#マーケティング #戦略 #本
日々の業務で打ち出す施策が、どうも場当たり的になっている。
戦略を立てたはずなのに、成果に結びつかない。
そんな悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくないでしょう。その原因は、戦略に 「一貫性」 が欠けているからかもしれません。
今回ご紹介する書籍 「新人 OL 、社長になって会社を立て直す (佐藤義典) 」 は、マーケティングの本質を物語形式で楽しく学べる本です。
マーケティング理論を学びたいけれど、専門書は難しくて挫折してしまう。そんな人にぴったりの一冊です。
本書の概要
この本は、小さなイタリアンレストランを舞台に、新人女性社員から社長に就任した主人公・真子 (まこ) が会社再建に挑むビジネス小説です。
前作 「新人 OL 、つぶれかけの会社をまかされる」 で店の立て直しに成功した真子でしたが、本作では近所に強力なイタリアン競合店が出現し、再び売上が急落するという危機に直面します。
ホールスタッフは割引券、キッチンスタッフは新メニューといった場当たりな策で手を打ちますが効果はなく、ホールスタッフとキッチンスタッフの溝が深まったり、社長である真子と料理長の対立が生まれたりと、店内の空気は悪くなる一方です。遂には会長から 「君には戦略がない!」 と叱責されてしまう状況に陥ってしまいます。
窮地に陥った真子の前に、前作でも指導役だったコンサルタントの勝 (まさる) が再登場。真子はマーケティング戦略のイロハから学び直すことになります。
物語は、真子たちがお客さんが来店しなかったり、おすすめメニューを注文してもらえない理由を解き明かしていき、自社の戦略を再構築していく過程を描きます。その中で読者も自然とマーケティング戦略を学べる内容になっています。
学べるテーマ
本書から学べるテーマを一言で集約すれば、「マーケティング戦略の構築と一貫性のある経営」 です。
この本は、読むだけでいつの間にかマーケティング感覚が身につくビジネスライトノベルです。小説での物語を通じてマーケティング戦略の考え方を学べます。
戦略 BASiCS
本書で中心となるのは、著者の佐藤義典さんのオリジナルのフレームワークである 「戦略 BASiCS」 です (BASiCS はベーシックスと読みます) 。
BASiCS とは以下の5要素の頭文字を取ったもので、経営戦略を総合的かつ一貫性をもって考えることができます。
- B – Battlefield (戦場) : どの市場・事業領域で戦うか、競合は誰か
- A – Asset (独自資源) : 自社が持つ独自の経営資源は何か (強みの源泉となる要素)
- S – Strength (強み) : 競合に勝てる自社の強みは何か
- C – Customer (顧客) : 誰がお客様か (注力顧客の明確化)
- S – Selling message (メッセージ) : お客様に伝えるメッセージ (提供価値) は何か
BASiCS の5つの要素がすべてつながり合い、整合性が取れてこそ強い戦略になると本書は言います。
小説の物語中でも 「強みは競合に対しての強みであり、顧客はその強みを気に入ってくれる人。強みは独自資源に支えられ… 全部つながる! 一貫性があるんだ!」 という主人公の発見が描かれ、戦略の一貫性の重要性が強調されます。
主人公たちをサポートするコンサルタントの勝は 「強い戦略には美しい流れがある。それは一貫性と具体性があるってことだ」 と述べ、一貫して筋の通った具体的戦略こそが成果を生むと説くのです。
独自資源と差異化
小説では競合のイタリアンレストラン店との戦いの中で、「簡単に真似されるようでは本当の強みとは言えない。競合に簡単に真似されるのは独自資源がないからだ」 という指摘が登場します。
競合優位を保つためには技術・人材・ブランドなど他社にない独自資源の蓄積が必要であり、それこそが強みの源泉になるという戦略論の基本が語られます。
主人公たちは、店舗設備やスタッフのスキルの中に眠る独自資源、そしてここでしか味わえない価値を再発見し、独自資源と強みをもとに戦略を練り上げていきます。ブレない戦略こそが顧客からの信頼を得て、結果として競合にも負けないポジションを築けます。
「想い」 を届けるマーケティング
小説の最後の第6章のタイトルにもなっている 「『想い』を届けるのが会社の使命」 。この言葉が象徴するように、マーケティングや経営において、企業の使命感やビジョンがお客様の心を動かすというテーマも含まれています。
主人公たちは、自社の成り立ちや創業者の思いに立ち返り、「お客さんに本当に届けたい価値とは何か?」 を自問します。
そして単に売上を上げるためでなく、自分たちの想いを届け、お客さんに喜んでもらうための戦略へと発想を転換し、社内の意識もひとつにまとめていくのです。
マーケティングの本質である 「顧客への価値提供」 と、「企業のビジョン」 が合致した時に大きな力が生まれるという示唆を与えてくれます。
実践へのポイント
本書で学べるマーケティングの知識を、実際の仕事や日常の問題解決に応用できるかが問われます。
最後のパートでは、実践へのポイントについて整理していきます。
顧客目線で課題を捉える
自分たちの売上不振やビジネス上の問題に直面したとき、まず 「お客様にとって、それはどうだったのか?」 を徹底的に考える姿勢が重要です。
本書でも主人公たちは、安易に 「景気が悪いから…」 「競合店が近くにオープンしたから…」 といった外的要因のせいにするのではなく、自社の商品・サービスがお客さんにとってどう映っているかをお客さんの立場になって洗い出しました。
自社の商品や自身の仕事について、「相手 (顧客・上司・同僚) はなぜそれを受け入れないのか?」 と相手側の状況や要因を相手目線で想像することで、思い込みを排した改善策を見出せます。
戦略の一貫性チェック
マーケティングの戦略や企画がうまくいかないと感じたら、BASiCS のフレームにならって戦略要素のズレを点検してみることが有効です。
具体的には、① 狙っている市場・競合の想定と、② 自社の資源・強み、③ ターゲット顧客像、④ 打ち出しているメッセージなどの、BASiCS の各要素とのつながりに矛盾がないかを一覧に書き出してみるというふうにです。
例えば 「高品質志向で差別化する」 と言いながら 「安売り」 で集客しようとしていないか (メッセージと手段の不一致) などです。本書のケースでは 「本格イタリアン」 という強みを打ち出していたのに、ターゲット顧客がカジュアル層にまで拡散していたため戦略がボヤけていました。
戦略と実行における一貫性の欠如を発見できれば、戦略のどこを修正すべきか見えてきます。自身のビジネスで 「誰に・何を・どうやって」 を改めて整合させることで、戦略の軸が定まります。
独自資源を見出しての有効活用
差異化を支えるのが、自社だけの強みの源泉となる独自資源です。
小説の物語の中で、自社の独自資源は何かを洗い出すシーンがあります。「一流シェフの存在」 「本場イタリアの視察によって生み出した料理レシピ」 「固定ファンのお客様」 などが候補に挙がりました。
自分の会社・部署・商品あるいは自分自身のスキルにおいて 「これは他にはない」 という資源や長所を棚卸ししてみるといいでしょう。独自資源をもとに戦略やアピールポイントをつくっていけば、競合に真似できない強みを打ち出せます。
逆に言えば、独自資源が何もない状態で闇雲に戦っても価格競争に陥るだけです。
「できない理由」 より 「どうすればできるか」
本書の中で、主人公の同僚が 「それは予算的に無理では…」 と弱気になる場面があります。それを見たコンサルタントの勝が 「 "できない" で終わらせず、ではどうすればできるようになるか考えないと、何もできない」 と叱咤するシーンがあります。
この言葉は、仕事で壁にぶつかったときの姿勢として学ばされる指摘です。
つい 「時間がないから無理」 「経験がないからできない」 と考えてしまいますが、そこで思考停止をせず、もう一歩進んで 「では時間がなければどう工夫する?」 「経験がなければ誰に学ぶ?」 と解決策への思考に切り替えることで道が開けます。
日常の業務でも、新しい挑戦や困難な課題に直面した際には 「できない理由の列挙」 で終わらせず、「どうすれば可能にできるか」 に意識を切り替えてみるといいでしょう。
本書の主人公たちも、「予算が足りない」 と嘆くだけでなく、低予算でも効果を出せる施策 (手作業での販促や口コミ促進など) を考え抜き、愚直に実行し、少しずつ試行錯誤を重ねながらも結果を出していきました。
まとめ
今回は、書籍 「新人 OL 、社長になって会社を立て直す (佐藤義典) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 戦略の一貫性を保つ。どこで (戦場) 、何を活用して (独自資源) 、どんな顧客価値をつくり (強み) 、誰に (注力顧客) 、どのように魅力を伝えるか (メッセージ) という戦略 BASiCS の各要素に矛盾がないか点検し、戦略から実行に一貫性を持たせる
- 顧客目線で考える。問題に直面したとき、自社の都合や外部要因のせいにするのではなく、お客さんにとってそれは何を意味するのか、なぜお客さんは買ってくれないのかなどと、お客さんの立場になって問題や課題を捉える
- 自社だけの武器を見つける。競合から簡単に真似できない 「独自資源」 (技術, 人材, ブランド資産など) を見つけ磨き、独自資源を強みの源泉として戦略を組み立てる
- 「できない理由」 より 「できる方法」 を探す。予算や時間などの制約を言い訳にせず、「どうすれば実現できるか?」 と解決策に思考を切り替える
- 「想い」 を戦略の中心に据える。自分たちが 「お客さんに何を届けたいのか」 という企業の使命やビジョンを明確にし、想いを事業活動の土台に置くことで、ブレない軸をつくる
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