2010/10/17

Amazon の競争戦略ストーリー


Free Image on Pixabay


「この商品を買った人はこんな商品も買っています」 - アマゾンには協調フィルタリングと呼ばれるレコメンド技術が使われています。レコメンドにより、自分と嗜好性の近いユーザーが好む商品が提示されます。


Amazon のコンセプト


一方、別の商品をクリックすると、こんなメッセージが出てくることもあります。「お客様は、2010/8/9にこの商品を注文しました。」

このメッセージを見て、初めて自分はすでに買ったことがあることに気づき買うのをやめるでしょう。

なぜアマゾンは、このようなメッセージを表示してくれるのでしょうか。アマゾンにとっては機会損失とも言えます。それは、アマゾンのコンセプトを見ると理解できます。

ストーリーとしての競争戦略 - 優れた戦略の条件 という本には、アマゾンのコンセプトは次のように書かれています。「モノを売るのではなく、人々の購買の意思決定を助けるサービスを提供する」。アマゾンのレビュー機能や、アマゾン・マーケットプレイスにより中古品と新品が比較しやすいようになっているのも、このコンセプトに基づいています。


Amazon の戦略ストーリー


書籍「ストーリーとしての競争戦略」の趣旨は次のようなものです。「優れた戦略とは思わず人に話したくなるようなストーリーだ」。アマゾンの戦略ストーリーの概念は下図のようになります(図1)。


アマゾンのビジネスモデル


アマゾンでしかできない経験を顧客に提供することで、それがトラフィックが増加につながり、サイト訪問者を増えることで売り手もまた多くなります。そうなると、ユーザーからすれば、選べる商品が増えますます顧客の経験を充実させます。

このような成長サイクルにより、低コストが実現し、ひいては低価格で顧客に提供できる。これも顧客の経験につながります。アマゾンの戦略はこのような好循環のストーリーでまわっています。


戦略ストーリーの 5C


同書では、ストーリーの構成として、以下のような5Cを提示しています(表1)。




クリティカル・コア


この本で特におもしろかったのは、4つめのクリティカル・コアでした。ストーリーを起承転結で考えた場合、クリティカルコアは「転」に当たります。その特徴は「一見して非合理」としています。別の表現をすれば、部分最適ではないが全体で見ると理に適っているというもの(図2)。




「ストーリーとしての競争戦略」では、アマゾンのクリティカル・コアは「巨大な物流センターにある」と著者は指摘しています。

ネットで店舗を持つということは、一見すると在庫管理やそのスペースから解放され身軽になることが期待できます。しかし、アマゾンは2000年当時から巨大な物流センターへの投資を続けていたようです。

アマゾンのベゾスCEOは次のように公言しています。「倉庫こそアマゾンの最大の資産である」。

ではなぜアマゾンは物流センターと在庫を持つ道を選んだのでしょうか。アマゾンを利用していて感じるのは、商品の豊富さと確実な手配です。これにより、欲しい商品の検索・比較・購入・配送まで大きなストレスがなく、商品が手元に届きます。

プレミアム会員であればエリアによって注文した商品がその日の当日に届けてもらうことも可能です。前述のアマゾンのコンセプトやストーリーという全体にとって、自前で物流センターを構築することは、彼らにとっては「合理的な」選択なのです。

しかし、外部の人間、特に競合他社にはアマゾンの全体像は見えず、物流センターは「一見して非合理」に見えます。ここだけを考えると、むしろやるべきことではない選択に映ります。

一方のアマゾンにとっては、物流センターというクリティカルコアがあっての戦略ストーリー。このような競合他社によるクリティカルコアの模倣の忌避により、差異化も実現できます。


最後に


「ストーリーとしての競争戦略」はなかなかおもしろい本でした。上記のようなコンセプトやクリティカルコアの説明だけではなく、多くの事例も掲載されています。

アマゾン以外にも、スターバックスやサウスウエスト航空、マブチモーター、あるいは中古車販売のガリバーの戦略ストーリーなど、「思わず人に話したくなる」ものばかりでした。

500ページ以上のボリュームのある本ですが、読んでよかったです。



最新エントリー

多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。