2010/08/28

書籍「死刑絶対肯定論」の内容整理とそこから考えたこと

「死刑絶対肯定論 -無期懲役囚人の主張-」(美達大和 新潮新書)という本を読みました。著者の考察の深さや受刑者達のリアルな実態、また具体的な提言など考えさせられる内容が多く、読んで良かったと思う本でした。

この本の特徴は著者自身が無期懲役の囚人である点です。罪状は二件の殺人。現在は、刑期十年以上かつ犯罪傾向が進んだ者のみが収容される「LB級刑務所」で服役しています。

著者は「死刑絶対肯定論」という本書のタイトル通り、死刑在置論者です。本書では「死刑こそ人間的な刑罰である」とさえ言っています。読み進めていくと、現役受刑者にしか持てない視点で書かれている内容が数多く出てきます。詳細は後述しますが、だからこそ、これだけの説得力のある内容の本だと思いました。


■著者が「死刑絶対肯定」に至った反省しない受刑者達

著者は、自分が服従してみて殺人罪の量刑が軽すぎると痛感したと言っています(p.81)。しかしもともと自分が服従するまでは、そのようには考えていなかったそうです。なぜなら、懲役10年や15年という年月は相当に長く、受刑者は罪を悔い反省し、服従生活を通して改心すると思っていたからです。

ではなぜ著者は、殺人罪の量刑が軽すぎると思うのか。(ちなみにここで言う殺人罪の量刑とは、懲役○年・無期懲役を指していると思われます) 軽すぎると痛感する理由は、「犯罪者はほとんど反省をしない」からです。この点は本書を読んで驚いたことでもありますが、著者が実際に見聞きした受刑者達の実態として以下のような例が書かれています。印象的だったので、本文をそのまま引用します(p.72)。
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務めてみてすぐに気が付いたのは、長期刑務所の受刑者達の時間に対する観念の特異性でした。
「10年なんて、ションベン刑だ」
「12、3年は、あっという間」
「15年くらいで一人前」
「早いよ、ここの年月はさあ。こんなんなら、あと10年くらいの懲役刑なら、いつでもいいね」
「考えていたのと全然違ったよ。こんなに早く時が過ぎるとはねえ」
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そして、この時間認識の特異性に加えて、殺人事件で服従している受刑者のほとんどが、反省や謝罪や改悛の情とは無縁であると指摘しています。自分の罪の意識を持つものは稀であり、むしろ(自分が殺した)被害者に責任を転換し非難する者が多数であり、遺族の苦痛等の心情を忖度する者は極めて少数だとすら書かれています(p.82)。あくまで著者のまわりの受刑者に対する実感ベースとしてですが、反省をしている者は1~2%というのがせいぜいだそうです(p.161)。

このように、受刑者達の時間認識の特異性、また、殺人という罪を犯したことに対して反省すらない受刑者を数多く見てきた著者は、死刑を絶対的に肯定すると主張しているのです。なお著者自身についての補足ですが、二件の殺人を犯したため本人は死刑を求刑したようです。しかし判決は無期懲役であり、生涯に渡り謝罪をしていくことを決め社会復帰は希望していないと書かれています。


■「人間的な刑罰」とは

著者の考えに、「犯した罪に見合った刑罰を科すべきである」というものがあります(p.145)。人の命を奪い、残された遺族に悲しみを与えたにもかかわらず、反省しない受刑者が刑期を終え社会に戻るのを見続けた著者は、不条理だと認識しているためです。

よって、死刑を科されるような罪を犯した者には、適切な時間を定めて執行し自らの命を以って自分の責務を果たすようにすること、それが値しない者には無期懲役を科すことで、刑務所で厳しく改善指導をすることこそ、人間らしい処遇であると説きます。

前述のように受刑者は反省をしないとされていますが、一方で死刑囚には、反省し改悛の情を示す者が想像以上にいるという印象を著者は語っています。死刑により自分の死と向き合うことで、このような状態になるのかもしれません。死刑と無期懲役の差はここにあるように思いました。また、本書で取り上げられていた法廷でのある遺族の、次の言葉が印象的でした。「(死刑が)執行されても赦さないが、納得する。新しい人生を歩いていく区切りになる。」

殺人事件では被害者は二度と生き返ることはありません。殺人という犯罪行為の責任を取るため加害者も自らの命を以って責務を果たすことが、著者の言う「人間的な刑罰」なのではないかと思いました。


■著者の提言

以上を踏まえ本書で提言されているのは、「不定期刑」と「執行猶予付き死刑」です。不定期刑とは、服役年数の上限・下限を決めておき、服役中の受刑者の態度・行動によって刑期を調整するというものです。執行猶予付き死刑というのは、現在の死刑はそのまま残し、別に定めた条件を満たさない場合は死刑とするものです。

執行猶予付き死刑の考え方は受刑者に自らの罪に向き合わせることに根ざしており、その具体的な方法として、字数(4000~6000字)を指定したレポート作成を受刑者に提出させることが提言されています。課題例として、まずは「自分の罪とは何か」、「何故そうなったか」、「自分の生活と事件の関係」等、レポート課題により自分について深く考察することを促します。次の段階として、「命を奪われるとはどういうことか」、「被害者の最期の様子」、「自分が被害者であればどう感じるか」、「償い・謝罪とは」等々、徹底的に「死」と向かい合うような状況をつくるのです。

一方で、著者は死刑基準の再設定も求めています。被告人の境遇や将来するかわからない更生の可能性よりも、罪という行為こそを重視し刑を科すことが望ましいとします。また、被害者がたとえ一人であっても場合によっては死刑を適用するよう基準を変えるべきと主張しています。


■そもそも刑罰とは何か

ここまで、本書の内容や著者の主張を自分なりに整理したつもりです。冒頭で、本書の特徴は著者が無期懲役の囚人であると言及しましたが、逆に言えば、本書から伝わる受刑者の実態や具体的な提言は、この著者でなければ及ぶことができないリアルな内容だと感じました。

ではあらためて刑罰について考えてみると、刑罰を科す目的とは何でしょうか?この本を読んで、加害者が自分の犯した罪を向き合い罪を償うことと、殺人などの刑事事件を発生させない抑止力にあると思いました。

前者は、まさしく著者の本書を通じた主張です。ここでは、後者の抑止力について少し考えてみます。抑止力というは、初犯を起こさないことと、前科のある者が再び罪を犯さないことへの2つがあります。今回の書籍「死刑絶対肯定論」では、著者は囚人であるが故に自分の経緯や立場、また他の受刑者の実態を考慮しての提言となっています。つまり、本書の提言が当てはまるのは、刑罰による2つの抑止力のうち、特に後者である再発防止だと思うのです。

同じテーブルに並べることに抵抗を感じますが、マーケティングでは消費者の購買行動を、初めてその商品を買う「トライアル」と、気に入ったから次もまた買うなどの「リピート」に分けることがよくあります。例えば、期間限定商品などはトライアル購買を狙っており、定番商品はリピート購買が安定しているからこそのロングセラーという感じです。

話を犯罪への抑止力に戻すと、上記の著者の提言は再犯防止には効果があるのかもしれませんが、初犯を未然に防ぐという意味では、どこまで影響を与えられるかと思ってしまったのが正直なところです。(もちろん、その具体的な方法は持っていませんが)


本書は、死刑在置論と廃止論において一石を投じるものとなる、またなってほしいと思わせる内容でした。受刑者の立場からの視点で書かれており、かつ具体的な提言がされています。本書は(賛成・反対問わず)一読の価値があるのではないでしょうか。


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多田 翼 (書いた人)