2012/04/30

ドリルを売ろうとしたSonyと、穴を開けるサポートをしたAmazon

今日で4月が終わるので、2012年も3分の1が経過したことになります。時計で言うとちょうど20分のところに針がある状態です。

12年の今年は今のところコンスタントに本が読めていて、1ヶ月で20-25冊程度、4ヶ月ではほぼ100冊くらい読みました。このうちの8割以上はアマゾンから買った本です。感覚的には9割に近いくらいかもです。それくらい本はアマゾン経由で手に入れています。

本をアマゾンで買うのに何が魅力かって、中古も含めた豊富な品揃え、モバイルからでも手っ取り早く注文ができて、安定した配送の仕組みですぐ届く、送料無料、あたりかなと思っています。トータルでの提供サービスが素晴らしいです。

■ 電子書籍を理解する3つのフレーム

次にアマゾンに期待したいのはキンドルです。電子書籍を読める環境のサービス提供です。

電子書籍は、電子書籍端末という「デバイス」、電子化された本という「コンテンツ」、電子書籍を手に入れるための「プラットフォーム」という3つの層で考えるといいと思っています。アマゾンへの期待はデバイス、コンテンツ、プラットフォームというトータルでの電子書籍サービスの提供です。

現在の日本での電子書籍環境はこの3つがうまくつながっていないと感じています。デバイスはいくつか売られていますがコンテンツはまだまだ少ないし、プラットフォームもばらばらです。

いくつかの電子書籍アプリが iPhone / iPad の iOS や Android 向けに提供されていますが、アプリの中にそのアプリでしか読めない本しか入ってないし、アプリ自体が本だったりと、本の管理自体も大変です。

アプリが違うと設定や操作も微妙に違うので、ユーザーからするととても使い勝手が良いとは言えません。デバイス、コンテンツ、プラットフォームの3つでの全体設計がうまくいっていないです。

■ なぜ後発のキンドルは成功したのか

キンドルについて、日経におもしろい記事がありました:ソニーの誤算と成算、「キンドル」迎え撃つ老舗の意地|日本経済新聞(12年4月24日)。

記事の趣旨は、ソニーの電子書籍端末「リーダー」はキンドルに勝てるのか、というものでした。個人的におもしろいと思ったのは、ソニーのリーダーとキンドルの違いでそこにはアマゾンの本質と言える内容がありました。

記事の背景をまず書いておくと、北米市場ではキンドルよりもソニーのりーダーのほうが先に発売されていました。価格は300ドルと当時にしては安価な設定で、世界の名だたるデザイン賞「インダストリアル・デザイン・エクセレンス・アワード」を受賞するなど読書家の中高年を中心に人気を博したようです。

ところが07年11月にアマゾンがキンドルで参入すると状況は一変します。リーダーは後発のアマゾンに完全に抜き去られたのです。

リーダーとキンドルの何が違ったのか?日経には次のような説明がありました。

見た目も性能もソニーの端末と似ていた。が、コンテンツとその入手方法が大きく違った。携帯電話網を利用した通信機能が搭載されていたのだ。
利用者はいつでもどこでもキンドル向けの電子書店にアクセスでき、10万タイトル以上の電子書籍をほぼ9.99ドルで購入することができた。しかも、その通信利用料は無料。ソニーはというと、電子書籍の購入はパソコンで行い、USB経由で端末にデータを移す必要があった。しかも対応する電子書店の品ぞろえは数万冊で、価格は十数ドルとキンドル版より高かった。

つまり、キンドルのほうが端末が安く、本の品揃えも豊富で、買いやすいのです。ユーザーにとっての使い勝手が良かったのです。

特に注目したいのは、キンドルは携帯電話回線を使ってアクセスでき、そのまま本が買えるという特徴です。そして、その通信利用料が無料という点です。

無料にはカラクリがあって、通信料は実は電子書籍の価格の中に含まれています。アマゾンはコンテンツの中で通信料をしっかり回収しているのですが、「通信料」という名目では取っていないので、ユーザーにとってはあたかも通信料が無料に見えます。これは「ウィスパーネット」と呼ばれる仕組みです。

一方の当時のソニー「リーダー」では本はPCで買って端末を USB で PC につなぎ、データを転送して初めて読めるようになります。どちらが使い勝手が良いかは一目瞭然です。

■ ドリルを売ろうとしたソニーと、穴を開けるサポートをしたアマゾン

記事では、ソニーで電子書籍事業を統括するデジタルリーディング事業部の野口不二夫部長の当時の状況を振り返っています。

「電子ペーパーの端末で、他社に負けていると思ったことは一度もない。ソニーらしく、ものづくりに徹底的にこだわり、常に我々が先に先に動いていた。競合他社のみなさんは、我々の進化を見て、追随してきた。ただ、通信機能を搭載したキンドルには、本音で言うと『やられた感』がありました。アマゾンさんが非常に素晴らしいビジネスモデルを作ってきた。」 
「キンドルはコンテンツ購入者のネットワークコストをゼロにした。これに、非常にショックを受けた。」 
「携帯電話モジュールの搭載は想像していたけれど、料金プランがどうなるのかは、なかなか見えていませんでした。当時、ソニー社内では、携帯通信を載せるんだったら、多少お金を(利用者から)いただかないと回らないよねと議論していた。本を買いにいくのは、電車賃もかかるし、そのくらいのお金だったら払ってくれるんじゃないかと。」
「ソニーは『ハード』から入りますけれど、やっぱりアマゾンさんは『サービス』から入られているなと。端末自体の価格も、先行して低価格を打ち出していった。」

最後の「ソニーはハードから入って、アマゾンはサービスから入る」という指摘はとても示唆に富みます。サービスから入るというのはアマゾンの本質的な部分だと思っています。

以下の図は「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」という本にあったアマゾンのビジネスモデルですが、この図はアマゾンのジェフ・ベゾス CEO がアマゾンを始める当初から思い描いていたものだそうです。



注目したいのは、打ち手や結果が全て「顧客の経験」に結びついていることです。つまり、アマゾンのベースなっている考え方はユーザー体験を重視するものです。これは上記の野口氏の「アマゾンさんはサービスから入る」という言葉にもつながります。

電子書籍で言うユーザー体験とは、快適な読書環境の提案/提供でしょう。そのためにアマゾンがやったことは、端末価格を下げ、品揃えを豊富にし、キンドルから通信無料で本を買えるという使い勝手の良さです。あくまで顧客経験のためで、これらの施策は一貫しています。

ユーザーにとって電子書籍端末をなぜ買うかというと、自分の読みたい本を読むためです。電子書籍端末というデバイスはあくまで手段であり、ユーザーはデバイス自体が欲しいからではないのです。

この考え方は重要で、マーケティングでは「ドリルを買いにきた顧客は本当はドリルが欲しいのではなく、壁に穴が開けたいから」という有名な例えがあります。

電子書籍端末もこれと同じです。「ソニーはハードから入って、アマゾンはサービスから入る」という言葉には、07年当時のソニーはリーダーというドリルを売ろうとし、アマゾンは穴を開けたい顧客にどうすればよいかを考えていたのではないでしょうか。

先の日経の記事内には日本でも発売されたソニーのリーダーについて、次のようなコメントが載っていました。

「日本での初動は、予想通りの売れ行き。11年11月には3Gの通信料を組み込んだ製品も投入し、日本でもこういうモノができるんだということを他社よりも先に実現できた。書籍購入にかかる通信料は最大2年間、無料。」

最後の「最大2年間は無料」という設定/考え方は、違うのではと思います。


※参考情報
ソニーの誤算と成算、「キンドル」迎え撃つ老舗の意地|日本経済新聞(12年4月24日)
Amazonの競争戦略ストーリー|思考の整理日記
Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験|思考の整理日記
書籍 「iPad vs. キンドル」|思考の整理日記




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