2012/02/04

マーケティング脳を鍛えるバリュープロポジションという考え方

マーケティングの活動を図にすると、大まかには以下のような流れになると思っています。


そしてマーケティングで目指すところは、顧客が欲しいもの(価値)を提供し喜んでもらうこと、かつ自社の売上と利益が上がるという、顧客と企業の両方を満足が両立するような好循環を築くことだと理解しています。

■本当の顧客中心主義とは

このようにマーケティングにとって顧客中心主義は大切な視点ですが、顧客中心主義をあらためて考えさせられたのが「100円のコーラを1000円で売る方法」(永井孝尚 中経出版)という本でした。著者の本書での問題意識は次の通りです。

「顧客が言うことは何でも引き受ける」という日本人の勤勉さは高度成長期を通じて無類の強さを発揮しました。しかし、それは同時に過当競争を生み出し、差別化ポイントを失わせ、「高品質ななのに低収益というアイロニカルな矛盾を生み出しています。
本書のテーマ――顧客中心主義とは、「顧客に振り回される」のではなく、「顧客の課題に対して、自社ならではの価値を徹底的に考え、提供する」ということなのです。(あとがきより抜粋)

本書は小説のようなストーリーで、マーケティングの基本的な考え方がわかるようなつくりになっています。「もしドラ」のマーケティング版と表現するとイメージがつきやすいかもしれませんが、主人公の久美は物語当初、顧客の言うことは絶対という考えからお客さんから言われたあらゆる要望/不満を全て盛り込んだ新商品企画を出します。しかし上司の与田には全く受け入れられず(与田はマーケティングの考え方を久美に伝授するという設定。もしドラで言うと「マネジメント」が担っていた役割)、ターゲットとなる顧客は誰なのか、ターゲットのどんな問題を解決するのか、本当のところはどんな価値を提供すると喜ばれるかなどを考えるようになり、新商品企画を修正し、最後は新しい市場を開拓するというストーリーです。

本書ではカスタマーマイオピアという言葉が出てきます。マイオピア(myopia)とは近視眼的/短絡的なことという意味ですが、これは久美の顧客要望を表面的にとらえ、顧客が抱えている本当の課題とそれに対してどんな価値を提供できるのかを考えていない状況に対して使われたもの。長期的に見るとお客さんが離れていってしまう状態です。

■バリュープロポジションという考え方

「顧客の課題に対して、自社ならではの価値を徹底的に考え、提供する」ためにはどんな視点が有効なのか。本書では図のようなバリュープロポジションという考え方が提示されています。バリュープロポジションとは、
1.顧客が望んでいる価値
2.競合他社が提供できない価値
3.自社が提供できる価値
の3つを満たすもの。つまり、競合ができなくて自社にできるという差別化された価値で、それが顧客が本当に望んでいる価値を提供するという考え方です。

引用:書籍「100円のコーラを1000円で売る方法」(永井孝尚 中経出版)

先ほどのカスタマーマイオピアとは、一見すると顧客が望んでいる価値の円の中に入るように思うが、実は長い目で見ると外側にあるものしか見えていない状態です。いかに上記の3つを満たすものを見出し、実行し、顧客に価値を届けて喜んでもらうか。

この円で考えた時に、中央の領域(顧客が望んでいる×競合他社が提供できる×自社が提供できる価値)は過当競争が起きます。ゆくゆくはコモディティ化となり価格競争になる。結局は売れない/売っても利益が出ない、という状態になってしまいます。あるいは、自社が(他社も)提供できるが、顧客が望んでいない(顧客が望んでいる価値の外側)過剰に高品質/高機能などを盛り込んでしまうというのも、手元にあるボタンの多すぎるTVリモコンなどを見ているとついつい思ってしまいます。

■キシリトールガムが創り出した歯医者さんの新しいビジネスモデル

バリュープロポジションの例として本書で紹介されていたのがキシリトールガムの事例でした。これはご存知の方も多いかもしれませんが、キシリトールガムはそれまでになかった「虫歯を予防するガム」という新しい市場を創りだしました。それまでのガムが提供していた価値は、味・香り・眠気防止などでした(そういえば歯磨き効果を謳うガムもあったような)。

キシリトールガムを普及させるやり方がうまいと思ったのは、歯医者さんを巻き込んでプロモーションをかけていった点です。プロモを成功させるカギは歯医者さんの賛同を得ることと考えたようですが、当初はうまくいきませんでした。なぜなら、ガムで虫歯予防をされてしまうと虫歯治療をする歯医者さんの仕事が減ってしまうと思われたからです。儲からなくなることへの拒否反応が起こった。そこで発想を変え、「歯医者の仕事は虫歯予防」というという新しい考え方で提案したのでした。この考えはキシリトールで虫歯を予防するというコンセプトにもうまく一致します。歯医者さんとしても、治療者ではなく予防したい顧客という新しい層を取り込める。歯医者さんとのWin-Winの実現を目指したのでした。提供する価値として目指したのは虫歯予防をすることで、本来の健康的な歯を維持するという考え方だったのでしょう。これがキシリトールガムのバリュープロポジションでした。

■最後に本書の所感を少し

本書は小説仕立てなのでさらっと気軽に読めてしまうものです。ただ、新商品のコンセプト(どんなターゲットにどんな自社にしかできないどんな価値を提供するか)が決まるまでにページ数を使い、その後の新商品開発の進め方や売っていく実行プロセスはかなり省略されていると感じました。実行フェーズでは、キャズムを超えるためにイノベーターやアーリーアダプター気質な顧客に集中することで事例をつくり、一定普及した後にその他80%の顧客に展開するというものくらいで、ここはもう少し内容があってもよかったです。

もう1つ、本書について思ったのはタイトルでもある「100円のコーラを1000円で売る」について。意味するところはいかに価値を上げるかだと思いますし、実際に本書で紹介されていたのはリッツカールトンのルームサービスで提供される1035円のコーラという話でした。具体的には部屋から電話で注文をすると、ちょうどよい冷え具合の温度に冷やされライムと氷が入ったコーラがグラスで運ばれてきたというもの。中身はコーラですが、サービスという目に見えない価値をつけることでトータルの「体験」を考えると与田は安いと感じた、というストーリーです。

あまり指摘されていなかったのは、リッツカールトンで1000円のコーラを売るやりかたは、ディスカウント店などで売るよりもそれ相応のコストがかかっていること。人件費だったり材料費などで、価格を1000円にしてもそこにどれだけの利益があるかという視点です。思うに、安いディスカウント店で1本当たり58円でコーラが売っていても、その裏で大量仕入れなどでコストが圧縮されており売って利益が出るようであれば良いわけで。タイトルだけを見ると1000円でコーラを売ることが正しいとも取れてしまいますが、100円でコーラを買うニーズがあり、そこに自社の利益があるのであれば、それはそれで顧客と企業の両方の満足が両立しているはず。「100円のコーラを1000円で売る方法」というタイトルは、本書で言いたいことの具体例の1つでしかないので、そこはちょっと違うかなと思いました。

100円のコーラを1000円で売る方法
永井 孝尚
中経出版
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