2010/10/02

サウスウエスト航空の戦略と日本への LCC

アジア最大級の LCC(ローコストキャリア)であるエアアジア X が、今年の12月9日より羽田-クアランプールを結ぶ直行便の就航を発表しました。さらに同社は就航記念キャンペーンとして、同区間を片道5000円で提供するとあり話題を呼んでいます。通常は最低でも1万5千円程度ですので、3分の1の価格です。

ちなみにローコストキャリア(格安航空会社)には明確な定義はないようですが、Wikipedia には効率化の向上によって低い運航費用を実現し、低価格かつサービスが簡素化された航空輸送サービスを提供する航空会社と書かれています。

サウスウエスト航空の競争戦略


LCC と聞くと思い浮かぶのは、アメリカのサウスウエスト航空、とりわけ同社のとった競争戦略についてです。このあたりについては、「ストーリーとしての競争戦略」(楠木建)に詳しく紹介されています。

航空会社の多くは、ハブ・アンド・スポーク方式という運航路線を採用しています。この方式は、各地から飛んでくる飛行機を拠点となるハブ空港に集結させる航空路線システムで、乗客にとっては最低限の乗り換えによりハブ空港を経由して目的地に行くことができます。つまり、出発地-ハブ空港-目的地。

一方でサウスウエスト航空の特徴は、同方式ではなく「ポイント・トゥ・ポイント路線」に特化していることです。大都市のハブ空港を使わず、小都市のあまり混雑しない「二次空港」に乗り入れます。なぜ、便利なハブ空港ではなく二次空港なのでしょうか。

第一に、二次空港は規模が小さいので空港のゲート料や着陸経費がハブ空港の半分~1/3程度で済むようです。

第二に、「ターン時間」。ターン時間とは、空港に着陸した飛行機が次に飛び立つまでの所要時間のことです。ハブ空港は各地から飛行機がやってくるので時としてゲートが混んでいる場合、空くのを待たなければいけません。しかし二次空港を使用することで、ゲート空き待ちの回数や時間が減りターン時間が少なくて済みます。ターン時間は、航空業界においてはコスト低減を示す重要な指標です。サウスウエスト航空はターン時間が15分程度で、大手キャリアの半分~1/3なのです。

第三に、他の運航路線に依存されないことです。乗客がハブ空港を経由するということは乗り継ぎが発生し、乗り継ぎを考慮したフライトスケジュールを組むことになります。ハブ空港は一つの便が遅れると、ハブにつながっている路線全体のスケジュールが乱れます。一方で二次空港への直行便であれば、前の便が何らかの理由で遅延が発生したとしてもその影響はその路線の後続便だけです。

上記ではサウスウエスト航空の特徴として、ターン時間の短さを挙げました。

その要因として二次空港を使っているとしましたが、それ以外にも同社の取組みは様々なものがあります。具体的には、全席が自由席であるため乗客はいい席を取ろうと早めに搭乗しようとします。結果的に出発の遅れが少なくなります。

また、パイロット・客室乗務員・地上クルーなどの横断編成であるターンチームがあります。一般的にはパイロットにはパイロットの役割がありますが、サウスウエストのターンチーム制では、手の空いている人が臨機応変に助け合います。チーム単位で業績が評価され、報酬も連動します。

ここまで、サウスウエスト航空の特徴を見てきました。全席自由席、ターンチーム制、二次空港利用などによるターン時間の短縮。これらコスト削減ゆえのローコストキャリア。もとをたどれば、「ハブ空港を利用しない」という競合他社との差異化選択、つまり戦略です。

日本でも LCC が身近に?


冒頭で取り上げたエアアジア X 以外にも中国の春秋航空など、日本にも本格的にLCCが展開されそうです。日本のキャリアもようやく LCC への取組みが動き出した感があり、ANA は別ブランドでLCCに参入する意向を表明しています。

今後は日本からであれば、例えばアジアへは国内旅行の移動コストよりも低い料金で旅行できるようになるかもしれません。

逆もまた然りで、これまで日本に行きたくても行けなかったような人たちが日本に観光に来ることも考えられます。前述のサウスウエスト航空のコンセプトは「空飛ぶバス」、その意味はこれまではバスなどの交通機関で移動をしていた人たちを飛行機に載せるという考え方で、このような人たちの潜在需要を開拓できそうです。

これまではフツーの人には飛行機は大手キャリアのエコノミークラスくらいしか選べませんでしたが、これからはさらに安いローコストキャリアも選択肢として増えていくでしょう。あとは空港や空港までのアクセスの整備など課題は多いと思いますが、将来的には(アジア圏であれば)海外旅行と国内旅行がフラットな選択肢として並ぶような可能性を期待したいです。


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多田 翼 (書いた人)