#マーケティング #顧客接点 #フィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティ
自社の商品やサービスがどんなにすばらしくても、消費者や顧客の目に触れなければ選ばれる機会はありません。
お客さんに選ばれる存在になるためには、「フィジカルアベイラビリティ」 と 「メンタルアベイラビリティ」 という2つの要素を高めるアプローチが効果的です。
今回は、江崎グリコの 「セブンティーンアイス」 の事例から、フィジカルとメンタルの2つのアベイラビリティを巧みに組み合わせるマーケティングを紐解きます。
セブンティーンアイス
江崎グリコの 「セブンティーンアイス」 。1983年に販売を開始し、自動販売機で買えるアイスとして長年親しまれてきたロングセラーブランドです。
もともとはスイミングスクールやボーリング場などのレジャー施設に設置され、自販機からアイスが出てくるというワクワク感が子どもたちや若者を中心に人気を呼んできました。
1980年代当時はまだコンビニもそれほど多くなかったため、自販機でアイスの販売自体が新鮮でした。その後はアイス市場全体が拡大し、コンビニをはじめとするさまざまなお店や場所でアイスが売られていく中で、セブンティーンアイスとしても新たな戦略が必要になりました。
学校への設置拡大
そこで目を向けたのが学校です。
セブンティーンアイスのコンセプトは 「17歳の若者に17種類のアイスを届ける」 というものです。17歳といえば高校生で、若者たちが毎日のように通う場所である高校、他には大学や専門学校へのセブンティーンアイスの自販機の設置を積極的に進めました。
とはいえ、高校へ自販機を置くというアプローチは、生徒が学校でアイスを食べるのはどうなのかといった抵抗を招きかねません。実際、当初は学校側から 「教育現場にアイスの自販機は不要」 「マナー違反をする生徒が増えるかもしれない」 と懸念され、門前払いをされるケースも少なくなかったようです (参考記事) 。
そこで江崎グリコは 「セブンティーンアイスによる学びの機会の提供」 という価値を学校側に提案しました。
具体的には、生徒が自らルールを作る仕組みを導入し、アイスを食べられるタイミングや場所、さらにゴミの分別方法などを生徒会と協力しながら決めてもらうようにしたのです。中には 「セブンティーンアイスマナー委員会」 のような生徒主導の委員会を立ち上げる学校もありました。
他には、SDGs の視点と結びつける授業も行われています。
アイスのスティックをどのようにリサイクルすれば資源を無駄にしないか、生徒たちがポスターやプレゼンを考えるなどです。自販機の売上データを分析して 「どうしたらもっと売れるのか」 を探る授業もあり、ビジネスの基本をセブンティーンアイスを使って実践の中で学べる機会をつくっています。
江崎グリコのこうした取り組みにより、高校生たちがルールやマナーを自分たちで考え、主体的に運用する力を養うという教育的な意義を生み出しました。
学校側としても、自販機を導入したら生徒が喜ぶだけではなく、少子化による学校間の競争でセブンティーンアイスは学校の魅力づくりのひとつになるというプラス面があると判断し、導入が進みました。現在は学校へのセブンティーンアイスの自販機設置台数は2018年度と比べて約2倍とのことです (参考記事) 。
日常導線への拡大
学校だけでなく、セブンティーンアイスは駅などの生活圏への設置も増やしています。
もともとはセブンティーンアイスは、レジャー施設などで特別なワクワク体験を提供していましたが、そこから学校や駅といった日常的な場所やシーンにも消費者との接点を拡大しています。
日々の生活の中で 「ここにもセブンティーンアイスの自販機がある」 という状況が増えると、思わずアイスを食べたくなり自然と購入へとつながる確率が高くなります。高校や大学でのセブンティーンアイスへの体験が楽しかったなら、卒業後や社会人になってからも懐かしいと思って買ってもらえることが期待できます。
こうした日常導線の中での存在感を高める施策によって、セブンティーンアイスは2023年と2024年に2年連続で過去最高の売上を達成しました (参考記事) 。
長年培ってきた子ども向けレジャー施設での定番というブランドイメージに加え、セブンティーンアイスはいつでもどこでも食べられる日常のアイスというポジションを確立しつつあります。
学べること
では、セブンティーンアイスの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
フィジカルアベイラビリティの強化
セブンティーンアイスの事例から学べるポイントのひとつが、「フィジカルアベイラビリティ (Physical availability) 」 です。
フィジカルアベイラビリティとは、日本語に直訳をすれば物理的な入手可能性という意味です。マーケティングの文脈では、フィジカルアベイラビリティは 「お客さんが商品を買いたいときに、身近で買いやすい場所に商品が存在している状態」 を指します。
セブンティーンアイスに話をつなげると、セブンティーンアイスはもともとはスイミングスクールやボーリング場などの場所をメインに自販機を設置していました。そこでは特別感やワクワク感が得られる一方、消費者が毎日のようにセブンティーンアイスを目にする機会は多くありません。
江崎グリコは、この接触頻度の低さを解決すべき問題と捉えました。そこで 「17歳の若者に17種類のアイスを届ける」 というセブンティーンアイスの原点に立ち戻り、高校や大学、駅といった若者が日常的に通う場所への自販機の設置を進めたわけです。
単にあちこちに自販機を増やすのではなく、コンセプトにある重点顧客である若年層が普段からいる場所・集まる場所に狙いを定めました。セブンティーンアイスは 「ふとアイスが食べたくなったとき」 に目にしやすい存在になれます。
このように、自分たちの商品が 「どこに置かれれば注力顧客が買いやすいのか」 というフィジカルアベイラビリティを考えることは、マーケティングにおいて重要な視点です。
闇雲に店舗や自販機の数を増やしても、お客さんの動線と合っていなければ効果は薄れます。セブンティーンアイスは、非日常と日常のふたつをうまく使い分け、若者の気持ちや行動パターンを捉えたフィジカルアベイラビリティの拡充を進めたのです。
メンタルアベイラビリティの向上
セブンティーンアイスの事例から学べるもうひとつの要素が、「メンタルアベイラビリティ (Mental availability) 」 です。
心理的な入手可能性が直訳になりますが、マーケティングの文脈ではメンタルアベイラビリティとは 「商品やブランドがお客さん頭の中で思い出されやすい状態」 のことです。セブンティーンアイスの場合は、アイスを食べたいと思ったとき、真っ先に 「セブンティーンアイスを買おう」 と想起してもらえるかどうかです。
セブンティーンアイスは、子どもの頃に味わった自販機からアイスが出てくるワクワク感を大人になっても思い出してもらうことが、メンタルアベイラビリティを向上させるポイントです。高校や大学での自販機の設置により、友だちと一緒にセブンティーンアイスを食べた楽しい記憶が加わり、その思い出が街中や駅でセブンティーンアイスの自販機を見かけたときに自然と蘇ることを目指しています。
メンタルアベイラビリティを高めるためには、宣伝を繰り返すだけでは十分とは言えません。実際に 「楽しかった」 「おいしかった」 「友人や学校生活の青春と結びついた思い出」 という体験が、セブンティーンアイスのことを想起するフックになります。
フィジカルとメンタルの相乗効果
最初に見たフィジカルアベイラビリティは 「お客さんが目にしたり、手に取りやすい物理的な接点をつくること」 、メンタルアベイラビリティは 「その商品を思い出しやすい状態をつくること」 です。ふたつの両方が噛み合うと、商品やブランドはより選ばれやすくなります。
セブンティーンアイスでいえば、学校や駅に自販機があることで毎日のように視界に入るため (フィジカルアベイラビリティ) 、「そういえばセブンティーンアイスを食べたいかも」 という気持ちが自然と高まりやすくなるでしょう (メンタルアベイラビリティ) 。
また、子どもの頃のセブンティーンアイスの思い出、学校で過ごした時間の楽しさというポジティブなイメージが何かのきっかけで思い出されたときに (メンタルアベイラビリティ) 、近くにセブンティーンアイスの自販機があるという状況です (フィジカルアベイラビリティ) 。これがフィジカルとメンタルの相乗効果です。
人は案外、見たら思い出す、思い出したら欲しくなるというわりと単純なきっかけで購買行動に至ることがあります。
だからこそ、見やすい場所に商品を置くというフィジカルアベイラビリティの拡充と、想起されやすい記憶をつくる活動となるメンタルアベイラビリティの強化を同時に行うことが重要なのです。
まとめ
今回は、セブンティーンアイスの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- フィジカルアベイラビリティ: 消費者や顧客が商品を購入したいと思ったときに、手に取りやすい場所に商品が存在している状態をつくる。想定顧客の生活・事業導線上に適切に商品を配置し、接触機会を増やし購買につなげる
- メンタルアベイラビリティ: 消費者・顧客が関連するその文脈になったときに、商品やブランドが想起されやすい状態をつくる。ポジティブな体験や思い出と結びつけることで、必要なタイミングで選ばれやすくする
- フィジカルとメンタルの相乗効果: 買いやすい環境 (フィジカル) と思い出しやすさ (メンタル) の両方がそろうことによって、ブランドはより強く想起され、自然な購買行動を促すことができる
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