#マーケティング #振り子の揺れ戻し #BGCとUGC
私たちは今、「グローバリズム」 と 「反グローバリズム」 という大きな潮流の間で揺れ動く世界に生きています。
この動きは決して偶然ではなく、社会が自己修正を繰り返しながら進化していく過程そのものです。そして興味深いことに、この構造はマーケティングの世界にもそのまま当てはまります。
今回は、世界的な潮流の構造を紐解き、その正体をマーケティングに応用する方法を考えます。
この構造を理解すると、世の中のニュースが一本の線でつながるだけでなく、ブランドのマネジメントにおいても示唆が得られます。
グローバリズムと反グローバリズム
グローバリズムと反グローバリズム。この二つの言葉は、現代の政治や経済を語る上で避けて通れないキーワードです。
これらを単なる対立する思想として捉えると、本質を見誤ることになります。グローバリズムと反グローバリズムが持つ構造を見ていきましょう。
グローバリズムとは
グローバリズムは、世界を一つの巨大なシステムと見なし、国境という壁を極限まで薄くすることで全体最適を図る設計思想です。
グローバリズムでは政治、経済、文化、人や情報の移動を自由化し、地球規模で最も効率的な配置を目指します。政府の役割を最小限に抑え、市場の効率性と資本の自由な移動を最優先する新自由主義的な価値観が反映されています。
グローバリズムの展開として現れた出来事
グローバリズムは様々な形で社会に現れました。
経済では、各国がそれぞれ得意な分野で役割を果たす国際分業によって、生産コストが下がりました。モノやサービスが広く行き渡り、市場拡大により選択肢が増え、経済成長と機会の拡大が実現しました。
貿易の自由化が進み、サプライチェーンは国際的な分業体制へと変化。製造業の工場が海外に移転する一方で、金融や IT 人材が集まるグローバル都市は繁栄を謳歌しました。
同時に、移民や難民が増加し、受け入れる国では労働力として歓迎される一方で、文化的な摩擦や雇用をめぐる競合も生まれました。
多国籍企業やプラットフォーム企業は、国家の規制を超えた超国境的なパワーを獲得し、各国政府の規制をまたいで影響力を行使できる領域が増えました。そしてデジタル化により、情報は国境を越えて瞬時に拡散する時代が到来したのです。
蓄積された不満と、反グローバリズムの胎動
グローバリズムの恩恵の影で、社会を蝕む大きな圧力が生じました。
ここでは三つに注目しますが、第一に、中間層の崩壊と格差の拡大です。富が一部に集中し、かつての安定した生活を支えていた中間層が貧困化し、社会がごく一部の上と、大多数の下に二極化しました。
第二は雇用の流動化と不安定化です。特に地方や若年層で非正規雇用が増大しました。第三には、グローバル資本による支配力が強まりました。
この三つは別々の問題ではなく、企業が国をまたぐ越境化によって労働者の持つ企業への雇用交渉力を弱め、富の集中と地域格差を加速させる、というふうに連鎖します。
一国の政府ではコントロールできないグローバルの巨大企業の力が強まり、民主主義の空洞化という感覚が広がりました。
こうした経済的な不満は、自分たちは見捨てられたという疎外感や無力感へと変わります。このネガティブな感情が渦巻く土壌に現れたのが、「反グローバリズム」 です。
反グローバリズムとは
反グローバリズムは、グローバリズムが生み出した勝者と敗者の構図、そして置き去り感やコントロールの喪失への反発として生まれました。
反グローバリズムの特徴は、自国ファーストの姿勢、移民や難民の制限、反エリートへの思想、国家主義や保護主義の強化です。これらが反グローバリズムの潮流の中心にあります。
反グローバリズムの台頭として現れた出来事
グローバリズムから反グローバリズムへの流れで、いくつかの象徴的な出来事が起こりました。
2016 年のイギリスの EU 離脱 (ブレグジット) は、国家間の連携や協定、同盟関係から自ら脱し、国境と主権を取り戻す象徴的な動きでした。
同じ年、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領が誕生し、保護主義と反エリートの言説が強化されました。
ヨーロッパ各国では保守・極右政党が躍進し、ポピュリズムが主流に。移民や難民を制限する動きが生まれました。
経済面では、各国の高関税政策の加熱、リショアリング (企業が海外に移転していた生産拠点や業務を再び自国へ戻すこと) や、フレンドショアリング (サプライチェーンや生産拠点を政治的に信頼できる同盟国や友好国 (フレンド) に移転・再構築すること) といった供給網の再編が加速しました。
そしてデジタルメディア、特に SNS を通じて、人々の感情や不満が直接表れ、拡散され、組織化される新しい動員のメカニズムが反グローバリズムの勢いを加速させました。
行き過ぎがもたらす危険性
グローバリズム同様、反グローバリズムも過度に行き過ぎると深刻な弊害を生み出します。
排外主義や差別の誘発、ポピュリズムの過熱、政治の不安定化、保護主義による経済的コストの増加、国際協調の困難化。また、SNS では感情が増幅され、極端な言説が蔓延る環境が生まれます。
振り子の揺れ戻しによる循環
こうして見てくると、グローバリズムと反グローバリズムは単なる対立と捉えると、事の本質を見誤ります。
二つは、社会が自らバランスを取ろうとする動的なプロセスだとわかります。
自律分散型と中央集権型
グローバリズムとは、組織で言えば 「自律分散型」 に近い状態です。
自律分散的な組織は、各々のメンバーが自律的に意思決定と運営を行い、フラットで透明性の高い組織形態です。スピードと創発に優れますが、行き過ぎると統制が効かず、格差や混乱を招きます。
対する反グローバリズムは 「中央集権型」 と見ることができます。国家が主導する秩序や再分配を重視しますが、過度になれば制度や仕組みが硬直化します。
重要なのは、反グローバリズムもまた固定された唯一の正解ではないという点です。
ある原理が浸透し、さらに極端に押し進められると、弊害が蓄積し、逆方向の力が働きます。反グローバリズムによる統制の副作用が限界を超えれば、再び振り子は開放や交流の方向へと戻り始めるでしょう。
螺旋状の進化を目指して
グローバリズムと反グローバリズムは、一方が正しく他方が間違っているという性質のものではありません。
自由と統治、自律と秩序という二つの価値観の間で、社会が常にバランスを取り続けようとする振り子のようなプロセスです。
この循環は、ただ同じ場所を行ったり来たりしているわけではありません。円というよりも螺旋 (らせん) です。揺れ戻しを経るたびに、過去の教訓を抱えた新しい形へと進化していく、螺旋状の発展と捉えるべきでしょう。
一方が絶対的に正しいわけではなく、どちらも必要であり、両方とも行き過ぎれば弊害を生みます。大切なのは、今どの位置にいるのかを見極め、行き過ぎを検知し、バランスを取り戻す柔軟性を持つことです。
この理解は、政治や経済だけでなく、ビジネスにも応用できる普遍的な原理です。
マーケティングへの応用
グローバリズムと反グローバリズムの間に見られた振り子の揺れ戻しは、マーケティングの世界にも存在しています。
企業が制作するコンテンツと、ユーザーが生み出すコンテンツ。この二つの関係性もまた、中央集権と自律分散、統制と自由という同じ構造原理です。
では、ここからのキーワードを 「BGC (Brand Generated Content) 」 と 「UGC (User Generated Content) 」 として、グローバリズムと反グローバリズムの示唆を考えていきましょう。
BGC (Brand Generated Content) とは
BGC は、企業やブランドが主体となって制作・発信するコンテンツです。中央集権や反グローバリズム的な統治モードに対応します。
テレビ CM 、公式サイト、ブランド広告などが BGC の典型です。最大の特徴は、メッセージの統制と一貫性にあります。企業が理想とする世界観やブランドイメージを、混じりけのない形で提示できます。
国家が秩序を維持するように、BGC によってブランドが自らの存在理由を明確に宣言します。
BGC はブランド認知を広め、新商品のコンセプトを歪みなく伝える上で強力な存在です。しかし行き過ぎると、中央集権の副作用と同様の弊害が生まれます。メッセージが一方的で作り物のように感じられ、共感の土壌が失われてしまいます。
UGC (User Generated Content) とは
対する UGC は、一般ユーザーの手によって生まれるコンテンツです。
SNS への投稿や口コミ、個人の YouTube 動画などです。UGC は自律分散やグローバリズム的な開放モードにあたります。UGC の本質は、ブランドが直接はコントロールできない第三者のリアルな声にあります。
消費者は、同じ立場にあるユーザーの生の声を真実として信頼します。UGC が活発な状態は、ブランドとユーザーが対等につながる共創です。
しかし自由の副作用も生じ得ます。UGC に頼りすぎ、ブランド側がコントロールを手放すと、ブランドイメージが断片化したり違う方向に行ってしまい、本来伝えたかったブランドの世界観や顧客価値が埋没する無秩序な分散を招きます。
マーケティングにおける 「振り子の揺れ戻し」 と相乗効果
グローバリズムと反グローバリズムがそうだったように、マーケティングにおいて大事なのも、BGC と UGC のどちらか一方が正しいと決めることではありません。
二つの間でいかに動的なバランスを取るかにかかっています。
ブランドが BGC で固めすぎれば、ユーザーは置き去り感を抱き、リアルな UGC を求めます。逆に UGC が溢れて信頼性やブランドの軸が揺らぎ始めれば、ユーザーは再び公式な情報や品質保証などの BGC を求め、振り子は戻ります。
BGC と UGC を戦略的に組み合わせることによって、螺旋状の進化を伴う効果が期待できます。
一つ目は 「認知と信頼の統合」 です。BGC でブランドの存在を広く知らしめ (認知) 、UGC でその実効性を裏付ける (信頼) 。知っているという状態から自分にとって価値があるという確信へとつなげられます。
二つ目は 「コンセプト (抽象) と具体の往復」 です。BGC がブランドの世界観という抽象的なメッセージやイメージを提示し、UGC が具体的な使用感という手触り感を補完します。情報の広がりと深さが同時に生まれ、ブランドの解像度が高まります。
三つ目として 「多様な接触と記憶の定着」 があります。公式コンテンツ (BGC) とユーザーコンテンツ (UGC) の両方で情報が展開され、消費者がブランドに触れる機会が多層化します。複数の視点から情報が届くことにより、そのブランドは社会的な合意を得た存在として記憶に定着することが期待できます。
動的なバランスを保つブランドマネジメント
グローバリズムと反グローバリズムが自由と統治を巡って自己修正を繰り返すように、ブランド運営もまた、「BGC による秩序の提示」 と 「UGC による自由な共創」 の間を絶えず行き来するプロセスです。
大事なのは、どちらかに固定しないことです。今の自社のブランドが、BGC による統治が強すぎて、遠く冷たい存在になっていないか。あるいは UGC に頼りすぎてブランドはアイデンティティを失っていないか。
過度な行き過ぎを察知し、レバーを切り替えるようにバランスを調整し続けることが、循環的な動態プロセスの原理を実務に活かすということです。
ブランドにとっての正解は止まった静的な一点ではなく、揺れ動きの中に存在します。この視点を持つことで、ブランドは時代やユーザーの変化に左右されない強靭なレジリエンスを獲得できます。
まとめ
今回は、グローバリズムと反グローバリズムの潮流に注目し、BGC と UGC というマーケティングの文脈に応用して考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 対立する二つの概念は、片方に絶対的な正解があるわけではない。制度やシステムの行き過ぎを是正し合う 「振り子の揺れ戻し」 と捉えるといい
- グローバリズムと反グローバリズムも単なる対立ではなく、社会が自己修正を繰り返す動的なプロセス。一方が行き過ぎれば揺れ戻しが起こる。揺れ戻しを繰り返しながら、過去の教訓を取り入れて 「螺旋状」 に進化していく
- この構造は 「自律分散型 (自由) 」 と 「中央集権型 (秩序) 」 という組織論とも対応しており、どちらも必要だが過度になれば弊害を生む普遍的な原理である
- マーケティングにおいても、企業発信の BGC (秩序) とユーザー発信の UGC (自由) が、グローバリズムと反グローバリズムの関係と同じ構造を持つ。BGC は統制と一貫性、UGC は自由と多様性を特徴とする
- BGC のみに偏れば消費者との距離が生まれ、UGC のみに依存すればブランドの軸が揺らぐ。両者を戦略的に組み合わせることで認知と信頼を統合できる
- ブランドマネジメントは、BGC と UGC の間で動的なバランスを保ち続けることが大事。今どちらに偏りすぎているかを検知し、柔軟に調整する動的なマネジメントが強靭なブランドをつくる