2011/05/15

テレビとこれからの視聴率を考えてみる

日本でテレビ放送が開始されたのは1953年(昭和28年)でした。2月1日にNHKが、その後8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始しています。放送開始当初のNHKの受信契約は866件だったようです。

■テレビのビジネスモデル

テレビのビジネスモデルは50年前も今も基本的には変わっていません。1953年当初から、NHKは視聴者から受信料を受け取る有料モデルであり、日本テレビ放送網はスポンサー企業のCMを入れる広告モデル(受信料は無料)でした。ちなみに、日本での初めてのテレビCMは、日本テレビ放送網の放送初日に流された精工舎の時報だったとのこと。

スポンサー企業は50年前も今も、多くの予算を投入しテレビCMを流しています。スポンサーにとってテレビはそれだけ「広告媒体」としての価値を見出しているのでしょう。つまり、一つの情報を一度に大量の視聴者に届けることができるという価値です。これは、新聞・雑誌、ラジオ、あるいはネットと比べても優れていると思います。

CMは番組の間に放送されるわけですが、スポンサー企業にとって本当に見てほしいのはCMなわけです。CMを見て自分たち企業のことや商品・サービスを知って興味を持ってもらいたい、店頭で手に取り、そして買ってほしい。これがテレビCMに期待する効果です。だからスポンサーにとっては、テレビ番組はむしろCMを見てもらうため「客寄せ」という位置づけ。視聴者にとっては番組が主役でCMがおまけみたいなものですが、スポンサーは逆になります。

■広告業界で使われるGRP指標とは

ところで、テレビの広告業界の世界でよく使われるものに、GRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)という用語があります。これはCMの視聴率を積み上げた数値で、例えばCMを100本打った場合に、仮にその視聴率が全て10%だったとすると、GRPは100×10=1000となります。もう少し現実的には、16%の番組に5本、12%の番組に6本、6%の番組に8本のCMを流した場合は、(16×5)+(12×6)+(6×8)=200GRPのようになります。

GRPはスポットCMという放送局が定めた時間枠に放映するCMの取引に用いられます。例えば、スポンサーから「新商品のCMは1000GRPで」という依頼がテレビ放送局に入ったとします。この場合、10%の視聴率が取れそうな番組のCM枠であれば、100本のCMを打つことなりますが、視聴率が5%の場合は200本を打たなければならなくなります。このように、GRPとは、広告主や広告会社にとっては出稿や広告の計画を考える際の指標であり、一方の媒体社であるテレビ放送局からみると広告枠の在庫管理指標としての意味合いが強くなります。なお、GRP単価は一般に在京キー局で10万円程度と言われており、関東地区で1000GRPを獲得するためには1億円相当の広告料が必要になります。(参照:GRPとは|ITpro

■視聴率と視聴質

GRPとは、CM出稿量×視聴率で表される指標です(ここで言う視聴率は一般的には世帯視聴率)。視聴率は、私たち視聴者にとってもどの番組が人気があるのかを知る一つの基準になるとともに、広告主やテレビ放送局にとっても出稿計画や広告費(広告主にはコスト、テレビ局にとっては売上)に直結する影響の大きなものです。

ここで世帯視聴率についてあらためて考えてみると、視聴率というは簡単に言うと、番組あるいはCMがどれだけの世帯で見られたのかという「量」を表す指標です。その番組であったりCMの評価という意味では、本来であれば「誰が見たのか」「その番組/CMはどうだったか(好感度など)」「CMを見てその商品を買ったか」等々、現在の視聴率では取りきれない、いわば視聴の質も考慮することも重要になります。つまり、視聴率が量的な尺度だとすると、視聴質というテレビ番組の質、視聴者の質、視聴の質などを測る尺度が重要になるのです。

しかし、現在のところ視聴質は広告主を中心に実現が期待されているものの、そもそもの何をもって視聴の質とするかの定義も明確になっておらず、または、どうやって聴取するかという調査手法も確立していません。視聴率についてはビデオリサーチ社の世帯視聴率が標準的に使われていますが、視聴の質については放送局や調査会社が独自に調査をしている程度にとどまっているのが現状です。

■これからの視聴率・視聴質

視聴率を世帯という単位で見ることも、これからもそうであっていいのかという議論もあります。よくスポーツ紙などでは、「瞬間最高資料率35%、3人に1人は見た」などの見出しをみかけますが、世帯ベースの数字であればこの表現は間違いで、個人ベースの視聴率を使わなければなりません。ただ、3世帯に1世帯が見たと言われても、あまりイメージがしにくい表現になってしまうようにも思いますが。ビデオリサーチ社では1997年からピープルメーターという機械を使って、個人の視聴率調査も実施していますが(現在は関東・関西・名古屋地区で各600世帯)、これはあくまで世帯内個人であり、少し専門的な話をすると調査設計が世帯で考えられているので、世帯内個人だと個人ベースでは調査の代表性(日本の個人人口を正しく反映していること)が担保されていないものになっています。

日本のテレビ業界では唯一の「通貨」とも言えるビデオリサーチ社の視聴率ですが、これからのテレビのあり方を考えるとテレビの見られ方に合わせて進化する必要がありそうです。というのも、日本での視聴率と一般的に言われるのは自宅内でのリアルタイム視聴のことであり、レコーダーに一旦録画した番組を再生する、いわゆるタイムシフト視聴や携帯電話でのワンセグ放送などは対象となっていません。下図でみると、左下のセグメントだけになります。実は、ビデオリサーチの視聴率調査には、録画率という指標があるのですが、これは録画と同時にテレビでも同じものを見ていた場合のみであり、留守録などにより後から再生し見た場合(タイムシフト視聴)は含まれていない。


このようにこれからの視聴率という観点では、家庭内のTVだけではなく、タブレット型も含むPCでの視聴、あるいはスマートフォンなどの多種類のデバイス、レコーダー等によるリアルタイム以外のタイムシフト視聴も含めた「視聴」を捉える必要があります。

そして、視聴率ではどれだけの世帯・人が見たかという量的な尺度なので、質的な側面も捉えることが求められます。これは、「○○という番組を見てどう思いましたか」と聞くのは、コストも時間もかかり、そもそも本当に聞き出したいことが手に入るかという課題もありそうです。そうではなく、例えば、IntoNowに見られるようなテレビ番組へのチェックインであったり、テレビ番組に関するツイートを番組ごとに閲覧できるクライアントサービスであるtwelevisionの入力データなどを活用することなのかもしれません。入力データのハンドリングなど課題はあるかと思いますが、書籍「次世代マーケティングリサーチ」で著者の萩原雅之氏が述べている「Asking(質問する)からListening(傾聴する)へ」という考え方での視聴調査になるのかもしれません。質問をして「集めるデータ」ではなく、視聴者から「集まってくるデータ」を利用するのです。

■まとめ

日本のテレビのビジネスモデルである「広告モデル」は現在でも主流です。広告主とテレビ放送局にとって、GRPとその要素である視聴率の影響は大きいものの、視聴率の性格が「どれだけの世帯が見たか」という量的な尺度であることから、番組やCMの質を捉える視聴質への期待があります。

しかし、視聴質の定義や調査手法が確立していないため、ビデオリサーチの視聴率が「通貨」となっているのが現状です。タイムシフトや視聴場所シフトというこれからのテレビ視聴スタイルを想定すると、視聴率はそれに合わせて変わっていくことが望まれ、視聴の質も全く新しい考え方で捉えることになるのかもしれません。


※参考情報

テレビ放送開始|NHK
日本放送協会|Wikipedia
日本テレビ放送網|Wikipedia
セイコーホールディングス|Wikipedia
延べ視聴率|Wikipedia
GRPとは|ITpro
IntoNow
twelevision
指定したテレビ番組に関するツイートを閲覧できるクライアント『Twelevision』|lifehacker


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