投稿日 2012/02/11

なぜ 「10分1000円」 の QB ハウスに人は並ぶのか




ヘアカットの QB ハウスは 「10分1000円」 というわかりやすいメッセージで訴求しています。

自分の通勤で使う駅に QB ハウスがあります。平日休日ともにカット待ちの人が並んでいます。なぜ並んでまで QB ハウスなんだろうと思い、試しに行ってみることにしました。


QB ハウスのターゲット顧客


思ったのは、QB ハウスは 「安い」 「早い」 という利便性をヘアカットで追求していることで、確かにニーズはありそうです。

QB ハウスがターゲットとしているのは、以下です。

  • 髪が伸びたから、そろそろ切ろうと思っている人
  • 髪型を変えるよりも、伸びた分を切り身だしなみを整えたい
  • 自分で or 家族に切ってもらうのは避けたい
  • 散髪に遠くに出かけるでかけるのは面倒なので、近所か通勤経路で済ませたい
  • なるべく安く、早く髪を切りたい

お客で多いのは圧倒的に男性で、年齢的にも30代後半以上という印象です。


サービス内容


QB ハウスは上記のニーズに応え、それ以外のことは 「やらない」 という考え方です。美容院や床屋さんなどと比較すると、やらないことが何かがよくわかります。

  • やらないサービス:シャンプー、カラーリング、パーマ、ブロー、セット、髭剃り、眉カット、マッサージ
  • 持っていない設備:電話、シャンプー用洗面台、待ち時間に読んでもらう雑誌などもない。

本当に 「ヘアカットのみ」 に特化していました。

設備については QB ハウス独自のものがあります。シャンプーの代わりに、掃除機のような機械で散髪後の切った髪を吸い取ってくれます (正式にはエアウォッシャーと呼ばれています) 。


必要最小限の設備と人員


スタッフも最低限の人数で、受付は自動発券機で (現金のみ使用可能) 、スタッフ指定もありません。

過剰な設備やスタッフがいないので店舗面積も美容院などに比べかなり小さいです。店舗運営のランニングコストは人件費と店舗賃貸費が主でしょう。

徹底的にコスト要因を見直した結果、安く早くヘアカットサービスを提供できるようになり、「10分1000円」 を実現しています。

これは QB ハウスを利用して初めて知ったのですが、10分以上時間がかかっても1000円料金は変わらないとのことです (時間従量制ではない) 。

カット時間が10分程度以内で終わることが多いために、10分1000円という表現をしているのだそうです。行く前は30分かかったとしたら3000円で、普通の床屋さんと変わらないのではと思っていたのですが、ジャスト1000円でした。


美容院と QB ハウスの比較


普段は美容院を使っているので、美容院で髪を切るのと比べると、QB ハウスの提供価値は大きく違います。

両者を比べた評価としては、美容院で担当してもらっている美容師さんの技術は高く、流行なども踏まえた提案をしてもらえます。QB ハウスは技術面においては、少なくとも自分が感じた範囲では劣りました。

一方で、QB ハウスに行き、美容院が提供してくれているサービスは過剰と感じました。

念入りにやってくれるシャンプー、マッサージです。私はそれよりも早く効率良く終わってくれたほうが価値があります。提供サービスを少なくする代わりに時間をつくるほうがいいです。

QB ハウスの ウェブページ には次のように書かれています。

『あらゆる人にゆとりの時間を…』~ ヘアカットからはじまる新しいライフスタイルの提案 ~ 
ヘアカットの施術時間を効率化により短縮することで、お客様の生活にゆとりの時間を提供することを企業理念に掲げております。

(2017年7月追記:該当ページが削除されていたため、こちらも削除しました)


QB ハウスの提供価値


戦略とは、自分の強みを敵の弱みにぶつけ、自らの強みを活かして差別化していくことです。強みとは、あくまで顧客にとって価値があり、かつ競合と差別化できているものです。強みは相対的であり競合や市場により変わるものです。

QB ハウスの例では、髪を切るという1点に特化しています。

流行の髪型やパーマ・カラーでオシャレを楽しみたい、自分では決してできないシャンプーで気持ち良く頭を洗ってほしい、髪型をかわいく仕上げて出かけたい、などに価値を見出す人にとっては QB ハウスのサービスは弱みになります。

しかし、ただ髪が伸びた分だけ 「安く」  「早く」 切ればいいという人には、QB ハウスのサービスは価値があります。


強みは相対的なもの


QB ハウスを vs 美容院 で考えましたが、これが vs 近所の床屋さんでは評価は変わります。床屋に対しての差別化・強みは何かです。

繰り返しになりますが、強みはあくまで相対的なもので、競合をどう設定するかで変わります。QB ハウスと同じような 「安い」 「早い」 を提供する競合では、美容院に対する QB ハウスの強みでは、床屋とは差別化できません。

もし、広い店舗で QB ハウスのようなサービスをしかけられたら、待たなくてすむだけ QB ハウスから顧客が取られるかもしれません。その時の QB ハウスは駅ナカなどの顧客にとって行きやすい・入りやすい立地が強みになるでしょう。

顧客視点で考えると、髪を切ろうと思った時にお客の頭の中で思い浮かぶ選択肢は何かです。QB ハウス、美容院、床屋、自分で切る、家族に切ってもらう、の中から QB ハウスが選ばれるかです。こうして初めて来店してもらえるのです。


自分たちが提供するものは、顧客が本当に価値だと思っているか


顧客が求めている価値を理解することと、それに見合う価値をつくりあげ提供することは簡単ではありません。顧客はモノやサービスを買うのではなく価値を買うのです。

顧客を求めていることを理解するには、相手視点で考えることです。一方で顧客の言うことを 100% 実現しようとすると、Win-Win にならないこともありえます。

こちらについての関連エントリーです。

参考:マーケティング脳を鍛えるバリュープロポジションという考え方

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。