2012/06/23

今一番欲しい SPIDER から考える「テレビの次の50年」




2012年現在の家電メーカーがつくるテレビの方向性は、高画質化と 3D 対応でしょう。

よりきれいな(高画質)、よりリアルな(3D)映像をユーザーに提供するかに注力しており、テレビの画面はまだきれい/リアルではないという問題を解決しようとするものです。

現在のテレビの方向性は課題設定がずれている


果たしてこの課題設定の立て方は正しいのでしょうか?

ユーザーは現在のテレビ画面の美しさに不満を持っているのかという問いですが、少なくとも私自身はさらにきれいになるテレビ画面に魅力を感じません。課題設定がずれていると思います

例えば YouTube や TED などの動画は画面のきれいさだけをテレビと比べると、勝負にならないくらいテレビの圧勝です。

それでも TED は見ていていておもしろいし、英語やプレゼンの勉強にもなります。YouTube のバスケットボールやサッカーのゴールシーンを集めたもの、音楽やプロモーションビデオ、海外の CM なども見ていて楽しいです。

つまり、魅力なのは映像の中身であって、画質ではないのです。これからのテレビの課題設定としては、「いかにおもしろい映像/番組に出会えるユーザー体験を提供するか」ではないでしょうか。

SPIDER の魅力


このイシューに挑戦しているのが、ベンチャー企業である PTP が開発しているスパイダーです。スパイダーは一言で言えば全録ができるハードディスクレコーダーです。

特徴をごく簡単に挙げると、次のようになります。

  • 最新の1週間の番組を全て自動録画。放送後の見たかった番組も後から自由に見られる
  • 検索機能が充実。おもしろい番組をシェアできるソーシャル性にも注力
  • 使い勝手のよいリモコンなど、ユーザーインターフェイスを重視

スパイダーは法人向けと個人向けの2つがあります(冒頭画像は法人向けの SPIDER PRO)。

地デジ対応版はまだ法人のみしか出していません。個人向けが発売されたら買いたいと思っていたのですが、待ちきれず結局は他社のレコーダーを買いました。

もし今後、個人向けのスパイダーが出たらおそらく今のレコーダーから買い替えたいです。今最も欲しいものがスパイダーと言ってもいいくらい魅力を感じています。なぜかと言うとスパイダーには他のレコーダーにはなく、そもそものテレビ視聴体験を大きく変える可能性が期待できるからです。

SPIDER の本質


スパイダーを放送された番組を全て録画する「全録レコーダー」としか見ないと、スパイダーが持つ可能性、本質を見誤ります

ではスパイダーの本質は、番組 / CM のインデックス化と、検索やソーシャル機能による新たな発見です。

前者は主に検索のための番組情報データ整理で、ネットの世界でグーグルがやっていることをテレビでもやろうとするものです。今回は後者について書くので割愛します。詳しくはこちらの記事にあります。

スパイダーを開発している PTP 社長の有吉氏によれば、単に全録機能だけを提供しても結局見るのは普段視聴している番組しか見ないそうです。

これは同社が2年間に渡って一般家庭モニターで行なった実験結果データからです。、放送された番組を全て保存しておく全録でも、結局は知っているものしか見ない「予約録画」と変わりません。

スパイダーが目指すのは使いやすい検索機能と、ソーシャルによる自分が知らなかった番組の提供です。根底にあるのは「テレビがつまらない」ではなく、「おもしろいテレビ番組 / CM に出会っていないだけ」という考え方です。

全録とは、大容量のハードディスクを積み、多数のチューナーを設置すれば、家電メーカーであればできてしまうコンセプトです。

前出の有吉氏は、「全録」に懸けているのは 5% くらいだそうです。残り 95% はどうやって番組や CM を楽しく見ようか、どうやって面白いものに出会えるか、どうやったら友達や著名人のおすすめ番組を見ることができるかの実現を重視していると言います。新しい発見や埋もれている番組・CM とどうマッチさせていくか、そこばかり考えているそうです。

スパイダーの目標は「テレビの次の50年をつくる」とのことです。

テレビが世の中に出て、その後にユーザー体験を大きく変えた1つにビデオの登場があります。番組を録画し自分の見たいタイミングで自由に見られるようになりました。

テレビ番組や CM はテレビ局の都合で番組表が組まれ、その通りに流すという構図です。視聴者はその時間に合わせてテレビをつける必要があります。この仕組みは今も基本的には変わりません。

ユーザー視点とは逆のあり方で、見たいならその時間にテレビつけてくださいという発想です。それが無理なら自分で録画してくださいという考え方です。

ビデオ登場後、DVD やブルーレイ、地デジによる高画質なデジタル映像、3D テレビの登場もありますが、どれも過去の延長線でしかありません。ビデオ以来のイノベーションを期待するとしたら、「いかにおもしろい映像/番組に出会えるユーザー体験を提供するか」という課題設定なのです。

本当の意味での「通信と放送の融合」「テレビのネット化」とは


ここまでスパイダーの魅力を書いてきました。スパイダーが現在やろうとしていることも、本来のあるべき姿から逆算すると、まだ違う点もあると思います。

スパイダーの仕組みは、1週間程度の全放送番組を自動で保存しておき(全録)、それを使い勝手に優れた検索やリモコン、ソーシャルサービスで「新たな番組との出会い」を提供しようとするものです。

ただ、例えば1000人がスパイダーを使うとすると、1週間の放送データが1000人分それぞれのスパイダー内に記録されます。全体で見ると無駄が発生しています。なぜなら、全員が全録することでデータの重複が生まれるからです。

もし、これが中央に1つの全データがあって、それを各自が読みに行くという仕組みであれば、もっとシンプルになります。

発想はクラウドコンピューティングと同じです。各端末のローカル内にデータを置いておくのではなく、中央のクラウドにつなげるというものです。これがテレビでもできれば理想ではないでしょうか。

そうすれば、1週間という限られた期間ではなく、過去全ての番組が用意されており、検索やソーシャルからフィルターされ、自分が見たい番組、知らなかった新しいコンテンツの発見につながるテレビ環境です。

テレビ番組放映開始から50年以上の全ての番組や CM が中央にあり、自由に見られることがあるべき姿です。

もちろん素人の発想なので、現実的にやろうとするといくつもの技術的・コスト・政治的なハードルがあるのでしょう。

ただ、ネットの世界ではこのあるべき姿がすでに実現しています。100% 完璧ではないですが、それでもネットが便利なのはこの点にあります。

同じことがテレビの世界でもできる時、本当の意味での「通信と放送の融合」「テレビのネット化」が実現します。


※ 参考情報

テレビが進化する可能性を追う!日本の閉鎖的な放送業界を揺り動かす「SPIDER」のさらなるチャレンジ|現代ビジネス
便利になるテレビへの想い-「全録ブーム」からの離脱宣言- 株式会社PTP 代表取締役 有吉昌康|株式会社PTP
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多田 翼 (書いた人)