投稿日 2025/12/27

無印良品がレトルトカレーのギフト需要開拓。「贈り物マーケティング」 の実践

#マーケティング #贈り物マーケティング #新規顧客

価格競争から抜け出し、広告に頼らず新しいファンを増やしたい。

企業が抱えるこの課題、実は商品の 「見せ方」 を少し変えるだけで解決できるかもしれません。

今回ご紹介するのは、無印良品がレトルトカレーで実践する 「贈り物マーケティング」 です。日常的に食べられる商品をちょっとした特別商品に変え、新しいお客さんを生み出すその仕組みを、具体的な事例から紐解きます。

無印良品 「レトルトカレー専用ギフトボックス」 


出典: 無印良品

無印良品の人気商品のひとつに、レトルトカレーがあります。その品揃えは約50種類にも及びます。

年間550万個を売り上げる人気商品 「バターチキン」 をはじめ、東南アジアやインドの本格カレー、洋風カレー、子供向けの優しい味わい、SNS 映えするクリーム系カレー、さらには日本のジビエを使った特別感のあるカレーまで、幅広くラインナップしています。

無印良品は、日常食というイメージが強いレトルトカレーをギフトとしても販売しています。

お客さんは無印良品のお店で好きなレトルトカレーを選び、レジでギフト用と伝えれば無料でギフトボックスに詰めてもらえます。

ギフトボックスの蓋の内側には、無印良品のカレーが掲げる3つのコンセプト 「現地に学ぶ」 「素材を生かす」 「スパイスを組み合わせる」 が記されています。無印良品からの思いを伝えるコミュニケーションツールとしての役割を果たします。

無印良品のレトルトカレーの価格は、人気商品のバターチキンは税込350円と、決して安価ではない価格設定です。この価格帯が、日常食としてだけでなく 「ちょっと特別な日に食べる」 という非日常感を生み出していることでしょう。

値段が安すぎない価格設定は、ギフトとしての価値を高める効果もあります。受け取った側に 「きちんとした贈り物」 として認識してもらいやすく、商品への期待値も高まります。

2019年4月の世界旗艦店 「無印良品 銀座」 の開店時に、バターチキンのリニューアルに合わせて、レトルトカレーの認知度をさらに上げようと 「バターチキン生誕祭」 という企画を立ち上げました。その一環としてレトルトカレー専用のギフトボックスが用意されました。

その後、年間約12万セットという安定的な実績を上げています (参考情報) 。

* * *

では、無印良品の 「レトルトカレー専用ギフトボックス」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は 「贈り物マーケティング」 と捉えると、マーケティングへの示唆が得られます。

商品の意味合いを変える 「贈り物マーケティング」 


贈り物としての無印良品のレトルトカレーが示唆的であるのは、贈りやすさが新たな顧客価値を生み出している点です。

日常食というイメージが強いレトルトカレーですが、無印良品の約50種類のカレーの中から相手の好みを考えて選ぶ楽しさと、おしゃれでしっかりとしたギフトボックスが無料で手に入るという手軽さが加わることにより、カジュアルな贈り物やちょっとしたお礼、友人や同僚へのお土産など、多彩な場面へと使われ方が広がります。

贈られることでトライアル利用につながる

贈り物には 「トライアル利用の促進」 という効果があります。

誰かに贈る際には、自分でも 「どんな味があるのか、いくつか試してみようか」 と購入のきっかけになることも少なくないでしょう。また、贈られた側も、約50種類もある無印良品のカレーを初めて味わう良い機会が生まれます。

そこから 「バターチキンは知っていたけど、グリーンカレーも本格的で美味しい」 「こんなに種類があるなら、他のも試してみたい」 などと気に入れば、自分でもう一度買うというリピート購入の可能性が高まります。贈り物として選びたくなるようなデザイン性の高いパッケージにすることも、新規顧客を開拓するフックになります。

ギフト向けプロモーション施策による後押し

無印良品の場合、SNS や口コミを通じて、「自分用に買ってみたら美味しかったので、友人への手土産としてもリピートした」 という消費者の声が生まれることも期待できます。

贈り物として訴求するマーケティングは、イベントや季節に合わせたプロモーション施策を行うとさらに効果的です。たとえばバレンタインやホワイトデー、母の日・父の日、クリスマスなどのギフト需要が高まるシーズンにキャンペーンを展開するというふうにです。

無印良品がこのギフトボックスを始めたのは、2019年4月の世界旗艦店である 「無印良品 銀座」 の開店や、主力商品 「バターチキン」 のリニューアルというタイミングでした。話題性のあるイベントに合わせてギフト提案を強化することによって、消費者の関心を呼び起こし、自分もあの人に贈ってみようという気持ちを後押しできます。

また、お歳暮やお中元ほどフォーマルでなくても、ちょっとした誕生日祝い、引越し、結婚や出産のお返しなどの贈答シーンに合わせた訴求を行うことによって、トライアル購入の裾野を広げることも狙えます。

新規顧客獲得とブランド認知向上へ

贈り物マーケティングでは、実際に 「もらった人」 から 「買う人」 への変化が起こりやすい点が魅力です。

このプロセスを無印良品のレトルトカレーに当てはめると、次のように整理できます。

  1. 贈り手が商品を発見・購入
    贈り手自身が 「無印良品のカレーは種類が豊富らしい」 や 「専用ギフトボックスがあるから贈り物にいいかも」 と興味を持ち、購入に至る

  2. 受け取り手が商品を知りトライアル利用
    贈られた人は商品の多様性を初めて知る。食べてみたら 「本格的な味わいで美味しい」 、「色々な国のカレーがあって楽しい」 と感じる

  3. リピート購入・口コミの発生
    もらった側が自分用にリピートしたり、別の友人へ贈ったりして口コミが広がり、新規顧客が増える


商品を1回使って良さを知ってもらえさえすれば、追加購入やブランドのファン (ロイヤルユーザー) につながることも期待できます。その1回の利用を促すきっかけが 「ギフトとしての購買」 になるというわけです。

贈り物マーケティングによって、従来の自社商品やサービスとは異なる選ばれ方を促せます。

ギフト用としても商品の位置づけを再定義し、パッケージデザインやプロモーションを工夫する。既存のファンだけではなく、カジュアルギフトを贈りたい新しい顧客層や、日常の中での特別な食シーンを求める需要を取り込むことができるというわけです。

商品価値の再定義がもたらす可能性

無印良品のレトルトカレー専用ギフトボックスの事例は、既存商品の価値を再定義することで新たな市場を開拓できることを示しています。

レトルト食品という 「時短料理のありがたい存在」 となる位置づけから、贈答品としても選ばれる商品へと広がりました。この転換を可能にしたのは、無印良品の豊富な商品の品揃え、適切な価格設定、無料で提供される専用ギフトボックスという仕組みにあります。

商品そのものは大きく変えずとも、パッケージやプロモーションの工夫で新たな需要を生み出す。この 「贈り物マーケティング」 の手法は、他でも応用可能な示唆に富んだアプローチです。

まとめ


今回は、無印良品の 「レトルトカレー専用ギフトボックス」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 日常品をギフトに転換する価値の再定義。既存商品に 「贈り物」 という新たな用途を付加することで、商品そのものを変えずに新市場を開拓できる

  • トライアル購入のハードルを下げる仕組みが大事。贈り物として購入・受け取ることにより、贈り手と受け手の双方に商品を試す機会が生まれ、新規顧客獲得につながる

  •  「贈りたい」 「もらってうれしい」 と感じさせる魅力的なパッケージデザインや、ギフト需要が高まるイベント・季節に合わせたプロモーションは、顧客の購買意欲を直接的に刺激するドライバーとなる

  • ギフトとして商品が人の手を渡っていくと、これまでリーチできなかった新しい顧客層との接点が生まれる。ブランド全体の認知度を効果的に高められる

  • 贈り手から受け取り手へ、そしてその受け取り手が新たな買い手・贈り手へと連鎖することによって、広告的ではない自然な形で口コミが広がり、新規顧客が次々と生まれる好循環が期待できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。