自社のビジネスは本当に顧客目線で展開されているでしょうか?
今回は、セブン-イレブン・ジャパンが取り組んだ、目的から導かれる戦略とその実行、組織変革への挑戦を取り上げます。
どのように全社的な顧客起点を実現し、成果を挙げているのかを紐解きます。
セブン-イレブン・ジャパンの挑戦
セブン-イレブン・ジャパンが、商品軸と店舗軸に加え、「顧客軸」 を新たに取り入れたマーケティング戦略を推進しています (参考記事) 。
課題と新組織設立
セブン-イレブン・ジャパンのこの動きの背景には、コロナ禍による消費者の生活スタイルの変化があります。
朝と深夜の利用が減少し、昼と夜の利用が増加するというように、時間帯別の客数構成比が変わりました。また全体的に見ても、コロナ禍のコンビニ利用者数は減少していたとのことです。
従来のアプローチでは不十分だという認識のもと、対応策として2023年にマーケティング本部が新設されました。
この新しい組織は4つの部門、顧客視点のマーケティング戦略の立案・推進、商品のプロモーション、デジタルサービスを通じた顧客体験の向上、リテールメディアで構成されます。
顧客軸での打ち手
顧客軸で展開するにあたって中心になるのは、セブン-イレブンアプリです。
アプリは、約2300万人にダウンロードされており、個人に紐づくデータを取得できることから、顧客軸での分析・施策の立案に欠かせません。
アプリを通じたワン・トゥー・ワン・マーケティング、CRM (顧客関係管理) の強化を図り、お客さん1人ひとりが必要とする情報を適切なタイミングで提供することで、来店促進からの顧客数増加を目指します。
たとえばの打ち手は、2023年11月から実施した 「週替わり毎日クーポン」 です。
おにぎりの週であれば、おにぎりの購入時に使えるクーポンが毎日届くというキャンペーンです。おにぎり以外にも週替わりでスイーツ、セブンカフェなど主要カテゴリーのクーポンを毎日配信しました。
1週間にわたって毎日同じクーポンが届くことで、消費者は 「今週はおにぎりのクーポンなんだ」 と理解でき、来店先としてセブン-イレブンのことが思い浮かびやすくなり、足が向きやすいことでしょう。
1週間のクーポン配布継続は、店舗側にとってもメリットがありました。販俩物や店頭で声がけする内容を絞ることができるという利点です。
おにぎりの企画は特に反響が大きかったようで、初めて商品を購入する 「お試し顧客」 が増え、別企画と比較すると1店舗あたりのクーポン利用枚数が多かったとのことです。
こうした顧客軸からの企画によって、特定の傾向を持つ顧客グループに対して、よりパーソナライズされたマーケティング活動が可能になり、来店回数の増加や売上の向上が期待されます。
目的からの戦略立案と組繗変更
ではセブン-イレブン・ジャパンの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
戦略をいかに実行し成果につなげるかに示唆があります。
目的、戦略、実行、成果という流れで順番に見ていきましょう。
目的があっての戦略
戦略は目的を達成するためにあります。戦略の上位概念には目的があり、目的達成の全体の方針となるのが戦略です。
セブン-イレブン・ジャパンの場合は、背景として新型コロナウイルス禍で変わった消費者の生活スタイルがあり、コロナ禍のコンビニ利用者数が減っていました。時代や環境の変化にすばやく対応し、客数の減少に歯止めをかけることが求められていました。
顧客軸という戦略
そこでセブン-イレブンが着目したのが、仮説立案・仮説検証の軸を増やすことでした。
これまでセブン-イレブンは 「商品軸 (商品ごとの売上 (POS データ) 」 と 「個店軸 (店舗ごとの売上 (客数) 」 という2つの軸で仮説検証を行っていました。
しかし、コロナ禍での消費者の生活スタイルの変化を受け、これだけでは不十分だと判断し、新たに 「顧客軸 (顧客の属性や嗜好) 」 を取り入れるという戦略的な判断をしました。
組織は戦略に従う
立てた戦略を実行するためには、ときには組繗体制もつくり直すことが必要です。
セブン-イレブンの場合がまさにそうでした。
新しくマーケティング本部を設置し、4つの部門を設けました。
- マーケティング戦略部: 顧客視点でマーケティング戦略を立案し推進する
- プロモーション部: 商品の価値を伝えるための手立てを考える
- デジタルサービス部: 自社アプリなどを活用し、顧客体験価値の向上を目指す
- リテールメディア部: デジタルサービス部と同じく顧客体験価値の向上を目指す。広告営業、店舗メディア・システムの開発も担う
4つの部門の中でも1つ目の 「マーケティング戦略部」 が顧客軸の役割を果たす組繗です。
ここまで見てきたように、目的、戦略、組繗と整うことで実行に入っていけます。
顧客目線になる仕組み化
今回のセブン-イレブン・ジャパンの事例でもう1つ注目したいのは、全社的に顧客目線になるための仕組み化を追求していることです。
顧客軸を加えることでの顧客目線の獲得
組繗の上層部から単に 「お客さん視点になろう」 とスローガンや言葉だけを伝えても、現場では売り手の視点から抜け出すことはそう簡単ではありません。
セブン-イレブンでは従来、商品軸と店舗軸という観点で売上管理や需要予測をしてきました。2つの軸からは、どの商品が売れたか、店舗ごとに売れ行きや売上成績はどうなっているかがわかります。これらはいずれも “売り手の立場” に立った見方です。
商品軸と店舗軸の2つの重要度が低くなるわけではないですが、ここに新たに 「顧客軸」 を加えることによって、お客さんの立場に立っての売上評価、仮説検証、商品開発、施策の企画と実行につなげられるわけです。
お客さんを主語にしたマーケティング志向に
分析視点として 「この商品がどれだけ売れたか」 、「どの店の売上が好調か」 ではなく、「誰が商品を買ったか」 という主語が変わることで、顧客視点になれます。
誰がこの商品を買っているのか、誰がこのお店に来店しているのかと、お客さん目線に変えるのが、新たに加わった顧客軸なのです。
顧客起点になることで、たとえばクーポン1つとっても、クーポンの配り方や1人ひとりのお客さんに沿った施策を展開できます。長く顧客関係を築いていけるように組繗内の意識が統一され、もともとの事業課題であった顧客数の回復と増加につなげられるかは興味深いです。
まとめ
今回はセブン-イレブン・ジャパンの取り組みをご紹介し、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 戦略は目的を達成するためにある。目的からつくられた戦略、戦略を実行する組織という順番。組織体制は目的と戦略に合わせて変革する必要がある
- セブン-イレブン・ジャパンの事例からは、全社的に顧客目線を取り入れること、そして目的から落とし込まれた戦略を実行するための組織編成や仕組み化の重要性を示している
- セブン-イレブンでは新たに 「顧客軸」 を加えることで、従来の商品や店舗を軸とした売上分析から一歩進んだ進化を図っている。目的、戦略、組織、実行において顧客起点になったマーケティングを展開する
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