投稿日 2024/07/26

セイコーマートの独自戦略。価値ある非効率の追求、やらないことの見極めと徹底

#マーケティング #戦略 #勝ち筋の追求

大手企業の影に隠れがちな中小企業や地域密着型のビジネスですが、資本力で劣る企業が大手に対抗するカギは、意外なところに秘密が隠されています。

今回は北海道で愛されるコンビニエンスストアの 「セイコーマート」 を取り上げます。セイコーマートが独自の店舗運営を徹底し、お客さんに他にはない価値を提供している事例をご紹介します。

独自性と戦略的な選択がもたらすビジネスへの学びについて、ぜひ一緒に深めていきましょう。

セイコーマートの4つの独自戦略



セイコーマートは北海道を中心に展開するコンビニです。

セイコーマートはコンビニ店舗の運営方針において独自路線を貫いています。効率化が重視されるコンビニ業界での常識を覆すような戦略です。

✓ コンビニの常識を覆す独自戦略

  • あえて非効率な店内調理 「ホットシェフ」
  • 商品パッケージにこだわらない
  • 商品開発に顧客の意見は入れない
  • 店舗は北海道民向け (全国は意識しない) 


順番に詳しく見ていきましょう。

あえて非効率な店内調理 「ホットシェフ」 

セイコーマートの特徴の1つは、店内での調理をして食事メニューを提供する 「ホットシェフ」 です。

ホットシェフでは、クロワッサンやフライドチキン、カツ丼、豚丼など、多岐にわたるメニューを店頭で調理しています。

店内調理によって、できたての温かい食事を提供できるホットシェフは、今やセイコーマートの売上の 10% を占めるまでになり、事業の重要な柱となりました (参考記事) 。他のコンビニチェーンとは異なり 「あえての非効率」 を追求することで、差異化を顧客価値につなげています。

商品パッケージにこだわらない

セイコーマートは、商品のパッケージデザインに多大なコストをかけることをやめ、中身の品質に焦点を当てる方針をとっています。

確かにお金をかけた見栄えのいいパッケージの商品にすれば、高く売れることでしょう。しかし、セイコーマートが根底に持っているのは、結局は捨ててしまうバッケージにお金をかけるのではなく、中身で勝負すべきだという考え方です。

商品パッケージにこだわらないことで、消費者に手頃な価格で高品質な商品を提供できます。

商品開発に顧客の意見は入れない

セイコーマートで興味深いのは、お客さんの意見や声を直接的に商品開発に反映させることはほとんどないという点です (参考記事) 。

そもそもとして、セイコーマートにはお客さんからの 「この店舗にこういう商品を置いてほしい」 といった要望を受けることはあっても、 「こんな商品がほしい」 といった商品そのものへのリクエストを受けることはほとんどないそうです。

では新商品開発はどのように発想をするかと言うと、商品開発の基準は、「自分たちが普段食べているもの」 「自分が食べたいもの」 「原材料が利用可能か」 という3つの質問に集約されます。

3つの判断軸により、地元北海道の郷土料理や開発者自身が “本当に食べたい” と思うものが商品化され、地元密着型のラインナップを強化しています。

店舗は北海道民向け (全国は意識しない) 

セイコーマートは、地元北海道に根ざした出店とサービス提供を優先し、地元の人たちにとって身近で便利な存在になることを目指しています。

店舗は北海道外にも進出していますが、地元のニーズに応える商品やサービスを提供することを重視し、全国的な展開よりも地域密着型の店舗運営を行っています。

セイコーマートは北海道以外での知名度はありながらも、地元北海道の文化やニーズに応えることを重要視しているのです。

学べること


ではセイコーマートの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

大手企業にはできない勝ち筋の追求

大手企業と競合する際、中小企業や地域密着型のビジネスは、資本力の差を直接的に覆すのはし難しいという現実があります。

しかし、セイコーマートの成功事例は、そうした挑戦者がいかにして自らの強みを見出し 、ビジネスで勝利を収めることが可能であるかを教えてくれます。

大手ではないプレイヤーが大手企業に勝つためには、いかに資本の大きなプレイヤーと 「異なることをやるか」 が肝になります。

それも大手からすると非効率に見え、いかにも筋が悪そうなことの中に自分たちの勝ち筋を見出し、「勝ち筋とする非効率なこと」 を徹底してやり抜くことが大事です。

セイコーマートの事例から学べるポイントは、大手企業には真似できない、あるいは、やりたがらない 「非効率」 を逆手にとったお客さんへの独自の価値提供にあります。

非効率からの価値提供

セイコマートの事例では、店内で調理するホットシェフがそれに当たります。

セイコーマートがホットシェフでやっていることは、一見、非効率でコストがかかるとされる店内調理です。

しかしただ非効率なことを行うだけでなく、その非効率性を徹底することで、品質の向上と顧客体験の豊かさ、顧客満足度の向上につなげています。

たとえば、ホットシェフでは、カツ丼や豚丼をはじめとする様々なメニューをお店の中で1つ1つ丁寧に調理し、できたてで温かい料理を提供します。ホットシェフが店内で調理されることでの新鮮さ、料理としての品質の高さ、地域の食材を活用したメニューによってお客さんからの人気を得ています。

「やらないこと」 の徹底

非効率の追求だけがセイコーマートの成功の要因ではありません。

セイコーマートは、「やらないと決めたこと」 は思い切って捨てています。

たとえば、商品パッケージへの必要以上のこだわりをやめ、中身の品質で勝負する戦略や、お客さんの声をあえて聴かない商品開発、さらにはターゲット顧客を北海道内に絞ることなど、意図的に選んだ 「やらないこと」 をつくっています。

これらの戦略的な決断と実行は、セイコーマートが他のお店にはない独自の存在感を確立する上で重要な役割を果たしています。

 "弱者" の生きる道

セイコーマートの事例からビジネスにおいて学べるのは、大手企業ではないプレイヤーがいかに勝ち筋を見出すかです。

大手企業にはない、大手では真似ができない独自の勝ち筋を見つけ出し、それを徹底的に追求することの重要性です。

また、成功のためには 「何をするか」 だけでなく、「何をしないか」 の選択もカギを握ります。その選択を通じてリソース (人, モノ, 予算) をやると決めたことに一点集中で投下し、自身の強みを最大化することが大事です。

セイコーマートの事例は、資本力に劣るプレイヤーでも独自の戦略と実行をやり抜くことで、大手には取れない勝ち筋から市場で成功を収めることができることを示しています。

まとめ


今回は、北海道のコンビニ 「セイコーマート」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 独自の勝ち筋を追求: 中小企業や地域密着型のビジネスで大手企業に対抗するために、資本の大きなプレイヤーとは異なる戦略をとるといい。セイコーマートは 「非効率」 と見られがちな独自のサービスを徹底することで、お客さんに他にはない価値を提供している

  • 非効率から価値を創出: セイコーマートの 「ホットシェフ」 は店内で直接調理を行うという、一見すると非効率に見えるサービスに注力している。1つ1つ丁寧に調理をすることで品質の向上と顧客体験の豊かさ、顧客満足を実現し、来店客からの高い支持を獲得している

  •   「やらないこと」 の選択: 成功するビジネスには、何をするかだけでなく、何をしないかの見極めがある。セイコーマートは、商品パッケージへのこだわりを捨て、お客さんの声を聴かない商品開発、地域に根ざしたターゲット設定 (日本全国は捨てる) など、意図的に選択した 「やらないこと」 によって、独自のポジションを築き上げた


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。