2012/04/21

書籍「失敗の本質」に見るガラパゴス化とイノベーション

下記の表は名著「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」で指摘された太平洋戦争(大東亜戦争)時の日本軍と米軍の戦略と組織特性の比較です。


  引用:書籍「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」

日本軍と米軍のそれぞれの特性を並べてみると、一定の相互関係が見られます。

  • 日本軍は戦略には明確なグランドデザインがなく目的があいまいで、短期決戦を好む傾向にあったこと
  • 短期決戦志向のために戦略オプションでは代替案(戦況が変化した場合のプラン・対応計画)が乏しかった
  • 組織特性においても、人間関係を重視し成果よりも動機や敢闘精神を重視した集団主義

 一方の米軍の戦略・組織特性とは対照的です。

書籍「失敗の本質」がおもしろいのは、6つの戦い(ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦)から上表のような日本軍と米軍の戦略・組織特性比較を明らかにするだけではありません。

そこからさらに突っ込んでなぜ日本軍は失敗したのか、そして現在にも活かせる失敗の教訓を残している点にあります。

■ 日本軍の失敗の本質

なぜ日本軍は失敗したのでしょうか。

ここで言う「失敗」とは太平洋戦争におけるターニングポイントとなった戦いでの諸作戦での失敗(敗戦)を指しています。

本書で指摘されている日本軍の失敗の本質は、「日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった」(p.395)でした。

これは、現在の日本にもそのまま当てはまります。後から述べているように、この指摘はとても示唆に富むものだと思います。この失敗の本質は2つの部分に分けられます。

  • 特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎた
  • 学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった

■ 特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎた日本軍

これは今で言う「ガラパゴス化」です。

当時の日本軍が特定の戦い方に徹底的に適応していった例の1つにレーダーがあります。

日本軍の特徴に、猛特訓を続け、兵士の射撃精度を極限まで追求した点が挙げられます。いわゆる月月火水木金金で、土曜と日曜が抜けているように猛特訓は1日も休むことなく行われました。

見張り員の視力も驚異的で、開戦当初は夜間の先制攻撃で実際に成果も挙げたようです。つまり、日本軍の戦い方は徹底的に兵士の技能を上げ、達人をつくりあげることだったのです。

米軍の方向性は全く逆でした。

兵士の視力を高めて遠くの敵軍を発見するのではなく、レーダーを早くに開発し導入したのです。

レーダーによりたとえ夜間だろうが、超人的な視力に頼らずとも敵を捉えられるように戦い方を変えました。すなわち、米軍はこれまでとは全く違う発想を持ち込み、一方の日本軍は既存の戦い方を徹底的に追求したのです。

話をビジネスで考えても、今の日本企業にも当てはまります。

もちろん日本企業だけではないですが、ハードの機能を次から次に開発し実装していった携帯電話ばかりだったのが、AppleはiPhoneでハードとソフトを一体としたスマートフォンを持ち込みました。

気づけば日本の携帯メーカーもどこもiPhoneのようなスマートフォンばかりになったのです。他にも当てはまる事例はいくつも出てきそうです。

特定の戦略に徹底的に適応しすぎた結果、ゲームチェンジを起こせず、相手にルールを大きく変えられると為す術もなく敗れていったのです。

■ 学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった日本軍

これは今で言うと、「イノベーションを起こせなかった」ということです。

自己革新能力は書籍「失敗の本質」の中では、環境変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変える能力としています。日本軍は環境が構造的に変化したときに、主体的な変革のための自己否定的学習ができなかったのです。

環境変化とは例えば前述のレーダーの導入がそうです。

実は、当時の日本軍もレーダーの開発は実施しており、技術レベルも米軍とあまり遜色がなかったとのことです。

しかし、レーダーの有用性を軍部が理解できず採用されませんでした。敵軍を発見するのは人の高い視力という目視ではなく、レーダーがするという環境変化が起こっていることに理解できず、適応できなかったわけです。

自己革新能力とは、自己否定をすることとも言えます。時にはこれまでの成功体験を捨て去ることも必要になるでしょう。

冒頭の日本軍と米軍の戦略/特性の比較で、日本軍の学習スタイルはシングルループ、アメリカ軍はダブルループとあります。

ダブルループというのは、学習の目標や問題(イシュー)そのものを再定義し変革することもいとわない学習です。環境に適応するために変化する現実を直視しながら修正する主体的な学習スタイルです。

一方のシングルループは、目標や問題構造が変わらないとしたうえで進める学習プロセスです。この学習スタイルの違いが自己革新能力の差につながったと言えるのではないでしょうか。

自己革新がなぜ必要かと言えば、それは環境が変わるからです。

環境が変わらない、競争相手がいないのであれば、それまでの成功体験を捨てなくともよいわけです。

しかし、環境は常に変わっていくものです。それに合わせて自らも変わらなければなりません。「強い者ではなく、環境に適応した者が生き残る」というダーウィンの進化論にも通じる考え方だと思います。

■ 「失敗の本質」からの学び

「失敗の本質」という本は、太平洋戦争(本書ではあえて大東亜戦争としている)当時の日本軍と米軍の戦略や組織特性から、なぜ日本軍は敗けたのかという失敗を考察しているものです。

そこでは日本の組織の問題をクローズアップしていて、その構造はこれまで書いてきた通りと理解しています。

忘れてはいけないのは、組織というのは各個人の集合体だということです。

組織を率いるリーダーの影響は大きいですが、個人個人の働きも組織特性には影響すると思います。

日本軍の失敗の本質は「特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった」ことでした。

これに当てはまる現代日本の企業組織も少なくないと思います。組織を構成する個人が自己革新をすること、時には自己否定もいとわないで変わっていくことが必要です。

組織論が書かれた「失敗の本質」からは、個人でみても考えさせられる内容でした。


失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
戸部 良一 寺本 義也 鎌田 伸一 杉之尾 孝生 村井 友秀 野中 郁次郎
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