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投稿日 2011/03/05

AISASとSIPSから考える検索連動型広告とこれからの広告の方向性

ネット広告の代表的な手法の1つである検索連動型広告について、おもしろい記事がありました。
検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)

■AISASモデルで見る検索連動型広告の位置づけ

ここで言う悪しき広告観とは、(マスメディアの広告に比べ)検索連動型広告は効果がはっきりと分かり費用対効果がちゃんと出せることだと記事では指摘しています。ネット広告ではクリック数が分かり、検索連動型広告では検索キーワードに連動する広告が表示されることから、一見すると広告効果が高いように思えます。しかし記事では、ここに落とし穴があると言います。

それは何か。落とし穴とは消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスの見落としですが、これを理解するために、AISAS(図1)という消費者の購買行動モデルで考えてみます。なお、AISASとは、Attention(注意)=>Interest(興味・関心)=>Search(検索)=>Action(行動)=>Share(共有)の頭文字をとったもので、電通が考案したマーケティングにおける消費行動プロセスを表す考え方です。具体的には、消費者がある商品を知ってから購入に至るまでは、注意が喚起され、興味;関心が生まれ、関連する情報を検索し、その商品やサービス購入し、そのことを共有する、というプロセスのこと。


話を検索に戻すと、当たり前ですが何かを検索するためにはキーワードが必要です。これはつまり、この時点で自分の興味・関心はそのキーワードに落とし込めているということです。これをAISASで見ると、すでに3番目のプロセスまで進んでいるのです。前述のように、検索連動型広告では、このキーワードに関連する広告が検索結果のページに表示されます。要するに言いたいのは、検索連動型広告で効果があるのは、すでに興味・関心が生み出された後の段階だということなのです。

これは、逆に言うと検索連動型広告では「知りたい」とか「欲しい」といった欲求を生み出すことができないことになります。そこで大事になるのが、記事が最後で問題提起するように「なぜ検索が起きているか」を考えること。AISASで言えば、Searchより前のAttentionやInterest。これが、消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスを見落とす落とし穴なのです。

■広告は目的により役割が違う

広告のその目的により役割が異なります。例えば、商品・サービス・ブランドのことを知らない人に知ってもらうこと(認知)、おいしそう・使ってみたいと興味を持ってもらうこと、機能を詳しく伝え買ってもらうこと、一度買ってもらった人にリピーターになってもらうこと、まわりの友達に進めてもらうこと、などなどです。これらの例はAISASの流れで挙げてみましたが、広告は5段階のそれぞれで役割が異なります。

ここから導かれる考え方として、検索連動型広告も手法としては有効であるが、かと言ってそれだけでは不十分ではないということ。すなわち、すでに検索キーワードレベルで興味・関心を持っている人への広告としての役割を持っている一方で、興味・関心を生み出す役割の広告が別に必要になる。

■セレンディピティと共感

最近読んでおもしろかったキュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる(佐々木俊尚 ちくま新書)にセレンディピティという言葉が出てきます(p.175)。これはserendipityという「偶然に素晴らしい幸運に巡り合ったり、発見をすること」を意味する英単語のことですが、著者の佐々木氏によれば、ネットの世界でのニュアンスとしては、「自分が探していたわけではないけれども凄く良い情報を偶然見つけてしまう」ことだと説明されています。

広告の視点で考えると、従来はこのセレンディピティを生み出していたのは、ブランド露出に貢献するマスメディアが担っていたように思います。TVCMで思いがけないモノを初めて知り(セレンディピティ)、店頭で見つけついつい買ってしまったみたいなプロセスです。個人的に思うのは、日本の広告費:5兆8427億円(日本の広告費2010|電通)のうちTV広告は依然として30%近い1兆7321円を占め、一方のネットは増加傾向とはいえ13%程度(7747億円)なのは、ここにも要因があるのではということです。

となると、ネット広告において、検索連動型では捉えられない「興味・関心を生み出す」ための広告、セレンディピティを生み出すような広告が今のところ足りない要素となります。ここに対するヒントは、同じく電通が2011年1月に発表したSIPSモデル(図2)にあるのではと思っています。

Source:SIPSモデル|電通から引用

電通によれば、SIPSモデルはAISASから進化したソーシャルメディアの視点を重視し、生活者の行動を深掘りした概念と説明されています(注.電通によればSIPSはAISASにとって代わるものではなくAISASはなくならないとしている)。ヒントとはSIPSの、特に「共感する(Sympathize)」の部分。先ほどセレンディピティとは偶然に凄く良い情報を見つけると書きましたが、自分にとってセレンディピティなことは共感につながると思っています。であればいかに消費者の共感を生み出すか、それを広告でできるかが検索連動型広告にはないピースとなります。

ただ、共感を生むのは必ずしも広告である必要はなく、それは前述の佐々木氏の言う、膨大な情報から選び意味づけをしてくれるキュレーターかもしれず、単に友人のお勧めなのかもしれません。そういえば、「フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)」(デビッド・カークパトリック 日経BP社)という本にはこんな記述がありました。『グーグルのアドワーズ検索広告は「要求を満たす」。対照的に、フェイスブックは要求を生み出す。(ザッカーバークたちの)グループはそう結論を出した。』(p.379)。AISASのモデルに当てはめると以下のイメージです(図3)。


要求を生み出すためには多数ある広告手法をどう組み合わせるか(クロスメディア)、あるいは従来の広告の概念とは違う、例えばソーシャル性を取り入れていくのか、企業側だけではなく消費者をどう巻き込んでいくのか(SIPSの「参加する(Participate)」)。このあたりは個人的にもとても興味がありますし、今後どう進化していくのかが興味深いところです。


※参考情報

検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)
日本の広告費2010|電通
SIPSモデル|電通


キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)
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投稿日 2010/12/27

Googleと「個人データ」を考える

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである」。これはGoogleが掲げるミッションです。

■Googleが無料サービスを提供できるワケ

グーグルは多くのサービスを提供しています。ウェブ検索、Gmail、グーグルドキュメント、カレンダー、グーグルマップ、YouTube、等々、ここで挙げきれないほど。そして特徴的なのは無料でユーザーに提供していることです。

なぜ無料で提供しているのでしょうか。別の表現をすればどこでお金を取っているのでしょうか。その答えは広告にあります。アドワーズという検索結果連動型の広告やアドセンスというコンテンツ連動広告がそれです。グーグルの考え方は、自社のサービスを使うユーザーが増えれば増えるほど、そこで表示される広告価値が上がる。よって、ユーザーには無料で提供してくれるのです。

■個人データの取得と活用

実は広告以外に、無料で提供する別の目的があると思います。それがユーザーの利用情報である「個人データ」の取得。

例えば、グーグルで検索に使われた検索語(クエリー)は履歴として蓄積され、別のユーザーの検索に活かされています。グーグルの検索ボックスに入力していくと、検索語の予測が複数表示されますが、あれが活用例です。このように多くのユーザーが使えば使うほど、グーグルの検索精度も向上していきます。グーグルにとっては個人データの取得、ユーザーにとっては利便性の享受という、ウィン-ウィンの関係が見えてきます(図1)。


個人データ活用のわかりやすい例がグーグルのブログ上で公表されていました。「Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう」という記事がそれです(以下は記事から一部引用)。

出所:Google Japan Blog

■データから情報へ

個々人がグーグル検索を使って知りたいことは千差万別です。しかし、ユーザーの利用履歴という個人データを積上げることで、上記の例では今年の流行が見えてきます。個人データという状態では必ずしも整理されておらず量も膨大ですが、蓄積し体系立てることでデータは「情報」となります。

このことに関して、ドラッカーは著書「明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命」で次のように述べています。「整理して体系化しないかぎり、データは情報とならず、データにとどまる。意味をなすには、体系として把握しなければならない」。

個人データについて思うのは、ネットがありモバイルも含め個人の情報発信が普及しなければ、可視化できないものであったということです。

例えば、SNSやツイッターで発信される情報の多くは、昔は個人の中でしか存在しないようなものでしたが、今ではネット上に乗せることで情報が共有されます。個人データが価値を持つような有効活用される背景には、こういった技術の進歩に加え、データ収集システムやデータハンドリングなど、データから情報体系への仕組みができてきつつある点も大きいように感じます。

■Android OS普及と個人データ取得

グーグルに話を戻しますが、前述のようにグーグルが提供するサービスのユーザー数が増えれば増えるほど、また使用すればするほど、グーグルには個人データが集まってきます。PCでの使用に加え、アンドロイドOSのスマートフォンが普及していくことで、ますますその傾向が強まる可能性があります。

ちなみに、asymcoというハイテク市場分析系ブログで企業アナリストであるDediu氏が2011年末までのスマートフォンの普及動向を予測しています(図2)。

出所:asymco

左のブロックは米国調査会社ニールセンの調査データが出所です(2010年12月現在の最新の調査結果はこちら)。そして右側はDediu氏による推計で、緑色のアンドロイドOSシェア(人数ベース)が伸びているのがわかります。

■個人データ独占という課題

このように、グーグルはこれからも個人データの取得を拡大させる可能性がありますが、それは同時に、グーグル1社が独占的に個人データを収集するという課題も抱えることになります。その例がグーグルとヤフーの検索技術提携により、両社の日本での検索シェアは9割になることで、これに対しては反対する声や適切な競争環境を損なうことへの懸念もあります。

個人データが有効に活用されること自体は、世の中がより便利になる方向にあると思っています。ただ、よりよい世界になるには一方で課題も存在するのが現状です。


※参考情報

Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう|Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/2010/12/google-2010.html

Half of US population to use smartphones by end of 2011|asymco
http://www.asymco.com/2010/12/04/half-of-us-population-to-use-smartphones-by-end-of-2011/

U.S. Smartphone Battle Heats Up: Which is the “Most Desired” Operating System?|Nielsen
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/us-smartphone-battle-heats-up/

経済教室|日本経済新聞2010年12月24日(金)朝刊


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投稿日 2010/12/18

グルーポンの大幅割引の目的と課題

ビデオリサーチインタラクティブから、グルーポンなどの「クーポン共同購入サイトの動向」が発表されています。自宅PCからの2010年10月度の推定訪問者数は306万人で、わずか2か月前の8月から2倍の規模になったそうです(図1)。8月:159万→10月:308万人。なお、集計対象のクーポン共同購入サイトは、グルーポンやポンパレを含む計92サービスです。

 クーポン共同購入サイト全体の推定訪問者数 時系列推移(2010年4月~10月)(自宅PC)

 出所:ビデオリサーチインタラクティブ

■グルーポンとモラタメ

クーポン共同購入サイトの仕組みは、一言で表現すると「みんなでクーポンを買って割引を共有する」というものです。

グルーポン(Groupon)の語源はGroup+Couponです。もう少し詳細を見ると、各クーポンは締切期限や規定人数が設定されており、期限内にその人数が集まらないとクーポン購入が成立されません。

そこで、購入希望者は成立されるようにクーポン情報を宣伝することになりますが、そこで威力を発揮するのがツイッターやブログなどの個人による情報発信ツール。ある程度まとまった人数で買うとディスカウントが効くこと自体は目新しいものではありませんが、それにネット上にあるツイッターなどのリアルタイム性+ソーシャルがうまくマッチした仕組みだと思います。

クーポン共同購入サイトとはやや仕組みが異なりますが、自分の欲しい商品・サービスが割引されて利用できるサイトに、モラタメサンプル百貨店などがあります。

例えばモラタメは、モラえる+試(タメ)せるからきている名前で、新商品などの商品を無料でもらえたり、送料のみの負担で試せるのが特徴です。送料が有料でもその商品の定価よりは安いので消費者にとっては割引と同じことと言えます。モラタメやサンプル百貨店の特徴は、使用した後にその商品の感想をブログやコメントを通じてモラタメに返す点にあります(図2)。


■なぜ大幅割引や無料なのか

ではなぜグルーポンには大幅な割引があり、モラタメは無料(一部送料のみ負担)なのでしょうか。

まずグルーポンについて、なぜクーポンが大幅に割り引かれる(50%OFFなど)のかを考えてみます。思うに、共同購入クーポンを発券することが、広告やプロモーションとして位置づけられているからではないでしょうか。つまり、大幅な割引で興味関心を引き立たせ、自分たちのサービスや商品を利用してもらう。仮に赤字であっても、その顧客が自分たちのことを認知してくれる、さらにはまた来てくれる(リピート)を期待してのことです。

一方のモラタメ。無料であることのカギは、使用後の商品のフィードバックにあります。つまり、無料の代わりに感想・評価を教えてね、という仕組み。企業にとっては実際に使った消費者の声が手に入るわけで、少なくともモラタメで提供する商品の価格以上に価値があると判断しているからではないでしょうか。消費者からの評価を商品改良の参考にしたり、ターゲットの検討、販促・プロモーション等々に活かしていくのだと思います。

■それぞれの課題を考えてみる

次に考えおきたいのが、グルーポン系とモラタメ系の目的が本当に達成されるのかという点です。

まずモラタメの場合ですが、目的は消費者の声を集めることです。企業にとって価値があるのは実際に使ってくれた人の評価が得られる点にあります。しかし、そもそも評価を送ってくれた使用者が単に無料だからその商品をもらった・試したことも考えられ、時には商品のターゲットとはズレている人たちの評価を集めてしまうかもしれません。つまり、その商品を買ってほしい人の感想が集まらなければ、その評価を次の商品施策に活かしたとしても有効とは言えず、時には逆効果となってしまうことも考えられます。

そしてグルーポン。これはあくまで推測ですが、グルーポンの場合はクーポンを利用するお客が、単にお得だからという理由だけということが考えられます。共同購入クーポンを発券する目的は自社サービスの認知を広げること・リピート顧客を増やすことにあると思っていますが、このようなお客さんはその目的が達成できない可能性があります。であれば、クーポンを提供することは収益を下げる要因にもなり兼ねません。

もう一つ課題。グルーポンなどのクーポン共同購入については、プレイヤーの淘汰および独占による弊害も出てくる可能性があります。日経ビジネスには、市場参入企業は100社を超え競争が激化し、早くも、勝ち組・負け組の構図が鮮明になりつつあるという記事も見られます(図3)。

 出所:日経ビジネスオンライン

そして日経ビジネス(2010.12.20・27号)には、「グルーポンも独占禁止法違反?」という記事が掲載されています。記事によれば、同誌が以前に入手したというグルーポンが飲食店と結んだ契約書の「パートナー義務」規約内に、パートナーは契約期間の終了後24カ月間において、「理由の如何を問わず、国内企業におけるグルーポンと類似のウェブサービス(Piku、KAUPON、ポンパレ、Qponを含むが、これらに限られない)において出稿、掲載等をしない」とする旨の条項が含まれていたそうです。なお、日経ビジネスの取材後にグルーポン側では急きょ規約を変更し現在はないとのこと。これは、公正取引委員会の立ち入り検査があったDeNAと同じ構図です。

モバゲーやグリーなどのゲームやグルーポンなどの新興ネットビジネス市場は先行優位性が大きいと思います。つまり、先行し顧客を取り囲んでしまえば独占して利益を得られる構造なのではないでしょうか。ユーザーにとっては自分の知らないところでいつの間にか独占状態が起こっており、お得だと思っていてもそれによる負担が発生しているのかもしれません。

※参考情報

さらに拡大を見せる、クーポン共同購入サイトの動向|ビデオリサーチインタラクティブ
http://www.videoi.co.jp/release/20101115.html

グルーポン市場、大手寡占へ|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101126/217291/

グルーポンも独占禁止法違反?|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101216/217577/


投稿日 2010/10/16

次世代ネットTVとこれからの視聴率

TV番組の人気を知る指標の1つに、視聴率があります。

■視聴率の意義

日本では2000年3月以降、「ビデオリサーチ」(以下、VR)の調査結果がそのまま世帯視聴率となっており、同社のHPには視聴率を調査する意義として、以下の点が挙げられています。
・スポーツ番組や大事件が起きた時の特別番組などの視聴率から「国民の関心の高さを探る」
・視聴率の移り変わりから「社会の動きを知る」
・テレビ局や広告会社等が広告取引をする際に、テレビの媒体力や広告効果を測るため
・視聴者がテレビをよく見る時間帯やよく見る番組を知ることで、番組制作・番組編成に役立てる

■VRの視聴率調査

視聴率には「世帯視聴率」と「個人視聴率」の2つがあり、VRが集計をしているのは世帯をベースにした世帯視聴率です。例えば、視聴率が10%の番組というのは、テレビ所有世帯のうち10%の世帯でそのテレビ番組がつけられていた、ということになります。

少し専門的な話になりますが、視聴率の調査方法は大きく3つあります。1.PM(ピープルメータ)システム、2.オンラインメーターシステム、3.日記式アンケート(詳細はビデオリサーチHP)。現在のVRの視聴率調査仕様は以下の通りです(図1、表1)。







なお、VRでは視聴率の対象となるのは、地上波放送、BS放送、CS放送、CATVなどのテレビ放送で、VTRやDVRの録画・再生、テレビゲーム、パソコンによるテレビ放送の視聴などは視聴率に含まれません。

■Apple TVとGoogle TV

今年になって、アップルとグーグルのネットTV発売が話題になっています。アップルTVの特徴は、保存機能をなくしストリーミング放送に特化している、本体価格は99ドル、コンテンツレンタル料金はHD映画を4.99ドル・テレビ番組を99セント、などにあります。

一方で、グーグルTVの特徴は、TVとWebの融合で、TV番組から提携コンテンツやネットまでキーワードで検索できるという点にあります。例えば、TV番組を見ていて、最近気になる商品のCMが流れたので、関連情報をYouTubeや商品のウェブサイトをチェック。あるいは、ブログ、アマゾンや楽天市場、比較サイトなどで口コミや価格を調べる。場合によっては、ツイッターやSNSで友達にシェアしたりなどが、グーグルTVで全部できてしまいます。

おそらく、アップルTVとグーグルTVはそれぞれiOSとアンドロイドOS(あるいはクロームOS)で動くので、モバイルなどの周辺端末とも相性がいいはずです。具体的には、リビングで見ていた番組の続きを、外出先でモバイルで見ることなどの連携ができそうです。

■次世代ネットTVのコンテンツ

このように、特にグーグルTVにおいては従来のTVで視聴できるよりもコンテンツの種類が大きく増えます。動画系のコンテンツとそれ以外のコンテンツに分けて整理してみました(図2、図3)。



 

それぞれ、ぱっと思いついたままに挙げていますので厳密な意味ではないかもしれませんが、ここで強調して言いたいのは、グーグルTVのような新しい価値を提供する次世代ネットTVでは、従来のテレビで見られる番組と比べ多様なコンテンツを楽しむことができるという点です。

■これからの「視聴率」

日本の広告費は約5億2000億円で、うちテレビが約1兆7000億円、一方のネット広告は7000億であり、まだまだテレビのほうが1兆円ほど大きい状況です(2009年の電通調べ)。上記のように、ネットTVが普及し、テレビとネットの広告費は2つの相乗効果が認められればこれらの数字を単純に足し合わせた水準にとどまらず、合計額以上の規模になるかもしれません。

そう考えた時に、上記のような幅広いコンテンツを楽しむことを前提にした場合、冒頭で触れた視聴率では正しく知る指標としては物足りないような気がします。あるいは、前述の視聴率の意義を十分に果たせなくなるように思います。視聴率もまた変わらなければならないのではないでしょうか。

例えば、視聴「率」ではなく、視聴人数や視聴回数などの絶対数のほうが広告効果を測りやすいかもしれません。あるいは、視聴者はどういうリンクをたどり情報を得たのかも気になるところです。多くのコンテンツがオンライン上にあり、また各端末がアンドロイドなどのOSがベースになれば、現在の視聴率調査とは全く異なる新しい手法によりこれらのデータが得られることが期待できそうです。


※参考情報

○視聴率関連

視聴率について (ビデオリサーチ)
http://www.videor.co.jp/rating/wh/index.htm

視聴率 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%96%E8%81%B4%E7%8E%87

消費動向調査 - 平成22年3月実施 (内閣府)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2010/1003honbun.pdf

○Google TV / Apple TV

今度こそテレビとWebの統合なるか 「Google TV」は従来のWebテレビと何が違うのか? (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/news/201005/21/tv.html

グーグルTVでテレビはどう変わる? 広告主は歓迎、安いコストでテレビ広告が可能に (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100528/214662/

Apple TVなんて目じゃない、ソニーが「Google TV」採用した理由 (Tech Wave)
http://techwave.jp/archives/51511941.html

早く日本にもやって来い! 新発売のApple TVに驚きの絶賛評価が続出中... (GIZMODE)
http://www.gizmodo.jp/2010/10/apple_tv_review.html

やはりアップルはインターネットテレビを出してきた (大西 宏のマーケティング・エッセンス)
http://ohnishi.livedoor.biz/archives/51124653.html

Apple TV対Google TV、勝つのはどちらか (ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1009/10/news011.html

○広告

2009年の日本の広告費 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


投稿日 2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。