2012/02/11

なぜ「10分1000円」のQBハウスに人は並ぶのか

以下のイラストを見るといつも、これはよくあるなと思う1枚です。思い当たる方も多いかもしれませんが、往々にして関係者の間での理解/認識のずれというのは発生するものです。

 引用:顧客が欲しいのは「タイヤのブランコ」|ベンチャー社長で技術者で

この絵の場合、顧客の言ったことに最も近い理解をしたのはプロジェクトリーダーですが、現場(アナリスト⇒プログラマー)にいくと徐々に違うものとして理解されます。また、要件定義書とかWBSなどのプロジェクト計画書類は具体的に詰め切れていないのに実行フェーズに入っていき、社内調整が難航し得られるサポートはごくわずか。それらしく出来上がったものの、顧客の説明や本当に必要だったもの(ブランコ)がない、すなわち顧客が期待する価値がないものができあがる。営業は大きく表現していて、請求額も過大になる。顧客の説明に対して、立場が違う人で理解が大きく異なることをおもしろく表現したイラストですが、なかなかうまく表しています。

このイラストでもう一つおもしろいのは、顧客が本当に望んでいたことと、説明された内容が微妙に異なるということです。イラストでは説明は木製のブランコでしたが、実はタイヤのブランコが必要だった。この話は、顧客が望んでいる価値は何のか、自分たちが顧客に提供できる価値は何か、この2つをいかにマッチングできるか、に行きつくように思います。

■「10分1000円」のQBハウスが提供するサービスとは

かなり前の話になるのですが、顧客への提供価値についてあらためて考えさせられたのが、ヘアカットのQBハウスでした。「10分1000円」というわかりやすいメッセージを伝えていて、よく駅前や駅ナカとかにあるQBハウスです。

自分の通勤で使う駅にもQBハウスはあり、平日でも休日でもほぼカット待ちの人が並んでいます。QBハウスの前を通り待っている人を見ると、なぜ並んでまでQBハウスなんだろうという疑問があり、1年くらい前とかなんですが、試しに行ってみることにしました。

それであらためて思ったのは、「安い」「早い」という利便性をヘアカットで追求している点で、そこには確かにニーズがあるんだなということ。ざっくりと表現すると、QBハウスがターゲットとしているのは、
 ・髪が伸びたからそろそろ切るか、くらいの人で
 ・髪型を変えるよりも、身だしなみを整える程度に
 ・でも自分でor家族に切ってもらうわけではなく
 ・遠くにでかけるのは面倒なので、近所or通勤経路で
 ・なるべく安く、早く髪を切りたい人
というイメージだと思いました。お客で多いのは圧倒的に男性で、年齢的にも30代後半以上という印象です。

QBハウスはここに価値を見出し提供するスタンスだと思うので、それ以外のことは「やらない」という考え方。美容院や床屋さんなどと比較すると、シャンプー、カラーリング、パーマ、ブロー、セット、髭剃り、眉カット、マッサージ、などのサービスは無し、設備面でも、電話、シャンプー用洗面台、待ち時間に読んでもらう雑誌などもなく、本当に「ヘアカット」のみに特化していました。ちなみにシャンプーの代わりに、表現は良くないかもしれませんが掃除機のような機械で散髪後の切った髪を吸い取ってくれます(正式にはエアウォッシャーと呼ばれている)。スタッフも最低限の人数で、受付は自動発券機で(1000円札しか使えない)、スタッフ指定も無しなので、だいたい2-3人くらいしか各店舗にいないのではないでしょうか。過剰な設備/スタッフがいないので店舗面積も美容院などに比べかなり小さく、店舗運営のランニングコストは人件費と店舗賃貸費が主だと思いました。

このように、徹底的にコスト要因を見直した結果、安く早くヘアカットサービスを提供できるようになり、「10分1000円」を実現したのだと思います。ちなみに、これはQBハウスを利用して初めて知ったのですが、10分以上時間がかかっても1000円料金は変わらず(時間従量制ではない)、カット時間が10分程度以内で終わることが多いために、10分1000円という表現をしているのだそう。行く前は30分くらいかかったとしたら、普通の床屋さんと変わらないのではと思っていたのですが、ジャスト1000円でした。

■QBハウスの価値

普段は美容院を使っているので、美容院で髪を切るのと比べると、QBハウスの提供価値は大きく違います。両者を比べた評価としては、美容院で担当してもらっている美容師さんの技術は高く、流行なども踏まえた提案をしてもらえますが、QBハウスは技術面においては、少なくとも自分が感じた範囲では劣りました。一方で、QBハウスに行ったことで、美容院が提供してくれている価値は過剰とも感じるようになりました。念入りにやってくれるシャンプー、マッサージなどがそれで、自分の場合はそれよりも早く効率良く終わってくれたほうが価値があります。提供サービスを少なくする代わりに時間をつくるほうがいい。

QBハウスのホームページには、「『あらゆる人にゆとりの時間を…』~ヘアカットからはじまる新しいライフスタイルの提案~」とあり、そこには「ヘアカットの施術時間を効率化により短縮することで、お客様の生活にゆとりの時間を提供することを企業理念に掲げております。」と書いてあります。(参考:理・美容師採用トップ|QBハウス

結局、QBハウスに行ったのはそれっきりで今は使っていないのですが、多くの人が並ぶサービスを体感できたのはいい経験だったし、ヘアカットサービスについて価値とは何かというのも考えられたことはよかったと思っています。QBハウスは、安く・早くというコンセプトは良いと思うのですが、だいたい並んでいて、カット時間よりも長く並ぶのが個人的には本末転倒な気がしたというのが大きいです。

戦略とは、自分の強みを敵の弱みにぶつけ、自らの強みを活かして差別化していくことです。強みとは、あくまで顧客にとって価値があり、かつ競合と差別化できているもの。だから、強みは相対的であり競合や市場により変わるものという理解です。

QBハウスの例では、髪を切るという1点に特化しているので、他のサービスがないことは、流行の髪型やパーマ/カラーでオシャレを楽しみたい、自分では決してできないシャンプーで気持ち良く頭を洗ってほしい、髪型をかわいく仕上げて出かけたい、などに価値を見出す人にとってはQBハウスのサービスは弱みになります。しかし、ただ髪が伸びた分だけ「安く」「早く」切ればいいという人には、QBハウスのサービスは価値があることになります。このようにターゲットとする人たちを誰に設定するかで、強み/弱みが180度変わる例もあるのです。(ちょっと話が脱線しますが、SWOT分析をやって深みにハマってしまうのは、Sだと思っていたものが、いつの間にかWじゃないか、と思えて、状況を整理しているはずがだんだんわからなくなってしまう時だったりします)

QBハウスをvs美容院で考えましたが、これがvs近所の床屋さんとなると話が変わってきます。今度は床屋さんに対しての差別化、強みは何か?となります。繰り返しになりますが、強みはあくまで相対的なもので、競合をどう設定するかで変わるもの。QBハウスと同じような「安い」「早い」競合では、既存のQBハウスの強みでは差別化できなくなります。もし、広い店舗でQBハウスのようなサービスをしかけられたら、待たなくてすむだけQBハウスから顧客が取られるかもしれない。その時のQBハウスは駅ナカなどの顧客にとって行きやすい・入りやすい立地が強みになるかのかもしれません。結局のところ、顧客視点で考えると、髪を切ろうと思った時にお客の頭の中で思い浮かぶ選択肢は何か:QBハウス、床屋さん、自分で切る、奥さんに切ってもらう、からQBハウスに価値を感じてもらい選んでもらう。こうして初めて来店してもらえるのです。

冒頭のイラストのように、顧客が求めている価値を理解することと、それに見合う価値をつくりあげ提供することは簡単ではありません。「顧客はモノやサービスを買うのではなく価値を買う」とよく言われ、有名な例えに「顧客はドリルを買うのではなく穴をあけるために買う」という表現があったりするくらいです。

顧客を求めていることを理解するには、相手視点で考えることなのかなと思っていますが、一方で顧客の言うことを120%実現しようとすると、それはそれでWin-Winにならないこともあるので、難しいところです(参考:マーケティング脳を鍛えるバリュープロポジションという考え方|思考の整理日記)。今回のエントリーは何かまとまりのない内容になってしまい申し訳ない感じですが、「顧客にとっての本当の価値は何か」「自分たちは結局のところどんな価値を提供するのか」という問いが最近よく考えることなので、徒然に書いてしまいました。


※参考情報
顧客が欲しいのは「タイヤのブランコ」|ベンチャー社長で技術者で
理・美容師採用トップ|QBハウス
マーケティング脳を鍛えるバリュープロポジションという考え方|思考の整理日記


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