2014/12/31

書評: 介護退職 (楡周平)




楡周平の小説 介護退職 が、ストーリーのおもしろさだけではなく、社会問題の視点で考えさせられる内容でした。



小説のストーリー設定


以下は内容紹介からの引用です。

三國電産北米事業部長の唐木栄太郎は取締役の椅子も目前。妻と名門私立中を目指す息子と家族三人で、都内の自宅で絶好調の年末を迎えていた。

そんなある日、秋田で独居する老母が雪かき中に骨折したと電話が入る。その時は、まさかそれが、奈落への号砲とは知る由もなかった…… 。

平穏な日々を崩壊させる "今そこにある危機" を、真正面から突きつける問題作、遂に文庫化!


母親の骨折が負の連鎖へ


主人公の母親は76才で、秋田でひとり暮らしをしています。ストーリーは、以下のような連鎖で、主人公と家族は経済的にも精神的にも追いつめられていきます。

  • 母が転倒により足を骨折をし手術
  • 主人公宅でのリハビリ中に、母親の痴呆症が顕在化
  • 義母を介護する妻が、過労とストレスによりくも膜下出血で手術。そのまま入院
  • 主人公は母の介護を続けるも、次第に仕事に支障をきたす。プロジェクト責任者を外され、部署異動にやがては退職を考えるようになる

遠い田舎で夫に先立たれ、ひとり暮らしを続ける母。それに対して漠然と将来に不安を覚える主人公。毎晩、母親にその日の調子を尋ねるために電話をすることが日課になるも、それ以上のことはやろうと思っても具体的には特に何もしていない状況です。

そんな中、親の介護問題がある日突然に発生するというストーリー設定です。以下は本書から印象に残った箇所の引用です。

人間は必ず老いる。いずれ母も介護の手を必要とする時がくるだろうとは朧 (おぼろ) げに考えてはいたが、それが現実となると、何一つとして準備が出来ていないことに私は呆然となった。


小説の内容は他人ごとではない


小説の状況は他人ごとに思えませんでした。

将来的に、いずれは自分の親や義理の親の介護をすることになるでしょう。そうなった時は、介護により仕事や自分自身に割ける時間が絶対的に減ります。小説を読んでいて思ったのは、同じような状況が多くの人で普通に起こるであろうことでした。

もう1つ思うのは、介護問題が発生するのは年齢の高い人から発生することです。実際にこの小説でも、会社の社運を担う大きなプロジェクトの責任者 (主人公) の身に起こり、プロジェクト管理ができなくなります。


介護と育児の相違点


家族のケアによる時短勤務で代表的なのは、妊娠や出産後の育児があります。

介護と違うのは、妊娠や育児による休暇あるいは時短勤務の対象者は、20-30代が主でしょう。比較的若手 ~ 中堅社員になるでしょう。一方の介護は、会社の規模や社員平均年齢にもよりますが、部長や役員クラスで起こり、自分や周囲への影響が異なります。

また、妊娠や育児による休暇や時短勤務に比べ、介護によるそれらへの理解や経験は少ないのではないでしょうか。


最後に


子どもケアと親のケアは、自分の家族と言えども正反対なことです。しかし、見方を変えると、本質的には同じことです。小説内のある医者の言葉です。

 「人間はある年齢に達すると、その時点を堺に、今まで歩んできた道を逆に辿り始めるのではないかと思うことがあります。

目も見えない、話もできない、親の世話なくしては生きることもできない乳児から、徐々に知恵を付け、大人へと成長する。老いると今度は知力や生活能力が低下し始め、誰かの助けを受けながら人生の終わりを迎えるものなんだとね」



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。