#マーケティング #ストーリー #鬼滅の刃
先日、映画『劇場版 「鬼滅の刃」 無限城編 第一章 猗窩座再来』を観てきました。 映画館という大スクリーンと音響設備による映像美と臨場感は圧巻でした。
あらためて考えさせられたのは、なぜ 「鬼滅の刃」 が多くの人の心をつかむのかです。
今回は、映画の概要を振り返りつつ、私が感じた鬼滅の刃の魅力について、3 つの視点から考えます。
劇場版 「鬼滅の刃」 無限城編 第一章 猗窩座再来
物語の舞台は、鬼たちの本拠地である異次元空間 「無限城」 です。ついに鬼殺隊と鬼の最終決戦の火蓋が切って落とされます。
鬼の始祖である鬼舞辻無惨 (きぶつじむざん) を討ち果たすため、無限城へ突入した鬼殺隊。しかし、待ち受けていたのは、無惨が率いる最強の鬼たち 「上弦の鬼」 との過酷な死闘でした。
竈門炭治郎や鬼殺隊の柱、味方の隊員たちは散り散りになりながらも無惨を探し、無限城の奥へと進んでいきます。
それぞれの戦場では命をかけた戦いが始まります。蟲柱の胡蝶しのぶは姉を殺した仇である上弦の弐 (に) ・童磨 (どうま) と対峙し、激しい死闘を繰り広げます。
また、我妻善逸はかつての兄弟子で鬼となった上弦の陸 (ろく) の獪岳 (かいがく) との因縁に決着をつけようとします。
そして物語の大きな山場は、竈門炭治郎と水柱・冨岡義勇が上弦の参・猗窩座 (あかざ) と激突する場面です。かつて炎柱の煉獄杏寿郎を討った猗窩座との戦いは壮絶を極めます。
凄まじい猗窩座の強さの前に、何度も絶望的な状況に追い込まれる炭治郎と義勇。戦いの最後に猗窩座の脳裏によぎったのは、人間だった頃の記憶でした。なぜ猗窩座は強さを求め続けるのか。その謎に迫る回想シーンです。
映画を観終わって考えたのは、なぜ鬼滅の刃がこれほど人気なのかということです。
その答えを 3 つの視点から考察してみました。
- 物語に 「軸」 が通ったストーリー
- 敵をも愛おしくさせる 「走馬灯」 の力
- 優しさと思いやり
物語に 「軸」 が通ったストーリー
1 つ目はストーリーです。鬼滅の刃は今回の映画に限らず、話の最初から最後までストーリーが一貫しています。
主人公である炭治郎の目的はたったひとつ。鬼にされてしまった妹の禰豆子 (ねづこ) を、人間に戻すことです。
この唯一の目的を達成するために、炭治郎はより強い鬼を倒し、情報を集める。そして最終的な目標は、全ての元凶である鬼舞辻無惨を倒すこと。無惨の血液を手に入れれば、禰豆子を人間に戻す治療法が見つかるかもしれないという願いです。
物語の途中で新たな仲間が増え、強力な敵が現れ、様々なエピソードが展開されても、「妹を救う」 という中心軸がぶれることはありません。だからこそ、読者や視聴者は物語の向かう先を見失うことなくストリーに感情移入し、没入できます。
複雑な設定や伏線ももちろんありますが、物語のメインストーリーが常にシンプル。これが鬼滅の刃が多くの人々の心にまっすぐ届く理由なのでしょう。
敵をも愛おしくさせる 「走馬灯」 の力
2 つ目の鬼滅の刃の魅力は、キャラクターです。
キャラクターの魅力をつくっているのは、過去のエピソードから共感を生む人間性です。
なぜ鬼になったのかのストーリー
ラスボスである鬼舞辻無惨だけではなく、上弦の鬼や下弦の鬼までエピソードが必ずと言っていいほど存在します。
鬼滅の刃では、炭治郎たちに倒された上弦の鬼たちが塵となって消えるその瞬間に、まだ人間だった頃の過去の記憶が走馬灯のように描かれます。
なぜ鬼にならなければならなかったのか。鬼になる前の人間として生きていた頃の思い出。記憶の中心にあるのは、多くの場合、かけがえのない家族との絆です。
理不尽な出来事によって愛する者を奪われ、絶望の淵で鬼舞辻無惨に出会い、人間であることをやめてしまった者たち。鬼たちの走馬灯の回想シーンから、生まれながらの怪物など存在しない、彼らもまた、今の人間と同じように喜び、悲しみ、誰かを愛した人間だったのだということを知ります。
鬼滅の刃では登場人物の過去の回想シーンによって、主人公の炭治郎たちだけでなく、倒すべき敵である鬼たちの人生にも光を当て、物語に深みを与えます。
だから鬼が死ぬシーンでは敵であるにもかかわらず、悲しく、愛おしくて、どうしようもなく切ない気持ちにさせられるのです。
猗窩座の悲しい過去
今回の映画では、胡蝶しのぶと童磨、善逸と獪岳の因縁、猗窩座と、それぞれの過去が現在の戦いに重なりました。
中でも、特に回想シーンで重きを置かれていたのは猗窩座です。
猗窩座は圧倒的な強さを誇り、強者との闘いのみに執着する戦闘狂です。そんな猗窩座が、なぜこれほどまでに強さを求めるのか。その答えは、まだ猗窩座が人間だった時の記憶にありました。
名前は狛治 (はくじ) 。
江戸時代に生きた狛治は、重い病気の父の薬を得るため、盗みを繰り返す日々を送っていました。しかし、狛治の振る舞いに心が折れた父は自害。自暴自棄になった狛治を救ったのは、素手で道場を営む師範である慶蔵 (けいぞう) でした。
慶蔵は狛治の素質を見抜き、全てを受け入れます。弟子として武術を教え、そして病弱な娘・恋雪 (こゆき) の世話を任せます。
狛治は慶蔵と恋雪という新しい家族を得て、生まれて初めて人間らしい穏やかな時間と、守るべきものができる幸せを知ります。やがて恋雪と将来を誓い合い、狛治の人生は光に満ち溢れているように見えました。
しかし、その幸せはあまりにも儚く、脆いものでした。
ある日、狛治が留守にしているわずか半日程度の間に、慶蔵と恋雪は井戸に毒を盛られ、あっけなく命を奪われてしまうのです。
実の父親につづき、守ると誓った大切な人たちを、またしても守れなかった⋯。
その凄まじい怒りと絶望、そして深い無力感が、狛治を破壊の化身へと変貌させ、復讐を遂げ、狛治は鬼舞辻無惨に請われ鬼となる道を選ぶことになりました。狛治の強さへの異常なまでの執着は、もう二度と大切なものを失わないため、守れなかった過去を塗りつぶすための悲しい叫びだったのです。
映画では炭治郎と猗窩座の死闘の中で、狛治の過去の記憶がフラッシュバックします。
守りたかったはずの恋雪の姿は、敵である猗窩座の本質が純粋な愛と喪失感から来ていたことを象徴します。猗窩座は敵のキャラクターにもかかわらず、悪として断罪できなくなるような共感を生むのです。
優しさと思いやり
鬼滅の刃がおもしろいと思う 3 つ目の理由は、主人公である竈門炭治郎の優しさと思いやりです。
味方のことだけではなく、敵である鬼にも最期の死ぬ瞬間には優しさや気配りを見せます。
思いやりの強い炭治郎のキャラクター設定が興味深いです。
炭治郎にとって猗窩座は尊敬する柱のひとりだった煉獄杏寿郎を殺した相手で、決して許すことはできない存在でした。
しかし猗窩座との戦いの最後、炭治郎は猗窩座に対して憎しみではなく、むしろ理解を示したような描写がありました。
炭治郎は、鬼を倒す瞬間でさえ、鬼たちの苦しみや悲しみに寄り添います。 敵である鬼に対しても最期の瞬間には優しさや気配りを見せ、魂を安らかにしようとします。
そもそも、炭治郎は決して鬼と戦うことを本心から望んでいません。 鬼との戦いは、あくまでも鬼になってしまった禰豆子を人間に戻すという目的を達成するための手段です。根底には、妹への深い愛情があり、また、鬼になってしまった者たちへの憐れみの感情も見てとれます。
炭治郎の優しさは、他のジャンプ漫画の主人公、たとえばワンピースのルフィやドラゴンボールの孫悟空などの、ただただ高みや強さを求めるキャラクター性とは異なります。
それはどこか女性的で、繊細な側面を持っています。「海賊王」 や 「この世で一番強い奴」 といった最強や勝利を求めるだけでなく、他者への共感や思いやりを重視するその姿勢があります。これが、鬼滅が多くの人の心をつかんで離さない、鬼滅ならではの特徴です。
戦いそのものを楽しむのではなく、大切な人を守るため。そして鬼になってしまった者たちを救うために戦う。優しさと強さの両立が、現代の価値観にも響くのではないでしょうか。
最後に
今回の鬼滅の刃の映画 「無限城編 第一章 猗窩座再来」 では、今回考えた要素が洗練されていました。
ただやっぱり印象的だったのは、敵味方を超えた人間ドラマの描写です。
胡蝶しのぶの覚悟、善逸の成長、そして猗窩座の人としての人格の回帰。それぞれのキャラクターが背負う過去と現在が交錯し、単純な勧善懲悪では収まらない物語の奥行きを見せてくれました。
映画は 155 分という 2 時間半を超える長尺でありながら、途中でダレることがなく描ききったのは、シンプルな軸を保ちながらも、各キャラクターの内面を丁寧に描いていたからです。
まとめ
今回は、映画『劇場版 「鬼滅の刃」 無限城編 第一章 猗窩座再来』を観てきたので、思ったことの共有でした。
最後にポイントとして、鬼滅の刃をおもしろいと思う要因のまとめです。
- 鬼滅の刃は、複雑な設定があってもメインストーリーがブレないため、誰もが物語に没入できる。妹の禰豆子を人間に戻すという炭治郎の目的が物語の中心の軸になっている
- キャラクターに描かれる原体験ストーリー。味方だけでなく敵の上弦や下弦の鬼にも過去エピソードがある。これが各キャラクターに深みを与える
- 敵である鬼の 「走馬灯 (回想シーン) 」 が共感を生む。上弦・下弦の鬼たちが死ぬ瞬間に描かれる人間時代の記憶や家族との絆が、敵なのに愛おしく切ない気持ちにさせる
- 炭治郎には敵にも向ける優しさと思いやり。敵である鬼を倒す瞬間でさえ、その苦しみに寄り添い、魂を安らかにしようとする姿勢には、強さだけを求める少年漫画の主人公とは異なる優しい側面がある
- 単純な勧善懲悪を超えた人間ドラマ。それぞれの登場人物たちが背負う過去と現在が交錯し、敵味方を超えた物語の奥行きを生み出す
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