#マーケティング #イノベーション #八段階の変革プロセス
会社から経営陣から 「イノベーションを起こせ」 と言われても、何から始めればいいのか分からない…。
多くの企業で変革の必要性が叫ばれる一方、現場が動かない、仕組みが整わない、成果が出ない…。
そんな壁に直面している企業は少なくないでしょう。
今回は、ハードウェア中心のビジネスから脱却し、全社員を巻き込んだでのビジネスモデルの変革を実現したOKI (沖電気工業) の事例をご紹介します。
八段階の変革プロセスに沿って実践の中身を解き明かし、学べる示唆を考えます。
OKI 「Yume Pro」 - 全員参加型イノベーション経営
OKI (沖電気工業) は、プリンターや ATM といった通信や情報機器のハードウェア分野に強みを持つ電機メーカーです。
OKI には、ペーパーレスやキャッシュレスといった世の中のデジタル化の進行で、従来の主力事業 (プリンターや ATM など) が今後は厳しくなるという危機感がありました。そこで OKI は今までの受注型スタイルから脱却し、「顧客と一緒に課題を見つけ、新しい価値を共創する」 という方向性に舵を切りました。
この方針で全社的に進めるためのマネジメント手法が 「Yume Pro」 です。
Yume Pro には 「夢の扉を開く」 という思いが込められています。
Yume Pro は、イノベーションをマネジメントする国際標準規格 「ISO56000 シリーズ」 をもとに開発された OKI 独自の方法論です (ちなみに ISO56000 シリーズは、日本の経済産業省が2019年に策定した日本企業向けの手引書 「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」 のベースにもなっています) 。
新規事業だけでなく、既存事業の改革や業務改善にも適用され、OKI の社員全員がイノベーションの担い手として Yume Pro に参加しているとのことです。
具体的には、社内ビジネスコンテスト 「Yume Pro チャレンジ」 や、経営トップと社員の直接対話 「イノベーション・ダイアログ」 、共創を促す 「Yume Pro Room」 などがあります。現場がアイデアを出しやすく、それを組織が後押しする仕組みを整えたのが Yume Pro の特徴です。
八段階の変革プロセス
では、OKI の Yume Pro から、学べることを見ていきます。
この事例からは、組織や企業を変革と言えるくらい大きく変えていくには、どういうステップを踏めばいいかへの示唆があります。
そこで補助線としてご紹介したいのが 「八段階の変革プロセス」 です。
書籍 「企業変革力 (John P. Kotter) 」 という本に、八段階の変革プロセスが詳しく書かれています。
✓ 八段階の変革プロセス
- 危機意識を高める
- 推進チームをつくる
- ビジョンと戦略を立てる
- ビジョンを周知する
- メンバーが行動しやすい環境を整える
- 短期的な成果を生む
- さらなる変革を進める
- 新しい方法を文化として根づかせる
なお、ペンギンを主人公にした小説 「カモメになったペンギン」 に組織変革の8つのプロセスがわかりやすく書かれていて、こちらもおすすめです。
では、OKI の Yume Pro の事例に、八段階の変革プロセスに当てはめて詳しく見ていきましょう。
[Step 1] 危機意識を高める
八段階の変革プロセスの最初のステップは危機意識を高めるところからです。このままだと会社や組織がヤバいというような、切迫感を組織内に共有することから変革プロセスはスタートします。
OKI の場合は、社会的にペーパーレスやキャッシュレス化が進む中で、主力製品のプリンターや ATM の需要が減少する可能性が高まっていました。経営層は既存のビジネスモデルが通用しなくなるという危機感を持ち、社内にも伝えました。
OKI での危機意識の共有は、例えば 「イノベーション・ダイアログ」 にも表れています。経営トップと社員が直接意見交換を重ねる中で、OKI が生き残るためには変わらなくてはいけないというメッセージが共有されました。
こうして社内で問題意識を高め、変革の機運を全社的に醸成していったのです。
[Step 2] 推進チームをつくる
次に、変革をリードする中心的なチームを結成します。
OKI では 「イノベーション事業開発センター」 をはじめ、イノベーション責任者やデジタル責任者など経営に近い層が推進役となりました。変革の司令塔の役割を担います。
推進チームには、複数部門のキーパーソンも参加しました。部署の垣根を超えた連携を可能にしつつ、各職場への影響力も高めています。
経営層からのコミットメントが明確であることも相まって、OKI はアイデアや情報がすみやかに集まりやすい体制をつくり上げました。
[Step 3] ビジョンと戦略を立てる
大きな変革を進めるためには、どこを目指すのか、何を成し遂げたいのかビジョンが大事です。
OKI が掲げたビジョンは 「顧客とともに価値を生み出す」 というものでした。それまでは OKI は顧客が提示したり求められる仕様通りに製品を作ることを重視していました。しかし、顧客の潜在的な課題まで掘り下げて探り、顧客と OKI が一緒になって新たなソリューションをつくっていく方向に転換することを目指しました。
具体的な取り組みが、国際標準規格 「ISO56000 シリーズ」 をベースにした OKI 独自の 「Yume Pro」 の開発です。
OKI の経営層は Yume Pro のことを OKI のビジョンを実現し、戦略の要となるものと位置づけ、全社規程にまで昇格させることで社内の優先度を引き上げました。
[Step 4] ビジョンを周知する
ビジョンや戦略は策定するだけではなく、組織のすみずみにまで浸透させる必要があります。
OKI はイノベーション・ダイアログによって、経営トップ自らが現場社員の声を直接聞くと同時に、なぜ OKI にイノベーションが必要なのかを丁寧に伝えていきました。上からの頭ごなしでの一方通行とはせず、経営と社員の双方向のやりとりがあることにより、現場へのインパクトも大きくなりました。
[Step 5] メンバーが行動しやすい環境を整える
いくらビジョンを共有しても、実際に行動できる環境がなければ変革は進みません。
OKI は、「Yume Pro チャレンジ」 という社内ビジネスコンテストを継続的に実施し、ビジョンを実行の場に落とし込む仕組みをつくりました。
コンテストではビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークを用意。社員は自分たちのアイデアを形にしやすい環境を整えています。応募数も年々増えているようで、ビジョンの周知とともに、社員の積極的な行動と参加を促します。
また、OKI は 「Yume Pro Room」 という共創スペースを設置し、部署を超えたワークショップや実験がいつでもできるようにしました。上長の決裁がないと一切動けないといった状態を招いていた従来のフローも見直し、アイデアの種を早く試しやすい環境を整備しています。
一般的に、イノベーションを目指す活動は失敗は付きものです。そこで OKI は失敗を責めない文化の醸成にも注力しました。経営トップが新しく試すことの大切さを強調し、実際にチャレンジした人を認める社内風土に変えようと尽力しています。
[Step 6] 短期的な成果を生む
変革が軌道に乗るかどうかは、早期に成果を感じられるかに左右されます。
OKI では、いくつかのプロジェクトで具体的な成果が早い段階から生まれました。
例えば、LED プリンター技術を応用して異なる半導体材料同士を接合する 「CFB (Crystal Film Bonding) 」 がその一例です。OKI と信越化学工業との共創により実現し、社内外にインパクトを与えました。他には、遠隔監視プラットフォーム 「REMOWAY」 の実証実験や、睡眠習慣を改善する 「Wellbit Sleep」 の商品化なども早いタイミングで生まれた成果です。
こうした短期的な成功事例があることによって、変革を続けるモチベーションが高まります。
[Step 7] さらなる変革を進める
短期的な成功で得た勢いを止めることなく、さらにイノベーションを生み出していく段階が7つ目のステップです。
OKI では 「Yume Proチャレンジ」 で出たアイデアのうち、可能性があるものを重点的に事業化に向けて支援する枠組みを整えました。
また、社外のパートナー企業との協業や大学との共同研究を活発化させるなど、OKI 内にとどまらず新しい知見やネットワークを取り込む動きを加速させている点も、継続的な変革につながることでしょう。
一度挑戦し始めると、そこからさらに多角的な展開が生まれるという有機的な取り組みに発展し、それがまた新しい変革のきっかけになるという好循環が起こります。
[Step 8] 新しい方法を文化として根づかせる
変革を一過性の事象で終わらせないためには、新しいやり方を企業文化として定着させることが大切です。
OKI の事例では 「Yume Pro」 を全社規程にまで落とし込んだほか、イノベーション活動への参加や成果を人事評価に反映する方針を打ち出しました。
社員にとってイノベーションを起こすことが自分の評価やキャリアにも直結する状況になり、社員が主体的に動きやすい土台ができます。制度面だけでなく、経営トップが繰り返し発信するメッセージと社内の実践がかみ合うことによって、新しいチャレンジをすることが当たり前という企業文化が根づいていくのです。
まとめ
今回は、OKI の 「Yume Pro」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に、八段階の変革プロセスに沿ってポイントをまとめておきます。
- 危機意識を高める: ペーパーレスやキャッシュレスの進展により、プリンターや ATM など従来の主力事業が厳しくなるという強い危機感を経営トップが共有
- 推進チームをつくる: 執行役員イノベーション責任者を中心に、イノベーション事業開発センターを設置し、全社横断型の推進体制を構築
- ビジョンと戦略を立てる: 「顧客と共に価値を創造する」 というビジョンを掲げ、ISO56000 シリーズをもとにした独自の変革手法 「Yume Pro」 を策定
- ビジョンを周知する: 経営トップ自らが社員と語り合う 「イノベーション・ダイアログ」 や、社内ビジネスコンテスト 「Yume Proチャレンジ」 を通じてビジョンを浸透
- メンバーが行動しやすい環境を整える: ワークショップや共創拠点 「Yume Pro Room」 の整備、アイデアを形にしやすいプロセスやツール(ビジネスモデルキャンバスなど)を提供
- 短期的な成果を生む: 半導体接合技術 (CFB) の開発や、遠隔監視技術 「REMOWAY」 、スリープテック事業 「Wellbit Sleep」 など、新規事業としての具体的な成果を創出
- さらなる変革を進める: 社外パートナーや大学との連携を拡大し 「Yume Pro チャレンジ」 から生まれた事業アイデアを継続支援する体制を強化
- 新しい方法を文化として根づかせる: 「Yume Pro」 を全社規程に組み込み、人事評価にも反映する方針を示すことで、イノベーションを日常的な行動として定着させている
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