先日放送されたカンブレア宮殿はコメダについてでした (2012年7月26日) 。放送内容はコメダのビジネスモデルが紹介されていました。
差別化されたコンセプト
まず印象的だったのはコメダのコンセプトである 「地域の人たちがゆったりできる場所を提供する」 ことでした。もともとはコメダ創業者である加藤太郎氏が 「お客がさっさと帰るような店は田舎では成り立たない」 と思い、事業を始めたのが原点だそうです。
コメダが一般の喫茶店とは差別化されていることがわかります。というのも喫茶店や飲食店では重要視している 「回転率」 をコメダでは追及していないのです。むしろお客さんには長居歓迎というスタンスです。
飲食店は、売上 = 客単価 x 顧客数 であり、回転率は顧客数の1つの分解要素です。顧客数はさらに次のように分解できます。顧客数 = 席数 x 平均座席占有率 (= 営業時間 ÷ 回転率) 。
例えば回転率が30分で新しい客に入れ替わるのと、2時間で入れ替わるのとでは1日の売上に影響します (8時間営業とすると、回転率30分では16組、回転率2時間では4組) 。
コメダでは回転率を重視していないことに驚きました。むしろ長居してもらう、つまり回転率を下げることを大切にしているからです。
コメダの考え方はシンプルです。長居してもらえるようなゆったりとした場所を提供すれば、お客は常連になってくれることです。それでいて儲かればお客もコメダも Win-Win になれる、というものです。
カンブリア宮殿ではコメダのお客の平均滞在時間は1時間以上というデータが紹介されていました。あるお客さんへのインタビューで 「6時間以上いたこともある」 と言っていました。
高い利益率を実現する低コスト運営
次におもしろかったのは、回転率を追及しないのになぜコメダは利益が出せるかという視点でした。放送で紹介されていたコメダの営業利益率は 17% でした。これは一般の飲食店が 9% であることを考えると高い利益率です (数字は2007年経産省からとのテロップ) 。
17% という利益率の裏には低コスト努力がありました。放送で紹介されていたのは、仕入れコストと人件費の無駄をなくすことでした。
仕入れコストについて、コメダでは使用している食材のアイテム数が約20個で、普通の店よりも少ないそうです。ポイントは、食材数は少ないものの、メニュー数は減らしていないことです。
1つの食材を複数のメニューに使用しています。放送ではミックスサンド、フィッシュフライバーガー、スクランブルエッグトーストには、全て同じ卵ペーストを共通で使っているとありました。食材を減らし、使い切り、在庫や廃棄ロスを極力なくしているのです。
コメダの人気メニューの1つである 「モーニングセット」 は、コーヒーを頼むと無料でトーストとゆでたまごが付いてきます (開店~朝11時まで) 。これも全国450店舗のコメダの仕入れ購買力もあり 「赤字ではない」 (コメダ安田社長) とのことでした。
また、メニューの仕込みは開店前に従業員全員で行ない、開店後は料理を組み合わせる程度だそうです。だから調理スタッフは最低限でよく、人件費を抑えています。
人件費の無駄をなくすことについて、来店客数のピークをつくらないようにし、人件費を抑えるという考え方でした。
放送ではあるコメダの店では一日中お客が途切れず、午前は近所の高齢者、昼時は子連れの主婦、午後はサラリーマン (打合せ) 、夕方は学生 (勉強) でした。
もしある時間帯だけお客さんが来る場合、その時間はアルバイト等の人を投入しないといけませんが、「ピークの時間帯前後の暇な時も人を張り付かせることになり、人件費が高くなってしまう」 とコメダの安田社長は言っていました。
まとめるとコメダの高い利益率の背景には、仕入れ位や人件費を抑えるという低コスト運営にありました。
居心地の良さというコメダの提供価値
名古屋では喫茶店ではなく 「コメダへ行く」 というブランドが成り立っているほどです。朝の開店直後から行列ができていることも珍しくありません。
名古屋ではコメダ以外の喫茶店でもモーニングセットを頼めば、トーストやゆで玉子、さらには茶碗蒸しまで無料で付くサービスがあります。休日の朝ごはんは家族でモーニングセットを喫茶店で食べるという人も少なくありません。このように名古屋には独自の喫茶店文化が根付いています。
あらためてコメダの魅力を考えると、居心地の良さです。コンセプトそのままに長居していてもよいという雰囲気があります。
内装もいかにお客にくつろいでもらえるかで作られています。座席は4人席が多く設けられていたり、座り心地のよいペロア調のソファ、隣の席と目線が合わない仕切りなど、全体として隣同士が接近しすぎていなく、周囲が気にならずに居心地がよい設計です。
放送を見て思い出したのは、ベロア調のソファは弾力や背もたれの角度が良く、長時間座っていても疲れにくいことでした。また、店員の服装は、黒エプロン + 白ポロシャツ + 三角巾 というスタイルです。シンプルにし、お客がラフな格好でも気兼ねなく来店してもらえるようにとのことでした。
コメダが結局のところ何を売っているかというと、居心地の良さなのです。「地域の人たちがゆったりできる場所を提供する」 という創業当時のコンセプトがそのまま実現されているのです。
居心地の良さは座席などのハード面だけではなく、接客のソフト面でも特徴がありました。
カンブリア宮殿の放送で紹介されていたある店では、店長が100人以上のお客さんのいつもの注文内容を細かく覚えていて、「いつものあれ」 でオーダーが通っていました。
中にはかなり細かい要望があり、歯が弱いからサラダからきゅうりだけ除いてほしいとか、コーヒーはミルク無しのぬるめ、パンは耳なしで、等々のカスタマイズ注文を、「いつものあれ」 で通っていました。また高齢者用にサンドイッチを細かく切り分けるなど、手間を惜しまないそうで、これは各店舗の裁量とのことでした。
喫茶店によらず、一般的にチェーン店であればどの店も、同じ商品であれば大きさや味は同じです。しかしコメダは、チェーン店にもかかわらず店ごとにお客にカスタマイズしています。客にとって好みを聞いてもらえるという、他チェーンに比べての差別化要素があります。
長居でき居心地のいい第三の場所
ちなみに、スターバックスのコンセプトは 「第三の場所を提供する」 ことです。自分の家が第一、職場/学校が第二、そしてスタバが第三という意味です。
コメダの考え方もこれと同じです。自宅でも職場でもないくつろげる場所を提供します。スタバの場合は第三の場所としてはやや格式高い雰囲気ですが、コメダはもっとプライベートで、スタバとはポジショニングが違います。
コメダのビジネスモデルは、地域のお客さんにゆったりして長居できる場所を提供すると同時に、自分たちも利益を出しています。
※参考情報
珈琲所 コメダ珈琲店
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