#マーケティング #ビジネスモデル
今回は、カーシェアリングサービスの 「タイムズカー」 を取り上げます。
タイムズカーのビジネスモデルを読み解き、「勝つ仕組み」 のつくり方を詳しく見ていきましょう。
タイムズカー
出典: タイムズカー
タイムズカーは、最短 15 分から 24 時間 365 日で利用できるカーシェアです。無人駐車場に行って自動化されたシステムで手軽に利用できます。
借りられる車種は、コンパクトカーや軽自動車、ミニバン、さらには EV (電気自動車) まで幅広く揃え、全国に 12,000 箇所以上のステーション (駐車場などのタイムズカーを借りられる場所) があります。
スマートフォンの専用アプリで直前まで予約が可能で、24 時間いつでも利用開始・返却ができます。利用時間は 15 分単位から設定でき、短時間の買い物から週末のドライブまで、用途に応じて使い分けられます。
タイムズカーの利用方法は、アプリで予約後、アプリまたは会員カードで車の施錠を解除し、車の中で別の専用の鍵を解除して出発です。返却も同じ場所に戻し、車内の施錠とアプリでドアの施錠をすれば終了です。これで返却手続きも同時に完了し、メールで利用終了の案内が送られてきます。
タイムズカーの料金体系は、利用時間あたりと走行距離の二種類の従量課金と、月額会費です。
利用時間料金は車種のクラスによって時間あたりの料金が異なり、ベーシッククラスで 15 分 220 円、ミドルクラスは同 330 円、プレミアムクラスは同 440 円です (ガソリン代や保険料もすべて込みの価格) 。
走行距離にかかる料金は、20km を超えた走行距離に対して 1km あたり 20 円が課金されます。
月額基本料金は個人会員は 880 円、学生プランと法人プランは月額無料です。
なお、月額の 880 円は、その月の利用料金に充当されます。例えば、当月の 1 回目のタイムズカーの利用が 90 分だと 1320 円ですが、ここから月額の 880 円が使われ、差分の 440 円を初回の利用料金として支払います。毎月 880 円以上の利用をすれば、実質的な月額基本料金は無料になるというわけです。
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では、タイムズカーの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、ビジネスモデルを解像度高く理解するための好例となるケースです。
ビジネスモデルの要素分解
ビジネスを分析する上で、ビジネスモデルを解像度高く捉えることは有効です。
今回は、以下の 5 つの要素で見ていきます。
- 注力顧客
- 競合
- 顧客価値
- 事業能力 (事業を遂行する能力やリソース)
- 収益モデル
順番に補足をすると、まずはターゲットとなる注力顧客です。
顧客は誰かという事業の根幹となる問いです。自分たちは一体、誰のために価値を提供するのか。注力する顧客を明確に定義することが、あらゆる戦略の出発点となります。
次に競合です。注力顧客が持つ選択肢は何かですが、それは必ずしも同じカテゴリーの製品やサービスとは限りません。お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢が競合となり得ます。
注力顧客と競合のあとに顧客価値が来ます。注力顧客に対して、他にはないどのような独自の価値を提供できるのか。お客さんがあなたの会社や商品を選ぶ理由そのものです。
事業能力は、その独自の価値をどうやって安定的に提供し続けるのかです。実現のために必要な、自社が持つべき資源 (リソース) と、それを実行する仕組み (オペレーション) の両方が含まれます。
そして収益モデルです。提供した価値を、どのようにして事業の利益に変えるのか。事業を継続させ、成長させていくための財務的な設計図になります。
タイムズカーのビジネスモデル
それでは、このフレームワークを使ってタイムズカーのビジネスモデルを分析していきましょう。
[注力顧客] 顧客は誰か?
タイムズカーが狙う顧客層は、車を所有するよりも、必要なときだけ使えればいいという車の利用を重視し、マイカー保有に価値を見出さず合理的に割り切った考え方をする人です。
タイムズカーが注力しているのは都市部の車非保有層です。20 代から 40 代の単身者や若年夫婦で、免許は持っているものの、車は所有していない人です。
こうした人たちにとって車は、週末のまとめ買い、大型商業施設などのレジャー、雨の日の子どもの習いごとや塾への送迎、たまに行く近場への小旅行など、月に数回必要になる移動手段です。都市部では月々の駐車場代だけで 3 万円を超えることも珍しくなく、維持費を考えると所有はハードルが高すぎます。
次に重要なのが、セカンドカー需要層です。1 台目の車は持っているものの、2 台目を買うほどではないというニーズを捉えている人たちです。
他に注力顧客としては、個人ユーザーに加え、収益の安定化に欠かせないのが法人顧客です。
営業車両の代替として利用する中小企業や、出張時に電車や飛行機で現地に訪れた際の移動手段として車を使いたい企業の部署単位での契約です。法人契約はタイムズカーにとって平日昼間の稼働率を支える重要な顧客層となっています。
[競合] 注力顧客が想定する選択肢
タイムズカーの直接的な競合は、カレコやオリックスカーシェアといった他社のカーシェアサービスです。
ただし、タイムズカーの競合は、同じカーシェア事業者だけではありません。消費者や企業が移動したいと考えた瞬間に頭に思い浮かぶ、すべての選択肢が競合となります。
例えば自家用車です。いつでも気兼ねなく使え、中の車内を自分の好きなようにコーディネートできるという所有欲やカスタマイズ性は、強い魅力を持っています。
レンタカーもタイムズカーにとって手強い競合です。半日から数日単位の旅行や長距離移動では、車を保有していない人や普段は軽自動車を使っている人がもう少し大きな車をレンタカーで使うというのは選択肢になります。ニッポンレンタカーやトヨタレンタカーなど、大手レンタカー会社は全国に店舗網を持ち、車種も豊富です。
都市部での短距離移動では、公共交通機関や、配車アプリも便利になってきたタクシーが競合となります。
[顧客価値] 独自の価値
これらの競合に対して、タイムズカーはどのような独自の顧客価値をお客さんにもたらしているのでしょうか。
タイムズカーの顧客価値は、すぐ近くにあるという利便性です。
全国 12,000 箇所以上のステーションによって、自宅や外出先など、さまざまな場所で利用できます。乗りたいと思った時に徒歩圏内にステーションがあるのは便利です。
次に、所有コストからの解放という経済合理性も価値としてあります。
車の車両本体の購入費用はもちろん、ガソリン代、毎月の駐車場代、自動車保険料、税金、車検、メンテナンス費用といった、所有に伴うあらゆる固定費をゼロにできます。月額費用 (個人会員) と利用料金だけで済むタイムズカーの価格体系のわかりやすさは、特に若い世代にとって魅力的でしょう。
そして 24 時間、15 分単位という時間的な柔軟性もタイムズカーの顧客価値です。レンタカー店舗の営業時間に縛られず、スマホひとつでいつでも利用を開始・終了できます。30 分だけ、2 時間だけといった、レンタカーでは使いにくかった超短時間の車の利用ニーズに応えます。
[事業能力] 価値提供を支える能力とリソース
これらの価値提供を可能にしているのが、タイムズカーが持つ独自の事業リソースととオペレーションです。
リソースから見ていくと、何よりも強力なのが、タイムズカーの親会社であるパーク 24 が運営するタイムズパーキングのネットワークです。
国内最大の駐車場網が、そのままカーシェアのステーション網に転換できるわけです。競合他社が大きなコストと時間をかけて交渉・確保しなければならない駐車場を、低コストで、かつスピーディーに展開できます。これは、利用者からするとすぐ近くにタイムズカーの車があって便利という価値の源泉になります。
また、200 万人を超える会員基盤と、長年のサービス運営で蓄積された利用実績データも独自のリソースです。
こうしたリソースを活用する事業能力も顧客価値をつくり出す源泉になります。
タイムズカーの車両管理システムは重要なケイパビリティです。GPS と通信機器により、すべての車両をリアルタイムで遠隔管理。利用状況、燃料残量、車両の状態まで把握し、効率的な運営を実現しています。
データをもとにした最適配置オペレーションもケイパビリティです。長年のサービス運営で蓄積された利用データを分析し、どのエリアに、どの車種を、何台配置すれば稼働率が最大化するかを常に予測・最適化します。
一見使われていないように見える車も、データ上は週末のこの時間帯に需要が集中するといった根拠にもとづいて配置されているはずです。個々の車の非効率をネットワーク全体の効率でカバーできることがタイムズカーの真骨頂です。
また、車両メンテナンス体制として、タイムズカーの巡回スタッフが定期的に車の清掃、給油、安全点検を行うことで、利用者はいつでも快適で安全な車を使えるという品質が担保されています。
法人営業部隊の存在も重要です。個人利用が少ない平日昼間の稼働率を上げるため、法人会員の開拓を専門に行うチームが、週を通じた稼働の波をなだらかにし、収益を安定させます。
[収益モデル] 持続可能な稼ぐ仕組み
最後に、どのようにして利益に結びついているのかの収益モデルを見ていきましょう。
タイムズカーの収益は、固定収益と変動収益の組み合わせで成り立っています。
固定収益は、個人会員の月額基本料金 880 円からです。利用の多い少ないにかかわらず安定したキャッシュフローを生み出します。
そこに時間料金と、20km 以上の利用時に適用される距離料金が加わります。特に距離料金は、ガソリン代や車両の消耗分をカバーし、長距離・長時間の利用でも確実に利益を確保する仕組みです。
タイムズカーの収益モデルで注目したいのは、損益分岐点の低さです。
コスト構造の中で大きな割合を占める駐車場賃料において、自社運営のタイムズを使うことで、その分だけコストを低く抑えられます。
さらに車両は大量調達によるスケールメリットとリース活用で、1 台あたりのコストを削減できます。
これら全てを統合すると、タイムズカーがなぜ儲かるのか、その論理が見えてきます。
タイムズカーの利益は、単純な「1台あたりの利益 × 利用回数」ではありません。
- 利益 = (保有車両台数 × 全体の平均稼働率 × 平均利用単価) - 全体の総コスト
この数式で、利益を最大化しています。
保有車両台数は、全国で大規模に展開するスケールメリットが効きます。
平均稼働率では、個人と法人の顧客層の確保と、会員や利用データにもとづく最適配置によって、サービス全体の平均稼働率を高めます。
平均利用単価については、短時間利用から長時間パック、距離料金まで、多様な料金設定で収益機会を最大化します。
そして総コストの抑制として、特に駐車場コストを低く抑え、システムによる顧客接点の無人化とオペレーションの省人化を図ることにより、損益分岐点が低く利益の出やすい事業体質を構築しています。
まとめ
今回は、タイムズカーを事例として取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 注力顧客: 顧客は誰か?注力顧客の設定がすべての戦略的思考の出発点となる
- 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況での心理的モードやモーメントにおいて解決策となりえる候補が競合
- 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
- 事業能力 (事業を遂行する能力やリソース) : 顧客価値をどのようにして提供するか?必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を包含する
- 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか?収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理
