#マーケティング #組織開発 #営業
マーケティング部門が練った戦略が、営業現場で 「腹落ち」 されずに空回りする。そんなすれ違いに、心当たりはありませんか?
サントリーの新商品 「THE PEEL」 のヒットの裏には、異なる役割が連携できた時にこそ、組織は大きな力を発揮できるという成功法則がありました。
サントリー 「THE PEEL」
出典: サントリー
今回の主役であるサントリーの新商品について見ていきましょう。
ビール好きを狙い撃ちした新感覚 RTD
サントリー 「THE PEEL (ザ・ピール) 」 は、レモンピールサワーで、2025 年 4 月に発売された缶入りアルコール飲料です。
特徴は、メインターゲットを 「普段からビールを飲んでいるユーザー」 に定めた点にあります。
従来の RTD に対しては、ビールをよく飲む人は 「甘い」 「食事に合わない」 といったイメージを抱いていました。サントリーはこうしたイメージを覆すため、レモン果皮由来の豊かな香り、ほろ苦さ、そして甘くないキレのある後味に徹底的にこだわりました。
この戦略が、ある追い風を受けて市場に刺さります。
2025 年 4 月の THE PEEL 発売と同時期に、大手ビール会社が一斉にビールの価格改定を実施したのです。ビールが 350ml で 200 ~ 250 円程度のところ、THE PEEL は約 160 円と、味わいには妥協したくないビール好きな人たちの受け皿になりました。
結果、THE PEEL は発売後わずか 2 ヶ月で年間販売計画の 5 割を突破 (参考情報) 。サントリーが直近 3 年間で投入した RTD の新商品の中で、THE PEEL は最も高い販売実績を達成するなど、破竹の勢いを見せています。
ヒットの黒幕は新組織 「買場戦略課」
ただし、THE PEEL の成功物語は、優れた商品設計だけで描かれたわけではありません。
ヒットの背景には、サントリーが 2024 年に新設した営業戦略部隊 「買場戦略課」 の存在がありました。
この組織は、ID-POS (会員 ID 付きの販売時点情報管理) に代表される膨大な店頭データを活用し、生活者が商品を手に取る瞬間を徹底的に科学する、数名の少数精鋭チームです。
これまでのメーカー主導のプロダクトアウト的な発想から脱却し、顧客起点で消費者のニーズや変化を捉え、新たな需要を創造する。そのために、データという客観的な事実をもとに、店頭での勝ちパターンを見極め、営業活動に落とし込むという重要なミッションを担っています。言わば、THE PEEL ヒットの黒幕とも言える存在なのです。
* * *
では、サントリー 「THE PEEL」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、営業とマーケティングの連携という視点で示唆があります。
目指したい営業とマーケティングの相乗効果
少なくない企業で、営業部門とマーケティング部門は隣り合わせにありながら、どこか遠い存在になっていないでしょうか。
営業とマーケティングが効果的な連携をできれば、社内外のインパクトは計り知れません。
では、どうすればいいのか?営業とマーケティングが本当の意味で連携するには、まずそれぞれの役割の本質を理解することが第一歩となります。
営業とマーケティングの役割
今回のサントリーの事例において、営業の役割は、流通の現場でお客さんに一番近い立場から売上をつくることです。
小売チェーンや店舗バイヤーとの対話、棚取りや POP (Point of Purchase advertising の略で 「購買時点広告」 のこと) の提案、陳列・露出の最適化を通じて 「買われる瞬間」 を増やします。THE PEEL では、営業が買われるために効く言葉を見出し、店頭 POP に反映し、お店の買場での成果につなげました。
一方、マーケティングの役割は、市場・競合・消費者の変化を読み解き、ブランドの提供価値を設計して需要をつくることにあります。
THE PEEL の事業部のマーケティングは、「レモン果皮の本格感」 「甘くない」 「ほろ苦さ」 という価値提案に注力し、従来の RTD をあまり飲んでいなかったビール好きな人たちに狙いを定めました。
なぜ両者はすれ違うのか
営業とマーケティングの役割はどちらもビジネスに不可欠ですが、追う指標 (KPI) や考えたり見ている時間軸の違いから、両者の足並みが揃わないことが少なくありません。
営業は 「今月、この店でどれだけ売るか」 という短期的な成果を求められ、マーケティングは 「中長期でブランドをどう育てるか」 という視点に立ちます。この時間軸の違いが、時に部門間の見えない壁をつくり出し、会社全体としての力を削いでしまう部分最適の罠に陥らせるのです。
では、この壁を乗り越え、お互いの力を最大限に引き出す相乗効果を生み出すには、どうすればいいのでしょうか?
サントリーの事例からの示唆を考えていきましょう。
THE PEEL が実現した営業とマーケの全体最適
THE PEEL の事例がどのようにして 「部分最適」 の壁を打ち破り、「全体最適」 を実現したのかを掘り下げます。
この事例には、営業とマーケティングが理想的な関係を築くための 5 つのポイントがありました。
共通の目的設定
連携の第一歩は、共通の目標設定です。しかし、ただ 「売上を上げよう」 では十分とは言えません。
THE PEEL のチームが組織的に共有したのは、「売場での実売スピード」 と 「リピート率」 という、より具体的でアクションにつながりやすい KPI でした。
この KPI にもとづき、買場戦略課は全国の店舗の ID-POS データからある事実を発見します。
出典: 日経クロストレンド
それは、「ビール好きが認めるレモンピールサワー」 というコピーが書かれた POP を設置した店舗では、売上が約 1.3 倍、リピート率も約 1.2 倍に伸びたことでした。
データという客観的な事実によって、営業とマーケティングの間で 「誰に、何を、どう届けて、いかに売上につなげるか」 という目標がより確固たるものとして一致したことでしょう。
役割と責任の明確化
次に重要になるのが、明確な役割分担です。
THE PEEL の事例では、買場戦略課がサントリー社内でハブのような中心的な橋渡し役の存在となり、マーケティングと営業とのトライアングルの体制が築かれました。
具体的には、買場戦略課はデータ分析のプロとして、店頭現場の勝ちパターンを科学的に抽出します。
マーケティング (事業部) は買場戦略課の発見や洞察をもとに、POP 販促物やテレビ CM などの訴求において意思決定を行い、営業は効果が証明された POP などの 「勝てる武器」 を携え、店頭での実行と水平展開に責任を持つという役割分担です。
それぞれの部門が自身の役割と責任を全うしたからこそ、THE PEEL の 「ビール好きが認めるレモンピールサワー」 と書かれた POP についての発見から、全国の販促物の切り替え、さらにはテレビ CM にまでの反映をわずか 1 ヶ月という驚異的なスピード感でサントリーは実現しました。
トップのコミットとサポート
現場のメンバー同士の歩み寄りだけでは、部門間の利害を調整し、全社を動かすのは難しい場合があります。
サントリーは 2024 年に 「買場戦略課」 という、データドリブンな営業戦略を担う組織を新たに設けました。
この組織体制の刷新そのものが、「サントリーは会社としてデータにもとづいたマーケティングと営業の連携を重視していく」 という経営トップの強いコミットメントの表れです。
組織的な後ろ盾があったからこそ、サントリーでも前例のないスピードでの部門横断的な意思決定が可能になったのです。
共通言語でのコミュニケーション
今回の事例で注目したいのは、データが営業とマーケティングの 「共通言語」 になったという点です。
これまでサントリーでは、ともするとマーケティングが 「効くはずです」 と調査データを示して営業に協力を依頼しても、現場の営業担当者には、どこか 「押し付けられ感」 や 「やらされ感」 があり、営業にとって自分ごと化しにくい状況だったのかもしれません。
しかし今回は違いました。
買場戦略課が導き出した 「ビール好きが認める」 という訴求は、営業にとっても納得できる根拠となりました。「この POP を付ければ、あなたの担当店の売上が 1.3 倍になります」 という動かぬ事実です。
営業担当者一人ひとりが、自分の売場で数字が変わるというリアルな期待感を得たことで、施策への納得感は高まったことでしょう。営業担当にとっては 「実際の売場で数字が変わる」 という根拠があることによって、より自信を持って小売への提案できるようになります。
今までは 「効くはず」 というどこか希望的観測の域を出なかったものが、「本当に効いた」 という成果として共有され、指標と数字が共通言語になったとき、両部門の間にあった壁は溶け、強い信頼関係が生まれたことでしょう。
成功体験の共有
「POP で売上が変わった」
この現場で生まれた小さな成功体験 (クイックウィン) は、すぐに全社に共有され、やがては大きなうねりを生み出します。
その勢いは、テレビ CM のメインコピーが 「ビール好きが、愛したピール。」 へと刷新されるという、全社的なマーケティングコミュニケーションの転換にまでつながっていきました。
店頭という現場起点の発見が、マス広告という空中戦にまで影響を与えたこの一連の動きは、営業とマーケティングの双方にとって、「うまく連携すれば、もっと大きなことができる」 という成功体験として刻まれたはずです。
このような成功体験こそが、次の挑戦に向けたモチベーションを育み、組織をさらに強くしていく好循環を生み出していくのです。
* * *
営業とマーケティングの連携は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。継続的な取り組みと忍耐が求められます。
それでも、同じ目標を共有し、共通言語を持って両部門が真に協力し合えば、THE PEEL のような成功を生み出すことができるはずです。
サントリーの取り組みは、私たちに多くの示唆を与えてくれます。
まとめ
今回は、サントリーの 「THE PEEL」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にまとめとして、営業とマーケティングの連携を成功させる 5 つのポイントです。
- 同じ目的のもと、共通の目標を設定する
- お互いの役割と責任を明確にする
- 経営トップのサポートとコミットメントがある
- 共通言語でコミュニケーションをはかる
- 小さな成功体験を共有し、より大きな成功を目指す

