2011/12/15

Google Mapのビッグデータ活用事例と2つの課題

Googleマップに新しいサービスが追加されました。「交通状況」という地図上で渋滞状況がわかる新しい機能です。今回のエントリーでは、グーグルマップの新機能と、ビッグデータ活用という観点から2つの課題について書いています。
交通状況がGoogle マップで見られるようになりました|Google Japan Blog

■Google Mapの「交通状況」機能とビッグデータ


このイメージは上記のGoogleブログからの引用した東京の地図ですが、交通状況により混雑している道路が赤や黄色で表示されます。このように現在の交通状況が表示されるだけではなく、曜日や時刻を設定変更すれば、その時間帯の「典型的な交通状況」もわかるとのこと。モバイルにも対応しており、Googleマップナビでは、この交通状況も考慮され、目的地までの到着時間を計算されるようです。

仕組みは、スマートフォンからGoogleに送られる位置情報と速度データを活用することで、通行状況を計算し表示しています(プライバシー観点から、スマートフォンでユーザーがMy Location(現在地)の機能を有効にしている場合にのみグーグルに送られる)。位置情報はもちろん匿名化されますが、スマートフォンからの大量の匿名データを時々刻々と蓄積・処理し、結果をグーグルマップに返すことで実現しているのです。今後、より多くのユーザーからの情報が得られれば、より精度の高い交通状況の情報をフィードバックでき、さらに便利になるという好循環が期待できます。前回のエントリーで「ビッグデータ」について書きましたが、このGoogleマップのケースもまさに位置と速度情報というビッグデータをうまく活用した事例です。
ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる|思考の整理日記

■課題1:「過去の事実」から「未来の解釈」まで

実際にグーグルマップの「交通状況」を見てみると、主要な道路や高速だけですが、見る時間によって混雑状況が変わっていることがわかります。地図左下の変更から、曜日や時間帯を指定すれば、同じ時間帯でも平日と休日で状況が違っていたりと、なかなかおもしろいサービスです。ただ、個人的な印象で言うと、機能としてはもう1段階ブラッシュアップしてほしいという期待があります。

それは、結局のところ、現在の混雑状況からどの道路を選ぶかは、自分で判断する必要がある点です。曜日や時間帯を変更できると言っても表示されるのはあくまで「典型的な交通状況」なので、慢性的な渋滞には対応できても、突発的な渋滞を把握するのには使いにくい印象です。現時点でのグーグルマップでの「交通状況」機能はあくまでリアルタイムの今という瞬間の混雑状況はわかりますが、将来、すなわち自分がその道路を通る時間には渋滞がどうなっているかは正確にはわからないのです。

前回のエントリーで取り上げた書籍「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)には、以下のようなマトリクスが提示されていました。横軸は「事実」を把握するのか、事実から「解釈」まで捉えるのか。縦軸は過去(現在も含めてよいはず)なのか、未来のことなのか、というマトリクスです。

引用:「ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略」(鈴木良介 翔泳社)

このマトリクスで言うと、「交通状況」機能はあくまで現在の事実を提示しているにすぎず(これはこれですごいのですが)、自分が乗車中に使うとすれば便利であろう「未来の事実」:自分がその道路を通る時の渋滞予測、「未来の解釈」:どの道路を選ぶのが最適なのか、まで瞬時に提示してくれる機能です。自分がなぜこのサービスを使うかを考えると、要するに、どれだけ渋滞を避けて快適な運転・移動ができるかなんですよね。これをあらためて図にすると以下のイメージ。

先ほども書いたように、今の状況は「未来の事実」「未来の解釈」を人が予測し、決める必要があります。これを人ではなく機械で実現するためには、各車の走行状況からその地域全体の走行車を最適に配置するという、1台だけ渋滞を避ける部分最適ではなく各車を全体最適化する必要があるわけですが、グーグルにはついついそこまでの期待値を持ってしまいます。ちなみに、グーグルはフォードと共同でこのあたりの研究に取り組んでいるようなので、今後の展開が楽しみなところです。
GoogleとFordが開発する「スマート・カー」(WIRED VISION)|ITpro
Ford Developers Look to Use Google Prediction API to Optimize Energy Efficiency; Research Presented at Google I/O|Ford Motor Company Newsroom

■課題2:そもそものデータの偏り・データ量不十分

別の課題をもう1つ。そもそも渋滞情報に使っているデータは正しいのか、という視点です。グーグルマップの交通情報に使われているデータは、スマートフォンの位置情報と速度情報です。逆に言うと、スマートフォンではないモバイルのデータは使われていない。だから、グーグルマップの交通状況はスマホ保有者のみの状況で、もっと言うと、My Location機能を有効の人のみの渋滞情報なのです。仮にフィーチャーフォン所有者が乗る車で渋滞していると、マップ上には表示されません。このようなデータの偏り(今回で言うとスマホで現在情報を有効にしている人だけという偏り)を前提に考慮しておく必要があると思います。専門的な表現をすると、データバイアスの問題です。

スマホを持っている人が運転する車とフィーチャーフォンの車とで走る道路が大きく異なる、ということはあまり考えにくいですが、現時点でのグーグルの交通状況機能は、データ量としてはまだまだ十分ではない印象です。高速や主要道路以外は、データが少なすぎて渋滞情報が表示されていません。スウェーデンのストックホルムで導入された事例のように、理想を言うと車そのものから直接走行データを集めたほうが、より精緻な渋滞情報になります。
ストックホルムで起きた“ビッグデータ革命”|日経ビジネスオンライン

■情報提供者にフィードバックをすることでWin-Winに

色々と書いてきましたが、Googleマップの「交通状況」は興味深い事例です。これまではカーナビや有料サービスでしか提供されなかった情報が無料で私たちにもたらされる。そのベースにはスマホからのデータの活用がある。グーグルがすでに持つグーグルマップという資産をうまく活用していて、この点はグーグルだからこそ実現できるサービスと言えます。また、位置情報と速度情報から渋滞情報を出しているとさらっと書いてありますが、例えば車と車道を走っている自転車とをどうやって判別しているのかなどの詳細ロジックも気になるところ(これは企業秘密だと思いますが)。何より個人的におもしろいと思うのは、ユーザーにとって位置情報を取られる対価として渋滞情報という価値をフィードバックしている点で、グーグルとユーザーのWin-Winが成り立っているのではないでしょうか。

もっとも、ユーザーにとってのWinはまだ大きくなることを期待したいです。すなわち、より精度の高い渋滞情報がフィードバックされ、さらには現在の渋滞情報だけではなく、自分はどの道を通るのが渋滞に会わずに目的地へ快適に行けるのかまで手元で簡単にわかること。今回はGoogleマップを例にビッグデータの活用事例を取り上げたわけですが、今回のような今まではうまく活用されていなかったデータをこんな使い方をするともっと便利になる、という事例はこれからも増えていきそうです。


※参考情報

交通状況がGoogle マップで見られるようになりました|Google Japan Blog
Googleマップでどの道がどれぐらい混んでいるか交通状況の確認が可能に|GIGAZINE
ビッグデータに付加価値を与えた企業が次世代の覇者となる|思考の整理日記
GoogleとFordが開発する「スマート・カー」(WIRED VISION)|ITpro
Ford Developers Look to Use Google Prediction API to Optimize Energy Efficiency; Research Presented at Google I/O|Ford Motor Company Newsroom
May 10, 2011: FORD USING GOOGLE API TO OPTIMIZE VEHICLE PERFORMANCE (PDF)
ストックホルムで起きた“ビッグデータ革命”|日経ビジネスオンライン




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