イメージ)、価値を享受できる仕組み・システム、そして事業に寄与し、かつ継続的な収益化まで、などとステップが分けられると思います。本書では、多くの事業者が第一の壁を越えているが、第二の壁を越えていないと書かれていました。先のアマゾンのレコメンド機能は、アマゾンが第二の壁も越えている事例ですね。

第三の壁がデータの価値認識変化です(本書での著者の表現は「データ流通の壁」でした)。より広いデータの活用がされる状態で、例えばSaaS(ソフトウェアのサービス利用)は一般的になっていますが、同じような概念としてのDaaS(Data as a Service)、具体的には、データがサービスとして有償で提供される可能性です。必要データや情報があり、自分たちで一から集めなくても、どこかから買ってきたらいいんじゃないかという認識です。こうなると、データを集めている側も、今までは活用されず塩漬けのようになっていた膨大なデータ売ることができ、新たなビジネスになる可能性を秘めています。

■第三の壁を越えた世界への期待

データを買いたい者と売りたい者がいるとうことは、そこには取引の市場ができることも考えられます。データ取引市場なるもので、であれば買い手と売り手をつなげて取りまとめる中間業者のような存在も生まれるかもしれません。そうなれば、やや突拍子もないことかもしれませんが、ゆくゆくはデータ自体があたかも貨幣のように流通する世界になるかもしれない。データをお金を通して売買するのではなく、データそのものの貨幣化、すなわち価値として広く「信用」を得ている存在です。ここで思い出しましたが、そういえば以前にGoogleがデータ取引所の創設する記事があり、そこから考えたことをエントリーしていました。
Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

これまでは利用されていなかった膨大なデータが広く社会に流通し、世の中をよくするように活用される。あるビッグデータはイノベーションと呼べる画期的なことに、また別のデータは目立たないけど社会を後ろで支えるような領域で活かされる。そんな世界を期待したくなります。

■ビッグデータの3つの阻害要因

もちろんビッグデータのビジネスにはバラ色の世界が待っているとは言えず、課題もあります。ビッグデータがあっても中身に価値がなければどれだけ膨大に集まってきても、それは何の価値もないゴミをせっせと集めているようなものです。あるいは活用の見込みが立ってもその通りにデータを扱える人がいなければ宝の持ち腐れです。

著者である鈴木氏が指摘する阻害要因は3つ。(1)ビッグデータの取得・活用ができる統計学や情報技術のプロフェッショナルの人材不足、(2)プライバシー問題、(3)データの誤りと誤用に起因するものです。

■ビッグデータとプライバシー

個人的に今後の最大の阻害要因になると思うのはプライバシー問題。消費者やユーザー関連のビッグデータを集める際には必ずと言っていいほど、この問題がついてまわります。意図的であろうがなかろうが、データにはその人からすると他人には知られたくないような情報も入ってきてしまいます。人材不足や誤用はデータを取得し活用する側のこちら側の問題です。だから取り組みや技術次第ではまだなんとかなるのではないかなと。それに対してプライバシーというのは「データ収集される側」の、感情や生理的な反応・問題です。さらに、個人情報保護法など、法律面でも制約がでてくると思います。

ビッグデータとプライバシーに関連して最近気になった話題は、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンに組み込まれていたCarrier IQのソフト問題(参考:AndroidとiOS、プライバシーを丸裸にするソフトが仕込まれていたことが発覚|INTERNET Watch)。キャリアIDのこのソフトは端末で発生するほぼすべての動作を記録し、携帯キャリアや端末メーカーに送信していて、記録される情報は多岐にわたり、押されたキーとその種類、ブラウザで閲覧したURL、使用アプリ、電話やメールの送受信、GPSなどの位置情報、カメラや音楽プレーヤーの動作状況などが含まれると言われています。今回のキャリアIQの問題点は、ソフトがユーザーの知らない(了承なし)見えないところで動いていた、ユーザーがソフトを無効にすることが非常に難しい点にあります。ユーザーからすれば自分の知らないところで、モバイルの使用状況がまるわかりになっていたとすれば、不信感とともに強い不安を抱くのではないでしょうか。

ただ、キャリアIQの仕組みはビッグデータを集めるという視点で見ると優れていると言えると思います。データを集める場合には、なるべく偏りがないほうがデータの質は高くなります。キャリアIQの件はユーザーの知り得ないところで起こっていたことで問題が大きくなっていますが、一方でユーザーが知らない(意識していない)ということは、より自然な端末使用データが得られることになります。もし「今から端末の使用状況を記録するので」と言われて使ってもどうしてもそれを意識してしまい、普段の使用とは異なるデータになります。これが偏りとなり、結局そのデータを見ても本当の使用状況はわからないのです。

今回起こったキャリアIQ騒動は、ビッグデータ収集技術・方法論としては正しいが、倫理的・個人情報やプライバシーでは大きな問題になる。日本ではあまり大きく報道されていないような気がしますが、この事例はビッグデータに対する大きな一石を投じたように感じます。

■最後に

本書の著者である鈴木氏は、ビッグデータの可能性を「顧客のニーズを見極めることにつながる」と言います。というのも、消費者本人に聞くよりも、集まって蓄積された消費者に関する膨大なデータをのほうが、実は本人自身よりも、その人のことを雄弁に語る可能性があるからです。

もう少し期待を書いておくと、例えばジョブズのようなカリスマ経営者の判断・意思決定で数多くのイノベーションが実現されましたが、どの会社にもカリスマ経営者がいるわけではなく、そのような状況でもイノベーションの武器となり得るのがビッグデータであると鈴木氏は指摘します。上記のアマゾンの例では、ユーザーに「あなたの好きな本のジャンル、好きな音楽は何ですが?」と調査するのではなく、ユーザーがアマゾンを利用する過程で集まってくるデータを活用するこで、顧客のニーズにうまく対応しているのです。

これまでは記録できなかった色々な行動がデータとして蓄積され、ビッグデータとして活用されル流れは今後も変わらないと思います。課題はビッグデータの活用、特にマネタイズでしょう。それも継続的に収益を生み出す源にできるかどうか。一方で、上記のプライバシー問題等をどう解決するか。データを集める側と提供する側でいかにWin-Winを築くか。そんなことをあらためて考えさせられる本でした。なお、本エントリータイトルは、本書の帯にあった佐々木俊尚氏の言葉です。


※参考情報

Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL
AndroidとiOS、プライバシーを丸裸にするソフトが仕込まれていたことが発覚|INTERNET Watch
キャリアIQのプライバシー侵害騒動と「ビッグ・データ」の脅威|@シリコンバレーJournal ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト




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