2012/08/14

スマートテレビは普及するのか?ビジネスモデルで考える理想の姿と現実




スマートテレビが、スマートと言えるための必要な要件は以下です。

  • ネットワーク接続され双方向性がある。テレビと、パソコン・スマホ・タブレット等の各種デバイスと連動する
  • テレビ上で各種アプリが使える。例えば、ソーシャルメディアと連携する
  • OS などのソフトウェアのアップデートでテレビが新しくなる (テレビを新しくする ≠ ハードの買い替え)
  • ユーザーインターフェイスが直感的な操作で使いやすい
  • 課金の仕組みができている
  • あらゆるコンテンツがいつでもどこでも自分の見たいタイミングで見られる


自分のタイミングで番組が見られること


視聴者の視点で、あるべき理想のスマートテレビを考えてみます。

一言で表現すると、見たいコンテンツ (番組や CM) が自分の見たい時に見られるテレビです。

今のテレビ視聴の主流は、リアルタイムで番組放送を見るにはテレビ局の流す時間にテレビをつける必要があります。見逃しそうな場合は録画する必要があるのはこのためです。

あるべき姿は、現在や過去の視聴番組を自分の好きなタイミングで見られることです。見るのはテレビでも、スマホやタブレットでもあらゆるデバイスがつながっていることです。

コンテンツを見る・探す・共有するアプリがサポート役としてあり、アプリやテレビ自体を新しくするのはソフトウェアのアップデートです。今のようにテレビというハード機器事態の買い替えによってではなく、OS を中心にしたソフトのバージョンアップデートからです。


使いやすいインターフェイス


ユーザーとテレビを結ぶインターフェイスが使いやすいことです。決して今のようなボタンがたくさんあって複雑なリモコンではなく、直感的でパッと見ただけで誰でも使えるものです。

具体的なイメージは次のようなものです。

例えば、オリンピックの競技を見ていて 「48年ぶりの金メダル」 と出たとします。そこから、当時の金メダル獲得シーンがすぐに見られる、関連するオリンピック映像や、48年前の東京オリンピックの名シーンをダイジェストで見るというユーザー体験です。

自分が生まれる前のことだとすると、新しい色々と発見があるでしょう。1964年当時の社会情勢や流行した歌・ファッションが紹介されてもよいでしょう。

積極的なテレビ視聴もできる一方で、受け身での視聴でもテレビが関連するおすすめ番組を並べてくれる、もしくは自動でつなげてくれるようなテレビの視聴環境です。


ビジネスモデルから考えるスマートテレビ


ここまでは番組の受け手である視聴者の視点で考えました。

このようなテレビ環境が成立するためには、提供側の各プレイヤーも含めたスマートテレビのビジネスモデルが成立する必要があります。


ビジネスモデルが成立する3つの条件


ビジネスモデルが成り立つ条件は以下です。

  • エンドユーザーや顧客にとって、既存のモデルよりもより高い価値、または低いコストが提供される
  • ビジネスモデルの関係プレイヤー (ステークホルダー) 全員に win が成立する
  • カネ、情報、モノ/サービスの流れが合理的である


1. より高い価値、または低いコストで提供される

1つ目の条件は、前述の視聴者視点でのあるべきスマートテレビがそれです。テレビがスマート化し、視聴体験は今よりも魅力的でないといけません。つまり、より高い価値が提供されることです。

低いコストというのは、テレビが安くなることでも良いですが、テレビ番組を見るための面倒の解消を期待したいです。

具体的にはリモコンがもっと使いやすくなること、見たい番組を事前に録画する手間もなくなってほしいです。これらが解消されるだけでも十分テレビを見るコストが下がります。


2. Win-win が成立する

2つ目の条件である win-win についてです。

スマートテレビでも、ビジネスモデルは広告モデルかユーザー課金の両方が併存するでしょう。スマートテレビの関係プレイヤーは、放送局、広告主、広告会社 (代理店) 、通信会社、家電メーカー、視聴者です。

広告またはユーザー課金モデルのいずれも、これらのプレイヤーに win がないといけません。

1つでも win-win が発生しないとビジネスモデルがまわらなくなります。その場合は、win が成立しないプレイヤーを除外するか (例: 中間業者の中抜き) 、win が成立するようビジネスモデルを修正することになります。

テレビは依然として産業規模が大きく、関係プレイヤーも多岐に渡ります。もしスマート テレビでは全てユーザー課金で成り立つのであれば、ステークホルダーから広告主と代理店が抜けてもよくなります。しかし、これまでの両者のテレビ業界での影響力を考えるとそれは現実的ではないでしょう。


3. カネ、情報、モノ/サービスの流れが合理的

3つ目の条件についてです。お金は広告かユーザー課金モデルによりまわることになりますが、広告自体も変わっていくでしょう。

インターネットの世界では一般的になっている、ユーザーの属性やネット閲覧履歴にもとづく広告と同じことがテレビでも起こるはずです。課金モデルも携帯電話のように課金システムがうまく整備され、お金の流れがより合理的になるとビジネスモデルとして洗練されるでしょう。


スマートテレビは今後はどのように普及するか


スマートテレビには期待していますが、一方で現実的には日本ではスマートテレビは、少なくともこの先5年は普及しないでしょう。

理由は、地デジ化に伴いテレビの買い替え需要が一巡してしまったからです。

「地デジを見るためには新しいテレビの買い替えを」 という中、多くの家ではテレビを新しく買いました。しかし変わったのは、単にテレビ画面が大きく鮮明できれいになった程度の変化でした。

官民総動員の買い替え需要を起こし、50年に1回のインパクトがありましたが、日本のテレビ環境はほとんど変わらなかったわけです。テレビの耐用年数を考えると、次にテレビを買い換えるのは少なくとも数年はかかるでしょう。

とはいえ、放送局、通信業者、広告主、広告代理店、メーカー、等々はそれでもスマートテレビに期待しているはずです。ただし、テレビ機器自体は先数年は変わらないので、テレビそのものは今のままで、周辺機器が先にネットワーク接続していくでしょう。

例えば、次のようなものです。



スマートテレビ普及のそもそものボトルネック


このように世の中の流れはスマートテレビに少しずつ進んでいます。ただし、単にテレビをネットワーク化するだけでは利用者メリットは大きくないでしょう。

いかに魅力的なコンテンツがそこにあるか、かつ、利用者がそれを発見できるかです。見たい番組がすぐに見つかる、話題になった番組もそこにあり、思いもよらない面白いコンテンツに出会える、全てフラットに並んでいる環境です。

いくらメーカーや放送局等がスマートテレビ化を推進しても、最終的なステークホルダーである視聴者がメリットを感じなければ実現されません。

各家庭にある多くのテレビは、有線 LAN を接続すればテレビでネットにつながるようにできています。しかし、実際にオンライン接続されているテレビは少ないのではないでしょうか。

データとしては古いですが、MMD 研究所が2011年に実施した調査結果ではテレビでのネット接続利用は 20% 超とありました (n=2,060。ネット調査) 。

イノベーターとアーリーアダプター層で合わせて 16% と言われ、これを前提にすれば調査結果の 20% が意味することは、主要なレイヤーであるマジョリティにまでは普及していないということです。




インターネットの普及率からすると、もっとテレビがネットにつながってもいいはずです。大部分の家でそうなっていないであろう理由は、テレビにネットをつなげるメリットがイメージできないからでしょう。

テレビ とネットでわかりやすいメリットのイメージが描ければ、スマートテレビ環境は間違いなく進みます。


最後に


2012年のロンドンオリンピックが閉幕しました。過去最多の日本のメダル獲得数もあり、オリンピックは盛り上がってきています。その中心にテレビがあり、なんだかんだ言ってもテレビはよく見られていると感じます。

冒頭で挙げたスマートテレビが実現するにはいくつものハードルがあるのが現実です。

そもそもビジネスモデルとして成り立つのか。各ステークホルダーへの提供価値は何か。価値によって、スマート TV のビジネス規模がどれくらいのマーケットかが決まります。

そして、何よりも視聴者はどんな新しいテレビ体験ができるかです。早急には変わらないと思いますが、期待したい少し先の未来構想です。

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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。