投稿日 2024/04/15

かつての低迷期を乗り越えたサントリーダカラ。ターゲット顧客と価値提供の明確化が成功への鍵

#マーケティング #顧客設定 #提供価値

商品開発やマーケティングで成功するためには、どうすればいいのでしょうか?

ビジネスで重要なのは、「ターゲット顧客 (誰に) 」 と 「提供価値 (何を) 」 を明確にすることです。しかし、これが意外と難しいのです。

そこで今回は、「誰に」 と 「何を」 の要素をどのように確立し、一貫性のある商品開発とマーケティングを展開できるかを事例から解説します。

サントリー ダカラ


2000年発売当時のダカラ (出典: ITmedia

ダカラのこれまで


サントリー食品インターナショナルの 「ライフパートナー DAKARA (ダカラ) 」 は、ポカリスエットとアクエリアスというスポーツ飲料の二強に挑戦するために、2000年3月に発売されました。

それまでありそうでなかった、日常生活に焦点を当てたスポーツドリンクは大きな反響を呼び、発売年には1500万ケースを売り上げた。02年には3400万ケースを記録し、ダカラは一躍、同社の人気商品へと成長した。

その後、増減はありつつもコンスタントに売れ続けていたダカラ。しかし07年以降、販売数が減少していく。井島氏 (引用者注: サントリー食品インターナショナル ブランド開発事業部の井島隆信氏) によれば、これには大きく2つの理由があるという。

1つ目は、競合商品が多く発売されたことだ。「弊社内からはビタミンウォーターや燃焼系アミノ式が、他社からもダカラのような機能性飲料や特保 (特定保健用食品) が次々投入されました」 (井島氏) 

2つ目は猛暑による熱中症が社会問題となったことが挙げられる。熱中症対策の水分補給として、汗で失われたナトリウムを補給できるスポーツドリンクの人気は高まった。しかし、ダカラは 「余分なナトリウムを排出する」 という機能があるため、熱中症対策としての役割を果たせなかった。従来のスポーツドリンクの盲点を突くことでヒット商品となったダカラだったが、一度ブランドを見直すことになった。

親子をターゲットにしたスポーツドリンクに


ダカラは発売後は人気商品に成長したものの、その後は低迷したために、消費者の日常生活でのニーズに焦点を当てた新しいスポーツドリンクへの転身を図りました。

ブランド見直しに際し、開発チームは家庭訪問調査、デプスインタビュー (1対1のインタビューで行う調査方法) 、街頭調査を実施。消費者がどのようなスポーツドリンクを求めているかを再度、徹底的に調査した。

その結果 「なるべく自然由来の素材で作られていて、体に良いもの」 「分かりやすい原材料を使用しているもの」 「子どもに飲ませても OK という安心感があるもの」 というスポーツドリンクを求めていることが分かった。

これらの結果を受けて、開発チームは大きな決断をする。これまでの全世代を対象にしたスポーツドリンクから、メインターゲットを 「親子」 に絞ったスポーツドリンクへと変更したのだ。「ダカラで培った日常生活で飲めるスポーツドリンクというコンセプトは変えず、親が安心して子どもに与えられるくらい、体にやさしい素材でナトリウムを補給できるスポーツドリンクへと方向転換しました」 (井島氏) 

ブランドの見直しは成功し、「GREEN DA・KA・RA」 や 「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」 がダカラの主力商品となりました。ここ最近では 「GREEN DA・KA・RA やさしいルイボス」 を発売しています。


学べること


ではダカラの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

 「誰に」 と 「どんな価値を」 


ダカラの事例からは、ターゲットとなる 「誰に (Who) 」 と、「提供する価値 (What) 」 の2つを明確化する重要性を学べます。

ダカラは、ターゲット顧客を全世代のオールターゲットから親子向けに絞り込み、子どもでも安心して飲める優しい飲料という位置づけにしました。

提供する顧客価値については、親が安心して子どもに与えられるよう、体にやさしい素材でナトリウムを補給でき、日常的に飲めるという点を重視しました。

きっかけは調査からの発見


Who と What の再設定のきっかけは消費者調査からでした。

ブランドの見直しに際し、開発チームは家庭訪問調査、デプスインタビュー、街頭調査を実施しました。消費者がどのようなスポーツドリンクを求めているかを再度、徹底的に調査したわけです。

調査の結果、消費者が求めていたのは 「なるべく自然由来の素材で作られていて、体に良いもの」 「分かりやすい原材料を使用しているもの」 「子どもに飲ませられて安心感があるもの」 というスポーツドリンクだということがわかりました。

グリーンダカラの発売


新商品開発では、消費者が求めている価値を提供するための 「Reason To Believe (RTB) 」 、すなわち 「信じるに足る理由」 という価値を支える根拠を確立するため、原材料は自然由来にこだわりました。

具体的には、グレープフルーツ、レモン、ゆず、はちみつ、さとうきび、トマト、果糖、食塩、キダチアロエ、海藻、黒ごまなど11種類の素材を採用しました。また、従来のダカラと同様に、ミネラルやアミノ酸、クエン酸など不足しがちな栄養素も加えました。

こうして2012年4月に発売されたのが 「GREEN DA・KA・RA」 です。親子をメインターゲットに設定したリニューアルで、自然由来の原材料でナトリウムを補給できる機能性が注目を集めました。

麦茶への横展開


サントリーは、グリーンダカラの成功の勢いそのままに、次の一手として麦茶に目を付けました。

家庭訪問調査で多くの家庭で麦茶が定番飲料であることを発見しました。メインターゲットに親子を設定しているグリーンダカラと、家庭の定番の飲み物である麦茶は一見無関係のように思えるものの、「親子」 という共通点で結びつければ、開発の余地があると捉えました。

こうした商品展開の構想に社内では 「スポーツドリンクのイメージが強いグリーンダカラから、麦茶を出して受け入れられるのか?」 という意見もあったようですが、親子というターゲットを前面に出せば受け入れられると判断し、麦茶の開発を進めました。

2013年7月、派生商品である 「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」 を発売しました。

Who と What の一貫性がある商品展開


では最後に、ダカラの事例からの学びを一般化してみましょう。

今回の話からは、ターゲット顧客 (Who) と提供する顧客価値 (What) を明確にし、一貫性のある商品展開やマーケティングを行う重要性が見て取れます。

スポーツドリンクから麦茶への展開は、一見するとつながりが見えないかもしれません。しかし、初期のダカラ以降のダカラシリーズでは、親子向けに自然由来で安心して飲めるものという、ターゲット顧客と提供する顧客価値はブレずに変わっていません。

Who と What が土台としてあって、お客さんへの提供価値を実現するための新しい商品を、徹底した消費者調査から見出した顧客理解にもとづいて展開しているのです。


まとめ


今回はサントリーのダカラを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品開発やマーケティングでは、ターゲットとなる 「誰に (Who) 」 と、「お客さんに提供する価値 (What) 」 の2つを明確にすることが大事

  • ターゲット顧客と提供する顧客価値において一貫性があれば、商品のラインナップやカテゴリーが変わったとしてもコンセプトがブレない商品展開ができる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。