#マーケティング #利用用途 #顧客価値
ビジネスをしている人は、幅広いニーズに応えたいと考え、万人受けする商品やサービスを目指します。しかし、その結果として特徴が薄れ、誰の心にも深く刺さらず、その他大勢の商品に埋もれてしまう原因になっているかもしれません。
それとは逆のアプローチ、すなわち、利用用途を意図的に絞り込むことにより、特定のお客さんから強い支持を獲得することができます。
今回は、ボードゲーム専用レンタルスペース 「LIQUOR GAMERS ROOM (リカーゲーマーズルーム) 」 の事例から、利用用途を絞るマーケティングを掘り下げます。
ボードゲーム専用のレンタルスペース
スペースマーケット社が運営する 「LIQUOR GAMERS ROOM (リカーゲーマーズルーム) 」 。
JR 新大久保駅近くの商業ビルの一室に設けられたボードゲーム専用のレンタルスペースです。
室内には大きなテーブルと、壁一面に100種類以上のボードゲームが並び、無人のバーカウンターも設置されています。飲食物の持ち込みが自由なので、仲間と好きなものを楽しみながら、心ゆくまでボードゲームに没頭できる空間です。
スペースマーケットの調査によると、ボードゲーム目的でのレンタルスペース利用数は、2023年1月から2025年1月で1.9倍に増加しているとのことです (参考情報) 。「LIQUOR GAMERS ROOM」 も週末を中心に予約が埋まるほどの人気ぶりです。
LIQUOR GAMERS ROOM は飲食店のような形態ではなく、あくまでレンタルスペースです。自由度が高く、食べ物やお酒をコンビニなどで調達して持ち込めます。そうした使い勝手の良さが 「居酒屋の飲み会よりもコストパフォーマンスが良くて、長時間盛り上がれる」 と評判を呼び、利用者が増えているのでしょう。
では、スペースマーケットのレンタルスペース 「LIQUOR GAMERS ROOM」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
利用用途を絞るマーケティング
この事例で注目したいのは、「利用用途を絞る」 というアプローチです。
幅広いニーズに応えようとするのではなく、意図的に特定の目的に特化することによって、強い顧客価値を生み出すことができます。
「万人受け」 ではなく 「利用用途の特化」
ビジネスでは通常、より多くの顧客を獲得しようと万人受けを狙います。しかし、総花的なアプローチは、結果として誰にも深く響かないという側面があります。
スペースマーケットも、以前は利用目的を限定しない 「万能型スペース」 のレンタルルームを多く扱っていました。しかし、物件数の増加とともに収益性が低下したという経験を持っています。ここ最近はスペースマーケットは、ボードゲーム、映画鑑賞、筋トレといった 「目的特化型」 のスペースを強化し、全体の約3分の1を占めるまでに至っています。
その中で LIQUOR GAMERS ROOM は、利用用途を絞ったひとつです。「ボードゲームをみんなで楽しみたい」 という、ここまで具体的な利用シーンに焦点を当てています。
ボードゲームで遊ぶという利用用途に特化すると、ボードゲーム好きの人にとっては自分がまさに求めていた空間になります。利用者の満足度も高まるでしょう。ボードゲームを持ち込む手間や管理が不要で、みんなでワイワイ集まる雰囲気が最初から作られているからです。
万人に広くアピールするより、ボードゲーム好きなど明確なニーズを持つ層に絞るほうが、結果的に利用者が集まりやすくなるわけです。
利用用途を起点としたマーケティングの連鎖
ボードゲームを楽しむという利用用途を明確に定めることで、マーケティングの各要素がその用途を中心に有機的に結びついていきます。
■ 注力顧客
まずは注力顧客です。「ボードゲームを気兼ねなく、豊富な種類の中から選び、仲間と長時間楽しみたい」 という明確な目的を持った人が、自然と注力するお客さんとなります。
こうした人たちは、一般的なレンタルスペースでは得られないマニアックさや快適さを求めていることでしょう。たとえば、ボードゲーム好きのメンバーを集めた会社の同僚グループが、チームの親睦を深めるために利用し、種類が豊富で盛り上がれるというようにです。
■ 提供する商品やサービス
注力顧客のニーズに応えるため、スペースマーケットは LIQUOR GAMERS ROOM では100種類以上という数のボードゲームを用意しています。長時間快適に過ごせる大きなテーブル、飲食持ち込み可能なバーカウンターなど、ボードゲームに最適化された空間も商品の要素となります。
■ 販売チャネルや利用場所
注力顧客と提供商品・サービスが決まると、販売チャネルや利用場所も定まってきます。
スペースマーケットは、ボードゲームをしたいという具体的な目的を持つ利用者に効率的にリーチすることに力を入れられます。JR の新大久保駅近くというアクセスしやすい立地も、グループでの集まりやすさを後押しします。
■ コミュニケーション場所と方法
スペースマーケットのウェブサイトでは、常備されているゲームの種類、部屋の設備、利用者のレビューといった詳細な情報を提示しています。
実際に利用した人たちの満足度の高い声、例えば 「居酒屋で飲むよりもお得」 といった具体的な評価は、新たな顧客への強力なアピール情報となります。
■ 価格
ボードゲーム専用という専門性と、提供される独自の価値要素 (豊富なゲーム, 快適な環境, 飲食物の持ち込み自由) に対し、利用者が納得できる価格設定が重要です。
LIQUOR GAMERS ROOM の利用料金は、一日あたりで平日は21,000円 (6名利用の場合1人あたり3,500円) 、土日祝は24,000円 (6名利用の場合1人あたり4,000円) です。参加者全員でレンタル料を割れば 「居酒屋で飲むよりもお得」 と感じてもらえる価格感です。
利用用途を絞ることの有効性
では最後のパートでは、利用用途を絞る戦略の有効性を整理しておきましょう。
万人受けの "なんでも使えます" では響かない
汎用的な貸し会議室のようなスペースは、たしかに多様な用途に対応できますが、それゆえに特徴が薄れがちです。
世の中には同様のスペースが他にもあり、結局は価格競争に陥りやすく、収益性の低下を招きます。どの顧客層に対しても 「帯に短し襷に長し」 となり、結果として誰の心にも強く刺さらない可能性があります。
用途特化型は "ニーズのある人" から強く支持される
一方で、「ボードゲームで仲間とワイワイ盛り上がりたい」 という明確なやりたいことを持つ人にとって、LIQUOR GAMERS ROOM のような専門スペースは他にはない魅力的な場所となります。
こうした人たちは、「ボードゲームを最大限に楽しむための環境」 という価値に対して対価を支払います。
高い顧客満足度を生み出せば、口コミによる新規顧客の獲得やリピート利用も期待できます。ボードゲームのようなニッチな市場であっても、熱量の高いファンをつかむことによって、安定したビジネス展開が可能になります。
具体的な利用シーンが明確だと商品設計、コミュニケーション、価格設定などすべてが連動する
ボードゲームをみんなで楽しむというお客さんの具体的な利用シーンが定まれば、提供すべき価値が明確になります。
LIQUOR GAMERS ROOM の場合は、スペースの内装や必要な設備 (テーブルの大きさ, 椅子の座り心地, ゲーム棚の配置など) 、SNS で発信する情報の内容 (新作ゲームの入荷情報, おすすめゲームの紹介など) 、予約サイトの作り込み (利用人数や時間帯に応じたプラン提示など) 、そして価格設定に至るまでです。すべてが 「ボードゲーム愛好者」 という具体化された顧客像を起点として最適化されました。
マーケティング活動全体に一貫性が生まれ、より効果的に注力顧客にアプローチできます。
まとめ
今回は、ボードゲーム専用のレンタルスペース 「LIQUOR GAMERS ROOM (リカーゲーマーズルーム) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 総花的なアプローチでは誰にも深く届かない可能性がある。万人受けを狙うよりも、利用用途を特化することでコアなニーズに刺さる
- 用途を明確にすることで、商品・サービス設計や空間づくりに一貫性が出る。顧客体験の質が高まり、満足度とリピート率が向上する
- 用途が明確だからこそ、販売チャネルやコミュニケーション手法も最適化できる。伝えるべき内容が具体化され、集客効率が上がる
- 特化することで価格に対する納得感が得られやすい。汎用的な商品・サービスよりも価値が伝わりやすく、適正価格でも選ばれる
- マーケティングの全体が "利用シーン" を起点に有機的に連動する。商品、価格、チャネル、顧客のすべてが一本につながる戦略を構築しやすい
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