#マーケティング #事業創出 #広告

今回は、サイバーエージェントの広告事業をケーススタディに、事業をつくっていくプロセスを考えます。

再現性の高い 「事業創出の型」 として、4 つのステップで紐解きます。

サイバーの広告事業開発力

ここ最近、小売企業や金融機関が自社の持つ豊富な顧客データを活用し、新たな収益源とするリテールメディアやコマースメディアという広告に注目が集まっています。

日本でのリテールメディア・コマースメディアの流れは、アメリカの Walmart や Amazon の成功に端を発し、日本でも大きなうねりとなりつつあります。

とはいえ、多くの日本企業にとってリテールメディアは未知の領域でした。というのも、手元には顧客の購買履歴や行動データという 「宝の山」 があっても、それを広告事業として収益化するための専門的な技術、特にアドテクノロジーや事業開発のノウハウが十分ではなかったからです。

この市場ギャップに、着目したのがサイバーエージェントでした。

サイバーエージェントは、サッポロドラッグストアー (サツドラ) 、ヤマダデンキ、ファミリーマートといった小売大手や、ANA X、三菱 UFJ 銀行、みずほ銀行、RIZAP 、NTT ドコモといった大手企業など、約 30 社にものぼる大手企業とタッグを組み、広告事業を次々と立ち上げているのです (参考情報) 。

特筆すべきは、その関与の深さにあります。システムをクライアント企業に納品するだけの関係ではありません。事業の収益を分け合う 「レベニューシェア」 という形でパートナーの懐に深く入り込み、事業の成功そのものにコミットするという顧客企業と二人三脚でリテールメディアの市場を切り拓こうとしています。

* * *

では、サイバーエージェントの広告事業の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は、事業をどのようにつくっていくかに示唆があります。

事業をつくるプロセス

事業を広げていくプロセスは、大きく次のように進みます。

  1. 事業領域の選定
  2. 事業インサイトの発見
  3. 事業能力の獲得
  4. 事業の拡大

では、サイバーエージェントの広告事業に当てはめて詳しく見ていきましょう。

事業領域の選定

ビジネスは、どこで戦うかを決めることから始まります。

事業領域の選定によって、おおよその事業規模や戦い方の方向性も見えてきます。

サイバーエージェントは、これから確実に成長するであろうリテールメディアを、新たな事業領域として定めました。

サイバーエージェントが注目したのは、当時は日本ではまだ黎明期であった 「リテールメディア」 でした。

テレビ CM のような成熟した広告市場は、すでに電通や博報堂などの大手プレイヤーがいます。サイバーエージェントは、テレビは難しい領域であり、一方のリテールメディアやコマースメディアなどの新しい領域にチャンスがあると見立てました。

ウォルマートやアマゾンの海外での成功事例という追い風はありながらも、国内ではまだ競争が激しくないリテールメディア市場を、自社が主導権を握れる 「ホワイトスペース」 として見極めたのです。

事業インサイトの発見

戦う場所を決めただけでは、そこで勝てるとは限りません。

どうすれば勝てるのか。その勝ち筋を導き出すために、深く鋭い 「インサイト (洞察) 」 が必要になります。

既存能力から勝ち筋を再構成する

サイバーエージェントが見出した勝ち筋は、「これまで大量に開発してきた DSP (デマンドサイドプラットフォームの略で DSP は広告主向け配信システム) の技術と経験が、リテールメディアのシステム構築にそのまま応用できる」 という見通しでした。

サイバーエージェントは、リテール・コマースメディアと DSP において、配信システムは同じようなものになるという方針をとりました。全く新しい挑戦というよりも、既存能力の応用で勝てる戦いだと捉えたわけです。

顧客の潜在ニーズと市場ギャップの特定

サイバーエージェントは、リテールメディアでの新しい市場に存在する二種類の顧客の 「声なき声」 を聞き取りました。

ひとつは、ANA やファミリーマートといった、豊富な顧客データ (ファースト・パーティー・データ) を持つ大手企業側のニーズです。こうした企業はこの資産を収益化したいと願いながらも、そのための技術とノウハウがないという解決すべき問題を抱えていました。

もうひとつは、広告主企業側のニーズです。

広告主は、より精度の高い広告配信ターゲティングで、効果的に注力顧客にアプローチしたいと考えています。

 「データを持ちながら活かせない企業」 と 「そのデータを活用したい広告主」 。この両者の間に存在するギャップこそ、サイバーエージェントがビジネスチャンスを見出した勝ち筋への着想になりました。

顧客の行動から本質を洞察する

サイバーエージェントは、ただ単にシステムを構築するだけでは事業は成功しない、ということにも気づいていました。

広告メディアビジネスを成功させるためには、質の高い広告クリエイティブが、広告を見てほしい注力顧客に必要十分な量で出稿されることが重要です。しかし、実績の乏しい新興メディアに対し、広告主がわざわざ手間とコストをかけて専用のクリエイティブを用意することは期待できません。

企業の行動原理や心理を洞察し、サイバーエージェントが行き着いた結論は、システム提供側が、クリエイティブ制作までトータルで支援する仕組みがなければ、この事業は立ち上がらないという見解でした。

このインサイトが、後のユニークな事業能力の獲得へとつながっていきます。

事業能力の獲得

見出したインサイトは、実行に反映されて初めて価値を持ちます。

サイバーエージェントは、発見した勝ち筋を現実の事業へと昇華させるため、既存能力の強化と、新たな能力の獲得を着実に進めていきました。

技術力を独自の武器へと磨き上げる

サイバーエージェントはまず、これまでの DSP 開発で培った約 100 名もの専門エンジニア組織を、新規事業に投入できる体制を整えました。

さらに、社内の専門組織 「AI Lab」 と連携。クライアントごとに異なる顧客データに合わせ、既存の AI モデルをチューニングしたり、時には独自モデルを開発したりすることで、広告配信アルゴリズムの精度を高めました。

これにより、サイバーエージェントの技術力はシステム開発能力の域を超え、事業の成果に直結する再現性の高い武器へと進化を遂げました。ドラッグストアなら来店前の消費者のクーポン確認、家電量販店なら買い替えサイクルの察知など、業界特有の消費者行動に合わせた最適な広告配信ロジックを設計する能力を獲得していったのです。

クリエイティブ制作という新たな挑戦

リテールメディアはデジタルメディアのリアル版のような側面が強いという理解にもとづき、サイバーエージェントは従来のネット広告と同様に、質の高い広告クリエイティブを数多く制作する体制をとります。

例えば、サイバーエージェントは 2022 年、札幌にリテールメディア専門の制作拠点 「札幌クリエイティブセンター」 を設立しました。

全国の店舗視察を実施し、各店舗のトンマナ (トーン & マナー) に合ったクリエイティブを制作できるよう組織を整えました。

協業モデルの確立

サイバーエージェントの協業へのスタンスは、勝ち筋が見えたときにだけ協業を進めているというものです。

パートナー企業が持つデータや事業モデルが、サイバーエージェントの自社の強みを活かして本当に成功させられるかが問われます。

サイバーエージェントが顧客企業への技術提供にとどまらず、業務委託契約やレベニューシェア契約という形でパートナー企業の事業に深く入り込むという協業モデルは、サイバーエージェントがそれだけ勝ち筋に確信を抱いている証です。

事業の拡大

強固な土台と独自の強みを築き上げたサイバーエージェントは、事業拡大のフェーズへと移行してきました。

サツドラで実証された成功モデル

北海道を中心にドラッグストアを展開するサッポロドラッグストアー (サツドラ) との協業は、具体的な成果を生み出しました。

サツドラの公式アプリは 100 万ダウンロードを突破しましたが、これは北海道の人口約 500 万人において 5 分の 1 がダウンロードしたことになります。

サツドラアプリでの広告コミュニケーションにより、紙のちらしをほぼ廃止しました。デジタルで制作コストを抑え、販促情報を即座に配信できるようになったのです。販促がほぼデジタルで賄えるようになってきたことが、サツドラとの協業での成果です。

サツドラとの初期からの協業で蓄積したノウハウを、サイバーエージェントは他のパートナー企業へと展開しました。現在では小売、金融、航空、通信など約 30 社との協業に至っています。

テレビ黎明期との共通点

新たなメディアを立ち上げ、広告主の広告運用をサポートして自分たちは運営収益を得る。その過程で制作ノウハウをため、媒体の取り扱い売上高のシェアも握る。

これはテレビ黎明期に新たなテレビ局の立ち上げをサポートし、成長後に莫大なテレビ CM シェアを握った電通の動きと通ずる部分があります。

リテール・コマースメディアという新しい広告市場を生み出し、ルールをつくり、未来の覇者となる。サイバーエージェントはそんな壮大な物語を、今まさに紡いでいるのかもしれません。

 「自分たちがやるべき事業」 という理念

サイバーエージェントの事業戦略には、勝ち筋が見えたときに協業や拡大を目指すという姿勢が見られます。

これが意味するのは、目先の利益や案件数に惑わされることなく、パートナー企業が持つデータや事業モデルが、自社の強みを活かして 「本当に成功させられるか」 という点を厳しく見極めるということです。

俯瞰するとわかるのは、サイバーエージェントの事業拡大の判断軸となっているのは、「自分たちがやるべき事業なのか」 です。

この判断軸で決してブレない姿勢が、失敗を重ねながらも質の高い成功事例を積み重ね、ついには高みに到達するというサイバーエージェントの強さを生み出しているのでしょう。

まとめ

今回は、サイバーエージェントの広告事業の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  1. 事業領域の選定: 戦う場所を戦略的に定める。既存プレイヤーがまだ手をつけていないホワイトスペースを見極め、顧客の潜在ニーズと市場ギャップを特定する
  2. 事業インサイトの発見: 顧客の行動や心理から新たな事業アイデアを導く洞察や、既に成功している事業者が使っている能力やノウハウから、自社の得意分野や勝ち筋を再構成するための洞察を得る
  3. 事業能力の獲得: 発見したインサイトを事業として実現するために、必要な能力 (技術力, 顧客対応力, 組織運営力など) を、小さく試しながら磨き上げ着実に構築し、独自の強みとして確立する
  4. 事業の拡大: 目先の効率や利益ではなく 「自分たちがやるべき事業か」 という理念を判断軸とし、築き上げた土台とブレない軸をもとに、事業を健全に成長させる