2013/08/18

書評「満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う」

電車で通勤をする場合に、まず考えることは満員電車をどう避けるかです。

自転車などそもそも電車を使わないケースを除き、満員電車を避けるためには、①混んでいる路線を使わない、②混雑する時間帯を避ける、の2つ。

①は、住む場所と働く場所によるので、ある程度は固定されてしまいます。②は、朝は少し早く/遅く出社すること等でピークの時間帯をずらせます。

よくよく考えると、①②は電車への需要と供給で言うと、需要を減らす方法です。そもそも満員電車というのは、特定の時間帯における需要と供給の関係において、電車を使いたい人(需要)が、電車側で想定している乗客数(供給)を上回っている時に発生します。つまり、需要>供給の状態。①②で見過ごしがちな前提は、供給量はこれ以上増えないことではないでしょうか。

満員電車の問題は、需要と供給で考えると実はおかしいことだと思っています。資本主義社会であれば、本来は需要と供給のどちらかが多い場合、いずれは需要=供給の均衡点にいくものです。供給を増やす/減らす、需要の増減、価格調整など。しかし、満員電車については、需要>供給の状態が日本では何年も続いていて、日常の光景になっています。繰り返しますが、本来これはおかしいことです。

このあたりのことが詳しく書かれているのが「満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う」という本でした。本書の特徴は、満員電車をなくためには、供給をどう増やすかに視点を置いていることです。乗客収容数を増やすために大きく3つ書かれていて、
  • 運行方法
  • 運賃の仕組み
  • 運転士免許制度の規制改革などの制度
を抜本的に見直す、というもの。

本書がおもしろいと思ったのは、満員電車が私たちの生活の中で当たり前になってしまっているが故に、どうすればなくせるかは思考停止になっていた自分の頭を刺激してくれる点です。冒頭で書いた①②の個人レベルで需要を調整するという小手先の話ではなく、仕組みとして。どうすれば多い需要に対して供給を増やせるかの話です。

■満員電車をなくす「運行方法」

電車において供給量を増やすとは大きくは、電車の本数を増やす、電車当たりの乗客数を増やす、の2つです。本書で紹介されている供給を増やすための案は、「そんな方法があるのか」と新しい考え方を提示してくれます。

例えば、電車の本数を増やすためには、現行の信号システムの改良が提唱されています。信号システムにより電車全体の運行が制御されている恩恵がある一方で、信号システムが電車本数の増加を実現する上でボトルネックになっていると言います。信号システムの向上により電車の本数が増やせると。

現在使われている信号システムは、1964年の東海道新幹線の開業当時から基本機能はほとんど向上していないそうです。新しい信号システムの詳細は割愛しますが、信号システムをより高度なものにすることで、電車の本数増が期待できます。例えば、現在は2分間隔で電車が来るのが、1分間隔にできる、など。

電車本数増で考えるべき視点としては、電車発着の遅延をどう防ぐかも重要と思いました。駆け込み乗車によって起こる一度ドアを閉めた後にもう一回開く光景はよくありますが、積もり積もると電車の遅れにつながります。ある電車が遅れると、その前後も運行が調整され電車システム全体で見ると運行効率が下がります。電車遅延への影響がもっと大きなものは、人身事故、天候、信号トラブルなど。このへんを解決する仕組みがないと、新しい信号システムを導入して本数を増やせたとしても、電車遅延の影響がより大きくなってしまいます。

電車の供給量を増やすための、電車当たりの乗客数を増やす方法について。本書の提案の中でも印象に残っているのは、2階建電車の導入です。単純に考えると、電車を2階建てにすることで受け入れられる乗客数は2倍になります。

実現のためには多くの課題があると思いますが、発想としてはおもしろい。

電車だけ2階、乗り降りの駅が1階だと、電車内で1→2階に上がり下りをしないといけない不便が発生します。なので課題としては、2階建ての電車に乗るためには駅のホームも2階建て対応にする必要があります。しかも全駅について。地下鉄であれば、地下の空間を路線/駅ともに広くしないとそもそも走れません。また、架空電車の場合、電車用の電線も2階建ての分だけ上に上げることになります。

■満員電車をなくす「運賃の仕組み」

運賃の仕組みを見直すことも、色々と考えさせられました。新幹線や一部の特急列車を除き、現状の電車の運賃は移動距離で決まります。基本的には遠くに行くほど運賃は高くなります。

一方、移動中の車内での状態は運賃には考慮されていません。座席に座っていくのも、立ちっぱなしも、満員電車でどんなに車内で過ごしにくくても、運賃は変わりません。よくよく考えると、座席に座れるかどうかは運頼みなところが多いんですよね。たまたま目の前の人が降りたので自分が座れたり、優先席でも譲ってもらえるかどうかは、時と場合によります。電車からの提供サービスとして、価格に違いが出るのはどこまで運んでくれるかのみで、移動中の快適さは入っていないのです。

本来であれば、移動中の提供サービスが加味され、それに合わせた価格体系が望ましいのではないでしょうか。より快適に移動したいなら、少し高い運賃でも良いというニーズはあると思います。実際に新幹線では自由席と予約席で値段が違いますし、予約席でもよりゆったりできるグリーン席があります。

普通の電車や地下鉄でも、もっと柔軟な運賃設定ができれば需要と供給がもっと動くはずです。通勤ラッシュというのはそれだけその時間帯に電車を使いたい人が多いので、需要が増えるのであれば価格を上げる。逆に空いている時間帯は価格を下げる。座席に座る人には立っている場合よりも快適なので、その分を価格に反映する。

こうした自由度の高い価格設定のために、本書ではスイカなどのICカードがうまく使えないかということが書かれています。例えば座席にICカード読み取り装置をつけ、カードをかざしプラスアルファの運賃を支払うことで座席が降りて座れるようになるというもの。

ここも実現へのハードルはいくつもありそうですが、実験的にでもいいので一回やってみてほしいところです。

■満員電車という社会問題を解決するために

本書のスタンスとして明確にしている仮説は、満員電車の歴史は「運賃抑制の歴史」である。もし、電車の商品価値とコストに応じた運賃設定が可能になれば、財源確保ができ満員電車をなくせる、というものです。

運賃が低いことで、より多くの人が電車を気軽に利用できることは、社会全体で見ると大きなメリットです。一方、自由度のない運賃設定により、満員電車が慢性的に発生しているとする考え方が本書の根本にあります。

考えてみると、満員電車というのは混んでいる分だけ一度の電車で運べる人間の数が多いということなので、人を移動させるという観点だけを考えれば非常に効率的な仕組みです。しかし、乗っている側からするとあれほど非生産的な時間はありません。

満員電車は社会問題の1つだと思うので、少しでも解決された社会にするためにはどうすればよいか。「満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う」という本は考えるきっかけを与えてくれます。




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